大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

【新春恒例企画】2012年のトレンドはまさに「2012」!?



 2011年は、とにかく激動の1年だった。

 とくに、2011年3月11日の東日本大震災は、日本に大きな被害をもたらし、多くの人々の生活に影響を与えるとともに、自然災害や人災への対応姿勢、人生観をも一変させるものになったといえよう。

 日本経済への影響も甚大であり、さらに、その後の福島第1原発事故の影響によって、電気に依存した社会であることを改めて浮き彫りにしたことも記憶に新しい。他方では、継続的な円高や、タイ洪水の影響による生産の遅れなども発生。日本の企業にとっては、追い打ちをかけるような「試練」が相次いだ。

 日本経団連では、継続する円高、高い法人実効税率、貿易自由化の遅れ、労働規制、行きすぎた温室効果ガス抑制策、東日本大震災後の電力供給抑制という現状を、「6重苦」という表現を用い、日本の企業が置かれた立場の厳しさを示す。

 それは残念ながら、日本の電機各社の業績悪化の現状を見ても、大きくのしかかっていることを認めざるを得ない。

 そういった中、2012年はどんな1年になるのだろうか。ぜひ明るさを取り戻すきっかけをつくることができる1年にしたいと思うのは共通の意見だろう。

 今年も恒例の新春企画として、キーワードをもとにこの1年を占ってみたい。

●今年のキーワードは2012の加減乗除

 今年のキーワードをいろいろ考えてみたが、2012年そのままの「2012」をキーワードとしてみた。

 今年は大型商品の登場も多い。そうした製品の動きを捉えながら、「2012」の4つの数字を使った四則演算によって導き出される数字から、2012年のトレンドを見てみよう。

 2012を「20」と「12」に分割し、それを引いてみると「8」(20-12=8)という数字が出てくる。

Windows 8のメトロUI

 8は、まさに2012年に発売が予定されているWindows 8のことを指す。

 発売は今年後半ということになるだろうが、1月に米国ラスベガスで開催されるInternational CESでも一部内容が公開されるとの憶測が流れているほか、2月にはベータ版の配布が開始されることがすでに公表されている。

 「メトロ」と呼ばれる新たなインターフェイスの採用は、これまでのWindowsとはまったく異なる環境を提示するものであり、今後は、どんな新機能が搭載されるのか、そしてWindows 7との併売を始めとするマーケティング施策はどうなるのかといったことが、徐々に明らかになってくるだろう。

 「20-1+2=21」。21という数字から導かれるのは、これも2012年の目玉であるUltrabookのことである。Ultrabookでは、薄さ21mm以下という指針が決められており、Intelでも、この数字がUltrabookを構成する重要な要素の1つと定義している。

 Ultrabookは、東芝、レノボ・ジャパン、日本エイサー、ASUSTeKといったPCメーカーから製品が発表されているが、今春以降には国内PCメーカーからも相次いで発売されることになりそうだ。インテル日本法人の吉田和正社長は、「Ultrabookは、パーソナルコンピューティングを変革させるものになる」と言明。さらに「2012年は洗練されたデザイン性、優れた応答性、優れたセキュリティ機能を持った製品が登場する」と語る。薄型、軽量、高性能、長時間駆動を実現するUltrabookは、まさに2012年の台風の目になるだろう。

 「20×1+2=22」。22は、Ultrabookをさらに進化させることになる次世代プロセッサ「Ivy Bridge」のことだ。IvyBridgeは、3次元構造の22nmプロセス技術によって開発されるプロセッサで、これが2012年のUltrabookの進化には不可欠な要素となる。「第3世代のCoreプロセッサーの登場で新たなPCが登場することになる」とインテルの吉田社長は期待を寄せる。

日本エイサーのUltrabookUltrabookのロードマップIvy Bridge

 「2+0×1+2=4」。4という数字にはいくつかのトレンドが隠れている。1つは、Androidの最新OSのIceCream Sandwichである。これはVer.4とも位置づけられるOSであり、2012年はこれを搭載したタブレット端末やスマートフォンの登場が注目される。Androidでは全世界で1日55万人のアクティベーションがあるといわれており、Android Marketにはすでに30万本以上のアプリケーションが存在する。2012年は「Jellybean」の名前が噂される次期Android OSの動きにも注目しておきたい。

●モバイルブロードバンドの進展も

 4では、ソフトバンクが提供するSoftbank 4Gのサービス開始も挙げられる。技術的には3.9Gと呼ばれる領域だが、下り最大で110Mbpsという高速通信が可能であり、この高速サービスは、モバイル環境での端末利用を促進することになるだろう。下り最大40MbpsのUQ WiMAXサービスを提供するUQコミュニケーションズでは、3月までに200万契約への到達を見込んでおり、「Xi」(クロッシィ)サービスによって下り最大75Mbpsを実現するNTTドコモでも同じく3月までに130万契約の獲得を目指すなど、モバイルブロードバンド環境の進展は見逃せないものとなる。

 そのほか、4では、4Kテレビ(4K2K)も次世代テレビとして話題にのぼるだろうが、こちらはコンテンツがほとんどない状態であることや、製品化された場合の端末価格が高価であることから、まだまだコンセプトモデルの域を脱しないだろう。

 話題がデジタル家電にも及んだことで、この分野でのもう1つの注目をあげておきたい。それは、全録レコーダーである。

 東芝が発売している「レグザサーバー」は、上位モデルのDBR-M190で、5(2+0+1+2=5)TBのHDDを持ち、地上デジタル放送6チャンネル分を15日間録画できる。

 こうした動きの一方で、スマートテレビも話題を集めることになるだろう。

●スマートフォン、ソーシャル、そしてビッグデータ

 ここで「5」(2+0+1+2=5)という数字が出たことで挙げておきたいのがHTML 5の登場である。すでにさまざまなブラウザやスマートフォンがHTML 5対応となっており、今後のマルチデバイス化の動きを下支えすることになるだろう。2012年はマルチデバイス化の動きが顕在化してくることになりそうだ。

 そして、マルチデバイス化を牽引するスマートフォンの普及は、2012年はさらに加速する。国内のスマートフォンの販売台数は、携帯電話全体の6((2+0+1)×2)割を占めると予想されており、NTTドコモやKDDIではスマートフォンの出荷計画の上方修正が相次いでいる。

 スマートフォンの普及とも緊密な関係にあるのが、ソーシャルメディアの普及である。現在、ソーシャルメディアの利用者数は全世界で17(20-1-2=17)億人に達しているといわれる。FacebookやTwitterの利用者数は右肩上がりで上昇しており、個人の情報発信ツールとして世界規模で利用者が拡大している。今年は、エンタープライズ領域でも、ソーシャルメディアを活用するといった動きが活発化するとみられており、ターゲットマーケティングや顧客サービスの向上などにも活用されることになるだろう。

 こうしたソーシャルメディアやスマートフォンの普及によってもたらされるのがビッグデータ時代の到来だ。これは2012年の重要なトレンドになるだろう。

 人々から発信される情報に加えて、各種センサーからリアルタイムで発信される情報なども同時に蓄積され、これらを分析し、将来を予測し、事前に対策を打つといった動きが企業でも可能になってくる。自動車の動きをセンサーで把握し、気象情報や地域のイベント情報、これまで時間帯別の自動車の流入データと連動させることで数時間後の自動車の流れを予測。自動車にルート変更を指示したり、要所では車線数を増減したりといった変更を行なうことで渋滞を回避するといった取り組みがすでに海外では始まっている。ビッグデータ時代によって、我々の生活が変化する一例だといえよう。

 現在、インターネットに接続している端末は、人々が所有するPCやスマートフォン、企業のサーバーやストレージのほか、これらのセンサーなどの機器を含めると40(20×1×2=40)億台に達するという。

 そして、年間に生成されるデータ量は全世界で、ゼタ(Zetta)という単位にまで達しており、ここ数年で10ZBの単位まで拡大すると見られている。

 10Zは、10の22乗。2012の数字を組み替えると、この数字ができあがる。

●大型製品が相次ぐ2012年に

 こうしてみると、やはり今年は大型製品が多いということが注目点だといえよう。

 Microsoftからは、このほかにもWindows Phoneの次期バージョンとして、開発コードネーム「Apollo」(アポロ)と呼ばれる新OSが登場。これがWindows Phone 8(20-12=8)になると目される一方、現在のWindows Phone 7.5とWindows Phone 8との間のバージョンといわれる開発コードネーム「Tango」(タンゴ)も用意されている。

 またInternet Explorer10(20×1÷2=10)のほか、Windows Server8(20-12=8)や、開発コードネームで「Denali」(デナリ)と呼ばれるSQL Server2012(数字はそのまま2012)の出荷もある。

 しかし、足下の状況は厳しいのは確か。2011年12月、パナソニックの大坪文雄社長は、「伏すこと久しきは、飛ぶこと必ず高し」という中国の古典の言葉を引用していまの状況を表現した。

 少し身をかがめて、次の飛躍への準備をしているという状況である。

 2012年に大きな飛躍を求めることは厳しいことだろう。被災地の復興もまだ道半ばであることも知らなくてはならない事実だ。そして、原発事故に端を発した電力不足も経済活動や我々の生活に大きくのしかかり続けるだろう。

 2012年は次の飛躍に向けた準備の1年と位置づけ、それに向けた準備を万全にしていくことが求められることになろう。