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PC高騰の今だから「iPad」をメイン機に!ウィンドウシステムが“ガチ”になったiPadという選択肢を探る

 Apple iPadシリーズでは2025年9月よりOSの新バージョン、iPadOS 26が利用可能になった。特に大きな変更と言えるのが、新たなウィンドウシステムが実装されたこと。簡単に言うと、MacやWindowsと似たような方法でアプリウィンドウを操作できるというものだ。

 12月12日にはさらなるアップデート(iPadOS 26.2)で機能強化され、いよいよ本格的なPC風活用ができそうな予感。実際のところどれだけPC的に使えるのか、確かめてみることにした。

 昨今はご存じの通りメモリを始めとするPCパーツの価格が高騰し、2026年以降はPC本体の値上がりも避けられない情勢だ。なので、PCの代わりに今のところはまだ価格据え置きのiPadにする、なんていう選択肢もアリなのかどうか、といったあたりも念頭に置きつつ見ていきたい。

マルチタスク作業を効率化する新UIの設定方法

 以前からiPadには「ステージマネージャ」や「Split View」といった機能があり、アプリのウィンドウ表示や複数アプリの同時使用が可能となっていた。その上でiPadOS 26から、よりデスクトップOS的な、マルチタスク作業を効率的に行なえる新ウィンドウシステムに移行した。

 利用するには設定アプリの「マルチタスクとジェスチャ」から、「ウィンドウ表示アプリ」もしくは「ステージマネージャ」を選ぶだけ。後者のステージマネージャは先述の通り従来からある機能だが、どちらに設定しても新しいウィンドウシステムのUIになる。

「マルチタスクとジェスチャ」の設定画面で「ウィンドウ表示アプリ」もしくは「ステージマネージャ」を選ぶ

 現状、両者の違いはさほど大きくない。「ウィンドウ表示アプリ」はアプリを最小化(非アクティブに)すると単に非表示になる、デスクトップOSにより近い一般的なスタイルだ。一方「ステージマネージャ」では非アクティブなアプリ(のグループ)が画面のサイドにサムネイル表示される。

「ステージマネージャ」では非アクティブなアプリが画面サイドにサムネイルで見える。「ウィンドウ表示アプリ」ではこの表示がない

 オーソドックスなPC的に使いたい人には前者が分かりやすいだろうし、直感的にアプリを切り替えつつ作業したいなら後者を選ぶのも良い。いずれにしても単体のウィンドウ周りの操作性は同一だ。

 なお、外部モニターでは「フルスクリーンアプリ」に設定しても「ウィンドウ表示アプリ」の状態になる(外部モニターの利用方法などは後ほど紹介する)。内蔵ディスプレイとは扱いがやや異なる点を頭に入れておこう。

まさにPC(macOS)的な操作性を実現するウィンドウシステム

 では、新しくなったウィンドウシステムで具体的にどんなことができるのか。

 アプリの初回起動時は、フルスクリーン表示になるのはこれまでと変わらない。が、ウィンドウ右下隅に表示されている「ハンドル」をドラッグすると自由にウィンドウサイズを変更でき(ウィンドウ化後は上下左右の辺のドラッグでもサイズ変更できる)、タイトルバーをドラッグすればウィンドウを好きな場所に配置可能だ。以降はその大きさ・位置が記憶されるので、アプリを起動し直した時には前回と同じ大きさ・位置で使い始められる。

ウィンドウ右下隅の「ハンドル」をドラッグするとサイズ変更できる
タイトルバー部分をドラッグして移動

 また、ウィンドウ左上には3つのドットが表示されており、タップする(マウスカーソルを近づける)とmacOSと同じデザインの「閉じる・最小化・フルスクリーン表示」のボタンに変化する。タップすればそのアプリに対してそれぞれの操作を実行することになるわけだが、ここで長押しすると、さらにポップアップが表示される。

ウィンドウ左上には3つのドットが
これをタップするとmacOSチックな「閉じる・最小化・フルスクリーン表示」ボタンに

 ポップアップにはウィンドウをすばやくタイル状にレイアウトするボタンが並ぶ。ここはmacOSとほぼ同様で、Windowsでいうところのスナップ機能とも似たものだ。

 また、「Slide Overを開始」はいわゆる「最前面表示」にするもの。外部モニター接続時はさらに「ディスプレイに移動」もしくは「iPadに移動」という項目も表示され、外部モニター接続時にウィンドウのモニター間移動をワンタップで行なえる。

長押しするとウィンドウをタイル状にレイアウトするボタンなどが現れる

 ほかにも、タイトルバーを掴んだ状態で画面の左右に向かってフリックすれば左右にタイル表示したり、画面上部に向かってフリックすればフルスクリーンになったりと、画面レイアウトをより簡単に変更できるようにもなっている。

 全体的にデスクトップOSに近い使い勝手をしっかり網羅しているので違和感はないし、それを指先操作が基本のiPadらしい直感的なUIで実現しているのもポイントと言える部分だろう。

 アプリ側のマルチタスクに向けた対応も進んでいる。たとえばWebブラウザアプリ(SafariやGoogle Chromeなど)はPCと同様のタブで複数ページを切り替えながら閲覧していける。モバイルアプリではあるので拡張機能が使えない制約はあるが、それを除けば問題なくPC的な操作感で活用できるはずだ。

SafariやChromeはPCと同様の見栄えのタブでページ切り替え可
iPadOS 26から「ファイル」アプリはツリー表示に対応。ファイル管理も今まで以上に効率的に

 今やほぼフル機能のOfficeアプリ(Microsoft 365)が利用できるうえに、iPadOS 26ではmacOSと同等の「プレビュー」アプリも用意され、PDFの閲覧や簡易編集が可能になった。ウィンドウ周り、アプリ周りに関してはビジネスユースに対応できるレベルにあるのは間違いなさそうだ。

「プレビュー」アプリはmacOS版と同等のPDF編集機能を持つ
RAW画像の現像や画像編集もアプリでカバー

課題はあるが、慣れれば快適な文字入力

高速タイピングには必須のハードウェアキーボード。iPadで使う際には1つ問題が……

 ところが、ビジネスシーンで不可欠と言えるキーボードによる文字入力周りについては、1つ厄介な問題がまだ残されている。それは、外付けのハードウェアキーボードにおける日本語IMEがApple標準のものしか使えない、ということだ。

 iPadをPC的に使うにあたっては、画面を占有するうえにタイプフィーリングに課題があるソフトウェアキーボードよりも、外付けのハードウェアキーボードを使いたくなるだろう。iPad ProとiPad Airには専用のApple Magic Keyboardがオプションで用意されており、純正の安心感に加えて、タッチパッド内蔵でマウス操作も兼ねられるというメリットがある。

Magic Keyboardはタッチパッド付きで、iPadのカバーも兼ねる

 もちろんサードパーティのBluetooth/USBキーボードも利用できるので、好みや予算に合わせてチョイスしたいところだが、どのハードウェアキーボードでも日本語変換に使えるIMEは標準のApple純正のみだ。

 根強い人気のあるジャストシステムのATOKは、ソフトウェアキーボードとしての利用はできるものの、ハードウェアキーボードでの日本語変換には使えない。この1点をもって「iPadはPC的に使えない」とあきらめる人もおそらくいることだろう。ただ、実際に何日か使ってみると、そこまで悲観するような状況ではないことにも気付く。

iPadOS用のATOK。ソフトウェアキーボードとしては問題なく使用可能だが……

 筆者は普段から(自宅のWindowsと外出時用のMacBookの両方で)ATOKを使っているため、iPad標準の日本語IMEの操作感には少し戸惑った。が、それも最初のうちだけで、変換(スペース)キーを押さずとも文字入力していく流れの中で勝手に変換されていくのは、独特ながらも小気味よく文章を打ち込めている感があって楽しい。

 Magic Keyboardと組み合わせる場合は、MacBookユーザーになじみのあるキーレイアウトなのですぐに使いこなせるだろうし、コンパクトなのでデスクスペースが狭くても余裕で作業できる。

狭いスペースにも置けるサイズ。小型モバイルノートをしのぐ機動力を発揮する

 入力効率を高めるために、使い慣れているサードパーティ製の外付けキーボードを使う場合は、CommandやOptionといったMac固有のキーをどうするかが課題になるが、それらを含むいくつかの修飾キーを置き換えるカスタマイズ機能もOS側にきちんと用意されているので安心だ。

接続しているハードウェアキーボードごとに修飾キーをカスタマイズ可能
キー入力のリピート速度なども設定OK

 まさにこの原稿もiPad+外付けキーボード&マウスの構成で執筆しているが、文字入力に関わるところでのストレスは意外なほどなかった。同時にメールアプリやWebブラウザなどを開いて逐次情報収集しながら作業もでき、MacBookやPCの時と変わらない効率で進められた。

好みの外付けキーボード・マウスを組み合わせられる

インターフェイスの少なさはハブやドッキングステーションで補いたい

 とはいえハードウェア的には、Type-Cポートが1つだけというインターフェイス面の弱さは否めない。充電も含めこの1ポートしかないので、周辺機器を使いやすくするためにもUSB(Thunderbolt)ハブなどを組み合わせたいところだ。

インターフェイスはType-C形状のポートが1つのみ

 たとえば今回試しているiPad ProはThunderbolt 4ポートとなっており、ハブなどを介して多数のUSB機器を利用できるほか、DisplayPort Alt Modeによる外部モニター出力も可能となっている。Type-Cモニター側のUSBポートに接続した周辺機器も使えて、PD給電に対応しているモニターならiPad本体に給電もされる。

USBハブをつなげばUSB機器や有線LANなどを使用可能に

 ケーブル1本でマルチモニター環境にし、かつ生産性を上げられる外部キーボード・マウスなども利用可、ということで、近年のノートPCとほとんど同じ使い勝手を実現できるようになっているのだ。

 ただし、惜しい点が1つだけ。それは、外部モニターに接続して作業している間はiPadの画面も常にオンにしておかなければならず、ノートPCにおける「クラムシェル」状態で外部モニターだけ使う、といったやり方ができないこと。

 OSのショートカット機能で、外部モニター接続時に本体画面の輝度を下げ、黒画像を表示させる、みたいな工夫の余地はあるので、そうした試行錯誤をするところも含めて楽しみたいところではある。

ドッキングステーション(KVM)経由で外部モニターに接続。iPad Proでは3,440×1,440ドット120Hz表示も可能だった

小さな11型もおすすめ、省電力で災害時にも強みを発揮

 iPadをPC的に使う場合、11型と13型のどちらにするか、という画面サイズの選択も重要で、もちろん少しでも広い13型にするのが最善ではある。が、外部モニターを組み合わせる前提なのであれば画面サイズは考慮しなくてもいいだろう。純粋にタブレットとして使う際の用途や利用シーンを考えて選ぶのが良さそうだ。

13型iPad Pro
11型iPad Pro
大きさ比較。画面は大きいほうがいいが、外部モニターを使うなら小さくても構わない

 ちなみにiPadだけで作業する場合、デスクトップPCと比べて圧倒的に低消費電力で、電気代を抑えられることもメリットとして挙げられる。満充電状態で使用中の消費電力は10W前後だ。バッテリ動作なのでいきなり停電になったとしてもそのまま作業を続けられ、コンパクトなのでさっと持ち出せるなど、災害時や緊急事態時に強いのもiPadをPC代わりにする利点と言える。

13型iPad Proを満充電状態で使用中の消費電力推移。概ね10W前後だった

 もちろん、本格的な映像・CG制作やプログラミング、ローカルAIといったヘビーな業務用途においてはまだまだデスクトップPCに頼る部分が多いと思う。けれど、事務作業的な軽いものであればこうしたiPadを用いるミニマルな環境でも十分、という感触が得られた。

 Apple Pencilシリーズのスタイラスペンを使ったお絵描きタブレットとしても優秀なiPadなので、趣味と実務を1台で完結させたいという向きにも最適な1台だな、と思った次第だ。