大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

エプソンが元気であることを証明する年末商戦に
~奥村事業本部長にプリンタ事業戦略を聞く



セイコーエプソン 業務執行役員 情報画像事業本部長・奥村資紀氏

 「2011年度のプリンタ事業の重点ポイントは、オフィス向けインクジェットプリンタ、エマージング市場攻略、先進国におけるフォト需要の3つ」と切り出すのは、セイコーエプソン 業務執行役員 情報画像事業本部長・奥村資紀氏。これまでレーザープリンタが主流だったオフィス市場において、インクジェットプリンタの利用提案を本格展開する一方、新興国市場向けの専用製品による販売対象地域の拡大に乗り出すという。

 また、コンシューマ向けのカラリオシリーズにおいては、売れ筋モデルの本体カラーにレッド色を新たに追加したほか、コンパクト化を追求した製品の投入など、積極的な姿勢を示す。中でも、国内インクジェットプリンタ市場において51%のシェア獲得を掲げる強気の姿勢は、例年以上のものだといえよう。2011年度のエプソンのプリンタ事業戦略を、奥村業務執行役員に聞いた。



--セイコーエプソンのプリンタ事業における2011年度の重点テーマはなんですか。

奥村 大きく3つの重点テーマがあります。1つ目は、オフィス向けインクジェットプリンタ事業の強化です。これまでビジネスプリンタといえば、レーザープリンタという印象が強かった。その市場において、エプソンはビジネスインクジェットプリンタの提案を本格的に展開していくことになります。

 SOHOや中小企業だけに留まらず、エプソンのような規模の企業でも、5~10人というシマ単位でプリンタを利用するケースが多い。そうした利用環境を調査してみると、印刷するのは5枚以下という使い方が9割程度を占めています。レーザープリンタでは、20ppm(1分間に20枚の印刷)や30ppmという印刷速度を強調していますが、そんなに多くの枚数を印刷するということは実際には少ないんです。日常的な使い方を考えれば、むしろ問題は、最初の1枚をどれだけ速く印刷できるかに尽きる。となると、ウォームアップタイムがないインクジェットプリンタの方が適しているということになるのです。

 さらに、インクジェットプリンタはカラー印刷では1枚あたり6.4円のローコストを実現し、消費電力もレーザープリンタに比べて最大で約9割もの削減が可能になる。環境にも配慮するという点でもインクジェットプリンタは適している。

 そして、幅広い用紙にも対応できるという特徴がある。SOHOや中小企業では、1台のプリンタでA4用紙への印刷のほか、封筒やラベルにも印刷したいという要望がある。インクジェットプリンタであれば、多様な用紙への印刷にも対応できます。こうしてみると、オフィスに最適なプリンタとしてインクジェットプリンタが選択される時代がやってきたとも言えるわけです。

--この分野ではA3インクジェットプリンタ機を含めて、ブラザーが先行していますね。

奥村 エプソンには独自のマイクロピエゾテクノロジーがありますし、使い勝手の追求や紙捌きのノウハウ、印刷品質、スピードといった点でも、インクジェットプリンタに数々の改良を加えてきました。そして、多くのお客様の声をフィードバックして、製品化につなげています。こうした特徴の組み合わせが、エプソンならではのビジネスプリンタの完成度につながっています。私はかなりの自信作ができたと考えていますよ。今回の新製品群によってインクジェットビジネスプリンタ市場では51%のシェアを獲得したいと思っています。

--重点テーマの一番最初にオフィス向けインクジェットプリンタの話が出てきたことにはびっくりしました。

奥村 インクジェットプリンタとしてはこれまでほとんど手つかずの領域ですし、企業ユーザーからも高い関心が集まっている。エプソンにとって大きなビジネスチャンスがある市場だと言えます。

 ただし、その一方で、レーザープリンタに関しても、省スペース、省エネ、省力化という特徴を生かしながら並行的に販売していきます。インクジェットプリンタとレーザープリンタの双方の提案を進めることで、ビジネスプリンタ市場におけるエプソンの存在感を高めていきたいと考えています。2011年のエプソンは、ビジネスプリンタ分野に本気であることを感じていただけるのではないでしょうか。

●新興国におけるプリンタのビジネスモデルを確立

--2つめの重点テーマはなんでしょうか。

奥村 新興市場での展開です。エプソンでは、大容量インクカートリッジを搭載した新興国向けの製品として、大容量インクタンクを搭載した「L100」および「L200」の2機種を開発し、2010年10月にインドネシアで発売したのを皮切りに、タイ、インド、韓国、中国、台湾、ベトナムでも同製品の販売を開始しています、これが非常に好調に推移しています。

 さらに2011年9月からはロシアで、11月からはブラジルでも販売を開始し、今後は、コロンビア、エクアドルへの展開も開始します。加えて、東欧地域などへも展開を図っていきたいと考えています。

 L100やL200は、新興国での印刷ニーズが高い文書印刷に特化した製品でしたが、新たに6色インクを搭載し、写真印刷が可能なL800を今年5月からインドネシア市場で投入し、これも好調な売れ行きをみせています。これは主に、証明写真を印刷するといった業務用途で活用されています。

新興市場向けの「L100」スキャナ付きのオールインワン「L200」写真印刷向けの「L800」

 「L800」は、6月からは台湾、韓国、タイ、インド、フィリピンでも販売を開始し、7月からは中国、ベトナムで販売を開始しました。新興国向けのビジネスモデルが確立しはじめたと言え、今年度の新興国向けの販売は、前年比5倍規模に達すると見込んでいます。この分野に向けては、来年、再来年とラインアップを増やしていく考えで、今後数年は、年率20%以上の成長を続けると見込んでいます。

--日本市場への展開は考えていますか。

奥村 日本市場においては、使いやすさや印刷品質といった観点での評価が重視されますから、新興国で求められる、低価格で大量に低コストで印刷するというニーズとは、要求が異なると考えています。ですから、新興国向けの製品をそのまま日本に持ち込むことは、今の段階では考えていません。

●「使い勝手を究める」プリンタを投入

--3つめの重点テーマはなんでしょうか。

奥村 コンシューマ向けの「カラリオ」および「カラリオ ミー」シリーズということになります。ここでも当社のマイクロピエゾ技術の特徴を生かすことができますが、正直なことをいいますと、写真画質などの印刷品質については、すでに技術的に大きな進化が遂げにくいというところまできています。

 一方で、注目されるのは接続性や使い勝手という点です。今年の進化点をあげるとすれば「使い勝手を究める」ということになります。例えば、先読みガイドおよびカンタンLEDナビの採用によって、迷わない操作性を実現したり、失敗しないための操作を実現しています。

 先読みガイドでは、ユーザーが何か動作を行なうと、それに応じて操作パネルに選択肢が表示されるため、不要な操作の表示を行なわず、スムーズに操作ができますし、印刷指定した内容とセットされている用紙が異なっている場合は、白紙のまま排紙するといった機構も追加しています。

新製品ではAirPrintもサポートする主力ラインナップのEP-804A使い勝手を高めたインターフェイス

 また接続性という意味では、無線LANの設定も簡単にできるようになりましたし、プリンタに設定したメールアドレスへ画像を送り印刷を行なえるメールプリントや、Apple AirPrintへの対応、スマートフォンから直接印刷できる「iPrint」機能なども提供します。

 このように今年の新製品では、操作性、接続性において、大きな進化を果たしたといえます。これらは多くのお客様からいただいた声を反映し、進化を遂げたものだと捉えてください。

--主力となる「EP-804A」シリーズにおいては、本体筐体カラーに、ブラック、ホワイトに加えて、新たにレッドを用意しましたね。

奥村 2010年にホワイトカラーを追加したところ、これが非常に好評だった。結果として、販売台数の半分ぐらいをホワイトが占めました。そこで、今年は新たなカラーとしてレッドを用意しました。

EP-804Aにレッドを追加ホワイトモデルも継続するレッドモデルは構成比30%を狙う

 レットを追加するということはかなり早い段階で決定しましたが、どんなレッドにするのかという点ではかなり悩みました。現在、ノートPCやデジカメ、携帯電話やスマートフォンでも赤い筐体を採用したモデルが人気ですし、モノトーンの部屋でも赤い筐体は似合うものです。2011年のモデルのうち、全体の3割をレッドが占めるのではないかと予想しています。まだ発売の初期段階ですから、状況を語るには早いのですが、評判は上々で、女性層を中心に、指名買いで売れています。実はブラックカラーについても、少し青みを増して、高級感を持たせているんですよ。ブラック、ホワイトともに35%ずつの構成比を考えています。

 そして、カラリオシリーズでのもう1つの新たな提案がコンパクト化です。

●コンパクトへの取り組みも大きな差別化に

--無線LAN内蔵のコンパクトモデルの「PX-434A」や、低価格化を図った「PX-404A」ですね。

奥村 PX-434AおよびPX-404Aは、従来モデルに比べて35%も体積を縮小しています。とにかく一度、実物を見ていただければそのコンパクトさを理解していただけると思います。エプソンは、インクジェットプリンタの開発、設計、製造、品質保証、販売、サポートまでのすべてを、自前でやっているメーカーです。その特徴を生かせば、小型化を図ることができる。エプソンならではの特徴を生かせる回答の1つが小型化と考えたわけです。今回の製品では、基板や電源ユニットの小型化、配置の最適化などによって小型化を実現した。本当はA4サイズに収めてくれと要望したのですが(笑)、そこまではいかないものの、機能を犠牲にすることなく、大幅な小型化を図れたと自負しています。

無線LAN内蔵のコンパクトモデル「PX-434A」「PX-404A」では実売1万円を切る

--小型化のメリットはどんなところに生かされますか。

奥村 小型化することによって、設置場所を選ばないというメリットを打ち出せる。これまでは、プリンタは大きいものであるというイメージを持っていた人や、置き場所に困っていたという人も、この製品を選んでいただけるようになる。

 また、小型化したことで、外装箱が小型化し、物流面でのコスト削減、部品点数の削減といった点でもメリットがあり、CO2の排出量削減にもつながる。小型化は環境性能という観点からもみてもメリットがあるのです。プリンタを選ぶ際には、印字品質や価格といった要素も重要ですが、コンパクトという要求は潜在的なニーズとして存在するのではないでしょうか。スマートフォンで撮影した写真を手軽に小型プリンタから出力するといった使い方もできるでしょう。エプソンであるからこそ成しえたコンパクトという特徴を、今年は強く訴求していきたいですね。

●シェア51%獲得に強い意欲をみせる

--2011年度は、インクジェットプリンタ市場全体で51%のシェア獲得を目指すとしていますね。

奥村 今年6月以降、昨年を上回る状態にまで市況は回復していますし、年間を通じても前年比4%増の529万台の市場規模が想定されます。そうした中で、今年のエプソンは、ビジネスプリンタの強化や、小型プリンタの製品投入、さらには新たにレッドカラーを採用した製品を追加するなど、ユーザーの選択肢を幅広く取り揃えた。ここまで広いラインアップを用意したことはなかったといえます。これにより、いままでにはなかった新たな利用提案も行なっている。エプソンのプリンタ事業が、より積極的に展開できる環境が整ってきているといえます。

 また、東日本大震災の影響で、従来製品では、一部部品の品不足がありましたが、新製品ではそうした問題はすべて解決され、安定的な供給が可能となります。その点でも51%という目標は必ず達成できる数値だと捉えています。そして、できるならばさらに大きなシェアを狙いたい。それだけの気持ちで商戦に臨みます。エプソンはプリンタ市場において元気であることを証明する商戦にしたいと考えていますよ。