■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
2010年10月22日で、Windows 7発売から1年を経過した。
米国で発表された10月22日までの1年間の出荷本数は2億4,000万本以上。9月に発売されたコンシューマPCの93%にWindows 7が搭載されているという。
2億4,000万本という数字は、1秒間に7本強が売れているという計算。そして、コンシューマPCではあと7%が残っているという数字。こうした数字だけを前面に出して発表するあたり、「7」という数字にこだわるマイクロソフトの隠れたマーケティングメッセージの仕掛けが見られる。
マイクロソフト 藤本恭史氏 |
マイクロソフトのコンシューマー&オンラインマーケティング統括本部コンシューマーWindows本部長兼ウィンドウズライブ本部長の藤本恭史氏は、「日本国内の数字は、現時点では公表できないが」としながらも、「予想以上の売れ行きになったのは事実。コンシューマPCの出荷台数が前年実績を上回るといった市場全体の成長を牽引する役割も果たした。とくに、ネットブックの構成比が減少する一方で市場が成長したのは、デスクトップPCやノートPCといったプレミアムPCの販売が増加した証でもあり、Windows 7による効果といえるのではないか」と分析する。
社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の国内PC出荷統計によると、2009年8月まで前年割れで推移していた国内PC市場は、Windows 7の法人向けライセンスの提供が開始された2009年9月以降、プラス成長に転換。その後、1年以上に渡り、前年実績を上回る形で推移した。2010年8月には前年同月比27.6%増という伸びを達成。最新データとなる2010年9月の集計では、23.2%増という高い成長率を記録している。
まさに、Windows 7が市場を活性化したのは明らかだ。
では、2年目に突入したWindows 7の施策はどうなるのか。藤本本部長は、コンシューマ向け施策として、次のような点を挙げる。
1つは、Windows LiveやInternet Explorer 9との連動提案である。
Windows LiveやInternet Explorer 9の連動でWindows 7を訴求 |
「Windows 7をさらにアップグレードして利用するという考え方のもと、Windows Liveとの連動を位置づけたい。Windows 7とWindows Liveによって、より快適なPC体験ができることを訴求していく」とする。
大容量ストレージメールやチャット、画像編集ツールなどが無料で提供されるWindows Liveを利用することで、Windows 7の世界がさらに広がるという提案だ。
「Windows Liveのサービスとはどんなものかということがまだ認知されていない。具体的なシナリオ提案を通じて、その利便性を伝えていきたい」とする。
すでに、「ちょっとがもっと HAPPY WIN道ズ」をキャッチフレーズに、Windows Liveを活用したシナリオ提案を開始。仕事での利用活用を提案する「オシゴトWIN道ズ」、就職活動を支援する「就活WIN道ズ」、家庭での利用を促進する「パパママWIN道ズ」という3つの切り口から、今後、季節要素などを交えた提案を加速していくことになる。
「シニア層やキッズ層にも、Windows Liveの良さを知っていただくための取り組みを行なっていきたい。複数のシナリオ提案を考えている」とする。
キャッチフレーズ「ちょっとがもっと HAPPY WIN道ズ」 | 仕事での利用活用「オシゴトWIN道ズ」 |
就職活動支援「就活WIN道ズ」 | 家庭での利用を促進する「パパママWIN道ズ」 |
さらに、Internet Explorer 9では、これまで課題とされていた高速化における改善のほか、検索ボックスの廃止などによるシンプルなインターフェイスの採用。Windows 7で採用されているAero Snap対応などの新機能による操作性の向上およびWindows 7との連携などを訴求する。
IE9がWindows XPに対応していないことからも、Windows 7の普及を広げるツールになるとも位置づけることができる。
「Windows 7、Office 2010と、メジャーバージョンアップの製品が続けて予想以上の成果をあげている。IE9もそれに続けていきたい。ベータ版の評価は好評であり、自信を深めている」とする。
●Professionalエディションに力を注ぐもう1つは、Windows 7 Professionalのマーケティング強化だ。この秋冬モデルでは、Windows 7 Professional搭載モデルが一気に増加。3Dパソコンでも、Windows 7 Professionalを選択できるように用意している。
「Professionalエディションというと、企業での利用が想定されがちだが、家庭でも仕事をするというユーザーが増える中で、家庭のPCから会社のネットワークに接続して仕事をするユーザーに最適な製品として提案をしていきたい」とする。
ドメイン参加を利用して、会社のネットワークに安全に接続したり、家やオフィスのPCにバックアップするといった場合には、ProfessionalエディションあるいはUltimateエディションが効果を発揮する。Windows Liveとの連携強化を促進する中でも、企業との連携シーンにおいて、Professionalエディションの提案を促進する考えだ。
Windows 7 Professionalを搭載可能な製品が増加した | 「ビジネスでも使うなら Windows 7 Professional」とProfessionalを訴求 |
マイクロソフトでは、「I'm Professional」をメッセージに、Windows 7 Professional搭載PCのプロモーションを展開する計画であるほか、Home Premiumエディションから、Professionalエディションにいつでもアップグレードできる「Windows Anytime Upgradeパック」に、PC同時購入版を新たに用意。Professionalエディションの利用促進を狙う。
「主力は依然としてHome Premiumとなるだろう。だが、この1年でProfessionalの構成比を一気に引き上げていきたい」としている。
そして、3つ目が、「I'M A PC」のメッセージをより強化していく点である。これはWindows 7の発売前から、同社がグローバルで展開しているものだが、日本ではあまり強力には展開されていなかった。また、米国では、I'M A PCに連動する形で、「Windows 7 Was My Idea」のメッセージを展開。Windows 7が、多くのユーザーの声をもとに開発され、それは今後も変わらないということを訴求している。
これを2年目の施策では、もう少し前面に押し出していくというのだ。
実は、10月22日夜、Windows 7の発売1周年を記念したユーザーイベントで、マイクロソフトの堂山昌司副社長は、「Windows 7はユーザーのみなさんの声を聞いたOS。Windows Vistaはみなさんの声を聞かなかったのがいけなった」と冗談混じりに挨拶。続けて、「Windows 7は、日本のユーザーからの意見がかなり反映されている。日本のユーザーが使いやすいものになっている」と強調した。
こうした日本のユーザーの声を聞き、それを製品に反映しているという点を、2年目に突入してから、改めて訴求していくというわけだ。
具体的な施策については、今後明らかになるだろう。
●日本独自の優待パッケージを用意したこだわりとはところで、1つ気になることがある。
グローバルでは、Windows 7発売1周年を記念して、3台のライセンスが付属する「Windows 7 FAMILY PACK」が本数限定で復活したが、日本ではこれが見送られた。
代わりに、Windows XPからWindows 7 Home Premiumへアップグレードできる「Windows 7 Home Premium アップグレード優待パッケージ」、地デジキャプチャボックスをセットにした「Windows 7 Home Premium アップグレード優待パッケージ 地デジおまかせパック」を用意。それぞれ数量限定で10月29日から発売する。
数量限定のアップグレード優待パッケージ | 地デジチューナをセットにした「地デジおまかせパック」 |
なぜ、日本ではWindows 7 FAMILY PACKを見送り、日本独自の優待パッケージを用意したのだろうか。
藤本本部長は次のように語る。
「日本では、Windows 7の発売と同時にWindows 7 FAMILY PACKを本数限定で販売したが、その時点では、対象となるユーザーが複数台のPCを所有するようなユーザーだった。しかし、このタイミングを考えれば、むしろ、複数台のPCを所有するユーザーよりも、家族で1台のPCを共有していたり、一部のPCだけがWindows XPというユーザーが多いと判断した。3台利用できるライセンスパックを提供するよりも、1本あたりのアップグレードがお得にできる環境にしたかった」。
地デジキャプチャボックスをセットにしたのも日本独自の企画である。これも日本のユーザーの状況を見て用意したモデルだ。
「市場の声に耳を傾け、よりフォーカスした提案をしていきたい。日本独自の優待パッケージもそうした姿勢の上で投入したものだ」と語る。
ここでも「Windows 7 Was My Idea」に共通する施策が展開されているといえる。市場の声を聞くのは、製品開発のときばかりではなく、その後のマーケティング施策にも生かされるというのがマイクロソフトのスタンスだ。2年目の施策も市場を声をもとにして展開されることになる、というわけだ。