大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

オフィス半減や通勤定期代廃止など、さらに新しい働き方を検討開始するレノボ

 レノボ・ジャパンやNECパーソナルコンピュータなどのレノボグループは、テレワークの浸透にあわせて、オフィススペースの削減や、通勤定期代の削減などの検討を開始した模様だ。

 さらに、ワーケーションやオフサイトミーティングといった新たな取り組みを開始する姿勢もみせる。2015年からテレワークに取り組み、緊急事態宣言後には、98%の社員がテレワーク勤務を行ない、現在でも出社率を最大3割に抑える取り組みを継続しているレノボグループ。レノボ・ジャパン執行役員 人事本部長の上南順生氏は、「オフィススペース削減などは、まだ決定したものではない」としながらも、前向きに検討を開始したことに言及。

 また、「オフィスを縮小することが目的ではない。社員の生産性を落とさず、効率的に働くことが最優先事項である。そのメリットを維持した上で、オフィススペースなどの見直しを図っていく」と説明する。テレワーク先進企業の1社であるレノボ・ジャパンのこれまでの取り組みと、新たな取り組みを追った。

レノボ・ジャパン執行役員 人事本部長の上南順生氏

“全社無制限テレワーク”のレノボ

 本誌短期集中連載の「わが社はこうやってテレワークしています」の第1回目の企業として取り上げたように、レノボ・ジャパンは、テレワークの取り組みでは先進的な企業である。

 レノボ・ジャパンは、2015年12月からテレワークへの取り組みを開始。新型コロナウイルスの感染拡大とともに、在宅勤務へのシフトを加速。通常業務時には、20%だったテレワーク比率が、2月27日時点では60%にまで広がり、3月11日時点で86%の社員がテレワークを実施した。

 とくに、ゴールデンウイーク明けの5月12日には98%の社員がテレワークを行ない、現在でも、85%の社員がテレワークを実施している。業務によっては、上限で3割までの出社を許可するかたちとしているが、実際には、そこまで到達することはないという。

レノボ・ジャパンのテレワークへの取り組み

 同社が短期間にここまでテレワークを浸透させることができた背景には、2015年から行なってきた「全社無制限テレワーク」の仕組みが見逃せない。

 「無制限」と表現するように、テレワークを実施するさいに、制度の対象とする部門を設けず、全社員が利用できること、1カ月や1週間単位で、何回までテレワークを行なえるといった上限回数を設けないことが、「全社無制限テレワーク」のルールである。

 これだけではない。全社一斉テレワークディの定期的な実施によって、社内での活用を浸透。2020年7月23日から開催が予定されていた東京オリンピック開催時には、約2週間にわたって一斉テレワークを実施することを計画していたこともあり、それに向けた準備も着々と進めていた。

 そうしたこともあって、新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの企業が在宅勤務を余儀なくされたさいにも、レノボ・ジャパンは、スムーズに全社一斉テレワークに移行することができた。

 「これまでに試験的に実施してきたこと、それにあわせて、会社側からのガイドが的確であったこと、そして、現場が自分たちで、自ら判断して動いた点が大きい。パートナーとの契約書や請求書など、紙の書類を処理するために、出社が必要なさいにも、組織内で社員同士が自律的に分担を決めて、最低人数だけが出社して、作業を行なうといったことがスムーズに行なえた。現場で臨機応変に反応するという仕組みができ上がっていたことが、スムーズな実施につながった」と、レノボ・ジャパン コマーシャル事業部テレワークエバンジェリストの大谷光義氏は語る。

レノボ・ジャパン コマーシャル事業部テレワークエバンジェリストの大谷光義氏

 また、全社一斉テレワークディでは対象外となっていた電話による営業部門も、新たなツールを導入することで、在宅で行なえるようにしたり、コールセンター部門でも、情報をセキュアに管理できるテレワークソリューションを活用して、テレワーク体制に移行。現在、レノボ・ジャパンのコールセンターでは、73%のオペレータが、自宅からのテレワークによる対応だという。

 さらに、本社などで業務を委託している派遣社員も、レノボグループのポリシーをもとに、テレワークを実施するといった取り組みも行なわれているという。

難しい研究員もテレワーク

 研究開発部門である神奈川県みなとみらいの大和研究所でも、テレワークの仕組みを導入するのにあたり、自発的な取り組みが行なわれた。

 ThinkPadの開発などを行なう大和研究所では、試験設備を使った機器のテストや検証が行なわれるため、完全テレワークは難しい。そこで、業務や職種において、3つのワークスタイルを独自に設定し、それにあわせてテレワークを実行した。

 1つ目がオフィスワーク型だ。研究所への出社は週3~5日間。全体の10%の社員が該当した。2つ目がハイブリッド型。出社は週2~3日で、50%の社員がここに当てはまったという。そして、3つ目が、テレワーク型であり、週0~2日の出社となり、40%の社員が該当する。

 「研究所は、テレワークには向いていない職種の1つである。だが、大和研究所では、働き方を徹底的に精査し、3つのワークスタイルを設定し、業種や職種によっては、完全テレワークに移行できるようにした。検査機器の一部を持ち出せるようにしたり、自動車通勤を認めて、感染症対策を行なうといったことにも取り入れた。いままではできないと思っていたことができるようになった」(上南執行役員)とする。

テレワークのノウハウ

 レノボ・ジャパンは、2020年7月3日、テレワークマネジメントが主催するシンポジウム「アフターコロナは、いつでも・どこでも・誰でもテレワークの時代へ ~テレワーク・オールウェイズ 2020~」に共催企業として参加した。ここでは、同社のテレワークへの取り組みが紹介されたほか、総務省や経済産業省からは、「これからの時代のテレワーク」と題した講演、資生堂や日立製作所などから、各社の先進的なテレワーク実践事例が紹介された。

 午前10時から午後2時50分までの長時間のセミナーであったが、大手企業から中小企業まで、IT部門や企画部門、人事部門などから、1,000人以上が参加。募集開始からわずか1週間という期間でも、多くの人が応募したという。

レノボ・ジャパン執行役員 人事本部長の上南順生氏

 上南執行役員は、「多くの企業がテレワークを経験するなかで、もっといいテレワークの仕方があるのではないか、社内をどう変えていけばいいのか、どんなことをしたらいいのかといった点での関心が高まっていることがわかった。出勤管理をどうするのかといったことから、ジョブ型雇用モデルへの転換を図るにはどうするかなど、関心の幅は広い。テレワークで先行しているレノボ・ジャパンの事例を示すことで、テレワークによるメリットをさらに高めてもらうことを狙って開催した」とする。

 また、レノボ・ジャパンの大谷氏も、「中小企業でも半分以上の企業がテレワークを経験するなど、多くの企業がテレワークの可能性を感じたものの、緊急事態宣言が解除されて以降、出社する人が再び増加している。強制的に実施することになった企業が多かったと言えるが、少しでもテレワークのメリットを感じた企業が、そのメリットをさらにより大きく感じることができるようにするために、レノボ・ジャパンが蓄積した知恵やノウハウを世の中に還元することで、テレワークの流れを止めないようにしたいと考えている。今後も、シンポジウムの開催や、テレワークガイドの配布など、さまざまなかたちで、日本の企業のテレワークの推進を支援したい」とする。

 同シンポジウムでは、レノボ・ジャパンのこれまでの取り組みを紹介。ノウハウについても紹介した。

 そのなかで、上南執行役員が強調したのが、社員に向けた3つの対応だ。

 1つ目が、社員と会社のつながりである。同社では、全社一斉テレワークを実施して以降、各種施策や情報共有のため全社員向け通知を人事部門から発信。さらに、リーダーチーム間で、「Huddle/SYNC meeting」と呼ばれるオンライン会議を実施した。

 「政府や自治体が大きな発表をした場合には、それを受けて、すぐに会社としての対応を発信することが大切である。レノボ・ジャパンでは、全社通知をこれまでに10回ほど発信し、遅くとも政府発表の翌日には、それを受けた会社の方針を示した。タイミングよく発信することで、会社の方向性がわかり、社員の孤立感がなくなり、つながりが意識できるようになる。リモートで働いているからこそ、つながりがより大事になる」とする。

 出社していれば、自然と情報が入ってくるような情報を、会社側が、意識して、タイミングよく発信することが大切だという。

 2つ目が、リフレッシュのためオンラインエクササイズ情報の配信を行ない、社員の健康にも配慮すること、そして、3つ目が部下を持つマネージャーを対象に、テレワーク実施する上で留意することをまとめたコミュニケーションガイドの配信したことだ。

 「テレワークが常態化したときに、運動不足になりがちな社員をケアすること、社員とのコミュニケーションが、より重要になることを示し、そのやり方や、評価の仕方をどうすべきか、といったことを人事部門から発信した」という。

3つのフェーズの勤務ポリシー

 レノボグループでは、テレワークにおける勤務ポリシーの変化を、3つのフェーズで説明する。

 1つ目が、「通常時の勤務ポリシー」である。これは新型コロナウイルス感染拡大前までの考え方だ。

 ここでは、「それぞれの働き方に最適な環境を自ら選ぶ」、「利用対象者を限定しない無制限テレワーク制度」、「オンライン会議を原則すべての会議に設定する」といったことに取り組んできた。

 2つ目のフェーズが、「新型コロナウイルス対応勤務ポリシー」である。原則として在宅での勤務を実施し、出勤が必要な場合には事前承認制で出社。原則として社内外問わず会議はオンラインで実施するというものであり、緊急事態宣言下で同社が取り組んだものになる。

 そして、3つ目のフェーズが、現在、同社が取り組んでいる「ニューノーマル勤務ポリシー」となる。「在宅勤務を基本とする勤務体制」とし、ビジネスニーズに応じて上限30%までの出勤を許可。オンライン会議を基本とし、フェース・トゥ・フェースでの会議は、ケースバイケースで行なうというポリシーだ。働き方はテレワークが前提となり、これが、今後のレノボグループの働き方の基本になりそうだ。

 「出社率を上限3割としたのは、オフィスで1.5~2mという適正な距離を取りながら仕事をすることを考えると、物理的に3割が上限になるのが理由。実際には15%程度の出社率になっているが、そのさいにも、どこにどれぐらいの人が座っているのかということを確認している」という。

 現在、東京都の感染者数が増加しているが、この状況が続けば、出社率の上限はそのまま維持されることになるという。だが、こうあした会社側が設定したポリシーとは別に、テレワークのメリットを理解しているレノボグループの社員は、自然とこの出社率を維持することになる可能性が高い。

オフィスでなければならない仕事

 ニューノーマル勤務ポリシーへと移行をしているレノボグループだが、すでにその先の仕組みを検討しはじめている。

 上南執行役員は、「オフィスに毎日出勤することが当たり前ではない時代になり、企業にとって人が集まることの意義はどのようなものとなるのか、ということを考えなくてはならない段階に入ってきた。出社する人のためだけに机と椅子を用意するという考え方では、イノベーションが生まれるオフィスにはならない。人とつながるオフィスのかたちも、全員が出社していた時代とは違うものが想定される。言い換えれば、出社率が20~30%となったときのオフィスは、どうすべきかを考えている」とし、「多くの企業が、人が集うことの意義を再考する時期に入ってくる」とも指摘する。

 では、レノボグループでは、どんな新たな働き方と、オフィスの姿を考えているのだろうか。

 上南執行役員が示すのが、「オフサイト」や「ワーケーション」という仕組みだ。

 たとえば、日常の業務はテレワークで行ない、社内外の共創によりイノベーションを生み出したり、社員とのコミュニケーションを強化するために、一定期間、オフィス以外の場所に集まって、一緒に仕事をするという方法である。

 「いまのテレワークの成功は、これまでの勤務形態のなかで、相手のことを知っているということが前提にあり、その『貯金』でうまく回っている。しかし、いい仕事するには、密にディスカッションをしたり、一緒に考えたりする場が必要であり、ここはオンラインではカバーできないと考えている。その場合には、オフサイトやワーケーションという仕組みを利用するのがいい。

 たとえば、四半期に1回、3日間のワーケーションを北海道で行ない、環境のいいところで、会社の方針を理解して、未来を語るということを行なう。これによって、テレワークの効果を高めることができる」とする。

 「テレワーク+オフサイト/ワーケーション」という仕組みが、これからの働き方の姿になると提案する。

オフィス削減も視野に

 こうした仕組みが定着することで、当然、オフィスのあり方も変わってくる。

 たとえば、オフィススペースは、いまと同じ規模が必要なのかということも、検討材料の1つとなる。

 実際、富士通は、2022年度末までに、オフィスの規模を、現状の50%程度にまで最適化することを発表している。

 レノボグループでも同様の検討を行なっていることを、上南執行役員は明らかにする。

 「たとえば、オフィスは3割削減したらどうなるのか、5割削減したらどうなるのか、また、それ以上の削減率になったらどうなるのかといったこともシミュレーションを行なっている。これは、8月の1カ月間をかけて徹底して議論をしていくことになる。ただ、不動産の場合は契約期間の関係もあり、決定したとしてもすぐに実行できるものではない。現時点では決定していないこと、オフィスの契約期間の問題を考えると、2021年度以降の取り組みになる」とする。

 対象となるのは本社機能や営業部門、開発部門などが想定されるが、NECパーソナルコンピュータの全国の営業拠点に関しては、2011年時点では33拠点あったものを、すでに半減するとともに、拠点ごとのオフィススペースの最適化を図っており、これ以上削減するということはなさそうだ。

 一方で、テレワークの活用によって、単身赴任者を少なくしたり、シェアオフィスの活用を促進したりすることで、オフィス以外での働き方も加速させる考えだ。

 「シェアオフィスは、営業部門の社員が、お客様のもとに移動するさいに、安心して仕事ができ、オンライン会議ができる場所を確保するために、今年に入ってから、3カ月間のトライアルを実施した。だが、新型コロナウイルスの感染拡大のため、現在は、一時的に停止している。実際にやってみてわかったのは、シェアオフィスのなかでも、周りの人に声が聞こえてしまい、オンライン会議には適していない場所があるということ。今後は、テレキューブやステーションブースを活用するといったことも考えている」(レノボ・ジャパンの大谷氏)とする。

 さらに、テレワークの浸透とともに、通勤定期代の廃止と、自宅でテレワークを行なうための通信料や光熱費を補助する仕組みを、今年度中にも導入する考えを示す。

 上南執行役員は、「上限で3割の社員しか出社せず、テレワークが中心になってくると、通勤定期代の廃止ということは理にかなったものになる。定期券代の割引率がよくないということも背景にある。出社する人は実費精算するという仕組みになるだろう。一方で、夏場はエアコンを自宅で稼働させることもあり、その手当てが必要であるということも考えなくてはならない。支給額がいくらがいいのかをシミュレーションしているが、テレワーク型で勤務している人には適した仕組みになるだろう」とする。

 富士通では、通勤定期券の支給を廃止する一方、通信料や光熱費といった自宅で発生する費用のために、全社員に月額5,000円の「スマートワーキング手当」を支給することを発表している。

 だがその一方で、上南執行役員は、「オフィススペースを削減しても、さまざまな部分で投資をしたり、資金的なサポートすることになる」と前置きし、「これらの取り組みは、コスト削減ではなく、環境にあわせたかたちに仕組みを変え、成長に向けてメリットが生むことが目的である。働きがいのある会社を目指するための取り組みになる」と位置づける。

 そして、「そのために、もっと知恵を使っていく必要がある」と語る。

 話題性の観点から、オフィススペース半減や通勤定期代廃止といったところが注目されがちだが、あくまでも働き方を進化させるということが、本質であることを強調してみせる。

 今後、レノボグループが、テレワークを前提とした新たな働き方を、どんなかたちに変えていくのかが楽しみだ。