大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
80周年を迎えるHPが今後の展望を語る
~“日本ユーザーの嗜好に最適な製品”も今年後半に用意
2019年5月15日 11:00
HPのPCビジネスが好調だ。2in1の「HP Spectre x360」や、本体にレザーを使用したノート「HP Spectre Folio 13」といったプレミアムPCのほか、OMENブランドのゲーミングPCが好調に推移。法人向けPCも事業を拡大する一方、Device as a Service(DaaS)による新たなビジネスでも成果があがりつつある。
日本においても、最新四半期の実績で、過去最高のシェアを獲得。法人向けPCに加えて、個人向けPCも高い成長を遂げている。そして、創業者であるビル・ヒューレット氏と、デイブ・パッカード氏が、ガレージで事業を開始して80年目を迎えた今年(2019年)。それを視野に入れた、日本のユーザーの嗜好に最適な製品を今年後半に発表する計画も明らかにする。
日本およびアジア太平洋地域におけるHPのPC事業について、来日したHPアジアパシフィック&ジャパン パーソナルシステムズビジネス担当のビネイ・アワスティ(Vinay Awasthi)ゼネラルマネージャー兼バイスプレジデントに話を聞いた。同氏は、アジア太平洋地域および日本におけるパーソナルコンピューティング製品全体の責任者である。
日本におけるPCビジネスが好調な理由
――日本におけるPCビジネスが好調のようですね。
アワスティ HPは、「北中南米(AMERICAS)」、「欧州・中近東(EMEA)」、「日本を含むアジア太平洋(APJ)」の3つのエリアに分けてビジネスを行なっていますが、そのなかでも、APJ市場がもっとも大きなオポチュニティがあると捉えています。そのため、APJに向けて、イノベーションを実現する製品やサービス開発し、提供するための体制を確立しています。
たとえば、ゲーミングPCであるOMENシリーズのラインナップは、全世界でもっとも大きな盛り上がりを見せている中国のゲーミング市場にフォーカスをして、設計、開発をしていますし、薄型、軽量のノートPCは、欧米市場よりもアジアにおけるデマンドが高いため、これらの製品もアジアを念頭に置いた開発を進めています。
さらに、教育分野向けという点では、生徒数や学生数がもっとも多いエリアがアジアですし、ヘルスケアという領域においても、日本をはじめとするアジアでの高齢化が進むなかで、この分野に向けた製品開発もアジアを中心に進めています。
HPは、グローバル企業ですが、このように、それぞれの国や地域のローカル市場に対しても強いコミットメントをしており、そこに製品戦略の特徴があります。
そして、大きなオポチュニティがあるアジアのなかでも、日本は重要な市場ですし、これまでの長年の実績をもとに、存在感を発揮することができる市場だともいえます。
日本に対しては、さらにコミットをし、今後も引き続き投資をしていきたいと考えています。日本の顧客はデザインに対して、厳しいユーザーです。プロダクトデサインの面からも、日本の市場を意識したいですね。ベストのクオリティのデザインを、日本のお客様に提供していきます。また、セキュリティに対してもコミットしていきます。
じつは、IDCが発表した、最新四半期(2019年1月~3月)における日本国内のPC出荷実績によると、日本HPのシェアは、コマーシャルPCでは23.1%、コンシューマPCでは7.5%、PCマーケット全体では18.7%となり、いずれも過去最高を記録しました。これは、日本市場に対するプライオリティを高め、日本に対する投資を継続的に行なってきた結果だと考えています。
生産体制やサポート体制も強化し、マーケティング活動の強化やセキュリティフレームワークの強化の取り組みなどが、日本で評価された結果だといえますし、市場全体でCPUが不足しているといった課題があるなかでも、日本市場には優先的にPCを供給してきたことも、功を奏しました。この成長を維持するためにも、日本を重視する姿勢は変わりません。
――日本市場に対しては、具体的に、どんな投資を行ないますか。
アワスティ 日本HPは、東京都内に生産拠点を設け、MADE IN TOKYOの製品を作りはじめて、今年で20年目の節目を迎えます。この生産拠点においては、生産ラインを増設する一方で、従来は月曜日から金曜日までの週5日の稼働としていたものを、2019年3月からは、365日稼働の年中無休体制へと拡充しました。
現在、国内で販売する法人向けPCの約9割が東京生産となっています。この体制を、さらに強化するための投資を行なっていくことになります。
また、生産拠点に対する投資だけでなく、コールセンターや修理体制の強化も進めていきます。日本はアジア太平洋地域における重要な国であり、日本の市場に対して、熱意を持って、強化に取り組んでいきます。
――しかし、国内シェアは19%であるのに対して、グローバルにおけるHPのシェアは23%に達しており、米国では30%ものシェアを持ちます。まだ差がありますね。日本市場における課題はなんですか。
アワスティ 日本のPC市場では、Windows 7のサポート終了や消費増税などの動きがあり、大きな需要が期待されています。その一方で、東京オリンピックにあわせてセキュリティを強化しなくてはならないといった課題もあります。しかし、課題があるところには、必ずチャンスがあります。
HPは、ほかにはないユニークな位置づけにある企業です。カリフォルニアに本社を置き、最先端のイノベーションを起こすことができるベンダーでありながら、日本では「東京スピリット」といえるものを持つなど、それぞれの国の、ローカルスピリットを持ったビジネスを行なっています。
日本においてやるべきことは、グローバル企業ではあるが、ローカルスピリットを持った企業としての展開です。シェアは、やってきたことの結果であり、やるべきことをやれば、それがシェアにつながってくると考えています。日本における好機はまだまだあるといえます。私は、そのために、日本のチームをサポートしていきます。
――一方で、日本では、プレミアムPC戦略が成果をあげていますね。そのなかでも、Folioの動きが気になります。動きはどうですか。
アワスティ Folioは、現時点では、コンシューマ領域で展開しており、世界中でいい手応えを得ています。ご指摘のように、プレミアム製品であり、プレミアムに対する意識が高い人が購入しています。また、Folioは、私たちが想定していた以上に、幅広い層のユーザーから反響があります。
たとえば、革を搭載したPCなので、男性が中心になると思っていたのですが、女性からの評判もいいですし、ビジネスエグゼクティブからも高い評価を得ています。われわれ自身が展開する幅をせばめてしまうことはよくありません。今後は、コマーシャル向けの展開を強化するなど、近いうちに、より広いユーザーに対して、展開をしていく施策を発表します。また、より自然素材に近いものがいいという声もありますので、そうした製品の投入も検討していきます。
80周年を迎えるHP。日本ユーザー向けの隠し玉も?
――ちなみに、HPは、今年で80周年を迎えます。80周年記念モデルは用意していますか。
アワスティ 今年(2019年)後半に向けて、すばらしい製品を用意しています。ただ、80周年ということにあわせた製品というよりも、創業者であるビル・ヒューレットと、デイブ・パッカードが、ガレージで事業を開始して80年目ということを視野に入れたものになります。そして、これは、日本のユーザーの嗜好に最適といえる製品であり、今年後半には、発表できる予定です。
日本のユーザーを強く意識したという点では、MADE IN JAPANの開始から20周年を記念したモデルという捉え方もできますね。80年という歴史とともに、新たなにスタートして3年半という、スタートアップ企業ならではのアグレッシブさをあわせて持つ企業が投入する製品として、どんなものが登場するのかを、ぜひ楽しみにしていてください。
――HPでは、「Transforming Experience」というメッセージを新たに打ち出しました。この狙いはなんでしょうか。
アワスティ HPは、80年の歴史がある会社であり、そこでは、ビジョンとして、「invent」という言葉を使ってきました。しかし、3年半前に、分社化したさいに、HPとして会社のビジョン、ミッション、ブランドを再定義しました。ビジョンは、「Create technology that makes life better for everyone everywhere」とし、組織、社会、暮らしをより良いものにするためのテクノロジを創出することを目指します。
また、ミッションは、「Engineer experiences that amaze」とし、驚きをテクノロジで作り出していく姿勢を打ち出しました。そして、ブランドでは、「Keep Reinventing(革新を続ける)」を掲げ、私たちも変化し、顧客が変化することを支援していくことになります。
一方で、「Transforming Experience」というメッセージは、もともとは、分社化したときから、社内向けメッセージとして使っていたものなのですが、これを社外的なメッセージとして、昨年(2018年)から使いはじめました。そのさいには、より具体的なかたちにして、それぞれの国に合わせたかたちで展開していくかたちにしています。
たとえば、中国では、ゲーミングPCのOMENのキャンペーンにおいて、「Transforming Gaming」というメッセージを打ち出し、ゲーミングPCの変化をリードしていくベンダーであることを訴求しました。また、日本では、ちょっと毛色が違うのですが、「Transcending Stereotypes(固定観念を超えよう)」というキャンペーンを行ないました。Transcending Stereotypesキャンペーンは、自分らしく生きる女性を応援するキャンペーンになります。
2018年6月に実施した第1弾の取り組みでは、年齢や結婚、母としての固定観念の殻を破り、自分らしく生きる女性たちを後押しするという内容としています。また、2019年3月からスタートした第2弾の取り組みでは、社会全体で女性の活躍が求められるなかでも、その一方で伝統的な役割を期待される女性の状況を取り上げたものになっています。
Transforming Experienceというメッセージを社外に向けて使いはじめた理由は、社内での実績がベースにあります。社内では、この言葉を使って、社員のエクスペリエンスはなにか、それにどう取り組むかといったことを行ない、その結果、社員そのものが変わるといった実績が生まれました。
また、オフィスそのものも劇的に変化していますし、モダンなワークスタイルで仕事をするようになっています。これらの成果をもとに、外にも対しても、同じメッセージを発信することにしたのです。これまでに社内での成果がありますから、メッセージが迫力を持った本物の言葉として、外部に打ち出すことができたといえます。
この言葉は、パーソナルシステムズ事業だけでなく、イメージプリンティング事業でも同様に使用しており、いわば、会社全体で使用している言葉になります。そして、これは会社の理念でもあります。全社で、Transforming Experienceを信条とし、それを体現することに取り組んでいるところです。
――HPから、今後、登場する製品は、「Transforming Experience」という考え方に則ったものになりますか。
アワスティ そのとおりです。「Transforming ○○」という「○○」の部分を見ておけば、HPがどこをフォーカスポイントにしているのかということを理解してもらえると思います。HPが、流れや変化に取り残されないためには、継続的に、なにかを新しく変えて、よりよいエクスペリエンスを提供していくことになります。そのためには、メガトレンドを、大きな方向性として捉え、注視していく必要がありますが、顧客の変化に対しても、スピーディーに対応していかなくてはならないと考えています。
20年後を見据えた戦略
――HPは、メガトレンドをどんなかたちで捉えていますか。
アワスティ メガトレンドは、いまから15年先、20年先を見据えたものであり、そのなかで、「Rapid Urbanization」(急速な都市化)、「Changing Demographics」(人口動態の変化)、「Hyper Globalization」(グローバル化の進展)、「Accelerated Innovation」(加速する革新)という4つにフォーカスしています。
たとえば、現在の世界人口は、72億人ですが、2030年には85億人に増え、さらにその先には100億人の規模にまで増え続け、そこで安定すると予測されています。また、現在、72億人のうち、25億人が都市部に住んでいると言われていますが、2030年には都市人口は50億人に達すると言われています。多くの人が都市部に住んで、よりよい生活、よりよい仕事を目指しているわけです。
しかし、その一方で、都市への人口集中によって、多くのプレッシャーがかかることになります。都市のスペースはかぎられており、雇用機会の問題も発生し、同時に、仕事の仕方も変えていく必要があります。
また、人口動態も変化し、寿命が長くなることで、高齢化が進みはじめます。社会そのものが高齢化し、労働力が高齢化していくことも大きな問題になります。とくに、日本では、高齢化がすすみ、65歳以上が40%を占めるようになり、労働力の減少をカバーするため、高齢になっても働かなくはならないという状況が生まれるかもしれません。
ミレニアル世代の構成比が高まる一方で、シルバー世代を視野に入れた製品やサービスを提供していかなくてはならないといえます。ここでは女性の活用をどうするのか、といったことにも注視しなくてはなりません。
日本では、もっと女性の雇用を進めていくことは大きな課題です。女性が働きやすい環境を作るためにわれわれはなにができるかということを考えていきます。
さらに、これからは5Gの登場によって、情報が伝わる速度がさらに速まり、ハイパーグローバルの時代が訪れます。過去20年間では、インターネットの普及によって、グローバル化が一気に進展しましたが、5Gによって、これをさらに加速させることになります。
そして、AR、VR、AI、機械学習といった技術革新により、新たなイノベーションが起こり、大きな機会を生む一方で、これらが脅威になる可能性も指摘されています。セキュリティ対策は、イノベーションを進める上で避けては通れません。
われわれは、こうした将来を捉えながら、製品やサービスを開発していくことになります。新たなアイデアや考え、それをもとに多くのエンジニアが作業を行ない、人々を驚かせるエクスペリエンスは作るためには、こうした方向性とともに、顧客の声をしっかりと聞く必要があります。
ビジョンを実践し、ミッションを実現していくために、導いてくれる道標が「顧客」ということになります。顧客の要求はつねに変化します。そうした変化を捉えて、もっともエキサイティングなデバイスやソリューションを提供しなくてはなりません。
われわれの調査によると、顧客は3つのエリアにおいて、エクスペリエンスを充実してほしいと考えていることがわかりました。
――それはなんですか。
アワスティ 「WORK」(仕事)、「LIFE」(生活)、「PLAY」(遊び)の3つです。これまでは、仕事と生活は分離したものであり、その結果、ワークライフバランスという言葉が使われていましたが、ここにきて、ワンライフと表現されるように、仕事と生活が一体化する方向に変わっています。
また、仕事の仕方も多様化しており、仕事をする場所も1カ所ではなく、外から仕事をしたり、コラボレーションツールを使用して、いろいろな人と協業するといったことも増えています。こうした多様化した働き方に対応するために、さまざまな製品ラインナップをそろえる必要があります。
HPは、世界最小のビジネスコンバーチブルの「HP EliteBook X360 1030 G3」や、世界初のUSB Type-Cに対応したポータブルディスプレイ「HP S14」、世界初のコラボレーションを目的としたオールインワンPC「HP EliteOne 1000G2」など、すでに、世界最高の性能と機能を持った幅広いポートフォリオがあると自負していますが、まだまだ革新は必要です。最上級の製品やサービス、世界初のものを提供する努力をして、多くの人を驚かせ続けたいと考えています。
――HPが多くの人を驚かせるためのモノづくりで重視している点はどこですか。
アワスティ 最高のものを提供するためには、3つの柱があります。1つはデザインです。仕事と生活が分け隔てなくなったワンライフのなかでは、当然、使うPCも同じでものであったり、つねに持ち歩くものになっています。つまり、その人を表現するアイテムになっているともいえます。生活と仕事の両方にも使いやすいものであり、デザイン性に優れたものが求められています。
2つめは、セキュリティです。さまざまな場所で働くようになると、つねに守られたネットワーク環境や仕事環境のなかで作業ができるわけではありません。攻撃側もどんどん洗練され、継続的にエンドポイントを攻撃してきます。複雑化する攻撃にも対応しなくてはいけません。
HPでは、BIOSをウイルスから保護する「Sure Start」や、隠れているマルウェアをPCから保護できる「Sure Click」、さらには、プライバシーにおいても、さまざまな機能を提供し、隣の人から画面を見えないようにして、プライバシーを保護する「Sure View」などを用意しています。優れたPCを提供していく上で、セキュリティは重要な柱の1つとなります。
そして3つめが、パフォーマンスです。仕事の仕方において、コラボレーションが重視されています。そのための先進機能をHPは搭載しています。たとえば、ビデオカンファレンスに参加するときに、ミュートしたい、発言したい、ノイズキャンセリングをしたいといったときにも、ボタン1つで対応したり、家のなかの様子を見られたくないという場合には、新世代のPCでは、カメラ部分をカバーすることで、映像が映らないようにし、音声だけで、会議に参加することもできます。
このように、われわれはテクノロジによって、人々を驚かせたいと考えています。われわれのテクノロジが、多様な働き方をする人たちを強化し、生産性を上げるお手伝いできると考えています。こうした3つの観点に注視しながら、イノベーションにコミットし、多くの人を驚かせる製品を提供していきます。
DaaSも順次拡大
――HPでは、DaaS(Device as a Service)の提供を開始しています。この狙いはなんですか。
アワスティ DaaSは、大きなトレンドになっていくと考えています。従来は、ハードウェアに対する月額課金のようなものが注目を集めていましたが、DaaSは、「ゆりかごから墓場まで」というかたちで、デバイスのデプロイ、メンテナンス、セキュリティ、管理、デバイスの廃棄およびリプレースといった、デバイスのライフサイクルすべてを提供することになります。
これは大企業だけを対象にサービスではなく、IT部門を自前で持たない中小企業においても有効です。むしろ、中小企業の方が、ITのライフサイクル全体をカバーするような仕事を行なえる人が少ないため、DaaSを利用することが最適ともいえます。
――DaaSの手応えはどうですか。
アワスティ DaaSは、全体のビジネスに占める割合が低いのですが、成長率は高いものになっています。CAPEXモデルから、OPEXモデルへと移行を図りたいと考えている企業が多いこと、デバイスに関わるすべてのライフサイクルを自分たちでやるには限界があることが理解されはじめていることなどが、その背景にあります。ワンストップソリューションを求めている大企業や中小企業が増加するのにしたがって、さらにDaaSが注目を集めているところです。
HPは、「Tech Pulse」というプロアクティブ管理サービスを提供しており、洗練された手法で、多くのデバイスを管理することができます。これもDaaSの一部として提供しています。これからは、Hardware as a serviceやTechnical as a service、Security as a serviceといったさまざまな課金型サービスが出てくるでしょうが、これらのすべてをフルメニューでほしいという場合にも対応できるのが、DaaSとなります。日本でも、少しずつ実績が出はじめています。DaaSは、HPの差別化の1つになると考えています。これから力を入れていく領域になります。