大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

世界初の「Foldable PC」を発表したLenovo新製品群の戦略を聞く

レノボ インテリジェントデバイスグループ コマーシャルポートフォリオ&プロダクトマネジメント担当バイスプレジデントのジェリー・パラダイス氏

 レノボが発表したディスプレイを折り畳める世界初の「Foldable PC」は、世界中から大きな注目を集めた。

 2019年5月13日~15日(現地時間)まで、米フロリダ州オーランドで開催された年次イベント「Lenovo Accelerate '19」で発表されたFoldable PCは、日本の大和研究所で開発されたものであり、2020年に発売が予定されている。

 「Lenovo Accelerate '19」の会場で、レノボ インテリジェントデバイスグループ コマーシャルポートフォリオ&プロダクトマネジメント担当バイスプレジデントのジェリー・パラダイス氏に、Foldable PCと、同社のPC事業への取り組みなどについて聞いた。


 本誌でも既報のように、Foldable PCは、13.3型の折り畳みが可能な有機ELを採用。タッチやペン操作が可能なタブレットモード、書籍を読むような形で持つことができるブックモード、ノートPCのようにして利用できるプロダクティビティモードの3つのスタイルで利用できるのが特徴だ。仕様の詳細などは明らかにしていないが、パラダイス氏に、気になる点をいくつか聞いてみた。

--Foldable PCは、ThinkPad X1ファミリーのなかに含まれるとのことですが、それはなぜですか。たとえば、プロダクティビティモードでのキーボードが、ディスプレイ上に表示されるといった部分だけを捉えると、YOGA C930に近いものも感じます。

パラダイス この製品は、日本の大和研究所で開発されている製品であり、ThinkPadの開発チームが担当しています。その点でも、ThinkPadというブランドが適切だといえます。そして、ThinkPad X1ファミリーは、ThinkPadのなかでも、フラッグシップの位置づけの製品であり、最高のデザイン、最高の素材、最高のセキュリティ、最高のパフォーマンスを実現した製品となっています。そうした点でも、Foldable PCは、ThinkPad X1ファミリーであることが最も相応しいと思っています。

世界初となるFoldable PC

--今回公開されたFoldable PCでは、ディスプレイに表示されるキーボードに、トラックポイントがありませんね。この点でも、ThinkPadとは言いにくいのでは(笑)。

パラダイス まだ開発の段階なので、これから変わることもあります。もし、どうしても、トラックポイントを利用したいのであれば、外部キーボードを接続して利用するといった選択肢があるので、私はそれをお勧めします(笑)。

--Foldable PCの開発において、最も苦労した部分はどこですか。

パラダイス Foldable PCは、約3年前から開発を進めてきましたが、とくに多くの時間をかけて取り組んできたのが、ThinkPad X1ファミリーとして、相応しい仕様であること、それを実現するために、ThinkPadに求められる標準的なすべてのテストをクリアすることでした。製品開発においては、広範囲のテストを行ない、Foldable PCであっても、ThinkPadと同じテスト機銃に合格しています。

--有機ELディスプレイの折りたたみ部分の堅牢性が気になりますが。

パラダイス そこも、ThinkPadの基準に合致した仕様になっています。ThinkPadには、多くの試験を行なう標準的なセットがあり、それをクリアしています。

--価格は未定としながらも、購入しやすい価格という表現をしていました。ずばり、2,000ドルは切りますか?

パラダイス 残念ながら、価格については現時点では申し上げられません。しかし、私たちは、コストを削減するための努力を行なっており、設計の改善にも取り組んでいます。こうしたプロセスをこれからも継続していきますので、購入しやすい価格という期待に向けて、努力を継続していきます。

--2020年の発売を予定しているとのことですが、これは日本も同時と考えていいですか。

パラダイス その点もこれから考えていきますが、ただ、私たちにとって、日本はとても大切な市場です。そして、なんといっても、この製品は、日本で開発されている製品ですから、日本のユーザーにも満足してもらえることを考えています。

3つのモードで利用できる
Foldable PCのキーボードにはトラックポイントがない

 Foldable PCは、2017年にレノボがニューヨークで開催した年次イベント「Transform 2017」で、PCの新たな未来像として、レノボ インテリジェントデバイスグループ コマーシャルビジネス担当シニアバイスプレジデントのクリスチャン・タイズマン氏が構想を発表。それ以降、開発を続けてきたものです。

 タイズマン氏は、今回のAccelerate '19の基調講演で、「2017年に発表してから大きな反響があり、これを完璧なものとして、世の中に投入することをチームとして決意した。それ以来、このテクノロジーを実現するための努力を続け、それがいよいよ実現した」とし、「新たなカテゴリの製品として、自信を持って紹介できるものである」と胸を張った。2020年の発売がいまから楽しみだ。

 もう1つ、今回のAccelerate '19で発表された新たなブランドが、「ThinkBook」である。中小企業をターゲットとした製品に位置づけており、13型と14型の2つのモデルを用意。価格は、それぞれ729ドルから、749ドルからとなっており、購入しやすい価格が魅力である。

--新たにThinkBookを発表しました。この製品は価格面に大きな魅力を感じます。

パラダイス この価格を実現するために、私たちは多くの努力をしてきました。しかし、ThinkBookの魅力はそれだけではありません。13型では薄さ15.9mm、1.34kgの薄型、軽量化を実現していますし、14型では、薄さ16.5mm、重量1.52kgを実現しています。

 さらに、Skype Dedicated Keyにより、ボタン1つでSkypeに接続できたり、FRPの電源ボタンでは、それを押すだけで、指紋認証により安全な起動ができる機能も搭載しています。

 そして、第8世代のWhiskey Lake-UのCPUを搭載し、AMDのRadeon 540を搭載するなど、性能にも妥協はしていません。この製品は、中小企業向けのものであり、中小企業に最適な仕様としていますのも特徴です。たとえば、3年間の保証を提供するなど、IT部門がない企業においても、ビジネスグレードのサービスが受けられるようにしています。これは、エンタープライズ企業向けの内容とは異なるものであり、中小企業を強く意識したものになっています。

中小企業向けとするThinkBook

--ThinkPadの歴史を見ると、廉価版のモデルは決して成功したとはいえません。ThinkBookも同じような失敗をしないという自信はありますか。

パラダイス ThinkBookは、ThinkPadの廉価版という位置づけではなく、中小企業向けという明確なターゲットを設けて開発したものです。エンタープライズユーザーや、コンシューマユーザーが必要とする機能などは搭載しておらず、中小企業ユーザーが必要とする機能に特化しています。失敗するつもりはありませんよ(笑)。


 レノボは、Transform 3.0という言葉を使って、エッジへの取り組みを重視することを、Accelerate '19のなかで強調してみせた。そのなかで、エンタープライズビジネスを行なうデータセンターグループでは、エッジサーバーとして、「ThinkSystem SE350」を発表。一方で、PC事業を担うインテリジェントデバイスグループでも、エッジコンピューティングを意識した世界最小のコマーシャルデスクトップPCのThinkCentre Nanoを発表した。エッジやIoTが重視されるなかで、ThinkSystemとThinkCentreの境目がなくなってきたようにも感じた。

--PC事業においては、2年前にビジネス環境やワークフォースが変化していることを捉えて、「Personalized Computing」を打ち出し、昨年(2018年)は社員のエクスペリエンスにフォーカスした「Workplace Transformation」に取り組む姿勢を見せました。そして、今年は、「Intelligent Transformation」により、ビジネスをスマートにすることを掲げました。

 一方で、エンタープライズ事業では、Transform 3.0の新たな方針のなかで、エッジへの取り組みを重視しています。エッジやIoTの進展により、それぞれの製品が重なる部分も生まれることになりそうですが。

パラダイス 製品の設計は異なりますが、別々のブランドの製品が重なり合う部分は生まれてくると思います。しかし、それを明確に分類する必要もないでしょう。

 エッジやIoTを捉えた場合に、1つは、クライアントコンポーネントから派生し、もう1つは、サーバーコンポーネントから派生し、それぞれの製品が一緒に成長したり、お互いを接続する必要も出てくることもあります。IoTの問題を解決するには、これらの製品が一緒に動作する必要もあるでしょう。棲み分けるというよりは、そちらの方が重要な要素だといえます。


 Accelerate '19では、参加者の予想を越えるかたちで、新たな製品が発表された。先に触れたFoldable PCや、新ブランドのThinkBookのほか、Core i9とGeForce GTX 1650を搭載した「ThinkPad X1 Extreme(Gen 2)」、第2世代のRyzen Proを搭載した「ThinkPad X395/T495s/T495」、そして、ARヘッドマウントディスプレイの新ブランドとなる「ThinkReality A6」も公開した。レノボのPC事業の勢いが感じられるイベントだったともいえる。

 基調講演で、タイズマン氏は、「我々のビジョンはシンプルであり、ビジネスユーザーをエンパワーし、世界で最もスマートなコンピューティングを提供することである。そのためには、インテリジェントなデバイスを選択できるスマーターデバイス、ITを効率化し、ユーザーエクスペリエンスを拡張するスマーターワークプレイス、新たな技術を活用して、賢くビジネスを行なうスマータービジネスの3つの柱に取り組んでいくことになる」などと述べた。

--今回、これだけ多くの新製品が発表されたり、新ブランドまで登場したりのは想定外でした。レノボの勢いを感じた参加者も多かったのではないでしょうか。

パラダイス 業績からも、レノボのPC事業の勢いを感じてもらえると思います。シェアが拡大するという成果も出ています。ただ、ITの分野は、いつでも、多くの作業を行う必要があり、終わることはありません。まだまだやることはたくさんあります。

--昨年、ThinkPadの父と呼ばれた内藤在正氏が退任したことで、今後のThinkPadがどうなるのか、心配なところもありました。

パラダイス 内藤さんは、エンジニアの育成に多くの労力を割いてくれました。そして、内藤さんのチームは、非常に訓練されたチームでもあります。また、ThinkPadの伝統を生かし、新たなことにも挑戦するチームです。そのDNAが受け継がれていることは、今回、新たに発表した製品群からも理解してもらえるのではないでしょうか。


 一方、レノボのPC事業にとって、日本の市場は重要であることは間違いない。最後に、日本のユーザーに対するメッセージをもらった。

--日本では、Snapdragon850を搭載した「Yoga C630」が発売になりました。その手応えはどうですか。

パラダイス 私の方から、個別の市場での成果についてはお話することができませんが、Snapdragonは、バッテリ寿命の点でメリットがあり、そこに価値を見いだすユーザーにとっては最適のデバイスとなります。日本のユーザーにとっても魅力的な製品だといえるのではないでしょうか。

--最後に、日本のユーザーにメッセージをお願いします。

パラダイス 私たちは、これからも革新を続け、エキサイティングな製品を継続的に提供します。PCだけでなく、ARやVR、IoT、ワークステーション、ゲーミングPCといったさまざまな領域において、新たなものを投入していくことになるでしょう。ぜひ期待していてください。