山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Amazon.co.jp「Kindle(2014)」
~6,980円から買える、フロントライトを省いたエントリーモデル
(2014/10/7 06:00)
「Kindle(2014)」は、Amazon.co.jpが販売するE Ink電子ペーパー搭載の電子書籍端末「Kindle」の2014年モデルであり、Kindleファミリーにおけるエントリーモデルだ。フロントライトは非搭載ながら、キャンペーン情報付きモデルが6,980円、キャンペーン情報なしモデルが8,980円と安価なことが特徴だ。
同時に発表された高解像度モデル「Kindle Voyage」に注目が集まる中、一足先の10月2日に発売された本製品について、今回はキャンペーン情報付きモデルのレビューをお届けする。
フロントライトを省いたエントリーモデル
まず最初に、2014年秋に発表された、新しいKindleのラインナップをチェックしておこう。
従来まで、日本国内で販売されているE Ink電子ペーパー搭載のAmazon製電子書籍端末は「Kindle Paperwhite」1モデルだけだった。ここに新たに加わったのが、本稿で取り扱うエントリーモデルの「Kindle」、および1,080×1,440ドット(300ppi)の高解像度ディスプレイを持つハイエンドモデル「Kindle Voyage」である。従来の「Kindle Paperwhite」は継続販売されるので、3つのラインナップが併売されることになる。
こうして見ると、E Ink電子ペーパー端末のラインナップが一挙に3倍になったように見えるが、米国では2011年発売の第4世代「Kindle」(タッチ操作非対応)がマイナーチェンジしながら先日まで継続販売されており、今回の「Kindle」はその後継という位置付けなので、新しいラインナップが加わったという表現には違和感がある。全く新しいラインナップであるハイエンドの「Kindle Voyage」とは異なり、この「Kindle」は日本未発売だったローエンドのモデルが後継品の登場に伴なって日本語対応し、日本市場に投入されたと見るのが正しい。
概略および位置付けは以上の通りなのだが、ではこの3つのモデルは具体的にどのような差があるのか、ざっとまとめてみた。Amazonのサイトにも比較表が掲載されているが、ここでは違いが分かりやすいように項目を補足、整理している。
Kindle | Kindle Paperwhite | Kindle Voyage | |
サイズ(幅×奥行き×最厚部高さ) | 169×119×10.2mm | 169×117×9.1mm | 162×117×7.6mm |
重量 | 約191g | 約206g | 約180g |
解像度/画面サイズ | 6型/600×800ドット(167ppi) | 6型/758×1,024ドット(212ppi) | 6型/1,080×1,440ドット(300ppi) |
ディスプレイ | モノクロ16階調(Pearl) | モノクロ16階調(Carta) | モノクロ16階調(Carta) |
通信方式 | 11b/g/n | 11b/g/n、3G(3Gモデルのみ) | 11b/g/n、3G(3Gモデルのみ) |
内蔵ストレージ(ユーザー使用可能領域) | 約4GB(約3GB) | 約4GB(約3.1GB) | 約4GB |
フロントライト | なし | 内蔵(手動調整) | 内蔵(自動調整) |
ページめくり | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ、ボタン |
バッテリ持続時間(メーカー公称値、無線オフ、1日30分使用時) | 4週間 | 8週間 | 6週間 |
価格(2014年10月2日現在) | 6,980円(キャンペーン情報付き) 8,980円(キャンペーン情報なし) | 10,280円(キャンペーン情報付き) 12,280円(キャンペーン情報なし) 15,480円(3Gモデル、キャンペーン情報付き) 17,480円(3Gモデル、キャンペーン情報なし) | 21,480円(キャンペーン情報付き) 23,480円(キャンペーン情報なし) 26,680円(3Gモデル、キャンペーン情報付き) 28,680円(3Gモデル、キャンペーン情報なし)" |
一言で言うならば「Kindle Paperwhiteからフロントライトを省いた製品」ということになるが、それ以外にもハードウェアの細部で相違点がある。1つは解像度で、600×800ドット(167ppi)という値は、前述の第4世代Kindleや、「kobo Touch」、ソニーの「PRS-T2」と同じ、つまり2~3年前に一般的だった仕様で、昨今のKindle Paperwhite(212ppi)などと比較した場合、細部の表現力がネックになる可能性がある(後述)。技術仕様を見ても、E Ink電子ペーパーは現行のKindle Paperwhiteに採用されている「Carta」ではなく、1つ前の世代の「Pearl」が使われていることが分かる。
またAmazonのサイト上の比較表ではバッテリ持続時間は3製品とも「数週間」というざっくりした表現になっているが、個々のページに書かれた具体的な値を見ると、本製品は「4週間」、Kindle Paperwhiteは「8週間」と、倍も違う。しかもKindle Paperwhiteはフロントライトをほぼ中間値である明るさ10に設定しての8週間なので、本製品はバッテリの容量そのものが異なるのではないかと考えられる。前のモデルにあたる第4世代「Kindle」も4週間なので露骨に減らされたわけではないが、Kindle Paperwhiteとの違いという点では、フロントライトと解像度とともに挙げられるべき、大きな違いと言えそうだ。
このほか、Kindle Paperwhiteと比較して筐体サイズは長さが2mm、厚みが1.1mm増している。新規の筐体に変更した影響だと考えられるが、全体のサイズの割合からして、あまり目くじらを立てる必要はないだろう。詳しくは後述するが、両者を持ち比べても分からない程度なので、あくまで数字上の違いでしかない。むしろ15g軽量化して200gを切ったことを評価するべきだろう。こちらは持ち比べると体感できる差だ。
筐体はモデルチェンジも従来の方向性を継承。滑りやすい点に注意
では実際に製品を見ていこう。スリーブを外して箱を開封すると透明な袋に包まれた本体が姿を現わす。本体の下にはUSBケーブルが封入されており、さらに電源の入れ方や製品保証について記された各国語版の小冊子2冊も封入されている。詳しい取扱説明書が本体内にデータとして保存されているのは、従来製品と同様だ。AC変換アダプタは同梱されない。
本体は、Kindle Paperwhiteと異なる、新しい筐体デザインが採用されている。とはいえ、6型という画面サイズや、黒一色の筐体カラー、またタッチ操作に特化しており電源ボタン以外に物理ボタンが存在しないといった、Kindle Paperwhiteの設計の方向性はそのまま踏襲されている。前述の通り本体サイズはわずかにKindle Paperwhiteよりも大きいのだが、mm単位の違いなので、実機を持ち比べてもほとんど分からない。
多少気になるのは本体がプラスチックの素材感が強く、滑りやすいことだ。顕著なのは本体裏面で、手に持った場合はもちろん、例えばソファやクッションなどの上に置いた場合も、タブレットのように自重で沈み込まない分、滑って落下しやすい。本製品を使えば使うほど、従来のKindle Paperwhiteの滑り止め加工が優れていたことを実感する。保護ケースをつけずに本体を裸のまま使う人は注意したい。
セットアップ手順は従来と同様
電源を入れるとセットアップが開始され、Wi-Fi設定やAmazonアカウントによるログインなどを指示通りに行なっていくことで、数分もせずに利用可能になる。手順は従来のKindle Paperwhiteと変わらず、すでに完成の域に達していることを感じる。以下、スクリーンショットでご覧いただきたい。
タップやスワイプに対する反応の速さはKindle Paperwhiteを凌駕
操作性については、従来のKindle Paperwhiteと特に相違はない。すなわち、タップもしくはスワイプでページめくり、画面上端をタップするとメニューを表示するという操作体系だ。購入済みのコンテンツは「クラウド」に並び、タップしてダウンロードすると「端末」に表示される点も同一で、コレクションを作って購入済みコンテンツを分類できるのも同じだ。ストアを呼び出してコンテンツを購入する流れも、試した限りでは違いはないようだ。
画面のデザインおよびレイアウトに関しても、Kindle Paperwhiteと基本的に同一。設定画面の中に階層構造が一部異なるメニューがあるといった細かい差異はあるが、フロントライトのように機能そのものがないためにアイコンが省かれているような箇所を除けば、基本的に同じと言っていい。階層の違いも、今後のバージョンアップで統一される可能性が高いだろう。
なお、Kindle Paperwhiteの有効領域は厳密には758×1,024ドットで、3:4の比率よりもわずかに天地が切り詰められているので、有効領域が600×800ドットの本製品の方が、若干縦長ということになる。それゆえ、本製品の方が1行あたりのテキストが1~2文字多いといった細かい差異は発生するようだ。
さて、使い始めてすぐに感じるのは、反応の速さだ。E Ink端末は一般的に、タップなどを行なってから反応を見せるまでの時間、さらに実際に画面を書き換える時間と、2種類の操作待ち時間があり、「反応が悪い」という感想はどちらかというと前者に起因することが多い。本製品はその前者、タップしてから反応が起こるまでの時間が、ほぼゼロと言っていいほどきびきびしており、実に快適に扱える。
タップならびにスワイプの反応速度について、実際にKindle Paperwhiteと同じコンテンツで比較したのが以下の動画だ。条件を揃えるためにKindle Paperwhiteはいったん初期化し、再セットアップした直後の状態で比較しているが、本製品の方が反応が良好であることが分かる。反応がないがゆえにタップが受け付けられたか分からず、もう一度タップしたところ操作が重複してしまった、という心配もほぼ皆無で、非常に優秀だ。
小さいフォントや高精細なコンテンツの表示には制約あり
ハードの安定性や高いパフォーマンスはここまで見てきた通りだが、購入する側として気になるのは、600×800ドットという、Kindle Paperwhiteと比べてやや低めの解像度だろう。解像度が低いがゆえに露骨に読みづらいようであれば、いくら安価とは言え、購入に躊躇してしまって当然だ。ここではテキストおよびコミックのコンテンツについて、Kindle Paperwhiteと細部を比較してみたい。
まずはテキストコンテンツを比較したのが以下の図だ。両製品ともフォントサイズは8段階で調節できるが、ここでは小さい順から4つのサイズについて、それぞれ明朝・ゴシック・筑紫明朝で表示したものを写真に撮り、左右に並べている。いずれも画像の左側が本製品、右側がKindle Paperwhiteである。サンプルに用いているのは、太宰治著「グッド・バイ」の冒頭部分である。
本製品に限らず、低解像度のE Inkで起こりがちな問題は決まっていて、線が「かすれる」もしくは「太る」のいずれかだ。つまり、解像度が低いために表示しづらい細い線について、一定よりも細ければ「かすれる」し、そうでなければ「太る」わけである。
これを念頭に置きつつ上記の写真を見ていくと、フォントサイズ4(および上記写真にはないフォントサイズ5~8)までは、両者にほとんど差はない。厳密にはエッジの滑らかさが若干異なるが、かえってシャープネスがかかっていて、くっきり見える場合もあり、見た目には甲乙つけがたい。
しかしフォントサイズ3あたりを境にして、線が「かすれる」もしくは「太る」症状が見られるようになる。これと同時に、画数が多い漢字は細部が省略されるようになり(上の写真で言うと文壇の「壇」がそうだ)、明朝でも縦棒と横棒の太さが変わらなくなってくるほか、曲線の滑らかさも失われ始める。ルビについても、読みにくいケースが頻出するようになる。
筆者が知る限りでは、フォントサイズは2~4に設定して読んでいる人がほとんどなので、フォントサイズ2など、1ページあたりの情報量が極力多い状態で読むのが好みの人は、フォントの多少のかすれは覚悟しておいた方がよい。できればフォントサイズ3あたりに固定して読むのが、目にやさしい読み方ということになるだろう。
もっとも、このテキストコンテンツについてはフォントサイズを変えるという対処が可能なだけに、そう大きな問題ではない。どちらかというとクリティカルなのは固定レイアウトであるコミックの方だ。サンプルに用いているのは、うめ著「大東京トイボックス 1巻」である。
小さなコマを拡大している点はある程度差し引く必要があるが、髪の毛の部分を見ると、線が「太る」ことによってディティールが失われていることがよく分かる。2枚目の画像は別のコマを拡大したものだが、キャラクターの表情が判別しにくくなっているほか、ビットマップ化されたフォントも太って読みづらくなっている。
コミックは作家ごとに線の太さや書き込みの密度が大きく異なるので、影響の度合いは作品によっても異なるが、このサンプルを見る限りでは、ストーリーの把握やキャラの表情などの読み取りに支障を生じるケースも出てくるだろう。
本製品やKindle Paperwhiteにはこうした場合の対応策として、画面を4等分して拡大表示し、順番に読み進めることが可能な「Kindleパネルビュー」機能も用意されているが、コミックの読み方としてはやはりイレギュラーな感は否めない。コミックの解像度の低さはKindle Paperwhiteでも、さらにそれ以前でも指摘されていた部分であり、解像度が600×800ドット止まりの本製品では、どうしてもネックになるというのが率直なところだ。
もっとも、この点に注力したのが、11月に発売される1,080×1,440ドットの高解像度モデル「Kindle Voyage」であり、同じキャンペーン情報付きモデルで本製品が約3分の1もの低価格(Voyageが21,480円、本製品が6,980円)を実現していることを考えると、何でも欲しがるのは贅沢というものだろう。ひとまずユーザとしては、小さいフォントサイズやコミックなどの表示には若干制約があり、コンテンツによっては見づらさを感じる可能性があるという点だけ、押さえておくと良いだろう。
低価格を活かしてさまざまな用途に活用できる製品
以上ざっと見てきたが、本製品に対する筆者の評価は、そう低いものではない。特徴のなさゆえに高解像度モデルのKindle Voyageの影に隠れてしまっているが、端末としての完成度は非常に高く、もっと注目されてもおかしくない製品である。前述の解像度の問題、またフロントライトがないゆえに暗所での利用には向かないことは差し引く必要があるが、わずか6,980円から買える電子ペーパー端末として価格訴求力は絶大だ。価格相応どころかそれ以上の完成度の製品と言っていいだろう。
かつて2011年夏に7,980円で「kobo Touch」が登場した時はかなりのインパクトがあったが、当時は円高という事情もあり、翌年からはどのメーカーの製品も一様に価格の相場が上がるなど、瞬間最大風速的なイメージが否めなかった。その点、本製品は当時の製品と比べてスペックは同等以上で、Kindle Paperwhite譲りの完成度をもち、さらに手頃な価格というから恐れ入る。キャンペーン情報付きでの価格とは言え、BookLive!Reader Lideoのようにデフォルトで広告表示がオンの製品があることを考えると、破格の安さと言っていいだろう。エントリーモデルとは思えない性能の高さも高評価だ。
現行のKindle Paperwhiteから買い替えるための製品ではないので、ターゲットとなるのは初めて電子ペーパーに触れるユーザが中心になるだろう(Amazonの製品ページにも「気軽に始める電子書籍体験」というキャッチコピーが見られる)。1万円を超えるKindle Paperwhiteは手が出なかったが、この価格なら、というユーザにもお勧めできる。前述の通りテキスト表示に向いた仕様なので、コミックを中心に楽しみたいユーザにはKindle Paperwhite(あるいは今後発売されるKindle Voyage)の方が向いているが、価格の安さも踏まえて、入門用と割り切って試すのもありだろう。
また、これまでスマートフォンやタブレットでKindleの電子書籍を楽しんできたが、利用頻度が上がり、専用端末が欲しくなってきたというユーザにもおすすめできる。スマートフォンやタブレットの場合、丸1日使っていると夜にはバッテリがほぼなくなってしまう場合もあるが、本製品の場合は公称4週間はバッテリが持つので、読書端末としての役割をスマートフォンやタブレットから本製品に移管することで、スマートフォンやタブレットの電池寿命を伸ばす効果もある。ちょっとした旅行や出張の行き帰りも充電不要で安心して読書が楽しめるのも、同様に利点と言えるだろう。低価格であることを活かし、さまざまな用途に活用できる製品と言えそうだ。