山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
モノクロの時代は終わった?Amazon初のカラーE Ink端末「Kindle Colorsoft」を試す
2025年8月7日 06:07
Amazonの「Kindle Colorsoft」は、カラーE Ink電子ペーパーを採用した7型の読書端末だ。Kindleとしては初となるカラーE Ink採用モデルで、これまでモノクロでしか表示できなかったコンテンツを、4,096色カラーで表示できることが最大の特徴だ。
本製品は2024年10月に発売されたものの日本への投入は見送られ、今回登場したのはストレージ容量を減らした廉価モデルという扱いになる。北米での発売時には、画面上部に黄色い帯が表示される問題が発生し、しばらく出荷停止になる事態もあっただけに、そのあたりがきちんと治っているかも気になるところだ。
今回は筆者が購入した実機をもとに、電子書籍ユースを中心とした使い勝手を、モノクロ版にあたる「Kindle Paperwhite」と比較しつつチェックする。
「Kindle Paperwhite」をカラー化したモデル
まずはモノクロ版にあたるKindle Paperwhiteと比較してみよう。
| Kindle Colorsoft(第1世代) | Kindle Paperwhite(第12世代) | |
|---|---|---|
| 発売月 | 2025年7月 | 2024年10月 |
| サイズ(幅×奥行き×高さ) | 176.7×127.6×7.8mm | 176.7×127.6×7.8mm |
| 重量 | 215g | 211g |
| 画面サイズ/解像度 | 7型/1,272×1,696ドット | 7型/1,272×1,696ドット |
| ディスプレイ | 7インチAmazon Colorsoft ディスプレイ、解像度300ppi(白黒) 150ppi(カラー) 、内蔵型ライト、フォント最適化技術、16階調グレースケール | 7インチAmazon Paperwhiteディスプレイ、解像度300ppi、内蔵型ライト、フォント最適化技術、16階調グレースケール |
| 通信方式 | 2.4GHz、5.0GHzをサポート | 2.4GHz、5.0GHzをサポート |
| 内蔵ストレージ | 約16GB | 約16GB |
| フロントライト | 内蔵(暖色対応) 自動調整には非対応 | 内蔵(暖色対応) 自動調整には非対応 |
| ページめくり | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ |
| 防水・防塵機能 | あり(IPX8規格準拠) | あり(IPX8規格準拠) |
| 端子 | USB Type-C | USB Type-C |
| バッテリ持続時間の目安 | 最大8週間 明るさ設定13、ワイヤレス接続オフで1日30分使用した場合 | 最大12週間 明るさ設定13、ワイヤレス接続オフで1日30分使用した場合 |
| 発売時価格 | 3万9,980円 | 2万7,980円 |
| 備考 | ストレージ32GB、明るさ自動調整やワイヤレス充電に対応したシグニチャー エディションも存在 | ストレージ32GB、明るさ自動調整やワイヤレス充電に対応したシグニチャー エディションも存在 |
この表からも分かるように、E Ink電子ペーパーパネルをモノクロからカラーに換装した以外は、ほぼKindle Paperwhiteの仕様を踏襲している。上位バージョンであるストレージ32GB/ワイヤレス充電対応のシグニチャーエディションも同様で、実質的に「カラーかモノクロか」という違いしかない。
そのためE Ink端末としてはいたってスタンダードな仕様で、ページめくりボタンやメモリカードスロットは非搭載であるほか、スタイラスなどにも対応しない。よく言えばまとまっている製品、悪く言えばあまり面白味のない製品だ。USB Type-C搭載、防水対応などもKindle Paperwhiteと共通の仕様となっている。
カラーE Inkは「Kaleido 3」という、楽天KoboのカラーE Ink端末「Kobo Libra Colour」や、BOOXの各種端末に採用されているのと同じパネルで、市場に出回っているカラーE Inkの中では最新ではあるが、出荷から2年が経過した、やや枯れた製品だ。他社よりも後発となったのは、他社に比べて出荷ボリュームの大きいKindleのこと、パネルの生産が安定すること、またそれに伴って価格がこなれるのを待っていたからだと考えられる。
なお唯一、バッテリの駆動時間については、Kindle Paperwhiteが12週間だったのが、本製品は8週間と、約3割減となっている。重量にほぼ変化がないことを考えると、バッテリ容量そのものが削減されたわけではなく、カラー化でより多くの電力が必要になり、結果的に駆動時間が減ったと見たほうがよさそうだ。
カラーならではの設定項目はわずか、使い勝手も同一
では実際に使ってみよう。セットアップの手順は、紙のような質感であることをアピールするカラー画面が間に挟まることを除けば、従来のKindle Paperwhiteと同様だ。スマホを用いた簡単設定の画面が用意されているのも変わらない。
ホーム画面やライブラリも、色が付いたというだけで、デザインや階層構造はまったく同一なので、乗り換えて戸惑うこともない。設定画面については、「画面の明るさ」に「色のスタイル」という従来なかった項目が追加されており、色調を「標準」または「ビビッド」から選ぶことができる。
もともとカラーE Inkは、彩度の低さが弱点であり、この「ビビッド」はそれを補うための項目だ。もっともオンにした時の色合いはかなり人工的で、表示するコンテンツによっては若干不自然にも感じられるので、オンにするか否かは好みで判断してよいだろう。
ちなみに汎用のE Ink端末である「BOOX」のように、表示設定を細かくチューニングする機能は、前述の「色調」を除けば存在しないが、それはKindleアプリに合わせてチューニング済みであるためで、ないからと言って困ることはない。楽天Koboのカラーモデルにも言えるが、あれこれ調整せずにそのまま使えるという意味で、本製品のほうが扱いやすい。
なお余談だが、本製品はカラー化に伴い、Kindle伝統のスクリーンセーバが一新されている。Kindleのスクリーンセーバは日本上陸前に用いられていた著名作家の肖像画のあと、10年以上に渡って同じデザインが使われてきたので、新しいデザインは新鮮だ。
モノクロの表示品質はKindle Paperwhiteに劣る
では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」、雑誌には「DOS/V POWER REPORT」の最終号を使用している。
本製品は既存のカラーE Ink端末と同じく、カラーとモノクロとで解像度が異なる仕様になっている。具体的にはモノクロは300ppi(16階調)、カラーは150ppi(4,096色)だ。つまりカラーはモノクロよりも表示が粗く、カラーだけで表示される文字などはモノクロに比べてかすれて見えがちな傾向がある。
もっとも電子書籍のテキストやコミックはモノクロ表示がほとんどなので、影響はほぼ皆無……と言いたいところなのだが、実際にKindle Paperwhiteと比べてみると、本製品でのモノクロ表示は、JPEG圧縮を強めにしたようなブロックノイズが線の周りに表示されたり、モアレが目立つ場合がある。
これはモノクロ電子ペーパーの上にカラーのフィルタが乗っているためと考えられ、同じ300ppiであっても、Kindle Paperwhiteのなめらかさには及ばない印象だ。
色がついている箇所はどうだろうか。一般的に、E Inkのカラー部分は解像度がモノクロより低いとはいえ、ベタ塗りであればそれほど気にならないので、図版などの表示にはほとんど影響がない。粗さが出がちなのは主にカラー写真などだが、それでも本製品のカラーE InkはKindleアプリに最適化されているためか、BOOXなどの汎用端末にしばし見られる、染みのような表示の乱れは見当たらない。
ただしテキストやコミックでのモノクロ表示と同じく、走査線ともモアレともつかない線が目視で確認でき、同じページをモノクロ300ppiのKindle Paperwhiteで表示した場合と比べると、なめらかさに欠ける。色がついているのを取るか、なめらかさを取るか、その二択といったところだ。
結論として、カラーが表示できるのは利点だが、モノクロ表示においてはKindle Paperwhiteのほうが表示がなめらかで目に優しい、という評価になる。遠目に見るとあまり分からないのだが、上記の例のようにクローズアップすると違いが顕著に分かる。
またそのカラー表示も、あくまで「色がついている」というレベルで、カラー液晶やOLEDとの比較はナンセンスだ。特に彩度に関しては、本製品に採用されているKaleido 3は従来パネル比で彩度が30%向上したとされているが、バックライトを有する液晶と比較するのは酷だ。
カラーであるメリットは? ページめくりのレスポンスは?
ただしそれでも実際に使い続けていると、カラーであるメリットは端々で感じられる。たとえばハイライトがそれで、テキストコンテンツの単語やフレーズを長押しすることで引けるハイライトは、従来はモノクロオンリーだったが、本製品であればカラーで引くことができ、かつ4色から選択できる。見た目にも明らかに自然で、グレーでのハイライト表示にどれだけ無理があったかを実感する。
また個人的に意外だったのが、使っているうちに雑誌を読んでみようという気にさせられることだ。モノクロのKindle Paperwhiteでは、雑誌を読もうという気にはまったくならなかったが、「ページが縮小表示される」「カラーがモノクロで表示される」という2つのネックのうち、後者が取り除かれた本製品では、雑誌も意外に抵抗なく読めるのでおもしろい。
もともと7型300ppiという解像度は、注釈レベルの小さな文字は無理でも、雑誌の本文だけならわざわざ拡大しなくても読める。もちろん前述のように、カラー写真のディティールは不足気味になるので、あくまでコンテンツ次第だが、スマホのように拡大縮小を繰り返す手間もかからず、実用性は高い。本製品を購入したらぜひ試してみてほしい。
最後に、ページめくりのレスポンスについてもチェックしておこう。実際に試した限り、テキストではKindle Paperwhiteとの差はほとんど見られず、逆に本製品のほうがレスポンスが高速な場合もあったが、コミックではそれが逆転し、さらに雑誌になると本製品のほうが明らかに反応が遅くなることが確認できた。
実際に雑誌を読む場合は、1ページあたりの情報量の多さからして、コミック並のスピードで高速にめくることはないだろうが、それでもテキストをめくる時のレスポンスの軽快さが明らかに失われるのは気になるところだ。詳しくは動画を見てほしい。
問題は、これらのレスポンスに、カラーかモノクロかがどの程度関係しているかだ。今回試したコンテンツは、コミックはほぼ全ページがモノクロ、雑誌は大部分がカラーだが、雑誌のモノクロページに限ってテストしても、やはり反応の鈍さは見られたことから、カラーかモノクロかはあまり関係なく、単純に雑誌はファイルサイズが大きいがゆえにレスポンスが悪かった可能性もある。このあたりはもう少し、検証が必要と言えそうだ。
将来のE Inkはどうなる?
以上のように、Kindleとしては初となるカラーE Ink製品ながら、完成度は非常に高い。昨年米国でリリースされた直後は、画面上部に黄色い帯が表示される問題が発生し、しばらく出荷停止になる事態もあったが、現在の製品を見る限りでは、それらの名残りは見られない。
もちろん、液晶と比較した場合の彩度の低さは一目瞭然で、あくまでも「カラーE Inkとしては」という但し書きがつくのは、同じKaleido 3を搭載するBOOXなどのカラーE Ink端末と同様なのだが、設定や調整に余計な手間をかけず普通に読めるあたり、きちんと作り込んできている印象だ。
本稿で見てきたように、現時点では表現力や動作速度ではモノクロモデルのKindle Paperwhiteに負けている部分もあるが、致命的なレベルではなく、カラーである利点がそれらのマイナスを相殺して余りある。「いま読んでいる本の多くはモノクロなのでカラーは不要」という人もいるだろうが、それでも表紙や口絵はカラーだし、またライブラリやストアがカラー前提にデザインされている以上、長期的に避けて通るのは不可避だ。
思えば電子書籍端末はこの20年余り、通信機能が搭載されたり、タッチに対応したりと、当初は必要性が疑問視された機能が当たり前になってきた経緯がある。このカラー化もおそらくその1つで、数年は無理でも10年スパンで見れば、モノクロを駆逐するのは間違いない。少なくともいったんカラーを使ったユーザーが、サブ機としてならまだしも、メイン機をモノクロに戻すことは考えにくいというのが、実機を使った感想だ。
そうした意味で、現時点であえて本製品ではなくモノクロモデルを選択する理由は、約1.2万円差という「価格」くらいだろう(Kindle Paperwhiteは2万7,980円、本製品は3万9,980円)。今後はこの価格差に加えて、短期的にはさらなる画面サイズのバリエーション展開があるのか否か、長期的にはパネルの世代が進化して彩度や解像度がどれほど向上するか、そのあたりが関心事となっていくだろう。












































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