山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
ファーウェイのLTE対応1万円台タブレット「MediaPad T1 7.0 LTE」で電子書籍を試す
2016年10月28日 06:00
ファーウェイの「MediaPad T1 7.0 LTE」は、7型のAndroid 6.0タブレットだ。LTEに対応しながら、実売1万円台で購入できるリーズナブルな価格設定が特徴だ。
7~8型クラスのタブレットは、低価格モデルが定期的に話題になるが、その多くはWi-Fiモデルであり、LTEなどのデータ通信には非対応だ。例えばこの分野の草分けである、19,800円という当時としては破格の安さで話題をさらった「Nexus 7(2012)」がそうだ。また最近では、実売8,980円、クーポン利用で4,980円という圧倒的な価格で注目を集めたAmazonの「Fire」もやはりWi-Fiモデルで、かつ同社のコンテンツに特化した設計ということで純粋なAndroidに比べて汎用性は低かった。
今回の「MediaPad T1 7.0 LTE」は、1GBメモリ/ストレージ8GBモデルと2GBメモリ/ストレージ16GBモデルがラインナップされており、いずれもLTEに対応しながら、前者は10,980円、後者でも14,980円(いずれも税別)という、1万円台で入手可能なリーズナブルな価格設定が大きな特徴だ。LTEに対応したSIMロックフリーの7型タブレットとしては2013年発売のNexus 7(2013)が思い浮かぶが、価格は39,800円と、本製品のおよそ2倍にあたる。解像度などは本製品がやや劣るとは言え、逆に本製品はメモリカードスロットを搭載するなどのプラス要素もあるので、本製品の安さは際立っている。
ただし、本製品はクアッドコアCPUを搭載するとは言え、ベースになったモデルは2015年発売の「MediaPad T1 7.0」ということで、決して最新のアーキテクチャではない。それゆえどの程度“使える”製品なのかは気になるところ。今回は2GBメモリ/ストレージ16GBモデルを例に、Androidタブレットとしての基本的な使い勝手に加え、電子書籍端末としてどの程度使えるかを、Amazonの低価格タブレット「Fire」および「Fire HD 8」と比較しながらチェックしていく。
エントリークラスのスペックにLTEを搭載
まずはAmazon「Fire」および「Fire HD 8」との比較から。主に電子書籍ユースに関係ある項目に絞ってピックアップしているのでご了承いただきたい。
MediaPad T1 7.0 LTE | Fire HD 8(第6世代) | Fire(第5世代) | |
---|---|---|---|
発売年月 | 2016年10月 | 2016年9月 | 2015年9月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 191.8×107×8.5mm | 214×128×9.2mm | 191×115×10.6mm |
重量 | 約278g | 約341g | 約313g |
CPU | SC9830I A7 クアッドコア 1.5GHz | クアッドコア最大1.3GHz | クアッドコア1.3GHz×4 |
RAM | 1GB/2GB | 1.5GB | 1GB |
画面サイズ/解像度 | 7型/1,024×600ドット(171ppi) | 8型/1,280×800ドット(189ppi) | 7型/1,024×600ドット(171ppi) |
通信方式 | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11a/b/g/n | IEEE 802.11b/g/n |
内蔵ストレージ | 8GB/16GB | 16GB (ユーザー領域11.1GB)/32GB (ユーザー領域25.3GB) | 8GB(ユーザー領域5GB) |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 不明(バッテリ容量4,100mAh) | 12時間 | 7時間 |
microSDカードスロット | ○ | ○ | ○ |
LTE | 対応 | - | - |
価格(2016/10/25現在) | 10,980円(1GBメモリ/ストレージ8GBモデル)/14,980円(2GBメモリ/ストレージ16GBモデル) | 12,980円(16GB)/15,980円(32GB) | 8,980円(8GB)/10,980円(16GB) |
本体サイズは7型としては標準的で、Fireに比べるとわずかに小さい。また本体が2.1mm薄いのは、手に持った際にかなりの差を感じる。重量も約278gと、7型タブレットとしてはかなり善戦している。数年前は350gを切っているだけで軽量と称していたことを考えると、隔世の感がある。
解像度は1,024×600ドットと、かなり割り切ったエントリークラスのスペック。Amazon「Fire」とは同等ということになるが、現在市販されている7型タブレットとしては、もっともローエンドのクラスにあたる。Wi-Fiが5GHz非対応(11b/g/n)というのも、必要最小限という印象を受ける。
今回試用しているのは2GBメモリ/ストレージ16GBモデルということで、メモリ容量だけを見るならばほかの2製品よりも有利だ。CPUはSC9830I A7(4コア、1.5GHz)で、クアッドコアではあるもののエントリークラスのSoCであり、これはほかの2製品も同様である。ベンチマークについてはのちほど紹介する。
コンパクトな7型、印象としては「薄くなったFire」
ライトブルーのパッケージは多国語版ではなく日本語による説明が直接印刷されているほか、クイックスタートガイドおよび保証書も日本語版が封入されており、国内向けに用意されたモデルであることが伺える。リリースでは販路として家電量販店やECサイトが挙げられており、格安SIMなどとのバンドル販売を前提にしているのだろう。同梱品はUSBケーブル、AC変換アダプタ、クイックスタートガイドおよび保証書と、ごく一般的だ。
本体を初めて手に持った印象として、非常にコンパクトなことが挙げられる。最近は7型よりも8型のタブレットが増え、筆者もそれに慣れていることから、単純に8型と比べると画面サイズが小さいというのもあるが、7型タブレットとしてもかなりスマートであり、片手でも十分に握れてしまう。またやはり7型のAmazon「Fire」とは、幅や高さはほぼ同じながら厚みがなく、かつ軽量であるためハンドリングしやすい。感覚的には「本体が薄くなったFire」だ。
カラーリングは独特で、アンテナが内蔵されていると思われる本体背面上部を含めたグリル部分が白、筐体背面がシルバーのツートンを採用している。白い部分は樹脂製でややチープさもあるが、筐体背面部分はiPhone/iPadにも似た質感で、価格にたがわぬ高級感がある。
本体上部にイヤフォンジャック、下部にMicro USBコネクタ、右側面に電源ボタンと音量ボタンという配置は、このクラスのタブレットとしては一般的。右側面の下部のカバーを外すと、microSDスロットおよびMicro SIMスロットが用意されている。最近主流となりつつあるNano SIMではないのが、注意点と言えば注意点だろうか。
SIMカードについて、今回は手持ちのiijmioのMicro SIMを装着してみたが、APN情報を手入力することなくすぐ使い始めることができた。一覧を見る限りは、国内の主要事業者のAPN情報はあらかじめセットされており、格安SIMに興味を持つライトユーザー層を狙った製品であることが分かる。
大量の画像を含むページのスクロール時は若干のひっかかりも
セットアップはAndroidの一般的な手順に加えて、ファーウェイ独自の項目がいくつか含まれている。これは同社のほかのタブレット、本稿で過去に紹介した中では「P8max」なども同様だ。キーボードの印字と実際に入力される文字(記号)に若干の相違がある不具合も同様である。
ホーム画面はファーウェイの独自アプリのアイコンは並んではいるものの、用途が不明で使いようがないプリインストールアプリが大量に並んでいるといったこともなく、シンプルイズベストだ。アプリ一覧の画面がなく、インストールした全てのアプリがホーム画面に並ぶ、iOSに近いインターフェイスが特徴と言えば特徴だが、これはP8maxでも同様だったので、ファーウェイ製品特有のようである。
価格相応だと感じられるのは、画像を多数含むWebページを読み込みながらのスクロールなどで、稀にひっかかりがあることだ。処理速度が追いつかない場合によく見られる症状で、発生頻度から言って致命的というレベルではない(今回の比較対象であるAmazon「Fire」でもこの症状は見られる)ものの、メモリ2GBモデルでこの状態なので、1GBモデルだとかなりつらいだろうというのは容易に想像がつく。
またAmazonビデオなどストリーミング再生に最適化されたコンテンツを試す限り、動画再生は実用的なレベルだが、通話時に耳が当たる位置に設置されたスピーカーが唯一であるため、音楽や動画の鑑賞時はイヤフォンを使った方がいいだろう。このほか、本製品は照度センサーがないため、画面の明るさの調整は全て手動になるなど、エントリーモデルらしさは随所に見られる。
もっとも、これで2万円台、3万円台の価格であれば話は別だが、いかんせん1万円台後半でLTEも利用できる。価格を知らない中でこれを手渡されれば、1万円台のLTEタブレットだと思う人はまずいないはずで、コストパフォーマンスは抜群だ。格安タブレットでは使い物にならないことも多いGoogleマップやGoogleストリートビューも、ズームは決してなめらかではないが、十分に使える。どちらかというとMVNO事業者の回線速度の方が影響が大きそうだ。
ちなみに「Ice Storm Extreme」によるベンチマーク結果は以下の通りで、Amazon「Fire」および「Fire HD 8」と比べても、値は全体的に低めだ。感覚的にはもう少し速いように感じるが、どちらにしても過剰な期待が禁物ということに変わりはない。同じファーウェイのハイエンドスマートフォンP8maxと比べても、価格の差がモロに値の差に出ているのが分かる。
MediaPad T1 7.0 LTE | P8max | Fire HD 8 | Fire | |
---|---|---|---|---|
Score | 2393 | 6467 | 3598 | 3328 |
Graphics Score | 1988 | 6081 | 3064 | 2893 |
Physics Score | 8355 | 8313 | 9218 | 7030 |
Graphics test 1 | 9.8FPS | 34.6FPS | 16.7FPS | 13.8FPS |
Graphics test 2 | 7.7FPS | 21.4FPS | 11.1FPS | 11.6FPS |
Physics test | 26.5FPS | 26.4FPS | 29.3FPS | 22.3FPS |
電子書籍端末としての利用ではコミックの画質がポイントに
続いて、電子書籍端末としてどの程度使えるかを見ていこう。
本製品は「Google Play ブックス」など電子書籍アプリはプリインストールされておらず、必要な電子書籍ストアアプリを自分でインストールして利用する。今回はKindle、Kobo、BookLive!、紀伊國屋書店Kinoppy、BOOK☆WALKER、ebiReaderを導入したが、主要な機能を試した限りでは特に支障はなかった。本製品はAndroid 6.0搭載の汎用タブレットということで、このあたりは特に問題はないだろう。KoboやBookLive!に用意された、音量キーでページをめくる機能も問題なく使える。
本製品の画面サイズは7型、解像度は1,024×600ドットという、16:10よりもさらに細長い縦横比なので、コミックを表示した場合、縦向き(単ページ)では上下に、横向き(見開き)では左右に、大きな余白ができる。つまりどっちもどっちなのだが、見開きではさすがに1ページあたりの表示サイズが小さすぎること、また細かいディティールを表示するには解像度が足りないため、実質的には単ページ表示となる。テキストコンテンツについても、バランスから言って縦利用になるだろう。
以下、サンプルの画像はすべてKindleストアから購入したコンテンツを例に紹介する。テキストは太宰治著「グッド・バイ」、コミックはうめ著「大東京トイボックス 1巻」である。
具体的な表示クオリティについて、競合デバイスと比較した画像も掲載しておく。結論としては、テキストはドットの粗さが顕著に出るほか、コミックでは細い線を描写できずディティールが潰れがちになるなど、価格なりの品質がモロに出る。テキストはやや大きい文字で表示すればギザギザ感が緩和されるが、コミックはどうしようもない。線が細かく描写が緻密なコンテンツは、ある程度のあきらめが必要だろう。
・上段左:本製品(7型/1,024×600ドット/171ppi)
・上段右:Fire(7型/1,024×600ドット/171ppi)
・下段左:Fire HD 8(8型/1,280×800ドット/189ppi)
・下段右:iPad mini 4(7.9型/2,048×1,536ドット/326ppi)
LTE回線搭載により外出先で既読位置の同期が容易に
電子書籍ユースにおけるLTE回線の意義についてもチェックしておこう。電子書籍端末でLTEが使えるメリットは、外出先でのストアの閲覧、購入、ダウンロードができることだ。もっとも、外出先で電子書籍ストアにアクセスしてコミックを購入し、その場でLTE回線を使ってダウンロードするとなると、数十MBもの容量を消費してしまう。通信量に上限があり速度も決して速くない格安SIMを使っている場合は、なるべくであれば避けたいことだろう。
一方、LTEが使えることによって、外出先でも既読位置の同期が可能になるメリットは捨てがたい。自宅と外出先とで異なるデバイスを使って電子書籍を楽しんでいて、外出先で使うデバイスがLTEなどの通信回線に非対応だと、外出先で続きを読もうと本を開いたところ、自宅で読み進めた既読位置が反映されておらず、読み終わったページを手動で探さざるを得なかった……ということはよく起こりうるが、LTEが使える本製品であれば、そうした心配は無用だ。
この辺りはユーザー自身がメリットデメリットを判断することになるわけだが、もし用心のために、電子書籍ユースについてはLTE回線は使わないようにしたければ、設定画面の「データ通信量の管理」→「ネットワーク通信を行うアプリ」で、該当のアプリのチェックを外しておくと良い。こうすれば、外出先でうっかり大容量のコンテンツをダウンロードして、何十MBという通信量を発生させることもない。もちろんこの場合は既読位置の同期やストアの閲覧もできなくなるので、そこは個人で判断して欲しい。
電子書籍用途で汎用タブレットを求めるユーザーにおすすめ
実は今回のレビューで、筆者は途中まで、本製品の解像度を1,024×600ドットではなく、1,280×800ドットだと誤解したまま試用していた。というのも、同じ解像度のFireに比べて、本製品の方が表示が美しく見えるのだ。前述のテキストおよびコミックの比較写真を見る限りではあまりそうは思えないのだが、ホーム画面を始めとする画面では解像度の低さはそれほど感じられず、我慢しながら使っているような感覚もそれほどない。
もちろん、これまでハイエンドなタブレットの利用経験があれば、前述のスクロール時のひっかかりなど目につくところはあるので、1台目のタブレットというよりは2台目3台目、もしくはこれまで共有していた家族に分け与えるための1台ということになるだろうが、ニーズとしては確実にあるのは間違いない。ましてやこの価格にしてLTE対応である。今回試していないゲーム用途ではどの程度の性能を発揮できるか不明だが(おそらくかなり厳しいと思われる)、価格相応というよりも、そのワンランク上の製品というのが、数日間使った上での結論だ。
電子書籍端末としては、7~8型クラスのタブレットを探しているもののAmazonの「Fire」では汎用性の点で手を出しづらいユーザーにおすすめできる。最近はあまり見かけなくなった、電子書籍ストアによるタブレットのバンドル販売などが今あれば、確実にその対象となりうるスペックと価格帯の製品であり、今後の展開によっては実際そのような販路もありうるかもしれない。
懸案である操作時のひっかかりも、電子書籍ユースにおいては、せいぜいストアで大量のサムネイルを表示した場合に動きが遅くなるくらいで、そうした意味でも電子書籍向けではある。あとはコミックの解像度がどこまで許容できるかだろう。
なお、LTE回線は不要でさらに安価なモデルを求める場合、本製品のベースとなった「MediaPad T1 7.0」という選択肢もあるにはあるが、こちらは1GBメモリ/ストレージ8GBモデルのみの展開で、今回試用した2GBメモリ/ストレージ16GBモデルは用意されていない。本製品はモデル名とスペックの関連がやや分かりにくいので、購入にあたっては十分に注意することをおすすめする。