山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
ファーウェイ「P8max」で電子書籍を使う
~6.8型、新書とほぼ同等サイズのSIMフリースマートフォン
(2016/3/9 06:00)
ファーウェイの「P8max」は、6.8型という、7型よりも一回りコンパクトな画面サイズを持つAndroidスマートフォンだ。税別価格は59,980円で、iPad並みの薄型設計に加え、平均的な7型端末に比べて50g前後も軽い、228gという軽量なボディも特徴だ。
昨今のスマートフォンは画面サイズの大型化が著しいが、それでも多くの機種は5.5型以下、大きい機種でも6型程度であり、それ以上で国内発売済みの製品となると、6.4型のソニー「Xperia Z Ultra」(2014年発売)がほぼ唯一といって良い状況だ。一方タブレットは、Androidについては7型から8型へとメインストリームが移行しつつあり、7型未満の製品は見当たらない。
この「P8max」は、その「6型以上、7型未満」という空白地帯を埋める、6.8型という画面サイズが特徴だ。本体サイズが新書とほぼ同等であることから、電子書籍を読むのにスマートフォンは小さすぎるが、タブレットでは大きすぎるというニーズにぴったりハマる。分類上はSIMフリーのスマートフォンということで、SIMカードを追加して外出先でも通信が行なえるなど、機動性も申し分ない。
発売は2015年9月ということで、やや間は空いてしまっているが、こうしたサイズの特性ゆえ、一部で評価が高いこの「P8max」を、今回は電子書籍端末として使用した場合についての評価をお届けする。連載の性質上、スマートフォンとしての性能および機能には最小限しか触れないので、予めご了承いただきたい。
高級感のあるボディに大容量バッテリを搭載。デュアルSIMスロットも装備
競合と呼べる製品が少ないこの「P8max」だが、まずは本連載で過去に取り扱ったAndroid端末の中から、同じファーウェイ製である、Googleの5.7型スマートフォン「Nexus 6P」と比較してみよう。また、ネットでのユーザーの声を見る限り、既に販売終了している前述のソニー「Xperia Z Ultra」からの乗り換え候補として、検討および購入しているユーザーが多いようなので、こちらとも合わせて比較する。
P8max | Nexus 6P | Xperia Z Ultra | |
---|---|---|---|
製造元 | ファーウェイ | Google/ファーウェイ | ソニー |
発売年月 | 2015年9月 | 2015年10月 | 2014年1月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 93×182.7×6.8mm | 77.8×159.3×7.3mm | 92×179×6.5mm |
重量 | 228g | 178 g | 212g |
OS | Android 5.1 | Android 6.0 | Android 4.2→4.4 |
CPU | Hisilicon Kirin 935 (A53X 2.2GHz+A53 1.5GHz、オクタコア、64bit) | Qualcomm Snapdragon 810 v2.1(2.0GHz、オクタコア、64bit) | Qualcomm Snapdragon 800 APQ8074(2.2GHz、クアッドコア) |
RAM | 3GB | 3GB | 2GB |
ストレージ | 32GB | 32/64GB | 32GB |
画面サイズ/解像度 | 6.8型/1,920×1,080ドット | 5.7型/2,560×1,440ドット | 6.4型/1,920×1,080ドット |
通信方式 | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | IEEE 802.11a/b/g/n/ac |
メモリカードスロット | microSD | n/a | microSD |
備考 | メモリカードスロットはNano SIMと排他利用 | n/a | 防水(IPX5/8相当)および防塵(IP5X相当)に対応。海外版はAndroid 5.0へアップデート対応済み |
こうして比較するとスペック上は大きく突出した特徴はなく、OSについても、同時期に発売されたNexus 6P(Android 6.0)と違って、現状Android 5.1となっているが、その代わりに大きな欠点と呼べる箇所もなく、全体的にバランスは取れている印象だ。またサイズや重量、画面サイズに解像度など、「Xperia Z Ultra」とは非常によく似通っており、防水防塵対応などの違いはあるにせよ、乗り換えを検討するユーザーが多いのも理解できる。
一方、ボディにはマグネシウム合金を採用し、起伏もなく切れ目もない背面デザインはスタイリッシュで、シャンパンゴールドのボディカラーと相まって、ほかの2製品と比べても高級感は上だと感じる。スクリーンは発色も良く視野角も十分で、縦向き横向きいずれの利用でも支障を感じない。
そのほか、この表にはない特徴としては、バッテリが4,360mAhと大容量で、ストリーミングの動画視聴であれば約15時間(メーカー調べ)という長時間駆動を実現していること(Nexus 6Pは3,450mAh、Xperia Z Ultraは3,050mAh)、また2基のSIMカードスロットを搭載することが挙げられる。スロットはMicro SIMスロットとNano SIMスロットがそれぞれ1基ずつ用意されているので、どちらかの規格のSIMが手元にあれば、そのまま挿して使用できる。
ただし気を付けたいのが、このSIMカードスロットの内、Nano SIMスロットはmicroSDスロットと兼用になっていることだ。詳しい仕組みは写真を参照いただきたいが、microSDを使う場合はNano SIMスロットは塞がれてしまうため、本製品のために新たにSIMカードを手配するならば、実質的にMicro SIM一択ということになる。Nano SIMについては「使えなくはない」という程度に理解しておいたほうがよいだろう。
片手で握れるスリムさが特徴。セットアップなどの手順は一般的
セットアップについては、ファーウェイ独自の端末マネージャーの設定のプロセスはあるものの、一般的なAndroidのセットアップ手順と基本的に同様。初期状態のホーム画面は、Google製アプリ以外はオリジナルのアイコンでデザインが統一されている。追加したアプリはホーム画面の右側に追加されていく方式で、別途アプリ画面は用意されていない。
さて本製品の最大の利点は、片手で握れるスリムさだ。前回レビューしたNexus 6Pは「大画面のスマートフォン」というイメージが強かったが、サイズが二回りは大きい本製品は「コンパクトなタブレット」というイメージで、大きさをそれほど意識せずに済むのが興味深い。
これは、左右のベゼルが極端に切り詰められており、7型タブレットはもちろん、Kindleなど6型の電子書籍端末と比べてもスリムであることも一因だろう。また本体が薄いことに加えて全体の重量バランスがよいので、上部に重心があるNexus 6Pに比べると持った時のバランスがよく手の収まりもよい。
なお、ベンチマークソフト「Quadrant Standard」を用いた、ほかのAndroid端末との比較は以下の通りで、Nexus 6Pには負けるものの、Nexus 7(2013)よりは上、Nexus 9とほぼ同等という結果になる。最も、ネットワーク越しの動画再生などヘビーな用途で使っていても特に支障はなく、これらベンチマークのスコアの差は、体感値に比べ低い印象だ。Kirin 935というやや特殊なSoCを採用していることで、ベンチマークソフトが対応しきれていないのかもしれないので、参考程度に見てほしい。
P8max | Nexus 6P | Nexus 9 | Nexus 7(2013) | |
---|---|---|---|---|
OS | Android 5.1 | Android 6.0 | Android 5.0 | Android 4.4 |
Total | 13367 | 19921 | 13529 | 5141 |
CPU | 43327 | 75400 | 41041 | 13908 |
Mem | 10077 | 10956 | 8903 | 7435 |
I/O | 10866 | 10736 | 14844 | 2038 |
2D | 324 | 285 | 391 | 247 |
3D | 2239 | 2226 | 2465 | 2078 |
テキストコンテンツにはまたとないサイズ
では電子書籍を表示した際の特徴について見ていこう。
本製品のフットプリント(93×182.7mm)は新書サイズ(103×182mm)に極めて近く、テキストコンテンツを読むにはまたとないサイズだ。6型未満のスマートフォンのように窮屈さを感じることもなければ、7型以上のタブレットにありがちな、画面の上下の距離がありすぎるせいで、文字を追っていて目が疲れる症状も起こりにくい。文字サイズにも依存するが、なかなか絶妙なバランスである。解像度についても不足は感じない。
一方、コミックなど固定レイアウトのコンテンツは、画面の横幅に合わせてページが縮小されることから、上下に黒帯ができてしまい、必ずしも6.8型という画面サイズをフルに活かせない。昨今のスマートフォン向けコミックアプリによくある、縦スクロール型の画面設計なら別だが、紙のページを踏襲したレイアウトの場合、7型タブレットに比べて実サイズ以上に差がある印象だ。ただし、5.5型クラスのスマートフォンと比べれば格段に見やすいのは明らかで、スマートフォンでは小さすぎるというニーズにはぴったりだろう。
ただし、本製品を横向きにして見開き表示で使うというのは、さすがに実用的ではない。これがNexus 6Pであれば、横向きで見開き表示にしても細部を読み取れるだけの解像度(518ppi)があるが、本製品の解像度は324ppi止まりなので、見開き表示だと単純にサイズが小さいことに加えて、細部の読み取りそのものが難しい。基本的に単ページ表示に限定されると考えてよいだろう。
視力保護機能や消費量通知など、電子書籍を読む際に役立つ機能も
といったわけで、画面の見やすさだけで判断するならば、テキストコンテンツの表示は◎、コミックは○、見開き表示は×というのがここまでの評価だが、これ以外にも本製品には、電子書籍端末として利用するにあたって、便利に使える機能がいくつかある。それらをまとめて紹介しよう。
まず1つは、画面オプションの中にある「視力保護」機能だ。これをオンにしておくと、電子書籍アプリで読書を行なう際、画面がやや黄色がかった状態になる。いわゆるブルーライトをカットした状態になるため、長時間の読書でも目を疲れにくくしてくれるというわけだ。スクリーンショットを撮ると白い背景のまま出力されるので、どうやらディスプレイ側で色をコントロールしているようだ。
今回はKindleアプリで試してみたが、ページを開いた瞬間にモードが切り替わり、それを知らせるメッセージが画面に表示された。多くの電子書籍アプリには背景を白ではなくセピアカラーに設定する機能があるが、これらはアプリごとに適用してやらなくてはいけない。あらゆる電子書籍アプリを確認したわけではないが、本製品の「視力保護」はOSレベルで適用されるのでアプリ側の設定は不要で、またテキストコンテンツだけでなくコミックなどにも適用されることから、より幅広い効果が期待できる。
もう1つ、「消費量通知」機能も重宝する。電子書籍を読んでいる際に、別のアプリに切り替えて、そのまま作業を続けることになった場合、電子書籍アプリがバックグラウンドで起動したままになり、電力を余分に消費する原因になりうる。本製品ではそうした状態にあるアプリを知らせてくれるので、アプリを閉じるか、そのままにしておくかが選択できる。もともとバッテリの持続時間には余裕がある本製品だが、これによりさらにバッテリを延命できる。
また、現時点では電子書籍アプリと組み合わせての利用はできないが、iPadの「Sprit View」に似た、画面の分割表示機能も用意されている。ブラウザと地図を並べて見る場合などに重宝するこの機能、割合も常に1:1ではなく任意に調整できるので、今後もし電子書籍系のアプリに対応すれば、コミックを表示した際の上下の余白を使って別の情報を表示するなどの用途が考えられる。電子書籍に限らず、さまざまな用途に使える機能なので、本製品を購入したらぜひ試してみてほしい。
このほか、外部メモリカード(microSD)が使えるのも、自炊コンテンツを楽しみたいユーザーにとっては嬉しい仕様だろう。iPhone/iPadやNexusシリーズなど、microSDを搭載しないスマートフォンやタブレットは少なくないだけに、製品を選択する際には強みの1つになるはずだ。先に述べたように、Nano SIMスロットを占有すること、またトレイを取り出す際には、クリップなど尖ったものが必要になることは考慮しておきたい。
電子書籍を楽しむには極めてすぐれた製品。ネックは価格か
以上ざっと見てきたが、7型のタブレットよりもわずかに小さいだけながら、ハンドリングしやすい本体サイズと、スマートフォンとは一線を画する可読性を兼ね備えており、電子書籍を楽しむには極めて優れた製品というのが、暫く腰を据えて使ってみての感想だ。見開き表示はさすがにオススメしないが、前述の視力保護機能のような電子書籍を前提とした機能も備えており、長時間の読書にも支障はない。
また、薄く軽いボディ、発色の良い画面など、タブレットとして見た場合も優秀な製品であり、特に電子書籍という用途に限定しなくても、オールラウンドに使い勝手が良い製品という印象を受ける。中でも動画の再生は、上下に黒帯ができるiPad mini 4などに比べて間延びすることもなく、適しているという印象を受けた。
ネックがあるとすれば、やはり価格だろう。本製品が発売されてから約半年が経過しているが、価格は依然5万円台をキープしており、やや割高な印象を受ける。同じファーウェイ製のGoogle Nexus 6Pが6万円台後半であることを考えると、極端に割高というわけでは決してないのだが、こちらも同じくファーウェイから2014年暮れに発売された6型SIMフリースマートフォン「Ascend Mate7」は、現状で実売3万円を切りつつあるだけに、もう一声欲しいというのが正直なところだ。
とは言え、そのサイズ面から直接競合する製品がなかなか登場しにくいと考えられるため、暫く待っても競合の登場で大きく値下がりする可能性は低い。また、発売直後にあった通知機能の不具合もバージョンアップで改善されており、製品としては買い時ではある。大手量販店では実機が展示されていることも多いので、気になる人は是非ともチェックしてみてほしい。