山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Amazon「Fire HD 8」
~プライム会員なら16GBモデルが8,980円で入手可能な8型タブレット
2016年10月1日 10:00
「Fire HD 8」は、KindleストアやAmazonビデオなど、Amazonが提供するデジタルコンテンツを楽しめる8型タブレットだ。従来の同名モデルに比べてメモリが1.5倍に増量される一方、価格は同じ16GBのモデルが21,980円から12,980円へと40%以上もの値下げを実現し、さらにプライム会員はクーポン利用で4,000円引きで購入が可能という、高性能さとリーズナブルさを両立したモデルだ。
Amazonのタブレット「Fire」シリーズは、Androidをベースとしながらも、Amazonのサービスに特化した設計を特徴としている。Google Play ストアを公式にはサポートせず、純正のアプリストアはお世辞にもラインナップが充実しているとは言えないので、その一点において敬遠するユーザーも少なくないだろうが、Amazonはプライムビデオやミュージック、Kindle Unlimitedなど、ここ1年前後で新サービスを続々と追加しており、これらがあればほかは不要というユーザーにとっては、1台でそれらをまかなえるFireシリーズは、その親和性の高さとコストパフォーマンスの良さにおいて、魅力的な存在と言えるだろう。
特に今回のモデルは、同社が「基礎から再設計した」と銘打っていることからも分かるように、従来の第5世代モデルとはまったく特性の異なるモデルに仕上がっている。これにはちょっとした「事情」があるようなのだが、それについてはのちほど詳しく紹介するとして、従来モデルのおよそ40%引き、クーポン利用でなんと60%引きとなる圧倒的な安さは、新規ユーザーはもちろん従来モデルを所有しているユーザーにとっても見逃せないはず。今回は従来の第5世代モデルのほか、継続して販売される7型のエントリーモデル「Fire」との比較を中心に本製品をチェックする。
メモリは50%増加も、一部スペックは従来モデルから先祖返り
まずはスペック周りの比較から。
Fire HD 8(第6世代) | Fire HD 8(第5世代) | Fire(第5世代) | |
---|---|---|---|
発売年月 | 2016年9月 | 2015年9月 | 2015年9月 |
サイズ(最厚部) | 214×128×9.2mm | 214×128×7.7mm | 191×115×10.6mm |
重量 | 約341g | 約311g | 約313g |
CPU | クアッドコア最大1.3GHz | クアッドコア 1.5GHz×2、1.2GHz×2 | クアッドコア1.3GHz×4 |
メモリ | 1.5GB | 1GB | 1GB |
画面サイズ/解像度 | 8型/1,280×800ドット(189ppi) | 8型/1,280×800ドット(189ppi) | 7型/1,024×600ドット(171ppi) |
通信方式 | IEEE 802.11a/b/g/n | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | IEEE 802.11b/g/n |
内蔵ストレージ | 16GB(ユーザー領域11.1GB) 32GB(ユーザー領域25.3GB) | 8GB(ユーザー領域4.5GB) 16GB(ユーザー領域11.6GB) | 8GB(ユーザー領域5GB) |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 12時間 | 8時間 | 7時間 |
microSDカードスロット | ○ | ○ | ○ |
価格(発売時) | 12,980円(16GB) 15,980円(32GB) | 19,980円(8GB) 21,980円(16GB) | 8,980円 |
カラーバリエーション | ブラック | ブラック、ブルー、オレンジ、ピンク | ブラック |
Fireシリーズは年1回のモデルチェンジのたびに、筐体デザインを含めて仕様が一新されるのが特徴だ。従来の「Fire HD 8」(第5世代)は、Fire史上最薄とされる厚み7.7mm、さらに11ac対応の高速Wi-Fiが特徴だった。
ところが今回の第6世代モデルは、厚みが9.2mmに増え、またWi-Fiは11ac非対応(11a/b/g/n)と、部分的に先祖返りしている。廉価なタブレットでは5GHz非対応の製品も多く、その中で11ac対応というのは明らかにオーバースペックだったので、11nに対応していれば実用上の問題はないが、このようにスペックが部分的に後退していることは押さえておく必要がある。重量も311gから341gへと増えており、8型のAndroidタブレットと比較して軽量な部類だったのが、今回のモデルチェンジで平均的な値となり、特徴が失われた格好だ。
一方でメモリは「50%増強」とあるように、1GBが1.5GBへと増えている。2GBには及ばないものの、これが後述する操作のスムーズさに大きく影響していると考えられる。またなによりも、従来は8GBモデルで19,980円だったのが今回は16GBで12,980円と、従来の第5世代モデルの後継として捉えた場合、驚くほどの低価格化を成し遂げている。バッテリの長寿命化も特徴で、従来に比べると明らかに減少のスピードが緩やかなのも、本製品の特徴と言っていいだろう。
実はFire HD 8ではなく「Fire 8」?
では早速製品を見ていこう。明るいオレンジのパッケージは従来同様だが、第5世代のFire HD8/10で採用されていた箱ではなく、エントリーモデルのFire(7型)と同じフック掛け対応のフラストレーション・フリー・パッケージを採用する。またボディは従来のピアノ調の塗装とは正反対のマット調の質感が特徴であるほか、上部の電源ボタンやコネクタの配置は、従来の第5世代Fire HD 8よりもFireそっくりだ。
と、ざっとチェックしてみて、この製品は従来の第5世代Fire HD 8の後継というより、Fireの8型と表現した方が良いことに気づく。おそらくこれまでFire系列とFire HD8/10系列は異なるベンダーが生産していたのを、今回からは8型モデルもFire系列のベンダーが生産するようになり、質感やボタン類の配置がFireを踏襲することになったのだろう。そう考えれば、一部スペックが先祖返りしていることや、パッケージの仕様がFireとそっくりであること、またカラーバリエーションが廃止されたことも説明がつく。
この説を裏付けるもう1つの証拠として、端末オプション欄に書かれた、本製品の端末モデル名が挙げられる。ここには本製品のモデル名である「Fire HD 8」ではなく、実際には存在しない「Fire 8」というモデル名が表示されている。おそらく当初はこの型番で開発がスタートし、リリース前に「HD」に変更されたのではないだろうか。確かにこの製品、Fire 8として見ると仕様がパワフルすぎ、従来のFire HD 8(第5世代モデル)との差もなさすぎることから(一部スペックが先祖返りするとはいえ)Fire HD 8に繰り上がったのも理解できる。この仮説、いずれも状況証拠でしかないが、大きくは外していないのではないだろうか。
次いでセットアップ手順について見ていこう。セットアップ画面のデザインはオレンジを基調とした見慣れない画面へと変更されている。これはFire OSのバージョンアップによるもので、従来モデルを初期化して再セットアップした場合でもこれと同じ画面になるのだが、多くの人にとっては初めて見る画面だろう。フロー自体はとくに違いはなく、Amazonのサイトで購入した場合はアカウントが登録済みなのも従来通りだ。
画面デザインは変更なし。従来に比べて操作のサクサク感が際立つ
Fire OSを共通して採用するFireシリーズは、製品ごとの大きな操作性の違いはなく、本製品においてもそれは例外ではない。ホーム画面から左右スワイプで切り替えられる「本」、「ビデオ」、「ゲーム」などのカテゴリは従来と同じだ。
もっとも、画面の見た目は同じでありながら、しばらく使ってみると、従来の第5世代Fire HD 8に比べると明らかに挙動がきびきびしていることに気づく。従来モデルは「本」や「音楽」、「動画」といったタブを切り替えたり、上下スクロールを行なうたび、ワンアクション待たされるイメージが強かった。当時のレビューでは「バックグラウンドで何らかの処理を行っている際にレスポンスが停滞する感覚」と表現しているが、何をするにもひっかかる感覚があり、使う上でストレスの原因となっていた。
しかし本製品ではそれらのひっかかる感覚が、皆無と言っていいレベルに改善されており、使っていてもストレスの度合いがまったく異なる。前述のメモリ容量の増加、およびチューニングの成果だと考えられるが、この点だけでも、従来の第5世代モデルのユーザーは、本製品に乗り換える価値があるといっていいだろう。
ただ面白いことに、ベンチマークテストを行なうと、こうした体感速度の向上はあまり反映されない。本製品の性能は、エントリーモデルのFireよりは上ではあるものの、従来の第5世代Fire HD 8に比べるとほとんどの項目が低めに表示される始末だ。新しいFire OSにアップデートした従来の第5世代モデルは依然として操作時の引っ掛かりがあるのだが、そうした症状もこのベンチマークの結果には現れていない。そんなわけで体感速度とはかなりの乖離があるのだが、公正を期すため、それら結果を掲載しておく。
Fire HD 8(第6世代) | Fire HD 8(第5世代) | Fire(第5世代) | |
---|---|---|---|
Score | 3598 | 6555 | 3328 |
Graphics Score | 3064 | 6259 | 2893 |
Physics Score | 9218 | 7855 | 7030 |
Graphics test 1 | 16.7FPS | 34.9FPS | 13.8FPS |
Graphics test 2 | 11.1FPS | 22.3FPS | 11.6FPS |
Physics test | 29.3FPS | 24.9FPS | 22.3FPS |
Fire HD 8(第6世代) | Fire HD 8(第5世代) | Fire(第5世代) | |
---|---|---|---|
Total | 6906 | 8813 | 5542 |
CPU | 20834 | 28772 | 17879 |
Mem | 5353 | 8536 | 3308 |
I/O | 5864 | 3764 | 3703 |
2D | 413 | 439 | 424 |
3D | 2065 | 2553 | 2395 |
300ppiの製品には及ばないが実用レベルの表現力。液晶はやや青みが目立つ
続いて解像度をチェックしよう。ここでは以下の4製品について、テキストおよびコミックの解像度を比較してみたい。テキストは太宰治著「グッド・バイ」、コミックはうめ著「大東京トイボックス 10巻」で、テキストの文字サイズはおおむね文庫本と同等になるよう合わせている。
・上段左:本製品(8型/1,280×800ドット/189ppi)
・上段右:第5世代Fire HD 8(8型/1,280×800ドット/189ppi)
・下段左:第5世代Fire(7型/1,024×600ドット/171ppi)
・下段右:iPad mini 4(7.9型/2,048×1,536ドット/326ppi)
以上のように、解像度の違いがそのまま反映されており、特筆すべき点はない。すなわち、300ppiオーバーの製品には及ばないが、エントリーモデルのFireに比べると表現力の差は歴然としており、テキストなら文庫本と同等のフォントサイズ、およびコミックは単ページ表示なら、実用レベルにあるという結論になる。ただし見開き表示にするとここからさらに表示サイズが小さくなるため、とくにコミックでは実用的ではないだろう。
ところで、上2つの比較画像を見れば一目瞭然なのだが、本製品は画面全体がやや青みがかっているのが特徴だ。かつてのKindle Fire HDX 7のような目に刺さるような青みではないものの、従来モデルと並べた場合、画面の色だけで機種を見分けられるほどの違いがある。用途からしてあまり色味にこだわる製品ではないが、ほかのタブレットと併用している場合は、気になることがあるかもしれない。
なお、画面の色味に関係したところでは、本製品はブルーライトをカットして目の疲れを緩和する「Blue Shade」機能を搭載しているのが特徴の1つだ。オンにした状態ではかなり濃い目の黄色だが、実際に使っていると目が慣れてくるのでそれほど違和感はない。バッテリ駆動時間が延びる利点もあるので、ライフスタイルに合わせて活用すると良いだろう。
Kindle本のメモリカードへの保存が可能に。最大200GBを持ち歩き可能
ところでFire OSのバージョンアップによって新たに可能になったのが、メモリカードへのコンテンツの保存だ。従来モデルが発売された時点では、カードスロットこそ搭載されていたものの、保存できるのは動画や音楽、写真などであり、電子書籍を保存することは不可能だった。
その後のバージョンアップにより、これらが可能になったため、大量の電子書籍をメモリカードに保存して持ち歩くという使い方が可能になった。最大容量である200GBのメモリカードを追加すれば、これまでとは比較にならない大量の本をローカルに保存し、電波状況のよくない浴室内や外出先などで、ネットワークにつながずとも読むことができる。もちろん動画や音楽についても保存できるので、プライムビデオで視聴予定の動画をメモリカードにダウンロードしておけば、こちらもネットワーク接続なしで視聴できる。
これらはFireシリーズのこれまでの使い方を激変させる目玉機能なのだが、細かく見ていくと、まだ作り込みが甘いと感じる箇所もなくはない。例えば保存先にメモリカードを指定していて、容量がいっぱいになった場合、その旨をきちんと知らせてくれるのは良いのだが、自動的に保存先を内蔵メモリに振り替えるなどの対応は行なってくれない。
また、長期間使用されていないコンテンツをクラウドに退避させる「インスタントクラウド保存」機能は、あくまでもローカルからクラウドへの移動だけで、内蔵メモリとメモリカードの間を相互に移動する機能は用意されていない。利用頻度を考えるとそれほど大きな問題ではないが、将来的にこれらがサポートされるようになれば、ヘビーなユーザーにとっても、使い勝手はさらによくなるだろう。
画面のギラツキは対策が必須。スピーカーも割り切りが必要
以上のように、かなり使える製品というのが筆者の評価なのだが、実際に使っているうちにやはり相応の品質だと感じられる部分もなくはない。ここまで触れられなかった3つのポイントを挙げておこう。
1つは画面のギラつきだ。本体背面の滑りやすいピアノ調の塗装は廃止されたものの、画面は依然としてグレア調で外光の映り込みは激しく、動画の鑑賞時にはかなり目障りだ。指紋もつきやすいので、利用にあたってはこれらを抑える保護フィルムなどが、実質必須になると考えた方がいい。
またスピーカーは、本体を横向きにした際に本体下部の左右にきちんとレイアウトされるのは良いのだが、音質はさすがに良いとは言えない。本体の素材のせいか、プラスチック感の強い空間で反響しているような、こもった音になる。内蔵スピーカーはあくまでおまけということで、イヤフォンないしはヘッドフォンを使った方が良いだろう。ここもある程度の割り切りが必要とされる部分だ。
やや困りモノなのが音量調整で、音量が「1」でもそこそこ音が大きく、かといって1段階下げると音量がゼロ、つまりミュート状態になってしまう。筆者の知る限り、これは海外製のタブレットによく見られる傾向で、現状では音量調整機能を内蔵するイヤフォンやヘッドフォンを使って対応するしかない。今後のモデルチェンジではぜひ改善をお願いしたいポイントだ。
クーポン利用で4,980円の「Fire」と比べてもコストパフォーマンスは本製品が上
以上のように、気になる点が皆無というわけでは決してないが、利用に支障をきたすような致命的な欠点があるわけではなく、価格を考えるとかなり優秀な製品だ。単に安さだけを重視するならば、クーポン利用で4,980円になるFireという選択肢もあるが、一定の性能を担保しつつ、クーポン利用で8,980円で入手できる本製品は、コストパフォーマンスの高さではFireを上回るといっていいだろう。
では実際にどんなシーンにフィットするだろうか。例えば現在1台のタブレットを外出時と自宅向けとで兼用している場合、自宅向けに本製品を導入してAmazonのサービスを利用するための専用機とし、従来のタブレットを外出専用にするというのは、良い活かし方だろう。また1台のタブレットを家族で使い回している場合に、本製品を追加して1人1台体制にするのも悪くない選択肢だ。Amazonでの買い物履歴や電子書籍・動画などの購入状況を、家族に見られたくないという人にとっては、限られた予算で入手可能な本製品は、格好の候補ということになる。
なお新規購入ではなく、Fireおよび第5世代Fire HD 8からの買い替えに値するかという問いに対しては、ともに「Yes」というのが筆者の意見だ。Fireと比較すると解像度の差は一目瞭然であり、第5世代のFire HD 8と比べると動作のひっかかりが明らかに減少している。もちろん買い替えにはコストも掛かるので利用頻度にもよるだろうが、これらの製品を日々活用していて欠かせないのであれば、本製品に買い替えることで、より快適なAmazonサービスの利用が可能になるはずだ。