山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Amazon「Fire HD 8」

~Fire史上最薄の7.7mmの筐体を持つ8型タブレット

Amazon「Fire HD 8」。本体色はブラックのほか、ブルー、オレンジ、ピンクの計4色をラインナップする

 「Fire HD 8」は、KindleストアやAmazonビデオなど、Amazonが提供するデジタルコンテンツを楽しめる8型タブレットだ。同時発売の10型モデル「Fire HD 10」と並び、現行のFireシリーズのラインナップの中では中間に当たるグレードの製品である。

 第5世代Fireシリーズの1つとして発表された本製品は、プライム会員限定で4,980円という衝撃的な価格の「Fire」の陰に隠れてしまっているが、Fire史上最薄の7.7mmのボディを持ちつつ、8型としてはリーズナブルな19,980円(8GBモデル)という価格設定が特徴のタブレットだ。解像度はFireよりも一回り高く、またIEEE 802.11acでの通信にも対応するなど、Fireのワンクラス上に位置付けられる製品である。

 今回はこの「Fire HD 8」を、第5世代Fireのほか、ほぼ同等の7.9型という画面サイズを持つ「iPad mini 4」、さらに本体サイズが酷似した同じ8型の「Xperia Z3 Tablet Compact」と比較しつつ、主に読書端末としての使い勝手をチェックしていこう。

製品外観。ボタン配置や上部のVGA前面カメラなど、縦向きで使うことを想定しているのはFireと同様
横向きで使うことも可能だが、iPad mini 4などと比べるとかなり横長の印象
端子やボタンはほとんどが上部に集中しているのはFireと同じだが、並び順は異なる。左から音量ボタン、イヤフォンジャック、リセットホール、microUSBコネクタ、電源ボタン
側面には第5世代モデルの特徴であるmicroSDスロットを搭載。128GBまで対応する。隣には背面カメラがある
スピーカーは側面に2基搭載。横向きにした場合に左下と右下に来る合理的な配置だ
背面のAmazonロゴはモールドではなくシルク印刷。本体が薄くモールドしにくいがゆえの仕様か、それともOEMベースの筐体なのか、理由は不明だ

スペックはFireとFire HDXの中間。筐体はFire史上最薄の7.7mm

 まずはほかのFireシリーズとの比較から。7型のFireのほか、同時発売のFire HD 10、さらに8.9型の第4世代Fire HDX 8.9とも比べてみたい。

Fire(第5世代)Fire HD 8(第5世代)Fire HD 10(第5世代)Fire HDX 8.9(第4世代)
発売年月2015年9月2015年9月2015年9月2014年11月
サイズ(最厚部)191×115×10.6mm214×128×7.7mm262×159×7.7mm231×158×7.8mm
重量約313g約311g約432g約375g
OS(発売時)Fire OS 5Fire OS 5Fire OS 5Fire OS 4
CPUクアッドコア1.3GHz×4クアッドコア 1.5GHz×2、1.2GHz×2クアッドコア 1.5GHz×2、1.2GHz×2クアッドコア 2.5GHz
RAM1GB1GB1GB2GB
画面サイズ/解像度7型/1,024×600ドット(171ppi)8型/1,280×800ドット(189ppi)10.1型/1,280×800ドット(149ppi)8.9型/2,560×1,600ドット(339ppi)
通信方式802.11b/g/n802.11a/b/g/n/ac802.11a/b/g/n/ac802.11a/b/g/n/ac
内蔵ストレージ8GB(ユーザー領域5GB)8GB(ユーザー領域4.5GB)
16GB(ユーザー領域11.6GB)
16GB(ユーザー領域11.6GB)
32GB(ユーザー領域26GB)
16GB(ユーザー領域9.9GB)
32GB(ユーザー領域24.3GB)
64GB(ユーザー領域52.9GB)
バッテリー持続時間(メーカー公称値)7時間8時間8時間12時間(書籍のみの場合18時間)
カメラ前面、背面前面、背面前面、背面前面、背面
microSDカードスロット-
価格(発売時)8,980円
(プライム会員価格 4,980円)
19,980円(8GB)
21,980円(16GB)
29,980円(16GB)
32,980円(32GB)
40,980円(16GB)
47,180円(32GB)
53,280円(64GB)
カラーバリエーションブラックブラック、ブルー、オレンジ、ピンクブラック、ホワイトブラック

【お詫びと訂正】初出時にFire HDX 8.9の画面解像度の情報が誤っておりました。お詫びして訂正させていただきます。

 Fire HDシリーズは世代によってラインナップにおける位置付けが異なっており、初めて登場した第2世代ではハイエンドモデルという位置付けだったのが、第3~4世代ではHDXシリーズの下位に当たるエントリーモデルという扱いになり、そして今回の第5世代では無印Fireが復活したことで、ラインナップの中間に当たる、言うなればミドルクラスとでも呼ぶべきグレードに収まっている。

 製品のスペックもこうした位置付けを反映しており、Wi-Fiは5GHz帯非対応だったFireと異なり、IEEE802.11acでの通信にも対応するなど、Fireよりも上位のHDXシリーズに近いスペックである。もっともFireより圧倒的に上位かというとそうではなく、解像度は1,280×800ドット(189ppi)と、Fireの1,024×600ドット(171ppi)と比較してもわずかな差でしかない。ユーザの側からすると1,920×1,080ドット程度は欲しいが、そうなるとHDXシリーズとのバランスが取れず、またコストも合わないという判断なのだろう。

 もう1つの特徴は本体の薄さだ。7.7mmという本体の薄さは、ほんの0.1mmとは言えFire HDX 8.9の厚みを下回っており、同時発売のFire HD 10と並んで歴代のFireシリーズの中で最薄である。こうした厚みの差もあってか、重量は画面が一回り小さいFireよりも2g軽く抑えられている。これまでの「Fire=重い」というイメージを払拭しうる製品と言える。

第5世代Fireシリーズの3製品。左から、Fire、本製品、Fire HD 10
上が本製品、下がFire HDX 8.9。画面の縦横比は同一(16:10)だが、本製品が縦、Fire HDX 8.9は横向きを前提としたレイアウト(カメラ位置が異なる)ため、筐体は本製品の方が横長に見える
上が本製品とFire(右)、下が本製品とFire HDX 8.9(右)の厚みの比較。Fireと比較するとその薄さがよく分かる。ちなみにFire HD 10の厚みは本製品と同じだ

 続いて同等サイズの他社製品とも比べてみよう。本製品と同じく8型の「Xperia Z3 Tablet Compact」のほか、先日発売になったばかりの7.9型の「iPad mini 4」とも比べてみよう。OSの違いなどもあり、スペックの中には直接比較できない項目もあるので、あくまでも参考として見てほしい。

Fire HD 8(第5世代)Xperia Z3 Tablet CompactiPad mini 4
AmazonソニーApple
発売年月2015年9月2014年11月2015年9月
サイズ(最厚部)214×128×7.7mm123.6×213.4×6.4mm203.2×134.8×6.1mm
重量約311g約270g298.8g
OSFire OS 5Android 4.4→5.1iOS 9
CPUクアッドコア 1.5GHz×2、1.2GHz×2Qualcomm Snapdragon 801 Quad-core 2.5GHz64bitアーキテクチャ搭載第2世代A8チップ、M8モーションコプロセッサ
RAM1GB3GB2GB
画面サイズ/解像度8型/1,280×800ドット (189ppi)8型/1,920×1,200ドット(283ppi)7.9型/2,048×1,536ドット(326ppi)
通信方式802.11a/b/g/n/ac802.11a/b/g/n/ac802.11a/b/g/n/ac
内蔵ストレージ8GB(ユーザー領域4.5GB)
16GB (ユーザー領域11.6GB)
16GB
32GB
16GB
64GB
128GB
バッテリー持続時間(メーカー公称値)8時間約12時間(Wi-Fi Web閲覧時)最大10時間(Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生)
microSDカードスロット-
価格(2015/10/5時点)19,980円(8GB)
21,980円(16GB)
46,500円(16GB)
52,500円(32GB)
42,800円(16GB)
53,800円(64GB)
64,800円(128GB)
備考-防水対応(IPX5/8)-

 Fireシリーズでは最薄となる本製品だが、さすがにこの2製品と比べると分が悪く、厚みも1.3~1.6mmの差が付けられている。重量も唯一300gをオーバーしているほか、解像度もフルHDに達しておらず、画素密度も200ppiを割るなど、違いは歴然だ。もっとも筐体の面積は両者に比較してそう大柄というわけではなく、何より価格は同じ16GBでの比較でほぼ半額と、これはこれで評価する向きもあるだろう。

左から、本製品、Xperia Z3 Tablet Compact、iPad mini 4。Xperia Z3 Tablet Compactとは画面サイズと本体サイズ、ともに酷似していることが分かる
上が本製品とXperia Z3 Tablet Compact(右)、下が本製品とiPad mini 4(右)の厚みの比較。Fireシリーズとしては最薄である本製品だが、これら2製品と比べると分が悪い

Fire OS 5を採用。セットアップ手順やホーム画面はFireと同様

 では開封からセットアップ、実際に使えるようになるまでの流れを見ていこう。前回の「Fire」と同じく真紅のパッケージだが、こちらは黒い外箱をスリーブで巻いた、従来までの製品と同じ仕様となっている。

 セットアップ手順は「Fire」とまったく同一(正確にはソフトウェアアップデートが間に1回挟まる)なのでスクリーンショットは省略するが、唯一違ったのが、Amazonのアカウントを手入力してやる必要があったことだ。「Fire」および同時に購入した「Fire HD 10」ではアカウントは登録済みで、その分手入力の手間が省けたのだが、同時にオーダーしていながらこうした違いが生ずる理由は不明だ。なお手順そのものはとくに難解なところもなく、初心者でも支障はない。

第5世代Fireのパッケージに共通する真紅のパッケージ
裏面。英語表記の上に日本語シールが貼られている
スリーブを外して開封する
同梱物一覧。各国語版の保証書とスタートガイド、USBケーブル、USB-ACアダプタが付属
USB ACアダプタは従来品およびFireとも異なる形状。ちなみにFire HD 10も同じ形状のアダプタが付属する
セットアップ手順は「Fire」とほぼ同様。今回はFire OS 5.0.1がリリースされて以降にセットアップしたため途中でソフトウェア・アップデートが実行され、通常のセットアップに比べて15分ほど追加で時間がかかった
同時に購入したFireおよびFire HD 10と異なりAmazonアカウントを手入力するための画面が表示された。理由は不明

 ホーム画面については、Fire OS 5で刷新された新しいカテゴリ区分およびデザインとなっている。画面の縦横比が若干異なることを除けば、こちらもFireと同様である。

ホーム画面。上段のカテゴリから姿を消したウェブ(Silk)やドキュメント、写真を始めとするアイコンが並ぶ。なおこのスクリーンショットにはないが、最近購入したコンテンツがある場合は上段に表示される
これまでホーム画面に表示されていた「最近使ったコンテンツ」は、Fire OS 5ではホーム画面の左隣にある「最近のコンテンツ」という画面に表示される
「本」画面。上段には購入済みコンテンツが、その下にはおすすめ商品がジャンル別に表示される。下にスクロールするとさまざまな切り口のおすすめ商品が表示される
「ビデオ」画面は、先日発表になったAmazonビデオが表示される。上段には視聴中または視聴済みのコンテンツが、その下には関連コンテンツやおすすめコンテンツが並ぶ
「ゲーム」画面では、購入済みゲームがあれば上段にそのアイコンと他のプレイヤーが出した注目の実績、下段にはおすすめ商品が表示される
「お買い物」画面では、Amazonストアで過去に購入した製品やおすすめ商品、ベストセラーなどが表示される
「アプリ」画面では、購入済みのアプリのほか、ベストセラー、カテゴリ別のおすすめアプリなどが表示される
「ミュージック」画面。これまで購入した商品やおすすめアルバム、曲、人気のアルバムなどが表示される

横方向での読書も可能だが、ホーム画面などは一覧性が低く操作しづらい

 さて、実際に製品を使ってみてまず実感するのが、本体の薄さだ。本稿執筆の直前まで筆者が「Fire」を使っていたことも影響しているが、本製品は8型で面積が広いことから、数値以上に薄く感じられる。また重量も、前述のXperia Z3 Tablet Compactなどと比較すると分が悪いとはいえ、Fireシリーズとしてはこれまでにない軽さであり、扱いやすさは良好だ。余計な突起や起伏がないため、バッグなどへの収まりもよい。筐体の強度も相応にあるように感じられる。

 挙動については、画面の遷移自体はヌルヌルとした動きで不満はないのだが、画面が切り替わる際にワンアクション待たされることが多い。バックグラウンドで何らかの処理を行っている際にレスポンスが停滞する感覚と似ており、何らかのアプリが動いているのではと確認してみたが、特にそうしたこともなさそうである。Fireよりも遅く感じられることもしばしばで、少し気になるところではある。

 ちなみにベンチマークソフト「Quadrant Professional Ver.2.1.1」で比較する限り、Fireや第4世代Fire HD 7よりもわずかに上、Fire HDX 8.9には大差を付けられるという、スペック通りの性能を示している。

製品名OSTotalCPUMemI/O2D3D
Fire HDX 8.9(第4世代)Fire OS 423850914091785271674982326
Fire HD 8(第5世代)Fire OS 5820825814833440354502408
Fire HD 7(第4世代)Fire OS 4628117103756340093792353
Fire(第5世代)Fire OS 5576918461356741313092375

 なお前面カメラの配置や背面のロゴの向きを見る限りでは、本製品は縦に持った状態での利用を想定しているようだが、スピーカーは本体を横向きに持った際に左下と右下に来るようレイアウトされており、動画再生に配慮されていることが分かる。このスピーカーの位置は本体を横向きに持った際に塞がれにくく、またFire HDXシリーズのように音が背面に出ることもないため、実用性は高い。

 では横向きでの読書利用はどうかというと、「読書はギリギリ可だが、ホーム画面やライブラリ、ストア表示での一覧性は低く操作しにくい」というのが実際に使ってみた感想だ。新しいFire OS 5のデザインでは、検索ボックスを含むヘッダ部の面積がかなりの高さを占めるうえ、ホーム画面やライブラリでは下段のメニューバーが表示されたままとなるため、表示できる面積がかなり狭くなってしまう。

 例えばライブラリの画面では、本製品と解像度が同じFire HD 10はほぼ2段に渡ってサムネイルが表示できるのに対し、本製品は1.3段程度しか表示できない。Fireに比べるとまだ余裕はあるとはいえ、ヘッダ部のレイアウトの冗長さが全体を圧迫していると感じられなくもないため、もう一工夫欲しいところではある。

横表示も可能だが、ホーム画面やライブラリ、ストアを表示する際は、天地がかなり窮屈に感じられる
ライブラリ表示の違いを比較したところ。上からFire、本製品、Fire HD 10で、同じ横幅になるよう縮小している。画面サイズが大きいことでヘッダが相対的に小さく見えるFire HD 10と異なり、Fireや本製品はヘッダおよび下段のメニューバーが全体を圧迫している印象
iPad mini 4(下)との表示サイズの比較。画面比率が4:3のiPad mini 4と比べると、コミックなど固定レイアウトのページの表示面積は本製品の方が一回り小さくなる

 ちなみに読書時は下段のメニューバーが非表示になるため、ホーム画面やライブラリのような窮屈さはなく、画面全体をページの表示に活用できる。とは言え画面の縦横比が4:3のiPad mini 4と比べた場合、ページの天地はiPad mini 4が120mmあるのに対し、本製品は107mmしかなく、固定レイアウトのコミックなどでは本製品の方がページサイズが小さくなってしまう。本製品に限った問題ではないが、コミックとの親和性はiPad mini 4やNexus 9など画面比率が4:3のタブレットの方が上だ。

 ところで本製品をしばらく使い続けると気になってくるのが、画面および筐体背面に光沢感がありすぎることだ。とくに画面は、黒の塗りつぶしが多いコミックやグラビア、さらに暗いシーンが多い動画などでは映り込みが激しく、画面に集中しづらい。電車内での利用などではそれが顕著で、反射防止のフィルムなどで一工夫してやる必要がある。またピアノ調の塗装が施された筐体背面はFireと比べても手の脂がかなり目立つので、気になる人は保護も兼ねてケースの利用を考えた方がよさそうだ。

Fire OS 5ではキーボード周りの機能も大きく強化されている。Fireキーボードではキーボードの分割表示なども可能になった
テキスト入力ではマッシュルームにも対応
通知機能も強化されており、ロック画面で表示するアプリも選択できる

細部の表現力はFireに比べると上だがある程度の割り切りは必要

 さて、プライム会員限定ながら4,980円で入手可能なFireではなく、敢えて本製品に興味を持っている人の多くは、解像度の違いからくる表現力の差が気になることだろう。ここでは以下の4製品について、テキストおよびコミックの解像度を比較してみたい。テキストは太宰治著「グッド・バイ」、コミックはうめ著「大東京トイボックス 10巻」で、テキストの文字サイズはおおむね小説本と同等になるよう合わせている。

・上段左:本製品(8型/1,280×800ドット/189ppi)
・上段右:第5世代Fire(7型/1,024×600ドット/171ppi)
・下段左:第4世代Fire HDX 8.9(8.9型/2,560×1,600ドット/339ppi)
・下段右:iPad mini 4(7.9型/2,048×1,536ドット/326ppi)

テキストコンテンツ(太宰治著「グッド・バイ」)の比較。300ppiオーバーの2製品(下段2つ)に比べるとディティールの違いは一目瞭然。ただしFire(上段右)と比較するとまだ見られるレベルにある
コミック(うめ著「大東京トイボックス 10巻」)の比較。こちらも下段2つには劣るがFireよりはまともに見られるレベル。吹き出しの中のテキストを見比べると、線がやや太りがちな傾向が見て取れる

 テキストおよびコミックのどちらにも言えることだが、さすがに300ppiオーバーの第4世代Fire HDX 8.9およびiPad mini 4と比べると、表現力の差は歴然としている。とは言えFireに比べると、本製品の方がまだドットが目立たず、細部のディティールがぼけたり、潰れるケースも少ない。Fireが171ppi、本製品が189ppiということで画素密度の差はほんの僅かなのだが、実際にはもっと開きがあるように感じられる。

 もっともこれは単ページ表示の場合であり、見開き表示になるとこれよりさらにディティールが粗くなる。それゆえ見開き表示ではフォントサイズは一回り大きくした方がよいが、そうなると天地が圧迫されて1行の文字数が極端に少なくなり、読みにくくなるという別の問題が出てくる。Fireに比べると横向きでの表示には適しているとはいえ、ある程度の割り切りは必要になると考えた方がよさそうだ。

microSDはKindle本の保存に「非対応」

 本製品を含む第5世代のFireはmicroSDスロットが新たに搭載され、128GBまでのmicroSDを追加できるようになった。容量の追加が不可能だったこれまでのFireに比べると大きな進化だが、実際には制限事項も多く、ニーズにはまったくそぐわないケースもある。今回はこれについて詳しく見ていくことにしよう。

 最大の問題は、本製品のmicroSDには、あらゆる種類のデータが保存できるわけではないことだ。本製品のユーザーガイドによると、保存できるのは「アプリやゲーム、楽曲、映画、TV番組、写真、パーソナルビデオ」のみであり、「本、Silkブラウザからダウンロードしたファイル、Eメール」は保存できない。中でも本、Kindleストアで購入した本を保存できないのは、かなり痛い。

microSDの制限事項についてはユーザーガイドに詳しく記されている。ウェブの製品ページは簡潔な情報しかなく、購入前に同等の情報が欲しいところである

 以上の制限から、microSDに保存する主なコンテンツは、動画ファイルや写真が中心になる。内蔵ストレージを占めていた動画ファイルや写真がmicroSDへと移されることで、結果的に内蔵ストレージに多くの本が保存できるようになるとはいえ、コミックなど大容量のファイルをこれまで以上にたくさん持ち歩いたり、またKindle本を手元にバックアップする用途に使おうと考えていた人にとっては、やや期待外れだろう。

 こうした場合は、内蔵ストレージが大きいモデル、つまり本製品の場合は16GBモデルをチョイスした方がニーズに合致しており、またmicroSDはとくに追加しなくともよいという結論になる。10.1型のFire HD 10では32GBのモデル、さらに上位のFire HDX 8.9では32GBや64GBのモデルも用意されているので、(予算はともかく)こちらを選ぶという選択肢もあるだろう。

 とは言え、最良の解決策は、Kindle本がmicroSDに保存できるようになることだろう。もともと初代KindleではSDカードに本を保存できたことを考えると、技術的には難しくはないと考えられる。今後の緩和を期待したいところだ。

 なおmicroSDに保存することが可能なコンテンツは、特に保存先を指定しなくてもデフォルトでmicroSDに保存される。ただし、最初はmicroSDがない状態で使い、その後microSDを追加した場合、保存済のデータが自動的にmicroSDに移動されるわけではなく、Amazonビデオなどはいったん削除して再ダウンロードする必要がある。microSDを使うならば、購入後なるべく早い段階で追加しておいた方がよいだろう。

 ちなみに、AmazonビデオをダウンロードしたmicroSDを取り外し、Fireに挿して同様に再生できるか実験をしてみたところ、これは不可能だった。移動先のFireでファイルの区分を見るとAmazonビデオのファイルではなく「その他」のファイルとして認識されていることから、ビデオの再生はあくまでもダウンロードを行なった端末でのみ可能で、microSDを用いてのデータの移動は、例え同じアカウントでログインしていても対応しないようだ(パーソナルビデオや写真など自前のファイルは問題ない)。実際にはほとんど起こりえないケースだが、参考までに記しておきたい。

microSDに保存できるコンテンツはデフォルトでそちらに保存されるようになっている。オフにすることも可能
内蔵ストレージの残りが数十MBまで減るとワイヤレス機能が無効となり、新しいコンテンツをダウンロードできなくなる
microSDを本製品(画面上)から別の端末(画面下)に移動させると、本製品でダウンロード済だったAmazonビデオは「その他」のファイルの1つとして認識され、再生は行えない

Fireほどではないが十分にリーズナブルな製品。16GBモデルも視野に入れたい

 以上ざっと見てきたが、Fireに比べると表現力は高いもののそう極端な差があるわけではなく、また横方向での表示も不可能ではないものの窮屈さは否めない。その窮屈さは画面の縦横比から来るのではなくメニューのデザインなどに依存するところが大きく、もう少し横向きでの利用を前提とした最適化をして欲しかったというのが、筆者の意見だ。Fireが「スペックの割には使える」のに対し、本製品は「だいたいスペック通り」という評価になりそうだ。

 ただ冒頭の比較表にもあるように、本製品の価格は8型クラスのタブレットのほぼ半値であり、割り引いて使えば悪いものではない。Fireの強烈な価格設定の陰に隠れてはいるが、本製品も十分にリーズナブルであり、また薄型でハンドリングしやすいのも魅力の1つだ。8GBモデルと16GBモデルとの価格差はわずか2,000円しかないので、なるべく多くの本をたくさんダウンロードして持ち歩きたいユーザーは、16GBモデルをチョイスすることをお勧めしたい。

 なお今回は画面サイズを基準に競合製品との比較を行なったが、屋内での利用においては、本製品とほぼ同スペックで、サイズをそのまま引き伸ばしたFire HD 10も強力なライバルとなるだろう。次回はこのFire HD 10についてお届けしたい。

(山口 真弘)