山田祥平のRe:config.sys

インテル、駆け回ってる

「インテル、入ってる」でおなじみの「Intel Inside」だが、そのバリエーションとして、Intelは今「Intel Outside」を訴求しようとしている。縁の下の力持ち的存在としてのIntelは、今や社会全体を支えているが、そのフィールドがこれまでになく広がっている。

スマートビルの舞台裏

 台湾・台北都心の少し北にあるELITEGROUPの本社ビルを訪ねてきた。古くからのPCユーザーにはECSとしておなじみかもしれない。19階建てのこのビルはスマート・エナジー・マネジメント・システムによって管理されたスマートビルとして、まるごとIntelのショーケース的存在になっている。

 このビルには約1,500人の従業員が働いているが、全フロアで合計110台のスマートゲートウェイが設置されている。それらのスマートゲートウェイは、各所に仕込まれたセンサーから受け取った情報を元に機器類を制御することで、ビル全体の省エネルギーに大きく貢献している。

 ゲートウェイはIntel Quark SoCを搭載したデバイスで、サイズ的には家庭用の無線LANルータ程度といったところだろうか。古いビルをそのままスマートビル化することを目指し、Wi-FiはもちろんSIMの装着により3G/4G WANやBluetoothなどをフル活用してネットワークを構築している。

 案内された役員室は、人が入ってきたことがセンサーによって検知され、自動的に空調がオンになる。また、地下の駐車場は各駐車スペースにセンサーが設けられていて、クルマの有無を検知、また、クルマのナンバーがOCRで検出されて照合され、駐車場への侵入可否が決まるなど、さまざまな制御が行なわれている。

 こうした制御システムと対照的だったのはエレベータだ。ちょうど視察時間が出勤時間に重なったため、エントランスからエレベータホールへのゲートにはエレベータへの乗車を待つ従業員の長蛇の列。なにしろ1,500名の従業員が3台のエレベータで19階分の移動をしなければならないのだから大変だ。

 このビルのスマート化に取り組みはじめて約半年になるそうだが、エレベータのスマート化は、次の重要な課題であるともいう。もちろんそのためにも、Intelはスマートビルを支える縁の下の力持ち的存在として頼りにされることになるのだろう。

外に飛び出すIntel

 Intelが支えているのはビルだけではない。COMPUTEXの基調講演では、台北市内のレンタルサイクル「YouBike」の舞台裏もしっかりとIntelが支えていることが明らかにされた。公共のインフラと同様に、今後は、スマートホームのような屋内から、店舗、駅といった公共のスペースまで、ありとあらゆるところにIntelを見つけることができるようになるだろう。まさにIntel Outsideだ。

 PCやスマートフォンなどのデバイスはユーザーがIntel Insideを意識して選択することが多いが、これからは気が付けば、そこにIntelがいるといったところだろうか。こうした用途はARMの独擅場だったことを考えると、まさに大躍進的な勢いを感じる。

 慶応大学の村井純教授が、以前、インターネットを説明する比喩として、「社会の上に敷くスノコのようなもの」という表現をしたことを思いだす。スノコを敷くだけで、ジメジメとした床がむき出しになることもなく、ちょっとした高みに人が存在でき、快適で豊かな暮らしができるようになるといった内容だったと記憶している。人が無理して爪先立たなくても、スノコがあるだけで豊かな暮らしができるわけだ。

 インターネットというスノコを覆うように無尽蔵ともいえるIoTデバイスが機能し、さまざまなITによって、そこからのビッグデータが処理されていくのがこれからの社会だ。それによって働き方も遊び方も変わる。いや、Intelがそれを変える。そこにいかに浸透し、ビジネスとして成立させていくかというのは、Intelにとって死活問題ともいえるテーマだ。

 10年くらい前だっただろうか、当時、Intelの副社長だったPatrick Gelsinger氏に、10年後にはPCがなくなってしまうのかを問いかけたことがある。そのときGelsinger氏は、PCはなくならないが今(当時)とは全く違う形になっている可能性が高いと答えた。今、Intelが直面しているのは、まさにその状況なのだろう。

 あの時、Gelsinger氏が言ったほどにはPCの存在感は希薄にはなっていない。スマートフォンの浸透によってモバイルが台頭、それに押されているように見えるPCシーンだが、やはり、ビジネスであれホームであれITの中心にあるのはPCだ。あると邪魔だがないと困る存在だ。フォームファクタのバリエーションは増え、スティックPCのようなデバイスでまでWindowsが稼働するようにはなっているし、2-in-1 PCは一挙両得PCとしての存在感を高めてもいる。PCの存在がなくなるというよりも、人々が、目の前にあるデバイスをPCであると強く意識することがなくなったということかもしれない。見ようとしない限り見えない存在になりつつある。

台湾とIntel、そしてPCシーンの将来

 台湾とPCシーンは深い絆で結ばれている。Intelも台湾への謝意を隠さない。COMPUTEX TAIPEIは、PCシーンを支える縁の下の力持ちたちが一堂に会する年に1度のお祭り的存在でもある。そこではPCやその周辺デバイスがまだまだ主役だ。Intelとしては、今こそカバーする範囲を広げる一方で、業界全体を導き、大きなビジネスチャンスをもたらさなければならないという義務感もあるのだろう。

 CESとCOMPUTEXとIFA。アメリカとアジアとヨーロッパ。当面、この3つのイベントは何があろうと取材して、イベントごとの空気の変化を体感しておくべきだと痛感した。とにかく同じ場所に毎年立つことは重要だ。ここ台北でCOMPUTEXを取材するのは2013年以来3度目となるが、Intelの声高にもかかわらず、展示会場のムードが、2年前のそれと大きく変わっていないことに、ちょっとした危惧を感じないでもない。台北・西門繁華街の路地裏にある1昨年、昨年と連続して宿泊し、本当に何も変わっていない古びた安宿でこの記事を書きながらそう思った。

(山田 祥平)