イベントレポート

【Intel基調講演レポート】2020年に500億台になるIoT時代を見据えたIntelの戦略

~ノートPCのワイヤレス給電は2016年に後ろ倒し

 米IntelはCOMPUTEX TAIPEIの中心的な存在の企業で、COMPUTEX TAIPEI 2015の基調講演に相当するeForum21にて、同社上席副社長兼クライアント・コンピューティング事業本部長のカーク・スコーゲン氏が講演を行なった。

 この講演の中で、スコーゲン氏は「2020年には500億台のデバイスがインターネットに接続されるようになる。Intelと台湾の強力の歴史は30年に及びPCなどのイノベーションを起こしてきた。次の10年で予想される爆発的なIoTの普及に向けて一緒にイノベーションを起こしていきたい」と述べ、台湾にあるODMメーカー、OEMメーカーなどに対して一緒にIoT(Internet of Things)時代に向けて製品やサービスを提供していこうと呼びかけた。

 スコーゲン氏はそうしたIoTに向けたIntelのソリューションとして、インターネット・ゲートウェイなどのインフラ、スマートフォン/タブレット/PC向けの半導体や新しいサービスなどの製品、さらにはサーバー向けの新プロセッサなどを紹介した。なお、このうち、新しい第5世代Coreプロセッサの新SKUとXeon E3-1200 v4という新しいCPU(別記事)、USB Type-Cコネクタを採用した新しいThunderbolt 3(別記事)などに関しては別途記事が掲載されているので、そちらも併せてご参照頂きたい。

Intel 上席副社長兼クライアント・コンピューティング事業本部長 カーク・スコーゲン氏

500億台とされるIoT市場への取り組み、新しいユーザー体験、ビジネス環境の改善がテーマ

 Intelは例年、このCOMPUTEX TAIPEIの基調講演にトップ級の幹部を送り込んでいる。2014年は社長のレネイ・ジェームス氏で、それ以前は例年セールス&マーケティング事業本部という各リージョンを統括する事業本部の事業本部長が担当してきた。今年(2015年)登壇したカーク・スコーゲン氏は、クライアント・コンピューティング事業本部という、PC向けのCPUやスマートフォン/タブレット向けのSoCなどの製品計画やマーケティングを担当する事業本部長を努めており、Intelの"保守本流"と言える部署を担当する幹部となる。

 スコーゲン氏は、今年"ムーアの法則"が50周年を迎えたことから話を始めた。

 今年、2015年は、Intelの共同創始者であるゴードン・ムーア氏が、1965年にElectronics Magazine誌で「半導体に集積されるトランジスタの数は18カ月~24カ月で倍になる」という後に"ムーアの法則"と呼ばれる事になる論文を発表してから50周年に当たる年で、米国や日本を含む、世界各地でそれを祝うイベントが行なわれている。

 スコーゲン氏は「今年でムーアの法則の50周年になるが、その間にIntelと台湾も実にさまざまなイノベーションを起こしてきた。これからは次の未来へ向けて新しいイノベーションを起こしていかなければならない」と述べ、次の時代に向けて新しい取り組みをしていかなければならないと呼びかけた。

 ではその次のイノベーションとは何か、と自問したスコーゲン氏は「500億台とされるIoT市場への取り組み、新しいユーザー体験、そしてビジネス環境の改善の3つだ」と述べ、今後Intelがこの3つの分野に注力していくとアピールした。

今年はムーアの法則50周年
Intelと台湾は言ってみればPCの歴史を作ってきた
IoT市場への取り組み、新しいユーザー体験、そしてビジネス環境の改善がテーマ

Intel IoTゲートウェイのラインナップを強化を発表

 スコーゲン氏は、今Intelが最も力を入れてアピールしているIoT時代に向けた取り組みについて説明した。よくIoTと言うと、スマートウォッチやGoogle Glassのようなウェアラブル機器と同義だと誤解している人がいるが、それは狭義のIoTになる。より広い意味でのIoTは、どんな機器であれ、何らかのインターネットへ接続する機能をもっている機器という括りになり、前述のウェアラブル機器はもちろん、現在インターネットへ接続する機能を持たない機器にインターネットへ接続する機能が入れば、全てIoTとなる。

 かつ、重要なことはそれらのIoT機器は、データを生成し、クラウドサーバーへとデータをアップロードしていくという点にある。これらのデータは、ビッグデータとしても活用され、次の新しいサービスに反映されることになる。

 IntelにとってのIoTは、この両面から捉えることができる。1つは、1月のCESで発表したCurie(キューリー)や昨年(2014年)投入されたEdisonのように、IoT機器向けの半導体やモジュールというビジネスという側面であり、もう1つは、IoT機器がデータを送るクラウドサーバーで利用される、CPUというサーバープロセッサのビジネスという側面だ。今回のスコーゲン氏の講演でも、その両面が語られた。

 まず、花瓶やマグカップにEdisonとみられるモジュールを組み込んだIoT機器をデモし、文字情報がディスプレイに表示される様子などを公開した。また、台北市で行われているレンタルサイクル事業"YouBike"(台湾のSuicaにあたる、EasyCardを利用して手軽に利用できるレンタルサイクル)について紹介し、自転車にはQuarkが、自転車の貸し出しを許可するステーションにはAtomが、そしてYouBikeの機能を遠隔地でコントロールしているバックエンドサーバーにはXeonが入っており、「Intelでは単一のデバイスだけでなく、総合的なソリューションとして提供できる」と述べ、小型機器からバックエンドのサーバーまで一体的に提供できることがIAの強みだと強調した。

 その上で、Intel IoT ゲートウェイ製品の機能拡張を行なったことを発表し、対応するプロセッサとしてCoreプロセッサを追加、Wind River Intelligent Device Platform XT 3と呼ばれるプラットフォームを追加したこと、さらに従来からサポートしていたMicrosoftやWin RiverのOSに加えて、CanonicalのSnappy Ubuntu Coreのサポートを追加したことを明らかにした。

演算能力とネット接続機能を持つ花瓶やマグカップが紹介される
Intelでは2020年に演算能力をネット接続機能を持つデバイスが500億台になると予想
台湾のレンタルサイクルサービスとなるYouBikeを紹介。台湾のSuicaこと非接触交通系カード”EasyCard"でレンタルして乗ることができる
キオスク端末にはAtomプロセッサが採用されている
自転車にはQuarkが採用されている
バックエンドのサーバーではXeonプロセッサが採用されている
各種のセンサーが組み込まれたアクセサリを着たモデルさんが登場。スコーゲン氏が近づくと開いて威嚇するというデモ付で……
Intel IoT ゲートウェイのラインナップ拡張が発表された

ノートPCのフルワイヤレス化は2016年の課題に

 2つめのテーマである、新しいユーザー体験というテーマでは、ここ最近Intelが熱心に取り組んでいるナチュラルユーザーインターフェイス、安全なパスワード代替、フルワイヤレスという3つのテーマについて説明した。

 ナチュラルユーザーインターフェイスに関しては、RealSenseを紹介した。ただ、紹介された内容は基本的に従来と同じで、RealSenseの3Dカメラを利用してモデリングを行ない3Dのキャラクターを作るデモなども特に新しい内容はなかった。また、安全なパスワードの代替では、既に発表されているRealSenseを利用したWindows Helloを利用した顔認証の機能や、Intel子会社となるIntel Security(McAfee)のTrueKeyの機能などが紹介された。

 そしてIntelが業界団体の幹事企業となり推進してきた磁界共振(Magnetic Resonance)方式のワイヤレス給電技術Rezence(レゼンス)について説明した。これまでRezenceを推進してきたA4WP(Alliance for Wireless Power)と、電磁誘導方式を推進してきたPMA(Power Matters Alliance)は、1月のCESで合併することで合意したことを明らかにしており、今回のCOMPUTEX TAIPEIでもそれを説明した。そしてA4WPに参加する企業が170社に増えたことを明らかにし、新しいパートナー企業として中国のHaier(ハイアール)、台湾のODMメーカーFoxconn、そして日本事務機器メーカーであるコクヨ、米国の周辺機器メーカーTargusなどを紹介した。

 その上で、コクヨが開発したというRezenceの充電ステーションが内蔵されている事務机を紹介し、そこにタブレットやスマートフォン、Bluetooth機器などを置いて充電できる様子をデモしたほか、SoFIA(3Gか3G-RかLTEかは不明)ベースのスマートフォンでも、Rezence対応版のリファレンスデザインがあることなどを紹介した。

 なお、基調講演では特に触れられなかったが、基調講演後の質疑応答でスコーゲン氏は「Rezenceには5W、10W、20Wの方式があり、スマートフォンやウェアラブルをカバーする5W製品は今年後半に市場に登場し、10Wのモノは今年の末までに出てくるだろう。PCでは20Wが必要になる。第6世代Coreプロセッサでは、ドッキングするキーボードなどが充電することができるようになり、ノートPC本体がカバーできるのはその次の世代になる」と述べ、昨年同氏が明らかにした、第6世代Coreプロセッサ(Skylake世代)でのRezenceの実装は見送られ、次の世代になることを明らかにした。

新しいユーザー体験では、ナチュラルUI、安全なパスワード代替、フルワイヤレスの3つがテーマに
Windows Helloのログインをお面ではできないことをするデモ
RealSenseのデモではRealSenseの3Dカメラを利用してモデリングされたスコーゲン氏が仮想現実を行くというもの
最近のスコーゲン氏お気に入り(?)の大量のケーブルを見せて"ホラホラ、ワイヤレスいいでしょ"とドヤ顔するパフォーマンスは、遂にケーブルの数が増えて球体に。この次はどこまで発展するやら……
SoFIAを搭載したスマートフォンのRezence対応版も公開された
A4WPに参加する企業は170社に。PMAとの統合はCESで発表された
新たにパートナーとして紹介された企業。日本のコクヨが入っている
コクヨが試作したRezence方式のワイヤレス給電装置が組み込まれた机のデモ。スマートフォンとヘッドセットが同時に充電できている。

vProに対応したCoreプロセッサの特典機能となる、Intel Uniteを紹介

 ついで、スコーゲン氏はビジネス環境の改善の話題として、同社のvProブランドCoreプロセッサを搭載したPCでサポートされる新機能"Intel Unite"について紹介した。

 Intel Uniteでは、対応しているPCの1台がホストとなり、他のPCにプレゼンテーションのファイルを表示したりということが可能になる。現在WiDi Proとして提供している機能の発展版ということができる。このUniteは、ASUS、Dell、富士通、HP、Lenovoから対応したMini PCが発売されるほか、vProに対応したCoreプロセッサを搭載したビジネス向けPCで利用することが可能になる。

 講演の終わりにスコーゲン氏は同社の製品ラインナップの拡充についても触れた。記事冒頭の通り、Intel Iris Pro Graphics 6200を搭載した第5世代Coreプロセッサの新しいSKUや、同じくIris Pro Graphics P6300を搭載したE3-1200 v3などを紹介したほか、USB Type-Cコネクタを採用したThunderbolt 3などについても紹介した。

WiDi Proの発展系となるIntel Uniteが発表。対応するMini PCはASUS、Dell、富士通、HP、Lenovoから発表された
会議室などに置かれているMini PCなどから、クライアントPCへスライドなどを共有できる
このように、発表者から必要なスライドを他の人に送ったりがセキュアに行なえる
Intelのプラットフォーム。エンドツーエンドでソリューションが提供される
すでに内蔵GPUの市場シェアは80%を超えており、内蔵GPUの性能も強化されている。今回はIris Pro Graphics 6200を搭載した第5世代Coreプロセッサが投入された
GPUを内蔵したXeon E3 1200 v4が発表される
Cherry Trailを搭載したAcerのゲーミングタブレット"Predator 8"が紹介される
講演の最後にはZenPadを発表したばかりのASUSのジョニー・シー会長が登場し、お約束の記念撮影

(笠原 一輝)