山田祥平のRe:config.sys

SSDとHDD、それぞれの領分




 モバイルPCのストレージは、今後、SSDにシフトしていくだろう。このトレンドは明確だが実は不安な面もある。今回は、その功罪について考えてみる。

●Let'snote B10をSSDに換装

 IntelのSSD、Intel 510 Series 250GBを試してみた。SATA 6Gbps対応ということで、かなりの高速化が期待できる。カタログスペックでは500MB/secだから、期待も高まるというものだ。ということで、Sandy BridgeプラットフォームのノートPCのHDDを換装してみることにした。

 実際に換装してみた実機は、パナソニックのLet'snote B10、マイレッツ倶楽部のプレミアムエディションだ。この製品のストレージ換装は、精密ドライバー1本あれば、3本のネジを外すだけで簡単にできる。もちろん、パナソニックは、そんな作業を保証するわけではないので自己責任ということになるが、Let'snoteといえば、そのストレージ換装が、とてつもなくやっかいという印象があったので、その作業のあまりにもの簡単さに、拍子抜けするくらいだった。実際の換装作業もわずか数分しかかからなかった。

 手元のノートPC、日常的に持ち運ぶモバイル機は、そのすべてでSSD内蔵のものを使っているし、その方針は今後も変わらないと思う。だから、SSDのメリットには慣れきってしまっていた。

 久しぶりにHDD内蔵ノートPCを使ってみたのがLet'snote B10だったので、最新のプラットフォームでありながら、起動速度などに、ちょっとした不満を感じる点もあった。ただ、ノートPCは基本的にスリープとそこからの復帰を繰り返して使うので、Windowsの起動にもたつきがあったとしても、実用性の点では問題ない。でも、心情として、モーターで高速回転する磁気ディスクを実装したデバイスが、乱暴に扱われることも多いモバイルPC内部にあるという点で、取り扱いに神経を使わなければならないことが気になっていた。それに、携行時は、飛行機に搭乗する際のセキュリティチェックなどで、PCを裸でトレイに乗せ、ガラガラとX線検査機を通す必要がある。これは何回やっても実に心臓に悪い。手元のPCの天板等についた細かいキズは、ほとんどがその際に負ったものだ。キズはともかく内蔵ストレージにダメージを与えないかが心配なのだ。

●Intel謹製ユーティリティで最適化

 HDDをSSDに換装し、本体電源を入れ、BIOS画面を表示させて確認すると、きちんと認識されているようだ。最初に内蔵されていたHDDは500GBだったので、容量は半分に減った。そのまま、あらかじめ作成してあったリカバリDVDで工場出荷状態にしようとして、光学ドライブを開こうとしたのだが、電源がオフの状態になっていてトレイが出てこない。仕方がないので、手元にあったUSB接続の外付けドライブを使ってリカバリーした。あとでわかったことだが、BIOSには、光学ドライブの電源をオンにするかオフにするかの設定があり、それをオンにすれば問題はなかったようだ。

 リカバリ後、以前のHDDと、設定を変え、さまざまなカスタマイズをし、アプリをインストールするなどして、ほぼ同じ状態まで持って行く。前のHDDをクローンしてもよかったのだが、せっかくだから、一からやり直すことにした。

 Intelでは、「Intel SSD Toolbox」というユーティリティを配布している。これを使うと、換装後のSSDの最適化作業などができる。

 このユーティリティの機能の1つである System Configuration Tunerで調べると、初期状態で、デフラグはオフになっているが、Superfetch/Prefetchが有効になっていた。ユーティリティのおすすめに従い、その場で無効に設定する。また、Intel SSD Optimizerを使い、Trimコマンドを使った最適化ができる。インテルでは、週に一度、この機能を走らせることを推奨している。ちなみに、この機能はスケジューリングして自動実行させることも可能だ。

 普段から、あまりベンチマークテストなどはしないのだが、せっかくだから、Crystal DiskMarkを走らせてみると、そこそこの値が出る。念のために、CalperaプラットフォームのLet'snote S9内蔵の東芝製SSDとも比較してみたが、明らかに性能が向上している。

 とにかく何よりも、持ち運びの際や、稼働中の移動などに際しても、本体の状態をほとんど気にしなくていいというのが精神衛生上いい。

 たとえば、稼働中の本体に、SDメモリーカードを装着するようなときには、本体の手前を少し持ち上げた方がやりやすい。装着後、本体を元通りにするのだが、気にするなといわれても、ガタンと音がするような戻し方をすることは絶対にしない。あの音は心臓によくない。だから、できる限り、そっと本体を元通りに戻す。

 身の回りの一般的なユーザーを見ていると、ノートPCといえども、そんなに丁寧に使っているユーザーはまず見かけない。でも、構造を多少理解しているだけに、やっぱり心配は心配なのだ。どんなに丈夫で堅牢製に優れていようが、丁寧に扱えば、事故の可能性は低くなるはずだ。

●HDD実装へのパナソニック技術者の自信

 そのあたりのことを、パナソニックの技術者と話す機会があった。Let'snoteは、BTOオプションやラインナップの中にSSDモデルが存在するが、彼らには、SSDがどうしてそこまで受け入れられるのか理解に苦しむ面もあるという。

 というのも、HDDと比べ、SSDは、もし何かがあった場合のダメージが大きく、復旧も著しく難しいというのがその理由らしい。そこにいくと、HDDはとにかく書き込まれているという安心感があるし、何かがあったときの復旧の技術も確立されている。そもそもLet'snoteである限り、HDDが損傷を受けるほどの事故はまず起こらないからHDDの方に安心感があるというのだ。自分たちが設計した装置の機構などに、よほどの自信がなければ出てこない台詞だ。これは素晴らしいと思うし、ユーザーとしても安心できる。パナソニックの技術者が関西から東京への1泊出張にはACアダプタを持参しないという事実もある。これもまた自信の表れであり、だからこそ、ユーザーは信頼してLet'snoteを使える。

 でも、個人的にはモバイルPCをHDDで使いたくないという気持ちはまだ捨てられない。SSDは、容量的には不満を感じないでもないが、スピードの点でも魅力だし、幻想と言われようとも耐衝撃性は捨てがたい。何よりもモバイルPCの扱いに気を遣わなくてもいいというのは気持ちの負担が少ない。

 ただ、バックアップは、HDDにもあれば余計に安心なのだなということは理解できる。だから、ノート内蔵のSSDをバックアップとは考えず、きちんとHDDのバックアップを取っておくようにした。これまでは、バックアップもSSDにすればより安心という思いがあったのだが、少なくともSSDが唯一のバックアップというのは望ましくない。万が一のことを考えればHDDバックアップもあった方が安心だ。それも、NASや特定PCに内蔵されたHDDではなく、これらのシステムから切り離したリムーバブルのHDDがいい。ベアドライブだってかまわない。

 今回の震災のようなアクシデントで、家から持ち出した唯一のモバイルPCのSSDが、何らかの原因でクラッシュしてしまったとしたら目も当てられない。安心のためには多少の手間を惜しまないようにしよう。避難の有事に備えて枕元に置いたリュックに入れるHDDへのバックアップ項目を増やしておくことにしよう。念には念を入れるにこしたことはない。