山田祥平のRe:config.sys

16:9の呪縛から解き放たれたタブレットの縦と横

 タブレットデバイスを使う時、縦方向で使うか、横方向で使うかは悩ましい。16:9がすっかり定着してしまったスマートフォンに対して、タブレットについてはまだ模索が続いているようにも感じる。

8型超ディスプレイのアスペクト比

 興味深いデバイスが相次いで発売される。Microsoftの「Surface Pro 3」(7月17日発売)と、Samsung Electronicsの「GALAXY Tab S 10.5」(8月1日発売)、そして、デルの「Venue 8」(7月17日、LTE対応モデルは9月5日)だ。全てタブレットだが、各社各様の考え方が見えるようで面白い。

 それぞれのタブレットの画面を縦横比で見ると、Surface Pro 3が3:2、GALAXY Tab SとVenueが16:10となっている。スマートフォンでよく使われている16:9はTVのフルHD(1,920×1,080ドット)画面の縦横比そのものだが、それを縦に使うのは、本当のところはちょっと抵抗がある。あまりにも縦長過ぎるのだ。でも、多くのWebサイトを始め、モバイル向けコンテンツの多くが対応してしまったことで、その使いにくさが解消されてしまっている。片手で使うということが多くなるので、細長くてちょうどいいという考え方もあるのだろう。

 だが、8型を超えるようなサイズのタブレットでは、ちょっと事情が違ってくる。コンテンツごとに、画面を回転させて、縦にしたり横にしたりと、ユーザーはTPOで使い分ける。

3:2で縦を主張するSurface

 Surface Pro 3は、今回、12.6型ディスプレイを3:2という斬新な縦横比で提案してきている。ある世代にとっては馴染みのある縦横比だ。というのも、これは、135フィルム、つまり、35mmフィルム(36×24mm)のそれと同じだからだ。デジタル一眼レフカメラの多くも、この縦横比を踏襲している。

 Microsoftは、この縦横比を、どうやら縦に使って欲しいと考えているみたいだ。もちろんお馴染みのキックスタンドを使って自立させれば横長だし、タイプカバーを着けて使う時にも横長が強いられる。でも、タブレットとして使う時には、縦長で使ってほしいと考えている気配を感じる。

 この縦横比はフィルムというよりも、書類を意図しているようにも見えるからだ。Surface Pro 3の画面を縦にして構え、例えばWordで文書を開いて最大化すると、ページ全体がほどよく収まる。一般的なWindowsの設定では画面上部にアプリケーションのタイトルバー、アプリケーションのタブやリボンなどが表示され、画面下部にタスクバーが横たわる。そして、余った領域が文書の表示領域となる。この空間の作りが絶妙だ。米国でよく使われているレターサイズ8.5×11インチよりも、ちょっとだけ細長いA4縦の方が効率よく収まるのは皮肉な話だ。

 また、OneNoteを縦位置で使ったりすると、もうSurface Pro 3は、このアプリケーションのために作ってあるんじゃないかと思うくらいに使いやすい。

 Surface Pro、Surface Pro 2で長辺側に位置していたWindowsボタンは、Surface Pro 3になって短辺側に移動している。つまり画面を縦に構えた時に以前と同じ位置に来るように変更されている。Windowsボタンが本当に必要なのかどうか、どの位置にあるのが正しいのかは別問題としても、明らかに縦方向に使われることを考えている。

 ちなみにキックスタンドを開いた状態なら、本体は縦向きでもしっかりと自立する。この状態だとチルトはしないが、通常、デスクトップ用ディスプレイを垂直状態で使っていることを考えれば、これはこれでありだとも思う。何とか工夫すればチルトさせることもできるかもしれない。

 Surface Pro 3は、Microsoft側では正式に表明していないが世界で3例目となるCoreプロセッサ搭載のInstantGo対応機であるなど話題も多い。この製品については、少し使い込んだ上で機会を改めて、詳しいレビューをお届けするようにしたい。

画面外ボタンはあると便利でも邪魔に感じることもある

 Venue 8の縦横比は16:10。16:9よりも短辺側に余裕がある。Android OSの作法に忠実で、ハードウェアボタンを持たず、画面を横にしても縦にしても、それに伴ってナビゲーションバーが「戻る」、「ホーム」、「タスク」のソフトウェアキーを画面下部に表示する。これは、Androidタブレットとして王道であり、縦でも横でもお好きなようにと、使い方はユーザーに委ねる方針のようだ。

 LTE対応モデルが3万円を切る価格で提供されるなど意欲的な製品だ。ちなみにモデムはIntelの「XMM 7160」を搭載、SIMロックフリーで、LTE対応バンドはBand1、2、3、4、5、7、8、20となっている。ドコモのMVNOにとってはかなりの追い風になるんじゃないだろうか。また、海外に持ち出した時にも、多くの地域で柔軟に運用できそうだ。

 なお、Androidのバージョンは4.4(KitKat)だが、年内にリリースされる見込みの“L”への対応予定は今のところないとのことだ。

 一方、「GALAXY Tab S 10.5」は、横方向で使えと言わんばかりの主張をしているように感じる。ほぼ同スペックでディスプレイサイズだけが異なる「GALAXY Tab S 8.4」が縦方向を強いているように見えるのと対照的だ。どうやら、Samsungとしては、10型超のディスプレイは横向きでと考えているようだ。

 もちろん、画面の回転はできるので、横でも縦でも使うことはできる。だが、SamsungのAndroidデバイスは、画面外に物理ボタンとしてホームボタンがあり、タッチボタンとしてホームボタンの左に「タスク」、右に「戻る」が装備されている。一般的なAndroidデバイスと「戻る」ボタンの位置が逆だ。「戻る」ボタンが右側にあるのは、それはそれで使いやすくもある。以前は「タスク」ボタンの位置に「メニュー」があったのだが、スマートフォンのGALAXY S5以降、「タスク」に置き換えられた。

 10.5を縦に構えると、これらのボタンがディスプレイの左右どちらかに来る。例えば片手で支えて反対側の手で操作するような場合、支える手や操作を休ませた指がどうしてもタッチボタンに触れてしまい、意図せぬ遷移が起こってしまうのだ。逆に、8.5は短辺側にホームボタンがあり、横に構えたときに同じことが起こる。10.5は横、8.5は縦を主張していると感じるのはそのためだ。

 Android OSのナビゲーションバーを使わないことで、その分、画面内は没入感を高められる状態になり、コンテンツをより多く表示することができるというメリットがある。そのおかげで、スマートフォンなどでは、同じフルHDのディスプレイでも、表示に余裕が生まれる点がうれしいのもSamsungデバイスの特徴だ。

 だが、頑なに物理ボタンとその両脇のタッチボタンにこだわってきた同社も、そろそろ「戻る」ボタンの位置を含めて、そのポリシーを再考しなければならないときが来ているようにも思う。もっとも、SamsungのAndroidにはマルチウィンドウの機能が実装されている。スマートフォン2台を並べるという感覚での使い方をする場合、横の方が使いやすいということなのかもしれない。

縦と横の葛藤

 PCやタブレットで消費されるコンテンツの多くはPCで生産されている。それらのコンテンツのうち、紙に印刷されることを前提としたものも相変わらずたくさんある。そして、多くの場合、印刷前提の文書は書類としての横書き縦長だ。

 それでもそれらのコンテンツは、横画面で作成され、横画面で読まれている。ビジネス現場でPCが使われるようになって、すでに四半世紀、いいかげんにA4を横に使った書類が一般的になってもよさそうなものだが、なかなか慣習というのは変えられないようだ。

 でも、縦置きタブレットなら、縦の書類を縦で作れる、縦で読める。実に自然だ。そういう意味では、そろそろ15型程度の画面でA4縦を実寸表示できるタブレット製品が提案されてもよさそうなものだがどうだろうか。

(山田 祥平)