山田祥平のRe:config.sys

黒っぽいより白っぽい方が色っぽい?

 9月に東プレの「REALFORCE R3」、1カ月後の10月にはPFUのHHKB Studioと、日本を代表する二大プレミアムキーボードに新たなラインアップが追加された。東プレは「アイボリー」、PFUは「雪」という新色の追加だ。それは単なる偶然なのかどうか。両製品をしばらく使わせてもらった。今回は、キーボードの色について考えてみたい。

中間色が台頭した事務機ワールド

 その昔、事務機といえばアイボリーというくらいに、今でいうところのくすみっぽい白ということで、この色は定番的な色だったんじゃないだろうか。国民機として一線を風靡したNECのPC-9800シリーズの本体色もそっち系だった。

 一方、オフィス家具の多くはグレーだったような気がする。その後、ノートPCの登場でグレーっぽい色が定番となった。初代の「dynabook J-3100SS」がそうだったし、NECの98NOTEもだ。これらの筐体は見事にオフィスに溶け込んだ。

 いつの頃からか、グレーの筐体に加えて白い筐体、黒い筐体がコンシューマ市場を中心に浸透し始めた。銀パソといったトレンドも経験した。天井からの灯りが反射してキートップの視認性が悪くなるキーボードもあった。

 いつの頃からか、ノートPCのキートップは本体色に依存するものの白か黒を選べるようになった。また、オフィスの家具は無機質なグレーから温かみのあるアイボリー系が主流になったように思う。

 そんな中でプレミアムっぽい雰囲気を持つブラックは、特別感を醸し出す色として、所有感をくすぐるようなイメージで浸透していった。それがここ40年間くらいのPC業界でのざっくりした色のトレンドだ。

元祖銀パソのVAIOが提案する勝色

 PC筐体の特別な色をアピールするブランドとしてはVAIOがよく知られている。VAIOは銀パソの元祖でもある。近年のVAIOで特に有名なのは「勝色」と呼ばれる深く濃い藍色だ。「理性の青」と「感性の紫」の融合を表現したものだという。かつてのサムライが「勝ち」につながる演技食として好み武器に多く用いたという。

 勝色のVAIOは特別仕様なので、ほかのVAIOと同じPC仕様でも価格は高くなる。それでもその色を選ぶのは特別なVAIOが欲しい個人ユーザーのみならず、企業のユーザーもそれなりにいるという。企業のPCといえば事務機扱いで色どころかプロセッサのランクやメモリ量、ストレージの容量やSSD、HDDなどの種類でも極限まで安上がりになるように設定されることが少なくない。今どき安いというだけで有線マウスが要件としてあがることもあるそうだ。

 だが、少しでも従業員に仕事をするときの気分を高めてもらうために、武具としてのPCの色にこだわる企業もあるらしい。そうした調達方針は、ここ数年のVAIOの成長に少なからず影響を与えているともいう。筐体の色はPCの仕様やセキュリティなどに影響を与えない。だから多少の追加投資をしても業務に影響を与えることがないともいえる。勝ち色VAIOのPCよりも、機材番号と所属部署を記したテプラの貼られた不細工なPCの方が機密情報が入っている確率は高そうだ。そういう意味では勝色は狙われにくいとも考えられる。

スーパーホワイトREALFORCEがまぶしいからアイボリー

 東プレのREALFORCE R3は、今回、セパレートスペースキーを採用して話題になったりもした。また、以前はフルキーボード版のアイボリー色を限定発売した経緯があり大好評だったともいう。昨年(2023年)の9月末にそのインプレッションを書いた。

今回は、そのテンキーレス(TKL)版で、300台限定のリミテッドエディションモデルとして発売される。

 2021年のREALFORCE R3登場時、R2にはあったアイボリーモデルがなくなり、白っぽいモデルは「スーパーホワイト」として再定義された。個人的にはそれがかなりまぶしく感じることをコラムにも書いた。

 色は、時代に応じた定義があるので、白は白でも真っ白だけではないのだが、古い人間としてはアイボリー色のような中間色はホッとする何かを感じる。たとえ事務機の色と言われてもだ。それでもREALFORCE R3の限定アイボリーは、2002年からずっと使っている手元の初代REALFORCEのアイボリーよりもかなり白っぽい。

 東プレによれば、アイボリー色は現在のトレンドカラーではないために、標準品としてはラインナップしていないが、Xでのアンケートで多くの要望が寄せられたためにフルサイズモデルに続き、限定品としてテンキーレスモデルを発売したという。

 いずれにしても、少なからぬ需要が白っぽい方に向いているということが分かる。

一部のユーザーはHHKB Studioの黒地にグレーの視認性に不満

 PFUのHHKB Studioは、昨年、2023年10月に発売された高付加価値コンパクトキーボードに純白キートップをあしらったモデルだ。ライトシルバーのフレームにも、ちょっとした高級感を感じる。このフレームがスクロールなどGUI操作に貢献する。当初のモデルはキートップが黒で、フレームがダークグレーだったのだが、それを純白にしたものとなっている。ちょっとまぶしいくらいの白さだ。

 黒いキートップはかっこよさがあったが、その刻印がグレーだったため一部のユーザーには不満に感じられていたようだ。視認性に問題を感じるユーザーが少なからずいたらしい。そこで、白のキートップにグレーの刻印としてキーの視認性を高めたのが今回の新モデル追加だ。白にグレーでもでもまだ不満なユーザーのために、黒で刻印した白いキートップがオプションで用意されている。まさにいたれりつくせりだ。このあたりのオプションを利用すれば、昨年秋に当初のモデルを購入し、叩きやすさには感動しても、そのキートップの視認性に不満を覚えていたユーザーも救済されるはずだ。

 個人的に黒っぽいより白っぽい方にに気持ちが傾くのには、ちょっとした理由がある。まず、黒いオブジェクトというのは背景に対してコントラストが強くなる傾向がある。キーボードにあまり存在感を主張されても困るのだ。それに明るいところで作業することが多いので、白の現場に黒いオブジェクトというと、そのコントラストがうっとおしく感じることもある。また、カンファレンス会場のような薄暗いところで叩くキーボードは白い方がうれしいというのもある。もっとも最近はキーボードライトを装備したノートPCも多いので助かっている。

 白いキートップの黒い刻印は、そのコントラストの強さが目の刺激になってしまったりもする。タッチタイプでキーボードを叩いているといっても、やはり視界には入る。だからまぶしく感じたり、刻印がうっとおしく感じたりするわけだ。その刺激を少しでも緩和するために、黒や白にグレーといった刻印でコントラストを下げる配慮がうれしい。エンドユーザーにはその配慮が行き過ぎたり足りなかったり感じるというわけで、たかがキーボードといっても、その塩梅が難しく、ここまで究極のキーボードとして受け入れられている両製品ではあるが、その配色が万人に受け入れられるというのは難しいかもしれない。

黒より白の色っぽさをたたずまいに生かす

 両キーボードのコンセプトは快適なタイピングができることにつきる。REALFORCE R3はに静電容量無接点方式、HHKB Studioはメカニカル方式のスイッチを使ったキーボードだ。その打ち心地の快適さは、もう、本当に甲乙つけがたい。極上で文句のつけようがない。まさに日本のプレミアムキーボードの両横綱といってもいいだろう。

 個人的には少し気になっているところもある。どうやら、キーボードとして、そのユーザーは修飾キーとほかキーを組み合わせるキーコンビネーションを煩雑だと感じているにちがいないと確信している気配がある点だ。

 たとえば、Windowsにおいて、Shift+Windows+Sは、Snipping Toolを呼び出すためのショートカットだ。また、Ctrl+Cはコピー、Ctrl+Aは全選択などの定番ショートカットもある。これらのキーコンビネーションは、PFUや東プレのキーボードを愛用するようなユーザーにはまったく苦にならないと思う。むしろ、ホームポジションからちょっとの距離で叩ける分、独立した単一のキーにアサインされているよりも使いやすいと感じる。

 ところが、両社のキーボードユーティリティに含まれるキーマップ変更ツールは、複雑なキーコンビネーションを単一のキーにアサインすることしかできない。ホームポジションから遠いEnterキーやBackSpaceキーを、単純なキーコンビネーションに割り当て、どんなアプリでも同じように機能するショートカットとして再定義したいと思うユーザーには役に立たないのだ。

 もっともそれはMicrosoftのPowerToysに含まれるKeyboard Managerなどを使えば解決する。どんなアサインだって設定できるので心配ない。でもWindows OSでしか使えない。キーボードハードウェアにアサインを記憶させるユーティリティが欲しいときもあるわけだ。

 キーボードがアサインを覚えてくれればChromebookにつないだり、AndoroidやiOSのタブレット、スマホにつないで使うときに重宝する。REALFORCEやHHKBのような極上のキーボードを愛用の各種コンピュータ的デバイスに接続し、自分の流儀で操作できるようにすれば、本気でPCはいらないくらいな感覚を持つかもしれない。文章だけを書くなら一般的な6型前後の画面を持つスマホでも200字や300字は余裕で表示できるだろう。若い人なら小さな文字サイズにして400字表示させても平気かもしれない。そのくらいの表示ができればエディタとして長大な論文やレポートを仕上げるにも十分だ。

 これからの高級キーボードはそんな使い方をされると思っている。叩き心地は当然として、今以上に、その見かけやたたずまいが重要視されるようになる。黒っぽい、白っぽいを、単なる好みの問題で片付けてはならない。キーボードをここまでの高みに昇華させた両キーボードには、そんな領域まで踏み込んだ成長を期待したい。