山田祥平のRe:config.sys

好きな会社とやりたい仕事は「探す」より「選ぶ」時代

 誰もがアントレプレナーとして起業し、事業を成功をさせることができるわけでもない。やりたい仕事が何かも分からないままに就職のための活動をしている学生諸君もいるだろう。その一方、企業は企業で優れた人材を探してはいるが、必ずしも、欲しい人材を確保できるわけでもない。そこにAIが介入すれば何が起こるのか。

AIと面接して自分の評価を定量化する

 株式会社ABABAが就活版全国共通模試サービス「REALME」をスタートした。先行リリースをすでに開始し、この10月末~11月初旬に正式リリースする。

 同社は、就職活動の後半時期に特化した就活支援サービス「ABABA」で知られる企業で、これまでは特定企業の最終面接まで進んだ就活生だけが登録でき、その企業の類似企業、ライバル企業などからのスカウトを受け取れるというマッチングサービスを提供してきた。2020年に大阪・吹田市で創業、瞬く間に経団連にも加入を果たした若い企業で、新卒向けのダイレクトリクルーティングサービスがその事業の中心だ。

 今、新卒市場は超売り手市場で、就活生はとても有利な状況にあるという。だから企業が内定を出したとしても、その半分が辞退するという状況が続いているともいう。そんな中で、既存のABABAサービスは就活後半期の学生を対象としてきたが、新しく開始するREALMEでは就活前半・中盤期の学生に対する就職活動を支援する。

 具体的には、サービスを利用する学生がミラーくんというAIを相手に、スマホのLINEサービスを使った面接を受け、自分の能力を定量化・可視化する。面接といってもテキストによるAIの質問に、学生が音声で答えていくだけだ。それをAIが認識して評価する。

 面接はおよそ30分で、応答内容に応じてAIはその感想などを述べながら、淡々と質問してくる。AI側の発言はあくまでもテキストのみだが、受験者は音声で回答しなければならない。まるで1対1での面接官との対話のようだが、コミュニケーションは文字と音声だ。AIが相手なので緊張するということもなさそうだ。それを狙ってのミラーくんでもあるという。

 この過程で14項目の採用要件が可視化される。ABABAは過去に各企業の最終選考まで進んだ先輩学生のデータを持っている。現役学生との面接でAIが可視化したデータを、実際に最終選考まで進んだ学生の能力と比較して、AI面接した学生の内定率を算出する。その時点での自分の能力では、どのような企業が内定を出してくれそうかを把握できるわけだ。

 これによって就活中の学生は、各企業にエントリーする前に、志望する企業の内定判定がどのくらい期待できるかを確認できる。

機械との面接で能力を定量化

 こうしたサービスをABABAが提供できるのは、多くの就活学生と企業の双方が利用するABABAプラットフォームを運用してきたからだ。急成長のこのサービスは、リリースから4年で年間4万人の就活生と2,000社の企業が利用する巨大なサービスに成長した。

 累計7万人の就活生の選考過程に関するビッグデータによって、最終面接まで進んだ就活生の能力値を企業別に可視化し、AIの学習データとして活用できたという。おそらくはそうすることを見込んでサービス利用者の許諾を取っていたのだろう。

 志望率の高い企業には早期にエントリーしなければ枠が埋まってしまうという考え方は、売り手市場に転じた現代の新卒市場には当てはまらないとABABAは考える。だとすれば、特定の企業へのチャレンジは、就活の習熟度が高まったタイミングの方が、スキルが上がっているので内定をもらえる可能性も高いはずだ。

 早期エントリーが当たり前の時代には、企業は受付直後に膨大な数のエントリーを受け取り、学歴など画一的なフィルタリングをするしかなく、それを突破できなかった優秀な人材を不採用にしてしまうリスクを抱えていた。REALMEはこうしたことがないように、エントリー時期に関係なく、企業と学生をマッチングする。だから双方にとってメリットが得られることになる。

 サービスの利用者は学生という個人と企業という法人だ。学生はAIを相手に面接してもらうが、企業側の人事担当者からどのような人材を求めているかを聞き出すのは人間だ。

 ABABAには現在約10名の担当者がいて、それぞれが毎日5社程度の各社人事担当者とコミュニケーションしながら各種の情報をヒアリングする。1日50社、1カ月あれば1,000社のヒアリングができるという。

 企業の人事担当者も、自社がどのような人材を探しているのかを、しっかりと自覚できていないことが少なくないとABABAは言う。だからこそ、それを聞き出すノウハウをもった人間の担当者が、欲しい人材像を聞き出すことが必要だということだ。

「探す」から「選ぶ」へ

 個人的には、企業側にヒアリングして、その企業の求める人材像を数値化するノウハウもまたAIに学習させられるようにならないものかと思う。就活生と企業の両方からAIがデータを収集することで、今の10倍、100倍の数の企業が求める人材像が把握できるだろう。

 その中には今は無名でも、将来大成功するようなスタートアップも含まれているかもしれない。起業など考えもしなかった学生が、そことのマッチングで、才能を活かした仕事を見つけられるかもしれない。

 今、日本の企業数は約368万社。大企業はその0.3%に過ぎない。大企業を目指す優秀な学生に向けたサービスが、AIの力を借りて、その領域を拡げることができれば、日本はまた1つ変わることができるんじゃないか。

 冒頭に書いたように、誰もがアントレプレナーとして起業して事業を成功に導けるわけでもない。かつての大学生活はモラトリアムと言われていたが、昨今では学生のうちから起業を考え、事業を模索する人材も目立つ。このインターネットの時代、そして駆使されるSNSで、以前なら誰も気が付かなかったであろう企業や組織が注目を集めるようようにもなっている。

 AIの力を借りればそうした企業と人材のマッチングを支援することができるかもしれない。優秀な人材なのに、自分の強みを自分で知らず、そして、それを評価してくれる企業を探し切れていないケースは決して少なくない。そして企業側も同じ問題を抱えている。

 誤解を怖れずに言えば、もはや、新卒学生を相手に人材を探すというのは大企業に委ねられた特殊な社会貢献活動と言ってもいいかもしれない。たぶんABABAも、その方向性は予測しているに違いない。就職は「探す」から「選ぶ」時代にというのが同社の姿勢だ。