山田祥平のRe:config.sys

同じ箱でも中身が違う

 見かけは同じなのにその中身が違う。パワーユーザーにとっては当たり前の話でも、コンシューマーにとっては難解な話だ。Quallcomm、AMD、Intelの三つ巴は、これからのPCという商品の売り方買い方にどんな影響をもたらすのだろう。そしてそれは近い将来のパーソナルコンピューティングにどんな影響を与えるのだろうか。

デルからIntel版Copilot+ PC登場

 デルが都内のホテルで発表会を開催、「XPS 13(9350)」をお披露目した。最新CPUとして、インテルCore Ultra(シリーズ2)を搭載した製品で、2024年9月27日からフルカスタマイズモデルを販売開始予定だ。また、後日、一部構成の即納モデルも用意し、一部の量販店において11月下旬に販売を開始するという。

 XPS 13は13.4型のモニターを搭載した重量1.18kgの薄軽ノートPCだ。新製品だが、グラファイトカラーを選んだ場合、既存のXPS 13と見分けがつかないかもしれない。

 というのも、Copilot+ PCとして5月に発表されたXPS 13は、QualcommのSnapdragon X EliteシリーズのSoCを搭載していたが、今回のXPS 13はコードネームLunar Lakeで知られるCore Ultra シリーズ2を搭載している。アーキテクチャの異なるプロセッサーが同じ筐体に格納され、それぞれが強力なオンデバイスAI処理を実現する。

 また、11月にはMicrosoftのCopilot+ PCとして認定され、Windowsの各種AIアプリが無償でアクティベイトされ、Qualcomm Copilot+ PCと同等の環境になる。

 バッテリ駆動時間はデルの基準となるNetflixストリーミングを使ったバッテリのベンチマークで26時間を記録したという。Dellのラボで、ディスプレイの輝度を150cd/平方m(40%)に設定し、ワイヤレスを有効にした状態でWindows 11のNetflixアプリケーションを使用し、Netflixの1080pストリーミングコンテンツを連続再生してマークされた。ちなみに今回のCore Ultra シリーズ2搭載のXPS 13は、Snapdragon搭載のXPS 13よりバッテリ駆動時間が1時間短かい。24時間超の領域では1時間の違いはほぼ無意味だともいえるし、AIフル活用時のバッテリ駆動時間も気になるところだ。

 参考販売価格は、Core Ultra 5 226V(16GB)、512GB SSD、フルHD液晶の構成で約26万円となっている。ほぼ同じ構成のSnapdragon XPS 13よりも約5万円高い価格設定だ。なお、Core Ultra 9搭載モデルは11月の登場となる。

 発表会では実機でのデモンストレーションが披露された。このデモに使われた実機が現時点で日本に存在する唯一の筐体だという。

まずはニッチな領域をカバーするシリーズ2SoC

 発表会にはインテル株式会社の技術本部部長、工学博士の安生健一朗氏もゲストとして登壇、インテルCoreUltra(シリーズ2)の魅力を語った。

 Intelとしては基本的なPCとしての機能は進化し続けているし、同社は今後も、その進化が続くことを担保すると安生氏はいう。Core Ultraはシリーズ1からシリーズ2となり、P Coreのハイパースレッディングをやめ、面積/電力あたりの性能に最適化されたという。E CoreとP Coreでは、E Coreの進化が特に著しいそうだ。

 電力優先のE Coreと処理優先のP Coreにスレッドを割り振るインテル・スレッド・ディレクターも進化、OSコンテインメント・ゾーンと呼ばれる制御ができるようになった。これは、OSとネゴシエーションすることで、アプリケーションごとにEコアとPコアの使い方を従来よりももっと明確なものにしていく。

 たとえば、最初E Coreにスケジューリングした処理を、パフォーマンスのデマンドが大きくなると同時にP Coreに移動したり、逆に、リソースがあればあるだけ使うTeamsのようなアプリは、絶対にP Coreを割り当てないようにすることで電力効率を高めるといったことができるようになった。

 オンライン会議などでTeamsを使うと、みるみるバッテリがなくなってしまうのを経験的に知っているユーザーは多いと思う。そういうことがなくなるというわけだ。

 IntelとしてはNPUにAI処理をまかせたから、GPUはお役御免とは考えていない。電力効率よりもとにかく速くという用途が求められる場合にはNPUよりもGPUの方が有利だからだ。デルも同様に、Core Ultraプロセッサーのシリーズ2は、モバイルコンピューティングで真価を発揮するものの、当面は、シリーズ1との棲み分けることになりそうだと考えているようだ。

 それでもAIが今後のパーソナルコンピューティングには欠かせないことは間違いない。だが、電力を確保しやすいデスクトップPCではGPUの力業でAI処理をした方がいい結果が得られそうだし、ノートPCでも、より高い性能を求めるワークステーション的な使い方を想定する場合には、高性能なGPUを併用し、シリーズ2のソリューションは選択肢としてありえないという判断も考えられる。

 こうしたことを統合すると、Core Ultra シリーズ2は、PC市場全体からすると、究めてニッチな領域をカバーする特別なSoCであるともいえる。そのニッチを請け負ったのがSnapdragonだったわけだが、Intelはそこをキャッチアップするつもりだ。

コンピュータは何でも知っている

 少なくとも、量販店頭などで、まるで同じように見えるノートPCがあったとして、片方がSnapdragon、片方がCore Ultra シリーズ2を搭載していたとして、販売員はどちらをどのように勧めるのだろうか。いや、販売員のみならず、ぼくらのような商売でも悩みどころだ。ここはまだ結論が出ないでいる。

 PCが一家に一台必要と叫ばれた当時、もしかしたら持ち出すかもしれないということで15.6型A4サイズノートPCが国民標準機のようになった。結局のところそのノートPCのほとんどは、実際に居宅から持ち出されることなくそのライフサイクルを終えた。

 でも、AIはそうはならないだろう。据置でもモバイルでもちゃんと役にたつ。分からないこと、知りたいことがあったらGoogleに聞けばいいことが新しい当たり前になったように、生成AIについては、人類の歴史の中で、コンピュータという響きに期待するものに、さらに近しい使い方として定着するだろう。テキストにしてもグラフィックスにしても、ノーコードで、しかも自然語で頼むだけで思ったことができるようになる。

 そのためにどのようなコンピュータリソースが求められるのか。今、デルが出荷しているノートPCのうち、半分近くがすでにNPU搭載機なのだそうだ。そして、現時点で、多くの実用的なAIサービスが有料で提供されていることを考えると、ハードウェア、ソフトウェアの初期投資だけで好きなだけ使えるオンデバイスAIは、これからのパーソナルコンピューティングに少なからぬ影響を与えることになりそうだ。