山田祥平のRe:config.sys

作る側も半信半疑で暗中模索、パソコンの新しい使い道

 デル・テクノロジーズが個人向けPC新製品発表会を開催、Intelから正式に発表されたばかりのCore Ultra搭載の最新製品としてノートPC Inspironを発表した。発表会にはインテル株式会社技術本部部長工学博士の安生健一朗氏も登壇、この新しいプロセッサの魅力を説明した。

新生プロセッサでPCが新マシンとしてブートストラップ

 直近でもこの連載で書いたことではあるが、改めて、パソコンに実装されたAIプロセッサがスタンドアロンで稼働するようになったら何が起こるのか本当に気になる。

 Intelは、Meteor Lakeのコードネームで知られる新プロセッサCore Ultraを40年に一度の転換だとしていて、プロセッサの世代もCoreプロセッサー・ファミリーの第14世代とは別に、新たに第1世代からスタートする。

 Intelは、この新世代プロセッサ、つまり、Core Ultraプロセッサの御旗のもとでAI Everywhereというスローガンを声高らかに叫ぶ。Core Ultraプロセッサには、AIプロセッサとしてのNPUが統合されているからだ。

 この新プロセッサを搭載することで、CPU、GPU、NPUによる3種類の演算ができるようになった新しい世代のPCが誕生する。

 生成AIがブームのようになってから、まだ2年ほどしか経っていないが、現在のAIのほとんどはCloudセントリックなものだ。

 Intelは、これを今後、Cloud + Client + Edgeという建て付けに転換しようとしている。その中心になる存在が、AI処理の中枢となるNPUを搭載したCore Ultraプロセッサであると安生氏は説明する。

 AIがPCに導入されることで、現在はオーディオ効果やWeb会議の高品質化、クリエイティブ作業やゲーミングでの効果などさまざまな機能の拡張に使われているAIの活用範囲がさらに広がり、ユーザーの日常的な操作を把握、ユーザー体験を向上させ、PCを使ってユーザーが実行することすべてを網羅するようになる。そして、あらゆることにAIが適応するようになるらしい。

 もちろん、これらについてはIntelだけでできることではない。だからこそ、デル・テクノロジーなどのパートナー各社、数多のソフトウェアベンダー各社との多彩な協業の中で、構想を現実のものに変えていく。このPCの大きな変革をリードしていこうとしているのだ。

クラウド依存を解消すれば、PCの使い方が変わる

 Intelは、AI PCにおいては、クラウドのAI機能をローカルに肩代わりできるようにするべきではないかと考えていると安生氏はいう。

 安生氏は、PCが推論処理をするようになるとはかつて想定していなかったというが、それは現実になりつつある。今、目先にあるアプリの効果を着実に感じてもらえるようにし、いままで膨大な電力を食わないとできなかったことを、ローカルで低電力でできるようになれば、確実にPCの使い方は変わっていくというと安生氏は言う。

 もちろん、その使い方のなかには自然言語でAIと対話することも含まれる。当然、たくさんのソフトウェアが必要だ。だからこそAI関連のソフトウェアを充実させることが大事だと安生氏は考える。

 Intelがそれをリードできるのは、高速なレイテンシーや低消費電力だけではないものをユーザーは求めているということを十二分に知っているからだと安生氏。

 同社は推論アプリの開発を手軽に始められる汎用的な推論エンジンとしてOpenVINOツールキットの無償提供などを通じて、NPU、GPU、CPUという3種類の演算器を同時に活用できるソフトウェアを増やしつつ、AIのソフトを加速度的に増やしていくことに貢献できるとアピールする。

 デル・テクノロジーのCSB PGTM プロダクトアソートメントプランナー兼 コンサルタントの松原大氏も、PCの使い方が変わらないと需要も高まらないとし、ローカルAIとクラウドAIの組み合わせが、その突破口となることを期待する。

 また、Windows 10のEOSが近いこともあり、そのシナジー効果もあり、マーケットが盛り上がる可能性は高いという。

あのときPCは「作る」に「使う」を追加した、そして今……。

 今から40年前というと1983年だ。エポックメイキングな出来事としては、同年10月にNECからPC-100が発売されている。マウスによるGUIをサポートした製品で、標準OSがMS-DOSだった。それまでの98シリーズでお馴染みのROM-BASICは搭載していなかった。

 個人的にも縁あって手元に置いて使っていたが、何だかよく分からないにせよ、何かが変わる瞬間に立ち会っているような気持ちを抱いていた。マウスを使って文書作成ができるジャストシステムのJS-WORDが標準添付のアプリで同梱されていた。

 それを使って文章を書いていると、ある種の高揚感のようなものに包まれるような気分になったことを覚えている。

 Intelが40年に一度というのだから、あのときのような興奮を、これから数年かけて味わうことができるのだろう。少なくともぼく自身はそれを期待している。

 あのとき、計算機だったコンピュータは、グラフィカルな作法で対話ができる文書作成機として機能するようになり、PCのイメージを根こそぎ変えてしまった。電卓のお化けが、スプレッドシートによって別の生き物に変異したりもした。マス目の数だけ電卓があるのがスプレッドシートだ。

 あのときPCは「(ソフトウェアを)作る」に加えて「(ソフトウェアを)使う」を役割として追加した。その結果、ユーザーという言葉の定義も変わった。PCの新たなステージのスタートだ。

 AI処理がスタンドアロンのPCでできるようになることで、PCにどのような変革が起こるのか。実は、それをしっかりと分かっている人はあまりいないんじゃないだろうか。もちろん、ぼく自身も分かっていない。

 近い将来手に入るであろう未来が、今ひとつ、明確に見えてはいない。きっと、想像力に欠けているのだろう。それはそれでいい。期待に大きく胸をふくらませられればそれでいい。

 おそらく、Core Ultraという新プロセッサによって新しい息吹を吹き込まれた新しいPCは、PCの専門家ではない層の人たちによって、まったく新たな使い道が見出されるだろう。逆に言うと、「こう使うと便利」というコンピュータの専門家たちのいうことはあまり信用しないほうがいい。

 かつての明言「Don't trust anyone over thirty」を唱えた活動家Jerry Rubinの言葉のように、専門家の言うことを信じるとろくなことがないかもしれない。本当は誰も分かっていないとも言えるのだから。

 こんな大きな出来事に2回も立ち会える人生は幸せだ。この先、何が起こるのかを40年前とは違った視点でしっかり見るつもりだ。