山田祥平のRe:config.sys

広さは正義、小さなノートを大きく使う折りたたみ

 次に迎え入れられるであろうスマートデバイスのフォームファクタはフォールド、いわゆる折りたたみが行き着く先だといわんばかりに、各種デバイスのフォルダブルフォームファクタが相次いで登場している。スマホはもちろん、ノートPCもだ。このトレンドはいったいどう解釈すればよいのだろう。

ノートの理想型をめざすThinkPad X1 Fold

 レノボの大和研究所が「ThinkPad X1 Fold」に関して、プレス向けのブリーフィングを開催し、その開発秘話を説明した。

 レノボ・ジャパン合同会社執行役員常務 大和研究所の塚本泰通氏は、「次の当たり前」を顧客に届けるためにThinkPadは人の観点から世界や地球に貢献していることを強調する。

 今、市場はダイナミックな変化のときにあり、ハイブリッドワークが定着するなかで、人々の働き方、デバイスの使い方、その調達基準が変わりつつもあると塚本氏、特にヨーロッパにおけるPC製品の調達基準が大きく変わっているのだそうだ。

 昔はモバイルPCといえば、性能や、重さ、ファンクションなどが最重視されていたものだが、現在はサステナビリティに貢献しているかどうか、つまり、環境負荷がよくないと、いくら値段が安くできてもコンペに負けてしまうという。

 レノボでは「次の当たり前」の提供のために、ThinkPadに代表されるクライアントコンピューティング関連開発の重点フォーカスエリアに、次のような4つの柱を設定している。

  1. モダナイズ・デザイン
  2. 従業員体験(いいPCを与えないと入社してもらえない)
  3. AI
  4. 持続可能性への対応

 ThinkPadは、ノートブックPCの理想型を目指すこと、そして、環境負荷低減にに向けた取り組みとして、大和研究所から世界に向けて技術の力で成功や幸せを届ける宿命を持っている。そして、昨年秋に満を持して発表されたのがThinkPad X1 Foldだ。フォルダブルPCとしては、先だって、「HP Spectre Foldable」も発表されたばかりで、業界全体が注目しているフォームファクタだということが分かる。

小さく運んで大きく使うが、小さく使うは想定外?

 ThinkPad X1 Foldは発表から約1年を経た今、ようやく顧客の手元に届き始めるべく出荷が開始されたようだ。開けば16.3型4:3縦横比の大きな有機ELディスプレイとなるフォールドフォームファクタのフォルダブルPCで、ペン/タッチ対応スクリーンと折りたたみ機能でタブレットとして、ノートPCとしてなど7つの動作モードに対応する。2020年に発売されていた同名機種の後継機に相当する製品だが、当然、数々の改良点がある。

 レノボではこの製品を象徴するスローガンとして「小さく運んで大きく使う」という謳い文句を提唱する。個人的にも「小さなノートを大きく使う」と何十年も前からあちこちで吹聴してきた立場としても、こういったコンセプトを前面に出してくれるのはうれしい。が、レノボが提唱するのは「小さく運ぶ」であって「小さく使う」ことは想定外のようだ。

 レノボ・ジャパン合同会社大和研究所ThinkPadプラットフォーム 第二先進ノートブック開発 マネージャーの中村佳央氏は、以前は、X1 nanoの開発に携わった人物だ。同氏は今回、X1 Foldの開発に際して、技術的に大きなチャレンジをたくさんしたことをアピール。たとえば、前世代機がU字曲げだったヒンジ構造も、雫型曲げに変更されている。これによって折り曲げ時にピタリと折れて可搬性を向上させるという。

 また、折りたたんだ片側に小バッテリ、もう片側に大バッテリを装備する。重量バランスも考えられての配置だ。同時充電同時放電の新しいアーキテクチャを持つバッテリが採用されているという。また、Bluetoothキーボードが同梱されるが、感圧クリックパッドと指紋センサーが実装されているのは珍しいと中村氏はいう。

小さく運ぶだけでなく小さく使えるフォルダブルスマホ

 フォルダブルフォームファクタの最たる特徴は、持ち運び時にはコンパクトで、使うときには広々とした環境が得られるという点だ。そういう意味では折りたたみ傘やかつてのガラケーが身近な存在だ。

 スマホのフォルダブルフォームファクタは、サムスンが熱心で、「Galaxy Z Fold5」などはモデル名から想像できるようにすでに5世代目のフォルダブルフォームファクタだ。サムスンは、これに加えて、「Galaxy Z Flip5」を提案し、縦折りのフォームファクタも提案している。

 スマホの場合は折りたたんだ状態でもある程度のことができて、開くことでさらに広い環境が得られることが求められる。開かないと使えないのではスマホとして著しく実用性が低くなる。だから、縦折りフォームファクタのGalaxy Z Flipは、5世代目で折りたたみ時の外側ディスプレイがグンと大きくなった。

 かと思えば、モトローラは既発売のrazr 40 Ultraに加えて、「motorola razr 40」を、無印バージョンとして投入、外側ディスプレイを最小限のサイズにし、高額になりがちなフォルダブルフォームファクタのコストダウンに成功し、一般への浸透を加速することをもくろむ。

ブームとしてのフォルダブル、実用としてのフォルダブル

 こうしてぼくらの身の回りでは、ちょっとしたフォルダブルブームが起きている。個人的に常用しているフォルダブルフォームファクタは「Google Pixel Fold」だけだが、これはこれで重さだけが気になるものの、出張や旅行には必ず持ち出す愛機となっている。常用スマホの画面がどんなに大きくても、地図を見たり、メディアリッチなページを開いて閲覧するには、もっと大きな画面が欲しくなる。そんなニーズを満たしてくれるのがフォルダブルスマホというわけだ。

 このプラットフォームはAndroid的にも進化の途上で、その対応が進めば、各種アプリはこれからもっと使いやすくなっていくだろう。昨今は、Androidタブレットがちょっとした回帰のブームだが、WAN非対応でGPSを内蔵していないものがほとんどで、モバイル用途ではその便利さが台無しになっている。そんな中で、フォルダブルスマホはあくまでもスマホとして、データ通信、GPSを使った位置情報管理、そして通話もできるという点では、いろいろな点でアドバンテージを発揮する。

 だからといって、あらゆるものがフォルダブルの世界観に収束していくのかといえば、そうはならないと思っている。コストの点でも、まだかなりの追加負担が求められる。

 仮にフォルダブルであったとしても、ディスプレイの内部にPCを内蔵するのではなく、シンプルに折りたたみができるモバイルモニターなら、かなり安くなるはずし、数世代の頭脳の刷新にも対応できそうだ。

 でも、PCのデスクトップとしてフォルダブルモバイルモニターを使うためには、ケーブルで接続するなど一手間も二手間も必要だ。どうせカバンに入れて持ち運ぶのだから、薄くて軽ければ折り畳めなくてもいいやということにもなりそうだ。ぼく自身も、広いデスクトップ環境が欲しいときには、664gの16型モバイルモニターをカバンに忍ばせてでかける。今なお手放せない愛機としてのノートPC 634gの「LIFEBOOK UH-X/E3」とあわせても1.3kg未満だ。ThinkPad X1 Foldはタブレット本体が約1.26kg~(最小構成)で、キーボード+スタンドの627gを加えると1,887gとなりかなりの重装備になってしまう。

 でも、こうしたフォームファクタは使ってみないとその可能性はなかなか体感できないものだ。レノボととしては、とにかく先進的な顧客に使ってほしいと考えているようだが、もうすぐインテルの最新プロセッサー、Meteor Lakeのコードネームで開発が進められてきたCore Ultraが、ニューラルプロセッサを統合して新しい世代のパーソナルコンピューティングの提案で過去40年最大の転換、といったタイミングを考えると二の足を踏む顧客は少なくないかもしれない。

 それでも画面の広さは正義だ。画面の広さは生産効率を格段に向上させる。だが、生産性の向上はAIに任せ、人間は別のことに時間を使うようになるというトレンドもある中で、これからのスマートデバイスのフォームファクタは、どのように遷移していくのだろうかということも、頭においておかなければならない。