山田祥平のRe:config.sys

GoogleのコンピュテーショナルトレンドとPixelシリーズ

 今週は各社が一気にスマホの新製品を発表した。時期が重なったのは偶然もあっただろうし、必然もあっただろう。恒例という意味ではGoogleのPixelシリーズとしてのPixel 7aの販売開始がある。コモディティ化しつつありながら、誰もがいつでも持つカメラデバイスとしての意味合いもある存在になりつつあるスマホだが、Pixelだけは人の暮らしを豊かにするコンピュテーショナルを追求し、カメラ機能はその1つにすぎないと主張しているようにも感じる。

ドコモ参入でバンドを追加

 毎度のことではあるが、とりあえず復習しておこう。これは2022年秋にPixel 7 ProとPixel 7が出たときにも書いた。

 「スマートフォンとしてのPixelシリーズは、秋にProと無印を提供、ほぼ半年後の春に、それをバリューレンジの価格帯に落とし込んだa版を提供してきた。価格はPro、無印、aの順になるが、一般的なハイエンド、ミドルレンジ、ローエンドというわけではなく、コンピュータとしての性能的にはほぼ同一で、得られる体験について致命的な違いがない。ここは特筆すべき点だ。春のタイミングでa版を手に入れたとしても、(半年前の)Proや無印に対して敗北感を感じることはまずない」

 半年前の文言だが、今回もこれを訂正する必要はない。

 2023年春現在のタイミングで、Pixel 7aがサンフランシスコで開催中のGoogle I/Oの基調講演でお披露目され、即座に販売が開始された。日本も例外ではない。2022年秋までとただ1つ違っていたのは、ドコモが扱うことになったという点だ。このことは通信機としてのPixelに影響を与える。

 ドコモが扱うことになったことで、これまでのPixelが対応していなかった周波数として5GのBand n79がサポートされることになった。これはSub-6と呼ばれる周波数帯に属するバンドの1つで、具体的には4.5GHz帯を使い、比較的高出力で広範囲をカバーする基地局で使われている。auとソフトバンクはこの周波数を使っていないが、ドコモが端末を売るとなれば対応しないわけにはいかないという大人の事情があったのだろう。

 通信機としてPixelを見たとき、このn79対応は既存のPixel 7、7 Proに対するアドバンテージとなる。n79に非対応でもLTEではつながるし、場合によってはn78でもつながる可能性はある。ミリ波非対応でも今のところは大きな影響はない。通信ができないというわけではないので不便を感じることはないのだが、いつでもどこでも快適に5Gということを考えれば対応しているに越したことはない。

見る道具としてのカメラと撮る道具としてのカメラ

 今どきのスマホは、通信機であるという面と、カメラであるという面の2面性を兼ね備えたデバイスとして市民権を得ている。もはやカメラ機能のないスマホは受け入れられないだろう。人類が手に入れたコンピュテーショナルな視覚だからだ。

 新製品のスマホが出るときにアピールされるのは、もっぱらカメラ機能であり、通信機能については置いてけぼりにされることも少なくない。場合によってはスペック表に対応バンドさえ記載されていないこともあるし、特筆すべきことでもない限り、最大何Wでの急速充電ができるのか、ポートのUSB規格は何Gbpsなのかといったことも記載されていないことが多い。

 その点、PixelはWebサイトの技術仕様のページに、ほぼほぼ知りたいことが記載されている。個人的にはカメラつきのコンピュータとしてスマホを意識しているので、この姿勢については評価したい。

 さらに、Pixel自身は、カメラ機能を撮る道具としてのみならず、コンピュテーショナルな視覚を持つ見る道具であると認識している。ここが大事だ。

 スマホがコンピュータであるという捉え方をするときに、Pixelシリーズは、Pro、無印、aのそれぞれにおいて、その性能差をあまり感じることがない。体験差が生じにくいのだ。価格の違いこそあれ、ハイエンド、ミドルレンジ、ローエンドという序列が希薄で、コンピュータとしての性能的な違いをそれほど意識しなくていい。安かろう悪かろうとは無縁なのだ。

 もっといえば、半年先には後継機種としてPixel 8とPixel 8 Proがきっと発売されることが分かっていて、しかも、今回の年次イベントGoogle I/Oでは折りたたみスマホのPixel Foldが7月に発売されることも公表された。消費者にとっては本当にフェアで、情報集めをしっかりすれば、賢い買い物ができる。博打はない。ここもPixelの高い評価につながるところだ。

コンピュータの登場そのものよりも大きな意味を持つ今のトレンド

 今回のPixel 7aは、無印の6.3型よりほんの少し小さな6.1型スクリーンで、バッテリ容量はほぼ同じだが、ボディサイズ的には0.3mm分厚く、幅は0.3mm狭いがほぼ同じ、ただ高さが3.6mm低い。重量は無印の197gに対して3.5g軽い193.5gだ。取り回しではその差異をほぼ感じない。

 重量については先代のPixel 6aが178gだったことを考えると、実感としてずいぶん重くなった。比べるとすぐに分かる。個人的にはここは残念だが、本当は半年前の時点で無印が200gを切ったという点を高く評価しなければならないのだろう。

 かつてのスマホシーンにおいては、毎年新しいモデルを出してシリーズを刷新するのが当たり前ではあったが、近年の各社には、それがなかなか難しくなっている。そんな中で、Pixelシリーズは秋に2モデル、春に1モデルをずっと提案してきたし、今年は折りたたみのフォームファクタとしてFoldが増えて、春も2モデルの投入となる。もっといえばタブレットも出る。

 スマホがとても元気で、しかもサイフへのインパクトが今よりずっと小さかった頃のようだ。でも、Androidの旗振り役としては、そのくらいのことをやらないといけないという使命感もあるのだろう。

 ぼくがPixelシリーズを好きな理由の1つは、エンドユーザーに媚びることなく、Googleの姿勢としてのコンピュテーショナルを声高にアピールし、それをデバイスが具現化しているところだ。今回の7aも例外ではなく、先行する無印やProと同じプロセッサGoogle Tensor G2を搭載し、それらと遜色のないコンピュテーショナルな世界観を提示する。

 このことで、ハイエンドスマホが欲しくても手が届かない若い世代はもちろん、スマートデバイスのインテリジェントに価値を見出せない層に対して、コンピュテーショナルがもたらす恩恵を分け隔てなく継続的に体験してもらえそうだ。そして、あわよくば、次のスマホは、少し奢ってもいいかなと思ってもらう動機にもなる。そうさせる確信犯の作為でもある。

 今回のGoogle I/O基調講演では、端末の発表は完全に付録だったように感じた。それでいい。Googleにとって大事なことは、端末を発表することよりも、今起こりつつある、もしかしたらコンピュータの登場そのものよりも大きな意味を持つかもしれない、コンピュータの使い方のコペルニクス的転回をエンドユーザーにアピールすることだ。さらに、そのことの重要性を市井の開発者らに理解してもらい、実際に行動を起こしてもらう。そして世界は変わる。

 いろんな意味で、今年のGoogle I/Oは興味深かった。283gの折りたたみスマホはぜひこの手で触ってみたいけれど、本当に知りたいのは、拡げた状態の7.6型画面を駆使するGoogleのコンピュテーショナルがどこに向かって進んでいるかだ。