山田祥平のRe:config.sys

壁に耳あり障子に口ありをめざすAlexaの存在感

 暮らしを豊かにするデバイスはひかえめでいてくれたほうがいい。目立たずはしゃがず希薄で空間に溶け込むようなイメージだ。空間に話しかければ的確な反応が得られるという体験はじつに未来感がある。空間そのものがコンピュータ。スマートスピーカーは、そんな世界を具現化したが、電源がその存在感を台無しにしてしまってはいなかったか。

コンセントにプラグインできるだけで得られる真のスマート

 AmazonのAlexa Echo Flexは、歴代Echoのなかで、スマートスピーカーの本来あるべき姿を追求した画期的なものだと評価している。なんと言っても、電源アダプタが要らないのだ。Type-CだのUSB PDだのと言っている場合じゃない。電源プラグが直づけになっていて、コンセントにデバイスを差しこむだけで機能する。

 世のなかでもっとも普及している汎用的なインフラとしての電源は、日本の場合、AC100Vの一般的なA型コンセントだ。そこにデバイスを差しこむだけでいいのだからじつにわかりやすいし簡単だ。将来的にはTypeはともかくUSBが汎用インフラに加わって、各国におけるACの電圧やプラグ形状の違いも吸収していくのだろう。

 本当は電源の供給といったことも考えずに済むのが理想だ。だがそれは無理というものだ。バッテリを内蔵するという手もあるが充電の作業はわずらわしい。

 Echo Flexは、電源アダプタそのものを内蔵してしまい、コンセントに直にプラグインできるようにすることで、ケーブルの取り回しとダンゴのようなACアダプタの呪縛からスマートスピーカーを解放した。仮に壁のコンセントから離れた場所に設置したい場合も、汎用的なACの延長ケーブル1本で済む。汎用性というのはすばらしい。これで設置場所のバリエーションは一気に増えるに違いない。

 さらに、Echo Flexには、2つのオプションアクセサリが用意されている。モーションセンサーとライトだ。

 これらのアクセサリも、本体下部に装備されたUSBポートに直に装着することで自動認識して機能するようになる。ケーブルで接続する必要はない。モーションセンサーは動きを検知すると指定したアクションを実行する「定型アクション」に使うことができる。たとえば、人間が近づくとスマートライトをつけるといったアクションがすぐに思いつく。

 ライトは、文字どおりのライトで、明るさや色を設定できる。また照度センサーによって暗くなれば点灯し、明るくなれば消灯する。ただし、音声やアプリで消灯させても、12時間経てば自動に戻ってしまう。自動有効/無効くらいは設定できてもよさそうなものだがそれができない。個人的にはここが不満だ。

人間味と機械味

 最近のAlexaは、ずいぶん賢くなっている。多くのユーザーは音楽を聴くためのデバイスとしてスマートスピーカーをとらえているそうだが、対話ができるアシスタントとしての人間味もとい、機械の味が出てきたように思う。

 たとえば「ささやき声モード」。Alexaに対して「ささやき声モードをオンにして」と頼むとこの機能が有効になる。なにが起こるかというと、ヒソヒソ声で話しかけると、Alexaもヒソヒソ声で返答するのだ。よくまあ、こんなことを考えたものだと感心するし、さらには合成音声だとわかっていても、じつにリアルなヒソヒソ声で、最初に聴いたときには、思わず笑ってしまった。

 ささやきとは真逆のアプローチだが「シンプル応答モード」もいい。これも「シンプル応答モードをオンにして」と、Alexaに頼めば有効になる。そして、話しかけてもおしゃべりしすぎないモードに切り替わる。たとえば「Alexa電気つけて」と頼んだとき、このモードがオフの場合には、「はい」と応えていたAlexaがポンとチャイムを鳴らすだけになる。

 これらの設定は、「オンにして」、「オフにして」でいつでも切り替えることができるほか、Alexaアプリの設定のなかにあるAlesaの環境設定にある「音声による応答」でオン/オフを指定することができる。

 AlexaにライトやTVをつけてもらったときに、正しく理解されたかどうかはライトが点灯したり、TVが映ったりしたことでわかる。だから、答えは最小限でいいというようなときにはこのモードを使うといい。ここでもチャイムさえ鳴らないモードが欲しいと思うのだから人間は欲張りだ。

 残念なのは、このモードは、アカウントごとの設定となっていて、切り替えると、同じアカウントに紐づけた家中のAlexaのモードが切り替わる。家のなかに2人も、3人もAlexaがいるという状況はあまり考えられないかもしれないが、Echo Flexのようなデバイスが出てきているのを見ると、少なくとも部屋ごとに1つずつとかというのは想定してほしい。

 あるいはAlexaがコントロールできるデバイスごとに設定ができるといいと思う。ただ、そこを設定しなくてもAlexaが学習して切り替えることを期待したいところだ。

 とまあ、欲を言えば切りがないのだが、あまりに柔軟に対応できるようにしてしまうと、設定が煩雑になってしまって結局は使われない機能になってしまう可能性もある。それをどう解決するかは、どのAlexaに話しかけるかを特定する手段を含めて今後の課題と言えそうだ。

空間そのものが

 スマートスピーカーはスマートマイクでもある。それ以上でもそれ以下でもない。デバイスそのものがインテリジェントなものだと勘違いしやすいが、実際には、クラウドにある高処理能力のコンピュータとの会話を受け渡ししているだけだと言える。壁に耳あり障子に目ありというか、壁に耳あり障子に口ありといったところか。

 あらゆる処理をローカルで完結させるのは当面難しい。各家庭が処理能力の高いコンピュータをバックヤードで稼働させるというのも考えにくい。だからこそ、クラウドサービスとして実現するのが妥当だ。だからこそサービスプロバイダはプライバシーを重要視する。

 その電子の口と耳が、もっと将来にはどのように環境としての空間に実装され、どのように機能するようになるのか。すでにはじまっているが、これに電子の目が加わり、視角情報の入出力も現実になる。コンピュータは遠く離れたところにあるけれど、目の前の空間そのものがコンピュータのように見える世界の到来だ。やっぱり、その世界を見ないかぎりは死ねないよね。