山田祥平のRe:config.sys

今、ファーウェイを選ぶ理由

ファーウェイの万彪氏(Wan Biao: chief operating officer)

 海外ブランドならHP、Dell、Lenovo、ASUS、Acer、日本のブランドであればNECパーソナルコンピュータ、富士通、東芝、パナソニックと、誰もが知っているベンダーがいくつもある。だが、最後発とも言えるファーウェイを選ぶユーザーが少なからずいるのはなぜか。そして、その彼らは、ファーウェイになにを求めているのだろう。

未完の大器としてのMatebook X Pro

 ファーウェイのPC製品「Matebook X Pro」が発売されて、しばらくの時間が過ぎた。製品そのものは、フラグシップと呼ぶにふさわしい出来映えで、使ってみてもすこぶる気持ちのいい製品だ(高画質な3K狭額縁液晶搭載のファーウェイ製13.9型モバイルノート「MateBook X Pro」参照)。

 誤解をおそれずに言えば、質実剛健だったDellやHPのPCが、エレガントな雰囲気を持つようになった当時を思い出させる。後発だからこその強みと言えばそれまでだが、とにかく所有感が高い製品だ。心配していた日本語キーボードも、以前に評価した英語版キーボード機より叩きやすいように感じられる。もしかしたらなんらかの対策が講じられたのかもしれない。

 エンドユーザーからみたときのファーウェイは、かつてはモバイルルーターで知られているベンダーだったが、Androidスマートフォンやタブレット製品のヒットで頭角をあらわし、2年前の2016年のMWCでとつぜん、ピュアタブレットPCとしてMatebookを発表(Huawei、同社初のWindows 10タブレット「MateBook」を発表参照)、日本でも同年7月に発売された。これが実質的にコンシューマ向け同社初のPC製品だ。

 翌2017年もクラムシェル機でシリーズを拡充、そして、満を持して世に問うたのが、今年(2018年)のMatebook X Proだ。

 ファーウェイの万彪氏(Wan Biao: chief operating officer)は、同社のコンシューマ向けPC製品をリードする人物だ。同氏は、スマートフォンが短い期間で市場に浸透したことで、消費者がこうしたスマートデバイスに質の高い経験を求めるようになったという。技術的にはもちろん、ファッション性なども含めてよりよいものを求めるようになったというのだ。その期待に応えるために、スマートフォンはきわめて速いスピードで発展してきた。

 ところがPCは逆にあまり発展してこなかった。成熟期が長く続いてきた。スマートフォンに比べてむしろ遅れていると万彪氏は言う。だから、ファーウェイは、スマートフォンと同じように、PCにおいてもテクノロジとファッション性をメインに掲げ、スマートフォンと同じような使い勝手、所有感をもってもらえるようにするべきだと考えた。

 従来のラップトップは洗練されていなかったし、エンドユーザーの要求を満たせていなかったとも同氏は言う。だからこそ、同社がスマートフォンで培ってきたコンセプトやデザイン力などをPCに惜しむことなくつぎ込んだ。

 つまり、とんがった人々にとんがった製品を提供するというのが同社の戦略だ。別の言い方をすれば、スキマ狙いの製品企画ということもできるだろう。従来のものを踏襲するのではなく新しいものをとりいれたかったと同氏は言う。

 最初の2年はどちらかというとハードウェア面に重きをおいてきたが、次の一歩としてはアプリとユーザー体験を付加価値として提供し、世のなかがユビキタスの世界に突入しようとしている今、いつでもどこでも接続するための4Gと5G通信機能、さらには、AIのとりこみまで、新しい要素が次々と出てくるなかで、同社の経験やスキルをまんべんなく製品に取り込んでいきたいという。

 そういう意味では4G通信機能さえ持たないMatebook X Proは、まだ未完の大器であるとも言える。

ファーウェイの作ったnoteが見たい

 現在のMatebook X Proは、ポータビリティは十二分に確保できているが、モビリティという点ではちょっと物足りない。13.9型タッチ対応画面は確かに使いやすい。だが使う場所を選ぶ。また、1.33kgという重量も毎日の持ち運びにはヘビーだ。たぶん、持ち運んだとしても移動中にカバンから取り出すことはないだろう。

 PCがコモディティとなった今、製品を差別化するのは、メーカーのコンセプトを具現化するフォームファクタになりつつある。より軽く薄いフォームファクタによってモビリティを確保するような製品づくりはその一環だ。だが、まだ、ファーウェイはその領域にはチャレンジしていない。

 個人的には、今年は30年以上変わってこなかったPCのフォームファクタ、つまり、PCのかたちが変わる年になるのではないかと思っている。LenovoやASUSがすでに開発表明している2画面PCなどはその典型だ。オーソドックスなノートPCは、2in1という寄り道をしてしまったが、ようやく変化の兆しをかもしだしはじめている。

 いろんな意味で、まずは、ベンツやBMWのような高級車としてのノートPCを作ってみたというのがMatebook X Proではないだろうか。その完成度を見ると、ファーウェイが機動性のある軽量小型ノートを作ったらどうなるのかも見てみたくなる。

 高級セダンは持っていて所有感はあるが、軽自動車があれば、小回りのきかない高級セダンでは立ち入れない、より多くのフィールドをカバーできる。もちろんニッチな市場にはなるだろうが、そういうスキマも気にしてほしいとファーウェイにはお願いしたいところだ。

 ちょうど、Surface Goのようなコンセプチャルな製品も発表され、市場にはちょっとした変化も起こりつつある。個人的にはぜひ、ファーウェイが作る「Matenote X Pro」を見てみたい。「book」ではなく「note」がほしいのだ。

 万彪氏に、それを聞くと、社内では検討していることを認めつつ、まだいつと言える段階にはないが期待してほしいという返事が返ってきた。

 小さなPCに注目はしていると同氏。軽くて持ち歩きやすい製品として、2年前に発売した初代のMatebookを挙げる。だが、そこには処理能力の問題や稼働時間の問題があったことを認める。ニッチな市場の開拓は重要で、つねに注目はしているが、ただ、いつそこに参入するかは、戦略としてフォーカスしなければならないため、検討も必要だと用心深い。まずは、主流となるところをきわめていきたいというのが同氏の考えだ。

スマートフォンビジネスの成功体験をPCに活かす

 同氏はこうも言っている。顧客の声に耳を傾けることは大事だが、やはりいかにバランスをとるのかも重要だと。

 コモディティ化するスマートフォンの世界は、カメラばかりに各社が注力している。そんななかで、ファーウェイは存在感をいきなり高めたわけだが、それはマーケティングのおかげか、商品企画の功績なのだろうか。

 万彪氏は、ファーウェイがマーケティングを強みとしてきたことはないと断言する。同社はテクノロジとイノベーションの会社であり、同社のスマートフォンが認められたのは、この3年間、カメラ、通信性能、稼働時間というスマートフォンにとって重要な複数の要素にフォーカスしてきたからだという。それがバランスであり、そのおかげでスマートフォンが売れたという。

 売れたのは決してマーケティングの成果ではないと同氏。ファーウェイはあまりマーケティングにはお金をかけない会社であり、ワールドカップにしても、どうしてファーウェイはスポンサーをやらないのかと聞かれるそうだが、製品の中核的な競争力こそが重要だと考え、イノベーションや研究開発にお金を使うのが大事と考えるのだそうだ。

 今、ファーウェイを選ぶユーザーが持っているのは、その姿勢への共感であり、こうしたニッチに市民権を与えるダイナミックな製品を着実に1つずつ提供しようとしていることへの支持ではないか。

 企業の大量導入に確実に応えなければ生きていけないほかのPCベンダーとはちょっと異なる戦略。PCが20年以上かけて繰り返してきた成功も失敗も、両方をなぞりながら、スマートフォンは短期間で成熟期に達した。そのスマートフォンの成功を、うまく失敗を避けながらPCの再活性化に導こうとしている。最後発だからこそできること。今のファーウェイのビジネスはそんなイメージだ。