山田祥平のRe:config.sys

スマホオーディオは目方でドーン!

 オンキヨーから近日発売されるハイレゾAndroidスマートフォン「GRANBEAT」。発表会にも参加してその実力が知りたかったので、評価機をお借りしてみた。そしてその自慢の音を聞いてびっくり。これはもう異次元のデバイスだ。常識をくつがえすのではなく、これは新しい常識だ。

スマートフォンでもない、プレーヤーでもない何か

 オンキヨーではこの製品を「Digital Audio Player × Smartphone」と位置付けている。オーディオプレーヤーでもなければ、スマートフォンでもない。両者を掛け合わせた新しい何かということだろうか。だが、このデバイスをスマートフォンと呼ぶこと自体、何か違っているようにも思う。

 とにかく筐体は重い。ズシリとくる。画面サイズは5型なのに、厚みは11.9mmある。そして重量は234gだ。これはもうスマートフォンの数値ではない。例えばiPhone 7は4.7型、厚さ7.1mm、138gだ。実際にはそこまでいかないにせよ、ちょっと大げさだがiPhone 7を2枚重ねにしたようなものと思えば、そう遠くはないイメージが得られるだろう。

 ボリュームはロータリーダイヤル、前曲、再生/一次停止、次曲のボタンを装備する。これだけでスマートフォンじゃないということを痛感する。

 また、イヤフォンジャックとして一般的なイヤフォン端子に加えて、バランス出力を持っている。ヘッドフォン、そしてLINE出力が想定されている。一般的なイヤフォンジャックは、LとRのステレオサウンドを3本の結線で鳴らすが、バランス出力は4本使う。そのメリットはさまざまなものがあるが、個人的にはアースの安定化に貢献することで、より良い音が得られるのではないかと考える。

 これはやりすぎだろうと最初は思った。でも違った。評価機と一緒に貸し出されたヘッドフォンは、パイオニアのSE-MHR5だったが、このヘッドフォンはバランスとアンバランスの2種類の入力ができる。超高級ヘッドフォンというわけではないのだが、それでも、両者の違いは明らかだということを身をもって体感できる。証拠を叩きつけられたのだ。

 人間の目や耳というのは、とても優秀で、いろいろなものを補完してつじつまを合わせることができる。今さらDVDの映像なんて見れやしないと思っていても、たぶん3分も見ていたら、それに慣れてしまう。音だって同様だ。アナログ電話の周波数帯域なんてたかだか300~3,400Hzだが、それでもちゃんと息づかいまで聞こえてくる(ような気がする)はずだ。

 ポータブルであるということで機構、構造上、妥協をせざるを得ない造りになっていても、最終的には人間が補完するのでなんとかつじつまがあっている。それが、これまでのポータブルオーディオだった。モバイルノートPCと似たところもあるかもしれない。

 GRANBEATは贅沢にも2つのDAC、2つのアナログアンプを実装した基板を、スマートフォン部分とは分離して配置している。これによってオーディオに悪影響を与えるはずの通信に関する要素を排除しようとしているのだ。メニューにはStan-alone modeというものまで用意されている。

 これは、Wi-Fi、Bluetooth、GPS、音声通話、データ通信、液晶表示をオフにするというものだ。つまり、スマートフォンであることを捨てるモードだ。これが機内モードとは別に用意されているということは、何らかの工夫で完全な切り離しを実現しているのだろう。

234gに凝縮されたオーディオの極み

 とにかく贅沢な実装だ。ここまでやるならスマートフォンである必要はなさそうなものだが、熱心なオーディオファンは毎日の暮らしの中で、スマートフォンも音楽プレーヤーも両方持ち歩く。そして、それなりのイヤフォンやヘッドフォンもだ。その束縛から解き放ち、全てが1台のデバイスの中に収まるのなら、多少の重量増は許されるのではないか。

 実際、オーディオファンは、スマートフォンにポータブルアンプを接続するなどして、少しでもいい音を聴こうと涙ぐましい努力をしてきたのだ。

 とにかく音に悪影響を与える要素は、できるだけ排除できるようにし、それでいて決して捨てない。一体型デバイスとしてではなく、分離したコンポーネントを1つのデバイスにまとめたというところにその発想がある。矛と盾、そして火と油を融合させようというのだから大変だ。

 GRANBEATの実力をフルに引き出して音楽を楽しむには、やはりハイレゾ音源が筆頭に挙げられるし、オンキヨーもそれを推したがっている。同社はe-onkyoのようなハイレゾ音源配信サービスを擁し、その推進にもっとも熱心なメーカーの1つだ。

 個人的には、ハイレゾ音源にはまだうさんくささがあって、そう熱心に取り組みたいとは思わない。というのも、音源の素性が明らかにされていないものが多すぎるからだ。それをぼくは「なんちゃってハイレゾ」と呼んでいる。単に見かけのビットレートを上げただけで、その中味はお粗末なものというのもあるんじゃないか。だから、ぼくは、今なお、音楽はCDで購入している。少なくとも、現時点で配信されている音楽の中ではもっとも安定した水準の音源が得られるからだ。

 GRANBEATで音楽を楽しむ場合、その音源がたかだか256Kbps程度のものだったとしても、十分な恩恵が得られるだろう。YouTubeでさえそうだ。次元の異なる音が得られる。

 DACやアンプは、デバイスベンダーから買ってきた石を実装してしまえばすむが、その実力を活かすためには想像を絶するノウハウ、そして技術が必要だ。そこで手を抜いてしまうと単なる高い買い物になってしまう。

 下衆の勘ぐりと言われることを承知で言えば、GRANBEATはここまで高級なICを使わなくても、納得のいく音は確保できたのではないかとも思う。でも、マニアが知る著名なICを実装しているという事実、それもまた音のうちだ。

 定評のあるICをノウハウの凝縮されたワザで実装し、それをしっかりした電源で駆動し、あの手この手で通信要素の悪影響を排除する。そこまでやれば、234gは納得のできる重さだと、そう思ってくれるユーザー層は、スマートフォンの選択肢の1つとしてGRANBEATを評価するだろう。

 そして、自分のライフスタイルの中で、日常、持ち歩くものを足し算してみた結果、それが1つのデバイスに集約され、これまでよりも良い結果が得られるのなら許そうと考える。GRANBEATはそんなユーザーが選ぶデバイスだ。決して万民がこぞって飛びつくデバイスではない。

 オンキヨーはオーディオ技術については長けているが、通信機技術については新参者に近い。だから、GRANBEATではその技術を富士通に求めた。つまり、このデバイスにはオンキヨーのオーディオ技術と富士通の通信機技術が凝縮されている。「Digital Audio Player × Smartphone」は「オンキヨー×富士通」と言っても良いだろう。

 ソニーのように両方の技術に長けているベンダーが作ったデバイスではないところが功を奏しているようにも感じられる。排除と融合がギリギリのところでせめぎあっていることがよく分かる。開発過程でどんなケンカがあったのかが気になるところだ。そりゃ、両者ともに一家言を持っているに決まってる。

 今回、GRANBEATを評価して、ヘッドフォンジャックのなくなったiPhone 7の、標準アクセサリケーブルのサウンドが、どうにも耐えられなく感じられるようになった。これも慣れでなんとかなるのだが、両者を併行的に比べてしまうともうどうしようもない。でもきっとすぐに忘れてすぐに慣れるのだろう。

 そりゃそうだ。オンキヨーが234gにかけた情熱はハンパじゃない。アップルがたかだか数gのケーブルにDAとアンプを詰め込んだ技術もやる気もすごいと思うが、それとは対局にあるところで、音が追求されている。比べる方が間違っているということだ。

 Androidスマートフォンで音楽を聴くことはほとんどなかったのだが、これを機に、ちょっと試してみようと、手元のいくつかのデバイスにALAC音源を転送して聴いてみた。悪くない。各スマートフォン、ともに、多くの制約の中でがんばっているんだなと、ちょっと感動した。

 この連載が、少なくとも手元の連番で、今回700回目を迎えた。2004年5月の開始なので、もうすぐ13年だ。ご愛読いただいてきたことに感謝するとともに、引き続きよろしくお願いしたい。