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ソニーが成し得なかったことを遂げたオンキヨーの「GRANBEAT」

 オンキヨー&パイオニアイノベーションズ株式会社は26日、高音質スマートフォン「GRANBEAT」を発表した。都内では記者説明会が開かれ、製品開発の背景と特徴、そして開発密話が語られた。

 冒頭では、オンキヨー&パイオニアイノベーションズ 代表取締役社長の宮城謙二氏が、製品開発の背景ついて説明。オンキヨーの音楽配信サイト「e-onkyo music」でのハイレゾ音源の配信数が、2011年の約1.6万曲から、2016年で約27万曲に増えたことを踏まえ、2017年には30万~40万曲に達す予定であることを報告した。

 e-onkyo musicでのハイレゾ音源の配信は実に2005年まで遡る。globeの小室哲哉氏の「マスター音源をネットで配信する」というアイディアのもと、わずか11曲からスタートした。それが今やハイレゾ音源の認知度は高まり、高級オーディオプレーヤーのみならず、高級ヘッドフォンなど、ホームオーディオ市場全体で3兆2,000億円規模の市場が形成されている。

 しかし、オンキヨーはこれまでオーディオコンポやサウンドバーといった据え置き向けのビジネスを中心に展開してきたが、これらは上記のホームオーディオ市場のうちわずかしか占めていない。今やホームオーディオ市場の主役はデジタルオーディオプレーヤーやヘッドフォン/イヤフォンといったポータブルオーディオ市場である。

 そこでオンキヨー&パイオニアは、ステップ1として2015年に高音質ポータブルオーディオプレーヤー「DP-X1」を投入。これは成功し大きな反響を得たが、ユーザーの多くはスマートフォンで音楽を楽しんでいるという事実がある。そこでステップ2として、さらなる市場拡大に向け、スマートフォン市場に進出する方針を固めたという。

 GRANBEATという名前はGRANDとBEATの造語であるが、鼓動、心臓の鼓動、音楽のビートを示し、ユーザーの心を大きく突き動かそうというコンセプトのもと開発したという。また音質に加え、利便性を追求した製品がGRANBEATであるという。

宮城謙二氏
e-onkyo musicサイトにおけるハイレゾ音源の配信数
ホームオーディオ市場の大半はポータブルであり、音楽を楽しむユーザーのスマートフォンの比率は高い
GRANBEATのコンセプト

最高音質のスマホを目指して

土田秀章氏

 続いて製品の投入の背景や機能について、オンキヨー&パイオニアイノベーションズ ネットワークサービス事業本部 本部長の土田秀章氏が説明した。

 NVMOの台頭により、SIMロックフリーのスマートフォン市場は拡大し続け、今や市場の10%がSIMロックフリーであるといい、2017年3月度で300万台規模に迫るという。そしてスマートフォンでは音楽ストリーミングサービスの利用者も多くなってきており、移動中でも音楽を聴くユーザーは多いものの、今のスマートフォンの音質では音楽愛好家(ミュージックラバー)を満足させられないという。

 オンキヨーは70年もの歴史を持つHi-Fiブランドであるが、そこでそういった不満を持つユーザーのためにオンキヨーが何をできるかということを、原点に立ち返って考え、開発したのが、今回のGRANBEATであるという。

 「今までのスマートフォンの中で一番いい音が出せるスマートフォンを、オーディオメーカーとして考え設計した。ハイレゾ音源のみならず、ユーザーが自身でリッピングしたCD音源、MP3などの圧縮音源、そしてストリーミングでさえも、ほかの端末より良い音を実現する。これが私達の提案、答えである」とアピールした。

スマートフォン市場の遷移
ターゲットユーザー
スマートフォン史上最高の音質を目指した
オンキヨーの答えであるという

 設計に当たって注力したのはもちろん音質である。音質を疎かにしたら製品として成り立たない。「2015年に発売したDP-X1だが、その質と機能をそのままにSIMを内蔵したいという思いは当初からあった。しかし、今回の製品はオーディオプレーヤー専用機のDP-X1と同等、もしくはそれ以上を目指さなければならないと思った。筐体はこれまでのスマートフォンとは一線を画すアルミブロックからの削り出しだが、薄さではなく、音にこだわった結果こういった(重厚感のある)筐体となった。しかしこれが製品の個性を主張するところだと考えている」という。

 技術面では、基板にこだわった。スマートフォンという電波を発する機器の中で、いかに高周波ノイズを排除するかが課題となった。そこでDP-X1と同じく、筐体内で演算処理などを司る部分と、音質に関わるアンプ部分を分離。さらに、シンメトリー形状でループを極限にまで減らし、新開発のシールドを施すことによって、電波の影響を受けない回路を実現したという。

 カタログスペック値ではS/N比が115dBだが、社内のエンジニアの実測値では121dBを実現しており、これはDP-X1とほぼ同等だという。また、電波のオン/オフ時両方で測定してみたが、オン時でも測定誤差程度にまで追い込んだとした。

 このほか技術面では、aptX HDの対応によりBluetooth経由でも高音質で再生できる点や、シンクパワーが提供する歌詞データベース「プチリリ」と連携して歌詞をリアルタイム表示する機能、スマートフォンとして基本スペックも充実している点を挙げた。

GRANBEATの設計思想
完全分離した基板構成
オーディオプレーヤーとしての性能
ハイレゾ音源の購入→ダウンロード→再生までをPCレスで完結
Twin DAC構成によるフルバランス回路設計
DP-X1Aのノウハウを投入
スペックではS/N比115dB以上としているが、インハウスのテストでは121dBを実現
Bluetoothでも48kHz/24bitの再生が可能
ネットワーク経由でシンクパワーが提供する歌詞を表示する
大容量バッテリの採用
スマートフォンとしての性能や機能も妥協していない
標準で128GBのストレージを持っているほか、microSDにより合計384GBまで拡張可能
デュアルSIMデュアルスタンバイに対応
発売時期や販路など

ソニーXperia Z2で成し得なかったもどかしさ

黒住吉郎氏

 発表会の最後は、ゲストとして楽天株式会社 楽天モバイル事業 チーフプロダクトオフィサーの黒住吉郎氏が登壇した。もちろん、これは楽天が率先してGRANBEATの販売を展開している背景もあるのだが、実は黒住氏は開発のコンセプト段階から本製品に深く関わってきたという。というのも、同氏は元々ソニーモバイルの社員で、ソニー・エリクソン時代から携帯電話(ウォークマンケータイシリーズ)やスマートフォン(Xperiaシリーズ)の開発に関与していたからだ。

 Xperiaシリーズでハイレゾ音源に対応したのは、2014年の「Xperia Z2」だ(僚誌ケータイWatchの黒住氏へのインタビュー記事はこちら)。しかしXperia Z2がハイレゾ音源に対応したというのはあくまでもソフトウェアの部分であって、ハイレゾ音楽を聴くためにはMicro USB経由で外部にハイレゾ対応のDACをユーザーが自ら用意して接続する必要があった(編集部注:後のソフトウェアアップデートでヘッドフォンからのハイレゾ出力も対応した)。黒住氏はそこにもどかしさを感じていたという。

 今回オンキヨーがGRANBEATを開発するにあたって、そこは妥協しないようと願った。「音が大前提の製品なので、あえて薄さや軽さを重視しなくてもいい。音にこだわった結果このぐらいの大きさと重さになったのだからそれはそれでいい。スマートフォンだから音の回路を減らした、ノイズの干渉を妥協した、DACも妥協した、それでは意味がない。DP-X1の音質をそのまま、もしくはそれ以上を実現しなければ、製品の価値はない」。そういった意味では、GRANBEATは黒住氏がソニーモバイル時代にやりたかったものを具現化した製品と言えるだろう。

 ちなみに気になる音質であるが、今回の発表会では大友康平さんの「ff(フォルティシモ)」という曲が入った実機で短時間ながら試聴できた。ヘッドフォンはパイオニアブランドの「SE-MHR5」である。

 筆者はそもそもPC Watchの人間であり、音質について語れる人間ではないし、ffも初めて聞く曲で、SE-MHR5も初めて試すヘッドフォンであるため、これだけでGRANBEATの音の良さを評価できないと思っている。

 しかし、ホワイトノイズが極めて少なく、S/N比が高いというオンキヨーの言い分は、再生してすぐに実感できた。スマートフォンとしてのスペックもなかなかのものなので、これが10万円を切る製品であることを考えると、コストパフォーマンスは高いと言えるだろう。