山田祥平のRe:config.sys
新レッツノート未踏のチャレンジ
2017年1月13日 06:00
レッツノート XZ6が発表され、いよいよ着脱式2in1PCのカテゴリがおもしろくなってきた。発表会では、ドローンに載せられて実機が登場、会場を沸かせた。ドローンを囲いのネットなしで飛ばすデモンストレーションは寡聞にして過去に知らない。いろんな意味で桁外れのお披露目だ。
Uプロセッサ搭載での軽量化
「12型以上の画面を持つTDP 15W以上のCore i シリーズプロセッサ搭載の着脱式ノートPCにおいて、2017年1月12日現在、世界最軽量の約1.019kg(タブレット部単体では約550g)」、ちょっと条件が多すぎる気もするが、これがこの製品を象徴する。TDP 15Wは、要するにUプロセッサ搭載と考えればいい。しかも画面のアスペクト比は3:2となっていて縦でも横でも使いやすそうだ。
MicrosoftのSurface Pro 4はアスペクト比3:2の12.3型液晶搭載着脱式ノートPCだが、タブレット部分が約766gで、これに純正のタイプカバー310gを組み合わせると1076gとなり、わずかに重い。
NECパーソナルコンピュータのLAVIE Hybridは、410gの本体にキーボードを組み合わせると798gで大幅に軽量だが、画面サイズが11.6型でわずかに小さいしTDPも4.5Wだ。アスペクト比が16:9というのも残念だ。
先日のCESで発表されたサムスンのNotebook 9は、13.3型で799gと、かなり魅力的だが着脱式ではないし、画面も16:9だ。
12.9型のiPad Proは、4:3のアスペクト比で画面は一回り大きいが重量は723gある。
こうして競合機と思われる各社製品の仕様を調べてみても、とりあえずは、今回のXZが仕様の上でもよく頑張っていることが分かる。
もっとも、XZ6のキーボードベースは、これまた着脱式のバッテリを装備しているが、このバッテリにはLとSの2サイズがあり、Lサイズ装着時は90g増える。逆に言うと、バッテリを装着しなくても、本体内蔵バッテリのみで4.5時間駆動できるので、約820gの2in1 PCとなる。個人的には1kgを超えるようなデバイスは、もう、モバイルとは言えないと考えることも多いし、あくまでも薄型軽量を追求するLAVIE Hybridの薄さ、軽さはとても魅力に感じているが、それを前提にしても、実際にXZ6の実機を手にしてみると、かなりそそられる。そこには実用のことしか考えていないという哲学も感じる。
既存パイの覚醒
なぜ、これほど着脱式にこだわるのか。やはり、圧倒的なシェアを誇るiPadの牙城を崩すという命題があるのだろう。ただ、iOSのiPadだけで仕事はできないと考える現場は少なくなく、結局、iPadに加えて、ノートPCと、スマートフォンの3台持ちというケースは珍しくないそうだ。
XZ6の発表会には、インテル日本法人社長の江田麻季子氏がゲストとして登壇し、興味深い数字を紹介した。
まず、日本国内には、約6,000万人の就業者がいるそうだ。その6割の3,600万人がオフィス以外の現場で作業をするフィールドワーカーで、そのうちPCの利用台数は6分の1の600万台程度だという。引くと3,000万。さらに残りの2,400万人がオフィスワーカーだが、1人1台のPCを使っているにしても、その70%がPCを外に持ち出せない環境にいる。ということは、ここで1,680万。合計すると4,680万。
つまり、軽くてもパワフルなモバイルPCは、4,680万台の潜在需要があるということだ。今はそれが眠っているだけだ。だから覚醒する。特にフィールドワーカーの多くは、軽量タブレットとして使えるデバイスを望む。そして、管理する側も、エンドユーザーに与えるデバイスは数を減らしたいと考える。必然的に最大公約数としてのWindowsデバイスに収束していくわけだ。
【お詫びと訂正】数字に対して説明が不足している部分がありましたので修正いたしました。お詫びして訂正させていただきます。
今後、QualcommのSnapdragon搭載のフルWindowsタブレットなども市場に出てくるだろうし、ハンドセットスマートフォンでフルWindowsというのも現実的な解として創造に難くない。パナソニックとしてもこの路線を考えていないはずがないだろう。でも、その領域との棲み分けのためにもUプロセッサ搭載は正解だったと思う。これがYプロセッサ搭載だったら、そして、着脱式でなかったら、もう少し軽量になっていたかもしれないが、それをしなかったことで、きっと、新たな市場を拓くことができるというもくろみがあるのだろう。
綺麗を気にする
発表会後に、パナソニック株式会社 AVCネットワーク社常務 ITプロダクツ事業部 事業部長の坂元寛明氏と、わずかな時間だが少し話をすることができた。この4月からAVCネットワークはコネクティッドソリューションに、ITプロダクツ事業部は、モバイルソリューション事業部と組織名を変えることになっているが、既報の通り、ますますB2Bへのシフトを目指しているという。
これからは、優れたハードウェアを提供するのみならず、それをどのように使うかを今以上にきちんと提案していくことが必要だと坂元氏は言う。そのためにはどんなニーズにも応えられるだけの性能の高いハードウェアを用意しなければならない。だからこそ、Uプロセッサの搭載は必然だったとも。2月の発売は、春からの商戦スタンバイにもタイミングがよく、間に合ってよかったと坂元氏は言う。ちなみに、同社開発センターの谷口尚史氏とも発表会後にメールをやり取りしたが「Yプロセッサーだったらヤバかったかもしれません」と漏らしている。
また、目が離せない存在として、坂元氏はHuaweiの名を挙げた。HuaweiがWindows PCの領域に踏み込み始めたことが、今後、大きな脅威になることも想定され、常に、研究しているのだという。CESでは、HuaweiのWan Biao氏(同社President, Mobile Broadband and Home Device Business CBG)の話を聞くことができたが、同社はMatebookについてはプレミアム路線を貫くことを宣言している。いわゆる格好いい所有感のあるPCであることが重要だとする。
これまでと同様、レッツノートはその正反対の場所にいると言っていい。それでも坂元氏は、正反対の位置にいながらHuaweiを気にする。今後の、コンシューマライゼーションのトレンドを考えると、その方面についても、無視することはできないということなのか。それとも、もっと別の理由があるのかどうか。
これまでも、そして、今回発表されたものも、ほかのレッツノートは画面にAGフィルムを貼っている。だが、XZだけはARフィルムを貼るのだそうだ。そのため、画面の見栄えは失礼ながらレッツノートらしくない。ちょっと綺麗なのだ。タッチの感触もすこぶる今風になった。このあたりの路線変更を見ても、ハードウェアとしてのレッツノートが、これまでとは多少異なる方向性を持ち始めていることを想像させる。