山田祥平のRe:config.sys

百均アクセサリはその素性を明記せよ

 USB Type-Cケーブルがついに百均に登場という話を聞きつけて、早速入手してきた。ついに新しい時代に突入だ。百均デビューは、ある意味で、デファクトスタンダードに向かうしきい値のようなものだと言える。

USB Type-Cケーブルが百均デビュー

 いくつかの百均を探してみたが、今のところ、セリアだけが扱っているようだ。セリアは、デジタルガジェットの品揃えがほかの百均とはちょっと違っているので、わりと熱心に通っているのだが、今回は見逃してしまっていた。

 店頭に並んでいたケーブルは、片側がUSB Standard A オス、もう片側がUSB Type-C オスのプラグを持つ約50cmのものだ。黒と白の2色が並んでいた。もちろん税別100円だ。

 パッケージから分かることは、

1. USB 2.0ケーブルであること
2. 充電とデータ転送ができること
3. USB Power Delivery(PD)には非対応であること

という3点だ。また、注意書きとして、Type-C搭載タブレットの充電には、2.1A以上の充電器を使うようにと記されている。

 スマートフォンとPCの間のデータ転送は、ほとんどクラウドを経由してやっているので、そのスピードについてはあまり考えたことはない。だからスピードを期待できないUSB 2.0であってもまったく問題はない。だから、1と2はどうでもいいといえばどうでもいい。それに充電については、USB 2.0でも3.xでも変わりがない。

 また、3については、PD対応ケーブルは認証が必要なので、いくらなんでも百均に並ぶ製品のコストでは当面難しいだろう。

 USB AオスとType-Cオスのケーブルは、今のところ、もっとも潰しが効くと言ってもいい。まだ、充電器そのもので、USB Type-C端子を持つものはそれほど多くはなく、あっても端子が1つしかなかったりする。手元のノートPCも、USB Type-Cポートを持つものはまだない。パブリックスペースにあるようなインフラとしても一般的なものはUSB Aメスだ。ラスベガスで見つけたカジノのスロットマシンにもUSB Aメスの充電ポートが装備されていた。

 それに、Type-C経由での充電の規格が、これからどのように推移していくかが、分からないので手を出しにくいということもある。最終的にはUSB PDに落ち着くと思っているが、当面、過渡期は続くだろう。

 とりあえず、ケーブルの素性が不安なので、発売元の丸七株式会社に問い合わせてみたところ、このケーブルには56KΩの抵抗が実装されているということだった。つまり、充電の規格としては、USB Battery Charge(BC) 1.2対応ケーブルであるということが分かる。

 USB.orgでは、片側がType-A-片側がType-Cのケーブルには56KΩの抵抗を実装するように規定していて、その場合は、BC1.2規格での充電をするとされている。この規格では、電圧は約5Vに固定、最大1.5Aの充電となる。電力でいうと最大7.5Wだ。

 逆に言うと、56KΩの抵抗を実装していることで、充電器とデバイスの双方がきちんと規格に準拠していれば1.5A以上の電流は流れないということだ。パッケージの注意書きでは2.1Aの充電器の使用について言及されているが、デバイスと充電器さえしっかりしていれば1.5Aしか流れない。その電流に耐えられるケーブルであるということで、むしろ過電流が流れて火災や機器破損が起こる可能性がない分安心だ。

テクニカルスペックは必要

 百均に並ぶケーブルに過度な信頼を寄せるのは無茶という忠告をよく受ける。Micro USBの時代は、それなりにトラブルを経験したし、以前書いたように、充電器のせいなのか、ケーブルのせいなのか分からないが、出張先で煙を吹いたこともある

 今回、このケーブルを見つけた百均チェーンのセリアは、上記の記事で書いたように、延長コードをリコールしたことがある。百均を信じるか信じないかは、それぞれの判断だと思うが、以前、書いたようにやっぱりこれなら大丈夫と安心できる指針はあった方がいい。

 このケーブルには、USB 2.0対応、USB PD非対応という2つのテクノカルスペックが記載されている。だが、56KΩ抵抗実装済みのUSB BC 1.2対応ケーブルというスペックは、ここから読み取ることはできない。だから問い合わせるしかなかった。でも、その1行をパッケージの裏に書いておいてくれれば、消費者の一部は納得して購入することができ、そして、身の回りの人に、きちんと説明して薦めることができるだろう。多くの一般消費者にはチンプンカンプンな規格説明かもしれないが、それが書いてあるとないでは大違いだ。作っている側の意図がきちんと分かることが重要だ。

 今後、さまざまな長さ、規格のケーブルが出てくると思うが、ぜひ、こうした点に気を遣っていただければと、今回の製品の発売元である丸七株式会社をはじめ、今、商品企画をすすめている各社に強くお願いしたい。それに、細かい仕様が明記されているだけで、高い信頼感を得られるはずだ。

 今回は、5本を調達して、正常に充電できることを確認した上で、持ち出す可能性のあるカバンや小物入れに常備した。価格が安いのでそれができるのはうれしい。まだ、長期間使ったわけではないので、その耐久性などについては未知数だが、百均だから、被覆のめくれなど、少しでも破損したら買い換えればいい。それが気軽にできるのが百均商品の魅力だ。

今も昔も、そして将来も悩みのタネはバッテリ

 近い将来、充電は、長時間、ずっと続けるものではなく、出かける直前とか、バッテリが空になった時に、数分間でアッという間に満タンまで持っていけるような超急速充電が当たり前になるだろう。先日のCESでも、Qualcommの基調講演で流れたデモ映像で、ハイキングに行く準備をしている人物が、バッテリが尽きたスマートフォンをワイヤレス充電台に置くとみるみる充電が進み、支度をしている短時間で満充電になったスマートフォンを持って出かける様子が描写されていた。

 少し先の未来には、こんな具合に、身につけるデバイスが常時満タンを維持しようという時代ではなくなる可能性が高い。だから、ベッドで充電しながら使うのに便利なように、長くて取り回ししやすい細い充電ケーブルといったものは無用の長物になるかもしれない。

 テクノロジーの進化は、人々の暮らしにさまざまな変化をもたらすし、それは、百均のような身近なショップの品揃えにも反映される。いわゆるデジタルガジェットが電気製品である限り、それを使うためには電力が必要で、それは今、バッテリに頼らざるをえない。そのバッテリをいかに安全に、そして、使いやすく実装するのか。それはデバイスメーカーを信頼するしかない。

 昨年(2016年)は、Samsungの「Galaxy Note 7」がバッテリの発火事故で生産終了に至る事件があった。原因の調査に長い期間がかかってしまったが、その詳細も、そろそろ発表されるタイミングだ。Samsungには、きちんと状況を説明し、今後、同社が発売するデバイスを安心して使えることの証明を期待したい。それができるかできないか。同社にとっては正念場とも言える。

 万が一の事故があれば大惨事に繋がるのが充電関連だ。百均とは言え、その一部機能を担う以上は、製品の仕様をきちんと明記するようにして欲しい。そうでなければ、できること、できないこと、してはいけないことが分からない。