山田祥平のRe:config.sys

SIMロックを解除しなくちゃ便利に使えないなんてどこがスマートなんだ

 できればSIMなんて出し入れしたくない。出し入れしないならSIMロックの状態などどうでも良いはず。でも、高額なローミング料金がそれを許さない。そこに喝を入れるべく、auの新ローミングプランだ。

ハードルの低い台湾現地SIM購入

 久しぶりにauの端末を新規契約で購入した。ただ、新規契約なので半年はSIMロックを解除できない。購入直後の今は、COMPUTEX取材のために台湾・台北に滞在しているが、せっかくの新端末をここで使えない。なぜならローミング料金が高すぎるからだ。

 台湾は、もっとも現地SIMを購入しやすい国の1つだ。利用したのは羽田-松山便だが、着陸して、預け入れ荷物受け取り所で荷物を受け取って外に出ると、現地最大手キャリアの「中華電信」のカウンターがあり、簡単にSIMを購入できる。もう1つの大きな空港である桃園空港には、大手キャリアやMVNOが揃っているようで、キャリアもより取り見取りのようだが、個人的には街に近い松山空港が好みだ。

 今回も、荷物を受け取ってすぐにカウンターに向かい、そのタイミングで到着した乗客の中では一番乗りでカウンターにたどりついた。7日間データ無制限定額で、150NTドル(1NTドル=約3.3円)分の通話代が含まれるSIMが500NTドルだった。今の為替レートだと1,700円程度だろうか。7日間プランは、8日目の23時59分まで有効なので、今回の7泊8日にはぴったりだ。SIMを抜き去り、インストールしてあったMVNO用のプロファイルを削除したiPhoneを、日本語言語のままで渡したら、SIMを装着して渡してくれた。すぐに4Gで繋がった。

 本当は、継続的に評価しなければならないデバイスがあって、同じキャリアのSIMを3枚欲しかったのだが、そのことを伝えると、パスポートは3枚あるかと言われた。もちろん冗談でだ。聞くと、パスポート1枚につき、SIMは1枚までと決まっていると説明された。

 仕方なく1枚であきらめて、地下鉄に乗って市街地のホテルに向かう。中華電信がLTEのサービスをプリペイド向けにスタートしたのは、2015年のCOMPTEX開催期間とほぼ同時期だった。空港では未対応だったので、市街地のキャリアショップで容量付きプランのSIMを購入したが、今回はそんな手間も必要なかった。それに、去年は地下鉄で上手く繋がらないといった問題が散見されたが、今年は見事に不具合が解消されている。

 そしてホテルに到着。ロビーもないようなみすぼらしいホテルだが、こともあろうにカウンターに「中華電信のSIMあります」のPOPを発見した。空港カウンターが混雑しているなどで、すぐに買えそうになければ、ホテルに到着してからでも同じものが買える。

 ぼくは、複数枚のSIMがほしかったので、ここでも同じものを購入した。もちろんパスポートの提示は必要で、あとでパスポート番号重複などの面倒なことにならないことを祈りつつ、もう1枚のSIMをゲットした。さすがにホテルのカウンターではSIMを売るだけで、ノーサポートだが、さすがに最大手キャリア、設定不要で装着するだけで繋がるのだから、サポートは必要ない。

 とまあ、こんなに簡単なら、往路の飛行機内で売って欲しいくらいだが、パスポート提示などのことを考えるとちょっと難しそうだ。でも、そのくらいハードルが低いということで、観光で台湾を訪問するなら、この国の現地SIMは誰にでもお勧めできる。

リーズナブルなローミングプランがauから登場

 その台湾滞在中に、auが発表会を開催した。そこで発表されたのが「世界データ定額」だ。

 これは、日本国内で日常的に使っているプランのデータ容量を、1日あたり980円で海外でも利用できるというものだ。しかも免税だ。ほかのキャリアを含め、これまでのデータローミング料金に比べてとてもリーズナブルな施策だと思う。

 具体的な利用についてはここにあるが、利用開始から24時間に区切られているため、時差を気にする必要がないことや、予期せぬ出費がないのはうれしい。使い始めるためには、専用アプリで「利用開始」をタップするだけだ。

 現地SIMの調達には時間と手間、そしてエネルギーが必要だ。それが1タップで済む。これはうれしい。仮に現地SIMを調達するにしても、それまでの繋ぎとして有効だ。

 残念ながらサービス開始は8月なので、今回の台湾滞在には間に合わなかったが、短期の滞在ならこれで十分だ。それにSIMロックを解除する必要もなければ、面倒なSIMの入れ替えもいらない。これで海外でのスマートフォン利用は、また一段ハードルが下がったことになる。

 もちろん残念なこともある。

 まず、対象国・地域が異常に少ない。次の32地域でしか使えないのだ。

地域・国
北米アメリカ(本土)、アメリカ(アラスカ)、カナダ
アジア韓国、台湾、タイ、香港、シンガポール、マレーシア
オセアニアハワイ、オーストラリア、ニュージーランド、クリスマス島
ヨーロッパドイツ、フランス、イギリス、イタリア、オランダ、スペイン、ベルギー、オーストリア、チェコ、スロバキア、スイス、ルクセンブルク、サンマリノ、バチカン、リヒテンシュタイン
中南米プエルトリコ、米領バージン諸島
アフリカカナリア諸島、スペイン領北アフリカ

 個人的に頻繁に行く地域はほぼ網羅しているが、過去に観光で行ったインドやベトナム、たまに訪問する中国が含まれない。

 また、データはともかく、通話については相変わらず異様に高価なローミング料金がそのままだ。auの場合、アメリカで着信したら165円/分だ。だから、間違い電話ほど腹の立つものはない。

 コスト的にはどうかというと、今回の台湾のように、データ無制限7日間2,000円未満というのは別格に安いとしても、5泊7日の米国出張といったよくあるケースでは、6日分、場合によっては5日分で賄えるだろう。

 個人的にアメリカで維持しているVerizonの回線は、チャージしてある金額がある限り、4GB/月で60ドルかかる。なので、SIMの残高をそれ未満に維持し、出かける前にチャージするようにしているが、それでも渡米期間が1週間しかなくても60ドル、つまり7,000円はかかることになる。

 ほかにもドイツやスペインのSIMを維持しているが、やはりそれなりに手間と経費がかかってしまう。総額にすれば結構な額だ。だからこそ、今回のサービス開始は嬉しい。

当たり前のことを当たり前に

 いつも使っている端末をいつものように使って、そこが海外という特別な場所だから980円が別途必要。本当に当たり前の感覚だ。理想を言うなら、この半額くらいだったら、もう誰も海外で現地SIMなど購入しないかもしれない。現地で現地のレストランを予約するといったことなら、Skypeの外部発信を使えばいい。Office 365ユーザーなら1時間分が無料なので、それで十分だろう。着信についても、IP電話への転送などの工夫ができる。ぼくはSkype電話番号を契約し、そこに着信を転送している。

 残る問題は、自分の端末が現地のローミングで本当に実用的に使えるかどうかだ。最近の新端末は、通信機として当たり前のことと口酸っぱく言ってきた甲斐あって、ようやくそのスペックに対応周波数を記載するようになってきた。理想を言うならちゃんとバンドも併記して欲しい。

 たとえば、今回購入したGalaxy S7 edgeなら、ドコモ版S7が国内LTE周波数 800/1500/1,700/2,000MHz、バンド 1/3/19/21/28で、海外ローミングが周波数 700/1,700/1,900/2,000/2,300/2,500/2,600MHz、バンド 1/3/7/13/17/28/38/39/40/41、つまりバンド 1/3/7/13/17/19/21/28/38/39/40/41に対応する。

 au版S7は、国内LTE周波数 700/800/2,100/2,600MHz(WiMAX2+)、バンド 1/18/28/41で、海外ローミング周波数が 700/800/850/1,800/2,100/2,600MHz、バンド 1/3/17/19/41、つまりバンド 1/3/17/18/19/28/41という対応になる。

 Sumsungに確認したが、海外ローミング用、国内LTEが別途記載されているが、端末のロケーションで対応周波数が変わることはないそうだ。

 ドコモ版の方が対応バンドがちょっと多いのがうらやましい。世界からかけ離れたバンドプランの、米国内での実用性はともかくとして、どちらも台湾で使われているバンド8に非対応だし、さらにau版はヨーロッパにおけるバンド7や20に対応していない点がちょっと不安だ。それでも各端末の対応バンドが明確に示されるようになってきていることや、バンド数が増加傾向にあることは素直に喜びたい。これもグローバル化の副作用と言えるかもしれない。個人的には繋がることが大事なので、CAバリエーションの対応は、まだ先でも構わないと思っている。そういう点では、世界各国のほとんどでインターオペラビリティテストにパスしているiPhoneは通信機として立派だ。

 飛行機が着陸したら、たとえそこが海外であってもすぐにスマートフォンが使える。そんな当たり前のことが、当たり前の感覚でできるようになる日は近い。