山田祥平のRe:config.sys

MときどきL、ところによりC

 モバイルデバイスの充電環境を再考するべき時がやってきた。言うまでもなくUSB Type-Cと、高速充電規格の普及が始まったからだ。とは言え、今はまだ過渡期。ここをどう乗り切ればよいのだろう。

混沌としている急速充電事情

 個人的に日常使っているデバイスの半分近くがUSB Type-Cを充電端子として装備している。最新だからというわけではない。昨年(2015年)秋に発売された「Nexus 6P」はUSB Type-Cだが、それよ新しいデバイスでも、ファーウェイの「P9」はUSB Type-Cだが、「Galaxy S7 Edge」はMicro USBで充電する。

 一方、充電規格としては、QualcommによるQuick Chargeに代表される高速充電規格も一般的になりつつある。これが必ずしも充電端子の形状と一致しないから話はややこしい。

 Quick Chargeは、2.0と3.0がある。従来のUSB高速充電は、USB規格の上限である5V 0.5A(USB 3.0では0.9A)を超えて大電流による高速充電を実現していた。iPhoneやiPadなどはその方法だし、Android端末の多くも同様に大電流を流している。

 これはBattery Charging Revision 1.0規格によるものでその歴史はけっこう古い。USBのD+/D-がショートしているかどうかで判別したり、D+端子に特定の電圧を加えた場合、D-にその電圧が出力されるかといった方法で充電電流を制御する。

 そのため、規格に忠実でなかったり、ケーブルの品質が充電に影響を与えることが少なくない。接続しても充電されなかったり、充電速度が異様に遅かったり、バッテリが減る方が充電速度より早いといった具合だ。最悪の場合、ケーブルが発熱したり、場合によっては充電器が発火、発煙するようなアクシデントも起こったりしていた。

 QualcommのQuick Chargeは、まず、2.0の時点でACアダプタとデバイスの間で相談するネゴシエーション機能を持たせ、電流ではなく電圧を上げることで、大きな電力を供給する。いわゆるオームの法則で、電力は電流×電圧(P=IE)で求められるが、電流ではなく電圧を9Vまたは12Vに上げることで、結果として大きな電力を流せることになる。さらに、3.0では3.6Vから20Vの間を200mV感覚で可変できるようになっている。

 本当は、これらに加えてワイヤレス充電までいろいろあるので、気にし始めるとキリがない。とりあえず、黎明期のUSB充電とは異なり、規格のインフラだけは整ったわけで、今後は、それに併せて充電環境を整備していければと思っている。

王道としてのMicro USB充電

 個人的にこれまでに使っていた充電環境は、3種類あった。

1. 3つ又タイプの充電ケーブル(Apple Lightning、Micro USB、Apple Dock)
2. 複数ポート急速充電器と100均Micro USBケーブルを複数本
3.DANBOARD USB Cable with Lightning & Micro USB connector

モバイルバッテリはとりあえず使うことがあまりない。ぼくの使い方では出かけてから自宅に戻るまでにスマートフォンのバッテリが空になることはまずないからだ。それに、日本国内でメインに使っているスマートフォンは2年前の「Galaxy Note 3」だからバッテリを交換できる。予備のバッテリは常に身につけているので、出先でバッテリが心配になることはない。

 海外で、常用スマートフォンとは異なるデバイスを持ち歩いている時は、出張中の朝から深夜までの外出などで、どうしても必要な場合は、同時に持ち歩いているモバイルノートPCのUSB端子を利用する。だから普段持ち歩いているのは1だけだ。そして、ホテルなどの部屋では2を使って集中的に充電し、就寝時は長めのケーブルとして3を使ってきた。

 iPhoneがLightningであるのを除けば、ほかのモバイルデバイスは全てMicro USBで、たまに持ち歩く、もっとも気に入っているオーディオプレーヤーが第6世代のiPod nanoでApple Dock端子だ。

 Lightning端子については、純正品やMFI認証製品でない限り、正常に充電ができる保証がない。実際、1. の3つ又ケーブルは、以前はできていた手持ちの「iPhone 6s Plus」を充電できなくなってしまった。これについては、再び、充電ができるケーブルを探してくるか、あきらめて別途認証製品を購入するしかない。

 これらに加えて、USB Type-C端子を持つデバイスが加わったので、とりあえず、繋ぎの環境として、Micro USB to USB Type-C変換コネクタを持ち歩いている。これがあれば、Micro USBケーブルに取り付けるだけで USB Type-C端子を持つデバイスの充電ができる。

とりあえずは変換コネクタで対処

 急速充電についてはどうかというと、対応充電器をいくつか見かけるものの、まだ出揃っていないと感じている。というのも、複数ポートがあっても、そのうち1つだけしかQuick Chargeに対応していないなどで、人間側がポートを選ぶ必要があるからだ。初期の充電器が、ポートごとに電流が違っていたりしたのと同様の状況だ。

 それに、普段は急速充電の必要性をあまり感じないというのもある。威力を発揮するのは、朝目覚めたら、デバイスを充電するのを忘れていたといった場合だ。起きてからでかけるまでの1時間程度があれば、かなりの容量を充電できるのは心強い。また、カバンの中に急速充電器を忍ばせておけば、電源を確保できる束の間に最大限の充電ができるというのも頼もしい。ただ、ほとんどの夜は、忘れずに充電しているので、急速である必要性があまりなかったりもするわけだ。

 そんなわけで、1~3について、それぞれ対応デバイスの数だけMicro USB to USB Type-C変換コネクタを用意すればいい。そうこうしているうちに、世の中のデバイスは、全てUSB Type-C対応になっていくだろう。その時になれば、ケーブル側を両端Type-Cに替えればいい。

 充電器側の端子形状というと、この先しばらくは、一般的なUSB-A(メス)が主流であり続けるだろう。もはやACコンセントと並ぶインフラといってもいいUSB端子は、飛行機の座席前に埋め込まれたディスプレイ脇や、ホテルのデスクにまで装備されていたりする。これらがカンタンにUSB Type-Cに入れ替わるとは思えない。

 充電器についてはType-C端子を持つものも見かけるようになってきているが、これはまだ混沌としている。というのも、USB Type-Cの給電規格が5V/1.5Aと5V/3Aが規定されているのに対して、それとは別に、USB Power Delivery規格が存在し、5/12/20Vで、1.5/2/3/5Aといった電流を流せる。でも、これらの規格は使われず、実際には、USB 3.1と同様だったりするケースもある。

 大電流に耐えられる太くて取り回しがしにくケーブルが必要なことから、これらがスマートフォンのようなモバイルデバイスの充電にも使われるのは、けっこう先になるんじゃないかと予想している。やはり、現実的なのは、細くて取り回しのしやすい一般的なケーブルで、電流はそのまま、電圧を上げて電力を確保するQuick Charge的方法論ではないだろうか。

ノートPCに望みたい標準化

 こうして、スマートフォンなどのモバイルデバイスの充電環境の標準化は、少しずつ進んでいるようにはみえる。

 これに対して、モバイルノートPC、各種周辺機器といったACアダプタと、その電源供給プラグの形状の違いはどうしようもなくバラバラだ。プラグの形状が同じでシメシメと思ったら、電圧が違っていたり、電力が足りなかったりと使い回しは難しい。だからデバイスの数だけ電源アダプタを用意しなければならないケースがほとんどで、これがまたややこしい。直近では、Microsoftの「Surface 3 Pro」以降で電圧、電流を同じままでプラグ形状が変わってしまっている。

 電源アダプタには、その供給先本体となるデバイスの型番等が書かれていないことがほとんどなので、持ち出す時の判別もしにくいし、別の場所に保存してしまったら最後、デバイスを持ち出そうとする時に困り果てててしまう。

 最終的には、デバイス側の端子は全てUSB Type-Cに統一されるだろう。充電器側はモバイルデバイスのための汎用ポートとして従来のUSB端子が当面残り、大電力が必要なノートPCやタブレット用にUSB Type-Cを装備する時期が比較的長く続くだろう。ケーブルは両端がUSB Type-Cだけでよくなる時代は、本当にやってくるんだろうか。