レビュー
AMDの新世代GPU「Radeon R9 280X/270X/260X」をベンチマーク
(2013/10/8 13:01)
2013年9月25日、AMDは新世代GPU「Radeon R9 シリーズ」および「Radeon R7 シリーズ」を発表した。今回、同シリーズのうち、「Radeon R9 280X」「Radeon R9 270X」「Radeon R7 260X」の3モデルについて、搭載ビデオカードを借用できたので、ベンチマークテストでこれらのグラフィックス性能を探ってみた。
新APIをサポートするGCNアーキテクチャベースの28nm世代GPU
AMDが発表したRadeon R9/R7 シリーズGPUのうち、今回テストを行なう3モデルは、いずれも「Radeon HD 7000シリーズ」で採用されたアーキテクチャ「GCN(Graphics Core Next)」をベースに設計され、28nmプロセスで製造されたGPUだ。新世代のGPUではあるが、ベースとなったアーキテクチャやプロセスルールは、既存のRadeon HD 7000シリーズから変更が無い。
Radeon R9/R7 シリーズ共通の追加要素として、新APIのサポートが上げられる。Radeon HD 7000 シリーズと比較すると、DirectXは11.1対応から11.2対応へ、OpenGLは4.2対応から4.3対応へと変更されたほか、AMD独自のグラフィックスAPI「Mantle」のサポートが追加された。
Mantleについては、利用可能なドローコールの大幅な増加や、GPUへの直接アクセスを可能とすることで、対応GPUの性能をより引き出せるとされているが、その恩恵を得るためには、対応GPUだけでなく、Mantle対応ゲームの登場を待つ必要がある。現時点でMantleの対応ゲームはEAの「BATTLEFIELD 4」のみで、さらなる対応が待たれる。
Radeon R9 290X | Radeon R9 290 | Radeon R9 280X | Radeon R9 270X | |
---|---|---|---|---|
GPUクロック | 未公開 | 未公開 | 1,000MHz | 1,050MHz |
Stream Processor | 未公開 | 未公開 | 2,048基 | 1,280基 |
メモリ容量 | 未公開 | 未公開 | 3GB GDDR5 | 2GB/4GB GDDR5 |
メモリクロック(データレート) | 未公開 | 未公開 | 1,500MHz(6,000MHz相当) | 1,400MHz(5,600MHz相当) |
メモリインターフェイス | 未公開 | 未公開 | 384bit | 256bit |
Mantle | ○ | ○ | ○ | ○ |
True Audio | ○ | ○ | ─ | ─ |
消費電力 | 未公開 | 未公開 | 250W | 180W |
想定売価 | 未公開 | 未公開 | 299ドル | 199ドル |
Radeon R7 260X | Radeon R7 250 | Radeon R7 240 | |
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GPUクロック | 1,100MHz | 1,050MHz | 780MHz |
Stream Processor | 896基 | 384基 | 320基 |
メモリ容量 | 2GB GDDR5 | 2GB GDDR5 | 1GB GDDR5/2GB DDR3 |
メモリクロック(データレート) | 1,625MHz(6,500MHz相当) | 1,150MHz(4,600MHz相当) | 1,150MHz(4,600MHz相当) |
メモリインターフェイス | 128bit | 128bit | 128bit |
Mantle | ○ | ○ | ○ |
True Audio | ○ | ─ | ─ |
消費電力 | 115W | 65W | 30W |
想定売価 | 139ドル | 89ドル | 未公開 |
さて、今回借用した機材についてチェックしていきたい。
借用したGPUの中で最上位に位置するのが「Radeon R9 280X(以下R9 280X)」だ。このGPUは、2,048基のSP(Stream Processor)を備え、最大1GHzで動作する。メモリ周りについては、6.0GHz相当で動作する3GBのGDDR5メモリと、384bit幅のインターフェイスで接続されている。ボード全体の典型的な消費電力は250W。
GPUのスペックは、新APIのサポートを除けば既存製品の「Radeon HD 7970 GHz Edition(以下、HD 7970 GHz)」とほぼ同等で、製品のポジションは、詳細未発表の新GPU「Radeon R9 290X」、「Radeon R9 290」の下位に位置する。想定売価は299ドルとされており、現在ミドルハイGPU「Radeon HD 7800」シリーズが展開している価格帯に投入される。
今回、R9 280X搭載ビデオカードはリファレンスボードではなく、MSI製の「R9 280X GAMING 3G」だった。MSIオリジナルGPUクーラー「Twin Frozr IV」を搭載する。なお、本製品はGPUクロックが1.05GHzにオーバークロックされているため、テスト時はリファレンスクロック相当の1GHzにダウンクロックしてテストを行なっている。
「Radeon R9 270X(以下、R9 270X)」は、借用したGPUの中では中位に位置する製品で、GPUが備えるSPは1,280基。GPUコアは最大1.05GHzで動作する。メモリインターフェイスは256bit幅で、5.6GHz相当で動作する2GBまたは4GBのGDDR5メモリと接続する。ボード全体の典型的な消費電力は180W。
GPUスペックは、既存製品の「Radeon HD 7870 GHz Edition(以下、HD 7870)」に近いが、メモリクロックは4.8GHzから5.6GHzへと引き上げられている。製品のポジションは、R9 280Xの下位に位置する。想定売価は搭載メモリの容量によって異なり、2GB版が199ドル、4GB版は229ドルとされている。
「Radeon R7 260X(以下、R7 260X)」は、借用したGPUの中では下位に位置する製品で、GPUが備えるSPは896基。GPUコアは最大1.1GHzで動作する。メモリインターフェイスは128bit幅で、6.5GHz相当で動作する2GBのGDDR5メモリと接続する。ボード全体の典型的な消費電力は115W。
GPUが備えるSPの数は「Radeon HD 7790」と同じだが、GPUクロックが1GHzから1.1GHzへ、メモリクロックが6.0GHzから6.5GHzへと、それぞれ高められている。想定売価は139ドルとされており、ミドルレンジGPU「Radeon HD 7700 シリーズ」の下位モデルがラインナップされている価格帯に投入される。
その他の特徴として、現在までに明らかになっているRadeon R9/R7シリーズ製品において、上位の「Radeon R9 290X」と「Radeon R9 290」、そしてR7 260Xのみがサポートする新機能「TrueAudio テクノロジー」がある。TrueAudio テクノロジーをサポートするGPUでは、プログラマブルなオーディオパイプラインがGPUに統合されており、CPUの負担となっているオーディオ処理をGPU側で行ない、CPUの負荷を軽減することが可能となる。なお、True AudioもMantle同様、その恩恵を得るにはゲーム側の対応が必要となる。
テスト機材
それではベンチマーク結果の紹介に移りたい。今回のテストでは、新GPUの比較用製品として、HD 7970 GHz、HD 7870、「Radeon HD 7770 GHz Edition(以下、HD 7770)」のAMD製GPU3製品と、「GeForce GTX 760(以下、GTX 760)」、「GeForce GTX 650 Ti(以下、GTX 650 Ti)」のNVIDIA製品2製品を用意した。
なお、これら比較用GPU 5機種のうち、リファレンスボードのHD 7970 GHzを除く4機種が、ASUSオリジナル設計のビデオカードを利用している。これら4機種はいずれもGPUクロックなどを高めたオーバークロックモデルであったため、ベンチマーク実行時は、リファレンス仕様まで動作クロックに引き下げている。
GPU | R9 280X/R9 270X/R7 260X | HD 7970 GHz/HD 7870/HD 7770 | GTX 760/GTX 650 Ti |
---|---|---|---|
CPU | Intel Core i7-4770K (3.5GHz/Turbo Boostオフ) | ||
マザーボード | MSI Z87A-GD65 GAMING | ||
メモリ | DDR3-1600 4GB×4/(9-9-9-24、1.5V) | ||
ストレージ | 120GB SSD (Intel SSD 510シリーズ) | ||
電源 | Antec HCP-1200 (1,200W/80PLUS GOLD) | ||
グラフィックスドライバ | Catalyst 13.11 Beta V1 | Catalyst 13.9 | GeForce 327.23 |
OS | Windows 8 Pro 64bit |
3Dベンチマーク結果
まずは3Dベンチマークテストの結果を紹介する。実施したテストは「3DMark - Fire Strike」(グラフ1、2)、「3DMark 11」(グラフ3、4)、「Stone Giant DX11 Benchmark」(グラフ5)、「3DMark Vantage v1.1.2 」(グラフ6、7)、「3DMark - Cloud Gate」(グラフ8)、「3DMark06 v1.2.1」(グラフ9、10)、「3DMark - Ice Storm」(グラフ11)、「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク ワールド編」(グラフ12)、「MHFベンチマーク【大討伐】」(グラフ13)、「BIOHAZARD 6」(グラフ14)、「PSO2ベンチマーク」(グラフ15)だ。
R7 260Xのスコアは、多くのテストでHD 7770を約3割ほど上回り、GTX 650 Tiに対しても多くのテストで優勢な結果を記録した。HD 7770などとのスコア差の傾向は、以前テストしたRadeon HD 7790と似通っている。同じアーキテクチャをベースにし、同じ数のSPを備えるHD 7790と同じような特性を見せるというのは当然と言えば当然だが、既存のゲームをプレイするのであれば、同等のスペックを備えるRadeon HD 7000シリーズとの間に大きな差が存在しないということになる。
これは、1,280基のSPを備えるR9 270XとHD 7870、2,048基のSPを備えるR9 280XとHD 7970 GHzでも同じことが言える。R9 270XはHD 7870を概ね10%前後上回るスコアを記録しているが、メモリクロックやGPUクロックがHD 7870より高いため、クロック差以上のスコア差は殆どみられない。同様にR9 280XはHD 7970 GHzのスコアを1~3%前後下回るが、両GPUの最大動作クロックには5%の差があるため、性能差はクロック差によるものであると見るのが妥当だ。
今回のテスト結果からは、新たに対応したAPIによる恩恵が得られない条件下におけるRadeon R9/R7シリーズ製品のパフォーマンスは、同等のスペックを持ったRadeon HD 7000シリーズ製品とほぼ同等であると見ることができる。
消費電力比較テスト
次に、サンワサプライのワットチェッカー(TAP-TST5)を利用して、各テスト実行中の最大消費電力を測定した結果を紹介する。
R7 260Xに関しては、主な比較対象であるHD 7770やGTX 650 Tiより高いパフォーマンスを実現した代償として、消費電力は大きくなっており、ベンチマークテスト実行中の最大消費電力は、HD 7770よりおおよそ30Wほど高い。ベンチマークスコアでHD 7770を30%ほど上回っていたことを考えると、消費電力あたりの性能としては大差ない結果と言える。
一方、R9 270Xは、僅かながらHD 7870の消費電力を下回っている。オーバークロック仕様のHD 7870搭載ビデオカードをダウンクロックして比較しているため、この程度の差でR9 270Xの方がワットパフォーマンスに優れていると考えるのは早計だが、少なくとも消費電力あたりの性能が悪くなっているということは無さそうだ。
さて、R7 260XとR9 270Xについては順当な結果と言える消費電力測定結果だったが、R9 280XとHD 7970 GHzについては相当に大きな差がついている。両GPUのパフォーマンス比較では、クロックで劣るR9 280Xが僅かに後塵を拝していたものの、ほぼ同等と言っていい程度の差であったのだが、ベンチマーク実行中の消費電力は、R9 280Xが25%近く低い。消費電力あたりの性能では、R9 280Xが明らかに優勢と言える結果である。
同一のアーキテクチャをベースとし、ほぼ同等のスペックを備え、同じ世代のプロセスで製造されたR9 280XとHD 7970 GHzで何故これほど大きな消費電力差が付いたのか。HD 7970 GHzがGeForce GTX 680の対抗馬として強引に1GHz超えのGPUクロックを実現した製品だったのに対し、R9 290Xは299ドルという従来のミドルハイGPU並の価格で販売できる製品であることを考えれば、HD 7970 GHz発売当時と現在では、ハイクロックで動作するチップの歩留まりに少なからず差があることは想像に難しくない。製造クオリティの向上により、余裕をもってR9 280Xのスペックを実現できるチップが増えたことが、大幅な消費電力ダウンにつながったものと思われる。
従来製品からおおよそ1レンジ分価格の下がった新世代GPU
同じアーキテクチャをベースとし、同世代のプロセスで製造されていることを考えれば当然の結果ではあるが、今回テストを行なった3機種のパフォーマンスは、スペックの近いRadeon HD 7000 シリーズGPUと大差ない結果となった。ワットパフォーマンスという観点では、R9 280XとHD 7970 GHzで大きな差がついたが、下位の2モデルについては、明らかに良くなったと言えるほどの結果ではない。
新APIのMantleや、R7 260Xが備えるTrue Audioは、AMDの思惑通りに進めば、Radeon R9/R7 シリーズのパフォーマンスを大きく向上させる可能性があるが、どう転ぶかは今後の展開次第と不透明だ。AMDの思惑通りに進むとしても、環境が揃って本領発揮となるのは、まだ先の話だ。
現時点で、既存のRadeon HD 7000シリーズとの間で、何が一番変わったのかと言えば、価格の設定だ。従来シングルGPUの最上位モデルであったHD 7970 GHzに匹敵するR9 280Xが、299ドルというミドルハイGPU並みの価格となり、199ドルという低価格帯にR9 270Xが投入される。おおよそ、各GPUの価格を1レンジ分引き下げる形となっており、想定売価から想像する通りの価格で販売されれば、コストパフォーマンス面で魅力ある製品となりそうだ。