レビュー

549ドルのGeForce GTX TITAN対抗馬「Radeon R9 290X」をベンチマーク

 AMDは10月24日、先日発表したRadeon R9 シリーズの最上位モデル「Radeon R9 290X」の仕様を公開した。この仕様公開に先立ち、AMDよりRadeon R9 290X搭載ビデオカードを借用できたので、ベンチマークテストでその実力を探ってみた。

Radeon R9 シリーズ最上位モデルとなる新GPU

 Radeon R9 290X(以下R9 290X)は、GCN(Graphics Core Next)アーキテクチャをベースに28nmプロセスで製造された新GPUコア「Hawaii」を採用し、Radeon R9 シリーズの最上位に位置するフラッグシップモデルとなる製品だ。

 R9 290Xで採用されたHawaiiコアは、2,816基のStream Processorと176基のテクスチャユニットを備えている。GPUの動作クロックは最大1.0GHzで、メモリインターフェースは512bit。VRAMには5.0GHzで動作するGDDR5メモリを4GB搭載する。

 対応APIはDirectX 11.2、OpenGL 4.3に加え、AMD独自のグラフィックスAPI「Mantle」をサポートする。また、これまでに登場したRadeon R9/R7シリーズGPUでは、Radeon R7 260Xのみがサポートしていた「AMD TrueAudio」にも対応する。

 そのほかR9 290Xシリーズで採用された新要素として、AMDのマルチグラフィックス機能であるCrossFireを利用する際に必要だったブリッジケーブルが不要となった点が挙げられる。従来の製品では、基板上部に設けられたCrossFire端子をケーブルで接続する必要があったが、R9 290Xではブリッジケーブル無しで性能向上を実現する。

【表】Radeon R9 290Xの主要スペック
Radeon R9 290XRadeon R9 290Radeon R9 280X
GPUクロック(最大)1,000MHz未公開1,000MHz
Stream Processor2,816基未公開2,048基
テクスチャユニット176基未公開128基
ROP64基未公開32基
メモリ容量4GB GDDR5未公開3GB GDDR5
メモリクロック(データレート)1,250MHz(5,000MHz相当)未公開1,500MHz(6,000MHz相当)
メモリインターフェイス512bit未公開384bit
Mantle
True Audio
想定売価549ドル未公開299ドル
R9 290Xと、Radeon HD 7970 GHz Editionとの比較
新しいCrossFire。ブリッジケーブル無しでもパフォーマンスの低下は無いとしている

CrossFire端子が廃止、異なる設定のBIOSを切り替えて利用可能

 今回、AMDに借用したのは、R9 290Xのリファレンスボードだ。カード長約275mm(ブラケット部を除く)のボード上には、2スロット占有型のGPUクーラーを搭載。補助電源コネクタは8ピン+6ピンという構成だ。R9 290XはCrossFire動作にブリッジケーブルを必要としなくなったため、基板上部にCrossFire端子は用意されていない。

 かつてCrossFire端子があった位置の近くには、BIOS切り替え用のDIPスイッチが実装されている。同様のスイッチはRadeon HD 7970でも採用されており、当時は単なるデュアルBIOSであったのだが、R9 290Xではそれぞれに「Quiet Mode」と「Uber Mode」という名称が与えられている。AMDによれば、「Quiet Mode」は静粛性重視、「Uber Mode」はパフォーマンス重視の設定とされており、CrossFire動作では「Uber Mode」の利用が推奨されている。

R9 290Xのリファレンスボード。カードサイズはクーラーの外装を含めると約275mm
GeForce GTX TITANのリファレンスボードより若干長い
ブラケット部のディスプレイ出力端子。DVI-I、DVI-D、HDMI、DisplayPortを各1ポートずつ搭載
補助電源コネクタは6ピン+8ピン
基板上部のCrossFire端子は廃止された
BIOS切り替えスイッチ。電源コネクタ側がUber Mode、ディスプレイ出力ポート側がQuiet Mode

テスト機材

 それではベンチマーク結果の紹介に移りたい。Radeon R9 シリーズ最上位に位置するフラッグシップGPUであるR9 290Xの比較対象には、NVIDIAのシングルGPU最上位モデル「GeForce GTX TITAN」(以下GTX TITAN)を用意した。

 なお、R9 290Xに関しては、前述の「Uber Mode」「Quiet Mode」のスコアをそれぞれ測定している。

【表2】テスト機材
GPUR9 290XGTX TITAN
CPUCore i7-4770K(3.5GHz/Turbo Boostオフ)
マザーボードMSI Z87A-GD65 GAMING
メモリDDR3-1600 4GB×4(9-9-9-24、1.5V)
ストレージ120GB SSD(Intel SSD 510シリーズ)
電源Antec HCP-1200(1,200W/80PLUS GOLD)
グラフィックスドライバCatalyst 13.11 BetaV5GeForce 331.58
OSWindows 8 Pro 64bit

DirectX 11対応ベンチマークテスト

 まずはDirectX 11対応ベンチマークテストの結果から確認する。実施したテストは、「3DMark - Fire Strike」(グラフ1、2)、「3DMark11」(グラフ3、4)、「Stone Giant DX11 Benchmark」(グラフ5)、「Alien vs. Predator DX11 Benchmark」(グラフ6、7)、「Unigine Heaven Benchmark 4.0」(グラフ8)。

【グラフ1】3DMark - Fire Strike[Default/1,920×1,080ドット]
【グラフ2】3DMark - Fire Strike[Extreme/2,560×1,440ドット]
【グラフ3】3DMark11 v1.0.5[Performance/1,280×720ドット]
【グラフ4】3DMark11 v1.0.5[Custom(Extreme)/2,560×1,440ドット]
【グラフ5】Stone Giant DX11 Benchmark
【グラフ6】Alien vs. Predator DX11 Benchmark[1,920×1,080ドット]
【グラフ7】Alien vs. Predator DX11 Benchmark[2,560×1,080ドット]
【グラフ8】Unigine Heaven Benchmark 4.0[DX11/2,560×1,440]

 テスト結果を確認すると、「3DMark-Fire Strike」や「3DMark11 - Performanceプリセット」ではR9 290XがGTX TITANを上回っている。また、フレームレートでは劣っているものの、「Unigine Heaven Benchmark 4.0」でアンチエイリアシング処理を実行すると、GTX TITANとの差が縮まっていることが確認できる。メモリインターフェイスの拡張により、約320GB/secに強化されたメモリバス帯域幅が、メモリを多用するアンチエイリアシング処理でのパフォーマンスアップに効果を発揮していると見ることもできる。

 一方、テッセレーションを積極的に利用する「Stone Giant DX11 Benchmark」の結果を見ると、テッセレーション処理をHighに設定した際にGTX TITANとの差が開いている。GTX TITANが採用するKeplerアーキテクチャのテッセレータのパフォーマンスは非常に高く、R9 290Xでもテッセレーターの性能差は埋まっていない。

 また、R9 290XのUber ModeとQuiet Modeについては、多少スコアのバラつきがあるものの、ベンチマークスコアに有意な差は確認できなかった。ファンの動作音についても、常に高い負荷がかかり続けるベンチマークテストであるためか、特にQuiet Modeが静かという印象は無い。いくつかのベンチマークテストを実行した際のファン回転数をチェックしたが、いずれも負荷が継続すると最終的に2,400rpm前後までファンの回転数が上昇しており、差を見出すことはできなかった。

DirectX 9/10対応ベンチマークテスト

 次に、DirectX 9対応ベンチマークと、DirectX 10対応ベンチマークの結果を紹介する。実施したテストは「3DMark Vantage」(グラフ9、10)、「3DMark - Cloud Gate」(グラフ11)、「3DMark06 v1.2.1」(グラフ12、13)、「3DMark - Ice Storm」(グラフ14)、「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」(グラフ15)、「MHFベンチマーク【大討伐】」(グラフ16)、「BIOHAZARD 6」(グラフ17)、「PSO2ベンチマーク」(グラフ18)、「Unigine Heaven Benchmark 4.0」(グラフ19)。

【グラフ9】3DMark Vantage v1.1.2[Performance/1,280×1,024ドット]
【グラフ10】3DMark Vantage v1.1.2[Custom(Extreme)/2,560×1,440ドット]
【グラフ11】3DMark - Cloud Gate [Default/1,280×720ドット]
【グラフ12】3DMark06 v1.2.1[1,280×1,024ドット/Default]
【グラフ13】3DMark06 v1.2.1[2,560×1,440ドット/8x AA/16x AF]
【グラフ14】3DMark - Ice Storm [Default/1,280×720ドット]
【グラフ15】ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編
【グラフ16】MHFベンチマーク【大討伐】[DX9]
【グラフ17】BIOHAZARD 6[DX9/高負荷設定(FXAA3HQ)]
【グラフ18】PSO2ベンチマーク(1,920×1,080ドット/フルスクリーン)
【グラフ19】Unigine Heaven Benchmark 4.0[DX9/2,560×1,440ドット]

 DirectX 10対応ベンチマークの「3DMark Vantage」「3DMark - Cloud Gate」では、いずれもGTX TITANが僅差ながらR9 290Xを上回った。

 一方、DirectX 9対応ベンチマークについては、テストや設定によって結果が分かれる結果となった。「Unigine Heaven Benchmark 4.0」で、GTX TITANがR9 290Xを上回っているものの、アンチエイリアシングを適用するとその差が縮むという、DirectX 11でも確認された高メモリ負荷時にR9 290Xのスコアが伸びる結果が見られる一方、「PSO2ベンチマーク」では描画設定を高くするとR9 290XがGTX TITANに逆転されている。負荷の強弱だけでなく、最適化の有無もスコアに影響しているものと思われる。

 なお、R9 290XのUber ModeとQuiet Modeについては、「BIOHAZARD 6」の1,920×1,080ドット時に7%ほどの差がついているが、それ以外のテストでは有意なスコア差をみることはできない。

消費電力の比較

 最後に、消費電力の測定結果を紹介する。消費電力はサンワサプライのワットチェッカー(TAP-TST5)を利用して、各テスト実行中の最大消費電力を測定した。

【グラフ20】システム全体の消費電力

 アイドル時の消費電力については、R9 290Xが50W、GTX TITANが45Wと、若干GTX TITANが低い結果となった。

 各テスト実行中の最大消費電力については、R9 290Xが340~350Wを記録する一方、GTX TITANは高くても320W弱で、PSO2ベンチマークやMHFベンチマーク実行中の最大消費電力は300W以下と、R9 290Xより50W程低い結果となった。ベンチマークテストのスコアも考慮すると、ワットパフォーマンスではGTX TITANの方が有利と言える結果だ。

想定販売価格は549ドル。コストパフォーマンスに期待のハイエンドGPU

 以上のように、R9 290Xは、NVIDIAシングルGPU最上位製品であるGTX TITANとの比較でも勝負になるだけのパフォーマンスを持った新GPUだ。GTX TITANの登場以降、シングルGPUの最高性能では大きな差が付いていたAMDとNVIDIA両社だが、R9 290Xの登場でその差が一気に縮まる格好となる。

 また、単に性能でGTX TITANに迫っただけでなく、R9 290Xの想定販売価格が549ドルと、GTX TITANの999ドルよりかなり安く設定されている点も注目だ。今回のテストでは機材調達の関係で比較できなかったが、R9 290Xの実質的な競合製品はGeForce GTX 780となるだろう。

 549ドルという想定販売価格を考えると、ライバルのGeForce GTX 780より安価で販売される可能性がある。これだけの性能を持ったGPUがこの価格で登場するなら、より高いグラフィックス性能を求める層にとって、なかなかインパクトのある製品となるだろう。

(三門 修太)