イベントレポート
AMD、新世代GPU「Radeon R9/R7」シリーズを発表
~新しいプログラミングモデル“Mantle”を導入へ
(2013/9/26 17:35)
AMDは9月25日(現地時間)、アメリカ合衆国ハワイ州オアフ島内のホテルにおいて、テクノロジー関連の記者を対象にしたイベント「AMD GPU14 TECH DAY」を開催し、同社のGPU戦略に関する数々の新しい発表を行なった。
この中で、開発コードネーム“Hawaii(ハワイ)”で知られる新しいGPUに関する情報を明らかにした。新しいGPUの製品名は「Radeon R9」および「Radeon R7」シリーズ。市場予想価格89ドルとローエンドの「Radeon R7 250」から、演算性能が5TFLOPSを超えるハイエンドの「Radeon R9 290X」までラインナップされ、従来のようにハイエンドだけが登場し、遅れてミドルレンジやローエンドが登場するという方法とは異なる発表を行なった。
AMDのビジュアル&パーセプチャルコンピューティング担当副社長ラジャ・コドゥリ氏は「Radeon R9/R7シリーズは、GCNアーキテクチャの改良版となり、DirectX 11.2への対応、電力効率の改善などが大きな強化点になる」と述べ、Radeon R9/R7シリーズはRadeon HD 7000世代で導入されたGCN(Graphics Core Next)アーキテクチャの改良版であることを明らかにした。
間もなく正式に発表される予定の新しいRadeon R9シリーズとRadeon R7シリーズ
AMD GPU14 TECH DAYは、アメリカ合衆国ハワイ州オアフ島にあるコオリーナリゾートという有名なリゾート地で行なわれた。というのも、今回AMDが概要を発表したRadeon R9シリーズの開発コードネームがHawaiiだからだ。
ちなみに、AMD(ATI)は、過去にもサンフランシスコのアルカトラズ島(昔は監獄として利用されていた有名な観光地)や退役空母のホーネット博物館、チュニジアの首都チュニスで発表会を行なったり、2年前のLlanoではAMDがF1のフェラーリチームのスポンサーを行なっていたことにちなんで、アブダビのヤスマリーナサーキットで発表会を開催するなど、遊び心満載の発表会を行なう会社としてメディアの間では有名だ。今回もその文化を踏襲し、ダジャレ的にハワイが選ばれたわけだ。
イベントの冒頭の総合セッションに登場したAMD 副社長兼グラフィックスビジネス事業部 事業本部長のマット・スキナー氏は、AMDが今後リリースする予定の新しいGPUについての説明を行なった。「PCゲームの市場は成長している。今年はワールドワイドで1,800億ドルの市場規模があり、2016年には2,100億ドル市場に成長すると予測されている。2013年の後半には新世代のゲームコンソールも投入され、AMDはコンソールとPCゲームの両方をサポートしており、それが競合他社に対しての強みになる」と述べ、AMDがグラフィックス市場において、競合他社に比べて優位な立場にあると強調しつつ、今後も成長が望めるPCゲームの市場に力を入れていくとした。
そのAMDの武器になるのが今回の新製品で、「PCゲーム環境でももっともっとグラフィックスやサウンド効果が良くなる必要があり、ユーザーもそれを期待している」と述べ、新しい製品がそうしたグラフィックスやサウンドに力を入れた製品になると述べた。新世代GPUとなるRadeon R9/R7シリーズを紹介した。
従来のRadeonは、HD+4桁の数字というモデル名が付けられており、最初の数字でGPUの世代が分かるようになっていた。これに対して今回の新シリーズでは、R+1桁の数字と3桁の数字+アルファベット(アルファベットがない場合もある)と、完全にスキームが一新された。
AMDがHD+4桁の数字を採用したのは、2007年に発表されたRadeon HD 2000シリーズ(R600)以来ということになるので、実に6年ぶりの刷新ということになる。R9シリーズがハイエンドゲーマー向け、R7がパワーユーザーやメインストリームゲーマー向けという位置づけになる。ただし、いずれも、PCゲーマーがメインターゲットとのことだ。
ラインナップはR9シリーズが290X/290/280X/270Xの4ラインナップ。R7シリーズが260Xと250の2ラインナップが用意されている。
メモリ | TrueAudio | 3DMark Fire Strikeスコア | 市場想定価格 | |
---|---|---|---|---|
Radeon R9 290X | 4GB | ○ | 7000以上 | 未公表 |
Radeon R9 290 | 未公表 | ○ | 未公表 | 未公表 |
Radeon R9 280X | 3GB | - | 6800 | 299ドル |
Radeon R9 270X | 2GB | - | 5500 | 199ドル |
Radeon R7 260X | 2GB | ○ | 3700 | 139ドル |
Radeon R7 250 | 1GB | - | 2000 | 89ドル |
「Radeon R9 290Xには、『BATTLEFIELD 4』をバンドルした特別版を限定数用意する。これは10月3日から予約受付を開始する」と述べ、人気のFPSゲームをバンドルした特別版を限定数で発売すると明らかにした。
なお、今回の発表はあくまで概要の発表であり、正式な製品の発表は後日ということになっている。しかしバンドル版の予約が10月3日から開始されることなどから、そう遠くない時期に発表される可能性が高い。
Radeon R9シリーズはGCN改良版、最上位は5TFLOPSの処理能力
続いて登壇したラジャ・コドゥリ氏は、Radeon R9の技術概要を説明した。コドゥリ氏によれば、Radeon R9シリーズの特徴は3つあるという。1つ目がGCNアーキテクチャ、2つ目が4Kに代表される高解像度ディスプレイへの対応、そして3つ目として新しいオーディオ技術を挙げた。
「Radeon R9シリーズはGCNの改良版となる。DirectX 11.2の対応と電力効率の改善が行なわれ、処理能力は5TFLOPSを超え、メモリの帯域は300GB/sec、ジオメトリ性能は40億トライアングル/sec。60億トランジスタから構成されている」とのことで、基本的には2011年の末に発表されたRadeon HD 7000シリーズで導入された新しいグラフィックスアーキテクチャとなるGCN(Graphics Core Next)の改良版になると述べた。
また、Microsoftの新しいDirectX 11.2にも対応しており、処理能力が5TFLOPS(単精度時)になるなどの特徴が説明された。なお、この性能などのスペックは最上位となるRadeon R9 290Xの性能だと思われるが、これらの特徴がすべてのGPUなのか、それとも最上位だけなのかなど詳しい説明はなかった。また、製造プロセスルールなどに関しても明らかにされなかった。
超高解像度ディスプレイへの対応では、4Kディスプレイへの対応が紹介された。コドゥリ氏は「4Kディスプレイでは、1080pに比べて4倍のピクセル数になっている。また、中には設定が難しいモノもある」と述べ、AMDが導入する予定の新しいディスプレイ設定について説明した。
WQHDを超える解像度の液晶ディスプレイやTVの中には、パネルは1枚だがコントローラが2つ入っているモノなどがあるという。そうしたディスプレイではWindowsからは2枚のディスプレイと見えるので、設定がやや難しいとのことだが、AMDの新しいドライバでは、そうしたディスプレイでも1枚と自動で認識できるようにプロファイルが入っているほか、現在VESAに提案されている新しい規格に対応することで、自動で設定が済むようになっているのだという。
例えば、パナソニックが販売している「VIERA」の一部モデルにそれに対応した製品があり、AMDが今後リリースするドライバで対応することが可能になる予定だと説明した。
GPUにオーディオ処理エンジンを内蔵するTrueAudio
次いでコドゥリ氏は3つ目の要素であるオーディオ技術について説明した。同氏によれば、Radeon R9 290X、290、260Xの3製品には、TrueAudioと同社が呼ぶ新しいオーディオ技術が入っているという。「我々はGPUにおいてプログラマブルシェーダを導入することで、ゲーム開発者に大きな自由度を与えた。TrueAudioはそのオーディオ版というべき存在で、プログラマブルなオーディオエンジンをゲーム開発者に提供するモノだ」と述べ、Radeon R9 290X、290、Radeon R7 260Xの3製品にTrueAudioと呼ばれるオーディオエンジンが内蔵されていることを明らかにした。
このTrueAudioは一種のDSPのようなモノで、GPUに内蔵されており、プログラマに対して仕様が公開され、プログラマブルに利用することができるという。現在のPCゲームでは、オーディオの処理のすべてをCPUが行なっており、それをGPU側に移すことがこのTrueAudioの目的だ。これをどのような形で利用できるのか(直接ハードウェアを叩きに行くのか、それともDirectXのようなミドルウェアがあってそれを介して利用するのか)は現時点では明らかにはなっていないが、GPU側にオーディオ処理が移ることで、CPUの負荷率を減らすことが可能になるので、ゲーム開発者にとってはメリットになる。
このTrueAudioには、ゲームタイトルを開発するベンダーや(Eidos Montreal、XAVIANT、Creative Assembly)、オーディオのミドルウェアを開発する会社(AudioKinetic、faaod)、オーディオ処理アルゴリズムを提供する会社(McDSPやGenAudio)などが賛同を表明しており、実際に会場ではGenAudioが、GPUで鳴らす場所を計算して鳴らしたりする技術や、マルチチャネルをステレオに変換して鳴らすことをGPUを利用して行なったりするデモをしたほか、XAVIANTの「LICHDOM」、Eidos Montrealの「THIEF」という2つのゲームが、TrueAudioに対応する予定であることが明らかにされた。
このほか、同社のRUBYのデモ、クラウドファウンディングで資金を集めて宇宙シミュレーションゲームを開発しているStar Citizenなどが紹介されたほか、AMDのパートナーでPCゲーミングの設定を自動で行なうツールを開発しているRaptrの取り組みなどが紹介された。
コンソールからPCゲーミングへの移植をより簡単にするMantleの導入を発表
最後にコドゥリ氏は、米国企業では最近お約束になりつつあるフレーズ「One Last Things」(あるいはOne More Things)として、PCゲーミングの性能をより引き上げる方法として、新しいミドルウェアとなる「Mantle(マントル)」について言及した。MantleはGPUとホストシステムと3Dアプリケーションの中間に立って、APIとして働く一種のミドルウェアで、現在のWindowsプラットフォームでは、DirectXが占めている部分を置き換えるものだと考えればわかりやすいだろう。
コドゥリ氏は「Mantleを利用することで、CPUのオーバーヘッドを減らすことが可能になり、プログラマは1秒間に利用できるドローコール(Draw Call)を9倍にできる。また、直接GPUのハードウェアにアクセスできるようになるので、グラフィックス性能も向上する。これらにより、コンソールゲームからPCゲームへの移植がより簡単になる」とメリットを述べた。このMantleはGCNアーキテクチャに対応したGPUであれば利用できるということだ。
なお、現時点ではMantleの詳細が明らかになっているのはここまでで、もう少し詳しい情報に関しては11月に米国で開催される予定のAMD Developer Summit(APU13)において詳細が明らかにされるとコドゥリ氏は説明した。