【IDF 2011レポート】
Intel、22nmプロセスルール世代の製品について解説
~AtomとCoreデザインチームを共通化

Intel 副社長兼ネットブック・タブレット開発普及担当部長 スティーブ・スミス氏

会期:9月13日~15日(現地時間)
会場:米国サンフランシスコ モスコーンウエスト



 Intelは、米国カリフォルニア州サンフランシスコ市内にあるモスコーンセンターにおいて、開発者向けのイベントであるIDF(Intel Developer Forum)で記者説明会を開催し、同社が2011年の末に量産開始する予定の次世代プロセスルールの22nmプロセスルールを、どのように実際に製品に採用していくかについての説明を行なった。

 この中でIntel 副社長兼ネットブック・タブレット開発普及担当部長 スティーブ・スミス氏は「従来はAtomはローコスト用という位置づけだったが、現在ではスマートフォンやタブレット用として利用されるので、現在ハイパフォーマンスかつ低消費電力という設計思想で設計を行なっている」と述べ、今後はAtomプロセッサも、Coreプロセッサラインと同じ設計リソースを共有することで、より強力な製品展開を目指していくと説明した。

●ムーアの法則はまだ有効

 Intelのスミス氏は「今でもムーアの法則と製造技術の優劣は、半導体産業における重要な差別化のポイントになっている」と述べ、今でもプロセッサベンダーの優劣を決めるポイントは、ムーアの法則および、そのムーアの法則に基づく製造技術の善し悪しであると説明した。もちろん、Intelがそういうのは、Intelの製造技術が他社に比べて大きなリードを築いているからだ。実際、22nmプロセスルールに関しては、他のベンダーに比べて1年近いリードがあり、そうした製造技術や工場そのもの規模で他のプロセッサメーカーを圧倒している。

 ただし、だからと言ってプロセッサのデザインそのものも、競争に大きな影響を与えつつあるのも事実だ。実際、スミス氏は「製品のデザインの最適化を左右するのはトレンドだ」とも述べており、マイクロアーキテクチャと呼ばれるプロセッサの設計仕様が他社との競争では重要になってくる。言うまでもなく、半導体産業は“規模の経済”であるので、仮に製品そのものがダメで、あまりニーズがなければ、工場のラインが空いてしまうことになり、半導体メーカーにとってそれは“死”を意味すると言ってもよい。そうした意味で、優れた製造技術と、すぐれたデザインの製品を持つことがプロセッサベンダーにとっては車の両輪のようなものだと言っていいだろう。

 それでは、22nmプロセスルールでは、どのような点がデザイン上の検討点になるのだろうか。スミス氏によれば、Intelの観点では、低消費電力とSoC(System On a Chip)が課題になるという。低消費電力が重要であるのは筆者が繰り返す必要も無いぐらい大きな課題で、特にIntelはARMベースのプロセッサベンダーと競争する上でIAの消費電力を下げることが大きな課題になっている。

 さらに。IDFと同じタイミングで開催されているMicrosoftのBuildでARMベースのWindows 8搭載タブレットが公開されたように、タブレットにおけるIAとARMの競争はより激しくなっていくことが予想されている。その時にタブレットにも採用可能なSoCを提供していくことは重要なポイントになっている。

現在でもムーアの法則や製造技術の優劣は、半導体ビジネスに大きな影響を与えているが、デザインの最適化はトレンドの影響をうけて変わりつつあるポイントは低消費電力への対応とSoCへの対応

●22nmプロセスルールの特徴は低消費電力とSoCへの対応

 スミス氏はそうしたデザイン上の課題に対応するために、22nmの特徴として「トランジスタ当たりのアクティブ電力が50%削減され、SoCに最適化したプロセスルールも投入する」と述べた。

 すでに知られている通り、Intelは22nmプロセスルールでトライゲートトランジスタと呼ばれるトランジスタの形状が立体になっている技術を導入する。これにより、アクティブ時(アイドルなどではなく、プロセッサの電源がフルに入っている状態)において、32nmプロセスルールに比べてトランジスタ1つあたりが消費する電力が50%削減されているのだという。実際には微細化することで1つのプロセッサに集積されるトランジスタが増えるので、消費電力が50%削減という訳にはいかないが、トランジスタ数が増えても(つまり性能が向上しても)、消費電力は従来製品に比べて下がる、ないしは維持されることが可能になるのだ。

 SoCへの対応は22nmプロセスルールからの特徴というよりは、32nmプロセスルールでも導入されていたものだが、低消費電力に最適化されたプロセスルールとして、ハイパフォーマンス向けのプロセスルールに若干遅れて投入されることになる。

22nmプロセスルールの特徴。トランジスタ当たりの消費電力が32nm世代に比べて50%削減されている22nmプロセスルール世代でも、32nmプロセスルールと同じようにハイパフォーマンス向けとSoC向けが用意される。ただし、SoC向けは遅れて投入される

●Ivy Bridgeは搭載製品は2012年初頭
Haswell世代では、新たに15W前後というTDPのレンジにおりてくることになる

 22nmプロセスルールの製品として、最初に投入されることになるのが、開発コードネームIvy Bridge(アイビーブリッジ)で知られる、第2世代Coreプロセッサ・ファミリーの後継となるPC向けプロセッサだ。Ivy Bridgeは、マイクロアーキテクチャは基本的にSandy Bridgeのそれを継承するが、製造プロセスルールが22nmプロセスルールになり、処理能力が引き上げながら、消費電力を低下させた。

 さらに22nmプロセスルール世代で、大きなマイクロアーキテクチャの変化が加えられるのが開発コードネームHaswell(ハスウェル)で知られるIvy Bridgeの後継プロセッサだ。スミス氏は「Haswellではプラットフォーム側の設計思想も変わる。現在はCoreファミリーが35W以上、Atomが10W以下という棲み分けになっているが、Haswell世代ではCoreプロセッサファミリが15Wクラス、Atomが10W以下という棲み分けになる」とし、それによりUltrabookなど、PCのデザインは大きく変わることになるだろうと指摘した。

 なお、Ivy Bridgeの出荷時期だが、「年内に大量生産とOEMメーカーへの出荷を開始し、搭載した製品がOEMメーカーなどからの出荷は来年の早い時期」(スミス氏)と述べた。


●AtomとCoreの設計チームを1つにして両方の質を高めていく

 Atomプロセッサのロードマップに関しては、今年の5月に行なわれた投資家向けのカンファレンスコールで説明された32nm、22nm、14nmの各プロセスルールで新しいプロセッサコアが投入されるという方針を繰り返した。それによれば、32nmはSaltwell(サルトウェル)、22nmはSilvermont(シルバーモント)、14nmはAirmont(エアモント)というコードネームのコアが2012年以降、毎年1つのコアが投入される。「Atomプロセッサの投入時期は加速していく、これはムーアの法則の倍のペースになる」と述べ、プロセスルールを前倒ししてでも強力な製品を投入していくことで、Atomプロセッサの競争力を高めていく方針を繰り返した。

 なお、スミス氏は「IntelはすでにAtomプロセッサの設計思想を変えている。従来のAtomは低消費電力かつ低価格という設計思想で設計されていた。しかし、スマートフォンやタブレットなどの普及によりこの考え方は破棄され、現在は高い処理能力かつ低消費電力というのが基本的な考え方だ」と述べ、Atomプロセッサのアーキテクチャ設計の考え方をコスト重視ではなく、消費電力と処理能力のバランスが高い次元でとれていることを前提にしていると説明した。

 その上で「設計チームに関してもCoreファミリーの設計チームとAtomの設計チームは完全に分離していたが、今は大きな意味で1つのチームになっている。Coreチーム側がAtom側のSocの経験を使ったり、逆にAtomチーム側がCore側の性能に関するアプローチを学習したりしている」(スミス氏)と、両アーキテクチャの風通しをよくし、コアデザインなどを共有することで、よりよいプロセッサの開発をできる体制を作ったのだと述べた。

 ただし、質疑応答では完全にチームを合併したのかという質問に対しては「完全に合併した訳ではない、大きな意味で1つのチームになったということだ」とし、アリゾナ州にあるAtom開発チーム、イスラエルやオレゴン州にあるCore開発チームが事業部の枠を取っ払って、相互にやりとりができるようになったことを説明した。

Atomプロセッサ向けのコアは来年以降、1製品ずつ投入されるムーアの法則の2倍(つまり12カ月で1つのプロセスルール)のペースで新しいプロセスルールがAtom向けに投入される
従来はCoreとAtomではっきりと開発チームが別れていたこれからはCoreチームとAtomチームは大きな意味で1つになり、開発コンポーネントを共有化していく

●Android 3.xを搭載したMedfield搭載タブレットを公開

 最後にスミス氏は、IntelのOEM/ODMメーカーのサポート体制について触れ、「IntelはOEM/ODMメーカーの設計をより容易に出来るようにするために、リファレンスデザインを製造しOEM/ODMメーカーに配布している。それを利用することで、OEM/ODMメーカーは開発を早めることができるし、ソフトウェアの開発に利用することもできる」とのべ、同社が今年の末にOEMメーカーなどに出荷を開始する予定のMedfield(メッドフィールド、開発コードネーム)を搭載したタブレットを公開した。

 Intelの関係者によれば、8.9mmの厚さで、重量などは不明だというが10インチクラスの液晶ディスプレイを搭載しており、OSとしてはHoneycomb(Android 3.x)が動作していた。スミス氏は「このHoneycombタブレットはGoogleと協力して開発してきた。次期Windowsに関しても、Microsoftと協力して開発をしており、近々お見せすることができるだろう」と述べ、OSの選択に関しては従来通り“全方位外交”であることを強調した。

Intelが公開したMedfieldベースのタブレットのリファレンスデザイン。OEM/ODMメーカーはこれをベースに自社製品を開発していくことが可能

(2011年 9月 15日)

[Reported by 笠原 一輝]