【Flash Memory Summit 2009】
次世代メモリ技術の開発意欲は衰えず

会場内の看板

会期:8月11〜13日(現地時間)

会場:米国カリフォルニア州サンタクララ
   Santa Clara Convention Center



 「Flash Memory Summit 2009」の最終日午前には、次世代半導体メモリ技術に関するプレナリセッションが開かれた。新しいアイデアに基づくメモリ素子を開発中あるいは製品化したベンチャー企業が、各自のメモリ技術の最新状況を説明するというセッションだった。非常に興味深いセッションだったので、その概要をご報告したい。

 ここで講演した企業とメモリ技術は以下のようなものである。

・Crocus Technology:MRAM(磁気メモリ)技術
・Grandis:MRAM(磁気メモリ)技術
・Unity Semiconductor:ReRAM(抵抗変化メモリ)技術
・Sidense:OTP(One Time Programmable ROM)技術

 それでは各企業の技術概要を、講演内容を交えて説明しよう。

●Crocus Technology:高密度MRAMを2010年に製造開始

 Crocus Technologyは、米国カリフォルニア州サニーベールに本拠地を構えるベンチャー企業である。「TAS(Thermal Asisted Switching)-MRAM」と呼ぶMRAM技術を開発している。MRAMは磁化反転(磁気の方向の逆転)を利用してデータを書き込む。TAS方式では、この磁化反転に熱エネルギーを利用する。通常のMRAMでは磁化反転誘起用の配線を2本設ける必要があるのに対し、TASでは追加する配線が1本で済む。このため既存のMRAMよりも、高密度にしやすいとされる。

 Flash Memory Summit 2009では、同社のビジネス開発担当バイス・プレジデントを務めるKen Hines氏が講演し、電池バックアップのSRAMおよび電池バックアップのDRAMの代替メモリを狙うこと、記憶容量が1Mbit〜256Mbitのメモリを開発することなどを述べた。製造はイスラエルのシリコンファウンドリ(製造請け負い企業)Tower Semiconductorが担当する。製造技術は130nmのCMOSプロセス。2010年には最初のメモリ製品の製造を始める予定である。またTAS MRAMを埋め込んだSoC(System on a Chip)の開発にも意欲を見せている。

新開発のMRAMが狙う領域 磁界誘起用配線による既存のMRAMを第1世代、開発中のTAS-MRAMを第2世代、スピントルク注入型MRAMを第3世代と位置付ける
TAS-SRAMのメモリセル構造(Crocus Technologyの技術資料から抜粋) TAS-SRAMと電池バックアップSRAM(BB SRAM)、nvSRAM、強誘電体メモリ(FeRAM)の比較

●Grandis:256Kbitの埋め込み用MRAMをルネサスと共同で試作

 Grandisは、米国カリフォルニア州ミルピタスに本拠地を構える技術開発ベンチャーである。「STT-RAM(Spin-Transfer Torque RAM)」と呼ぶメモリ技術を開発している。STT-RAMはMRAMの一種で、電子スピンの磁気トルクを利用して磁化反転を起こす。既存のMRAM技術と違って磁化反転誘起用配線が不要なこと、微細化するとともに書き込み電流が減少する傾向にあることから、高密度化および大容量化に適したメモリ技術だする。またMRAMと同様に、高速なデータ書き込みと高速なデータ読み出し、無限に近い書き換え回数を実現できるとされる。

 GrandisはこのSTT-RAM技術を利用したメモリの共同開発でルネサス テクノロジ、韓国のHynix Semiconductorとそれぞれ提携しており、製品開発を進めている。

 Flash Memory Summit 2009ではGrandisの最高経営責任者(CEO)を務めるFarhad Tabrizi氏が講演し、46件を超える米国特許を所有していること、STT-RAMメモリセルの基本特性は良好であること、最初の応用分野として埋め込みSRAMとモバイルDRAMの置き換えを狙うこと、STT-RAMが微細化に適していることを実験的に確認したこと、などを説明した。

 またルネサス テクノロジと共同で256Kbitのテストチップを試作したと述べた。試作チップをテストしたところ、完全に機能したという。ルネサス テクノロジの90nm CMOS、4層銅配線技術を使用して製造した。データの書き込み/読み出し時間は20nsとかなり高速に動いた。書き換え可能回数は10の13乗回を超えており、実験チップとしては非常に優れた特性を示している。特筆すべきは書き込み電流が200μA未満と少ないことだ。フラッシュメモリ内蔵マイコン(フラッシュマイコン)のフラッシュメモリの代わりにSTT-RAMを埋め込めば、フラッシュマイコンよりもはるかに消費電力の低いROM/RAM内蔵マイコンを作れることを意味する。Tabrizi氏は、さらに高密度のSTT-RAMチップを54nm CMOS技術で開発中であると説明した。

Grandisの会社概要 STT-RAM技術の特長 STT-RAMメモリセルのデータ書き込み原理と基本特性
フラッシュメモリの課題とSTT-RAMの応用分野 STT-RAMメモリセルを微細化したときの書き込み電流の変化 試作した256Kbitチップ(ダイ)の概要

●Unity Semiconductor:NANDフラッシュを超える大容量メモリを目指す

 Unity Semiconductorは、米国カリフォルニア州サニーベールに本社を構えるベンチャー企業である。「CMOx」と呼ぶ独自開発のReRAM(抵抗変化メモリ)技術を開発している。2009年5月に、2年後に量産可能な水準まで技術開発が進んだと報道機関向けに発表した。

 CMOx技術のメモリ素子は、導電性酸化物の薄膜に絶縁性酸化物の薄膜とセル選択素子用薄膜を重ねてその上下を金属電極薄膜で挟んだ構造を基本とする。上下の金属電極配線は直交しており、いわゆるクロスポイント(交差点)型のメモリセル構造となる。この構造は原理的には、最も高密度なメモリセルアレイを実現できる。Unity Semiconductorはセル選択素子はトランジスタではないとし、具体的な素子の種類を明らかにしていないが、常識的にはダイオードだとみられる。

 データを書き込む原理は以下の通りだ。2枚の金属電極に高めの電圧を加えると、導電性酸化物の内部に存在する酸素イオンが高電界によって絶縁性酸化物の内部へと移動する。絶縁性酸化物は膜厚が非常に薄く、通常であればトンネル電流が流れる(低抵抗状態)。しかし酸素イオンが流れ込むことによって電子のトンネリングをさえぎるエネルギー障壁が高くなり、トンネル電流が流れにくくなる(高抵抗状態)。その後に逆方向の高電圧を印加すると、酸素イオンが導電性酸化物の内部に戻り、再びトンネル電流が流れやすくなる。データを読み出すときは低めの電圧を金属電極間に加え、電流値を測ることで論理値の高低を判断する。

 Flash Memory Summit 2009では、Unity Semiconductorの設立者でチェアマン兼プレジデント兼最高経営責任者(CEO)を務めるDarrell Rinerson氏が講演した。CMOx技術はクロスポイント型のメモリ素子層をいくつも重ねられるので大容量化に有利であること、メモリチップの製造工程は標準的なCMOSプロセスを前半として後半にCMOx技術のメモリ素子層を重ねる順番であること、64Gbitのメモリチップの製造を2010年に始める計画であること、米国特許を60件ほど取得済みであること、などを説明した。

 製品化ロードマップは非常に積極的だ。2010年に64Gbitチップの試作生産を始めるのに続き、2011年には128Gbitチップの試作生産を始めたいとする。NANDフラッシュメモリよりも大容量のチップを狙う。

CMOx技術の概要 CMOx技術によるメモリ素子の書き込みと読み出しの原理
CMOx技術によるメモリチップの製造工程 メモリチップの製品化ロードマップ

●Sidense:セキュリティに優れる高密度OTP

 Sidenseは、カナダのオンタリオ州オタワに本拠地を構えるベンチャー企業である。独自開発のアンチヒューズ技術(通常は絶縁状態であり、書き込むと短絡状態になる技術)「1T-Fuse」による高密度OTP(One Time Programmable PROM)を開発し、製品化している。SoCに埋め込むマスクROMの代わりとして複数の半導体ベンダーが1T-Fuse技術を導入済みで、同社が公表している導入企業には台湾TSMC、台湾UMC、イスラエルTower Semiconductor、中国SMIC、富士通マイクロエレクトロニクスがある。Sidenseは最大容量で8Mbitの埋め込み用OTP回路ブロックを提供中である。

 Flash Memory Summit 2009では、同社のマーケティング担当ディレクターを務めるJim Lipman氏が講演し、1T-Fuseの書き込み原理や素子構造、性能などを説明した。基本原理はゲート酸化膜の絶縁破壊である。多結晶シリコンゲートをシリコン基板上に形成し、高電圧をゲートに加える。するとゲート酸化膜にトンネル電流が流れ出し、酸化膜がすぐに(100ns以内)絶縁破壊を起こす。その結果、nm級の微小なダイオードができる。

 破壊電圧は5V〜8Vとそれほど高くはない。フラッシュメモリの書き込み電圧と同じくらいか、むしろ低めである。絶縁破壊前のトンネル電流の密度は1平方mm当たりで1mAくらい。ダイオード形成後の電流密度は1平方μm当たりで1Aであり、書き込みによって電流密度は約1万倍に増大する。

 実際にはトランジスタのゲート領域を厚い酸化膜領域と薄い酸化膜領域に分けて形成し、薄い酸化膜のゲート領域を短絡させる。トランジスタをオンさせて厚い酸化膜領域にチャネルが形成されると、短絡部を通じて電流が流れる。電流が流れるか流れないかをデータとして、トランジスタに記憶しておくことになる。データの読み出しに必要な時間は10nsくらいと非常に短い。

 1T-Fuse技術のメモリセルは1個のトランジスタと類似の構造なので、記憶密度は極めて高くできる。また長期信頼性に優れる。 Lipman氏は、高温(125℃)で読み出しを繰り返したときの寿命を20年以上と述べていた。さらに、書き込んだ内容を解析できないことを利点として挙げていた。フラッシュメモリやEEPROMなどの電荷蓄積型メモリは、エッチングで内部回路を露出させてからプロービングすれば、書き込んであるデータを把握できることがある。これに対して1T-Fuseは電荷を蓄積しないので、プロービングではデータを読み取れない。このため、データを盗まれる恐れがなく、セキュリティに優れる。

1T-Fuse技術の書き込み原理 1T-Fuse技術のセルトランジスタ構造
長期信頼性のテスト結果 エッチングを繰り返しても書き込み内容は解析できない

 次世代メモリ技術の開発をずっと見ていると、いつまでもアイデアが尽きないことにつくづく感心させられる。フラッシュメモリの原理と試作結果が学会で発表された'80年代半ば、電気的にデータを消去可能な不揮発性メモリ製品は標準型EEPROMだけだった。ただし標準型EEPROMは原理的にメモリセルが大きく、高密度化には不向き。このため、電気的にデータを消去できて記憶密度を高くできる、さまざまなメモリ技術が学会をにぎわせていた。その競争から抜け出して大市場を築いたのがフラッシュメモリだった。

 フラッシュメモリは極めて優れたメモリなのだが、書き込み速度が低いことと、書き換え可能回数に制限があることが常に問題視されてきた。フラッシュメモリが市場に普及して以降、新たに登場したメモリ技術の大半は、フラッシュメモリが抱えるこの欠点を解消すべく考案されてきた。その中から生まれたのが磁気メモリ(MRAM)や相変化メモリ(PRAM)、抵抗変化メモリ(ReRAM)などである。Flash Memory Summit 2009に登場したメモリ技術は、これらをさらに進化させたものになっている。メモリ事業の景気状況はまだまだ厳しいものの、新たなメモリ技術を開発する意欲は少しも衰えていないようだ。

(2009年 8月 17日)

[Reported by 福田 昭]

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