元麻布春男の週刊PCホットライン

Unity Semiconductorの新不揮発メモリ技術



●前回の訂正

 ここ数回にわたってSSDや関連する話題を取り上げてきたが、前回触れた、スペアブロックへの代替処理しか行なわないUSBメモリやメモリカード用のNANDコントローラは、さすがにもう使われていないようだ(10年ほど前までは使われていたらしい)。お詫びして訂正させていただく。

 現在のコントローラは、消去済みのスペアブロックを利用して、データの書き込みを行なっており、その結果、受動的なウェアレベリングが行なわれているという。

 つまり、書き込みの度に異なる消去済みのスペアブロックが選択され、書き込みデータが1ブロックより小さければ、ほかのページのデータは、ブロック間コピーで処理される。コピー完了後、LBAが参照する物理ブロックはコピー先に更新され、元ブロックは消去されて消去済みのスペアブロックとなる。

 この方法の最大のメリットは、コントローラに大容量のメモリ(バッファ用DRAM)を内蔵する必要がないことだ。NANDフラッシュメモリの消去ブロックサイズは、当初の数KBから128KB、512KB、1MBと時間の経過とともに拡大しており、コントローラ内蔵のメモリでは対処が困難、あるいは高価になってしまう。スペアブロックに書き込むことで、バッファ用DRAMの容量が抑えられ、コントローラを小さく安価にすることができる。ただし、LBAに対する物理アドレスの付け替えが必須となるため、LBAと物理アドレスの対照表は不可欠、というわけだ。

 また、この方式を採用することで、一定の範囲で消去されるブロックのローテーションが、半ば勝手に行なわれる。上で受動的なウェアレベリングと書いたのは、そういう意味だ。書き込み時に消去済みブロックを選ぶ際、消去ブロックの消去回数を参照する、といったことが行なわれていれば、もう少しウェアレベリングっぽいが、実際には狭いスペアブロックの中での選択となるため、必ずしも消去回数を参照しているとは限らないようだ。

 消去回数を参照するには、消去回数をメタデータとして保存しておく必要があるが、これも標準があるわけではない。逆に、そのあたりも含めて標準化しようというのがONFIであり、それなしにはNANDフラッシュを汎用のモジュール化することは難しい、ということであろう。

 こうしてストレージデバイス向けにNANDフラッシュメモリが普及する一方、その限界についても語られることが少なくない。製造プロセスの微細化によりフローティングゲートの絶縁膜はますます薄くなり、いずれは消去可能回数が実用限度を下回ってしまうのではないかと懸念されているからだ。もちろん、こうした懸念は技術革新で先送りされてきたし、同じことは半導体の製造技術そのものにも当てはまる。しかし、NANDフラッシュの限界を見越して、ポストフローティングゲート技術の開発が活発化していることも事実だ。

●Unity Semiconductorの新不揮発メモリ

 米国時間の5月19日、Unity Semiconductorは、メモリセルにトランジスタを使用しない、新方式の不揮発メモリについて、2年後に量産可能なメドがついたと発表した。同社は、Micron TechnologyやAMDでEEPROMやフラッシュメモリの開発を行なってきたDarrell Rinerson氏が、2002年に設立した不揮発メモリ開発のベンチャー企業。複数のベンチャーキャピタルの出資に加え、大手ハードディスクメーカー(社名非公開)の出資も受けているという。

 同社が開発した技術はCMOxと呼ばれ、Conductive Metal Oxide(導電性金属酸化物)の上にTunnel Oxide(トンネル酸化膜)を重ねてメモリセルを構成する。CMOとトンネル酸化膜間での酸素イオンの移動により、抵抗値が変化することを利用してデータの記録を行なう。通常、常温ではイオンは不活性だが、高電界下ではイオンが活性化する現象を利用する。実際のメモリチップでは、CMOxによるメモリアレイを複数層重ねてMLCの記録を行なう。

 CMOxの特徴は、不揮発であると同時に、書き込み速度が現行のNANDフラッシュメモリの5~10倍と高速であること。セルサイズも小さく、NANDフラッシュの4分の1程度におさまるという(4bit/セルのMLC NANDよりも上だとしている)。メモリセルにトランジスタが含まれないため、CMOS技術の微細化を必要としないというメリットもある。

 その一方で、メモリセルにインターフェイス等のロジック(フロントエンド)と異なる技術を用いるため、製造が2段階になるという欠点もある。製造工程としては、最初にCMOS技術でベースを作成し、別の工場でメモリセル層をベースの上に形成しなければならない。

 Unity Semiconductorでは、ベースを作成するCMOS技術に最先端プロセスを必要としない(同社は90nmプロセスでの製品化を計画している)こと、メモリ集積度の向上にCMOS技術の微細化を必要としないことを利点として挙げている。また、後工程(BEOL:Back End of Line)でメモリセルを形成することから、本メモリをBEOLメモリとも呼んでいる。

CMOx技術を用いたメモリセルCMOxメモリセルを用いたメモリアレイ(クロスポイントメモリアレイ)の構造

 逆に言うと、他のロジックとの混載が困難で、SoC等には適さない。セル面積が小さく集積度の向上に有利であることから、SSDのようなストレージデバイス向けのメモリ、Storage-Classメモリと同社は呼んでいる。

 また、従来とは異なる製造プロセスであるため、新規に工場(BEOLメモリファブ)を建設する必要がある、ということでもある。現在、同社は量産へ向けたBEOLメモリファブの共同建設について、 複数の大手メモリメーカーと話し合いを行なっているとしているが、まだ具体的な名前や計画については明らかにされていない。Unity Semiconductorでは、2011年に64Gbitチップの量産を目指すとしているが、それが実現するかどうかは、この共同建設パートナーしだいだろう。

 もう1つ、不揮発メモリということで気になるのは、消去可能回数についてだ。トンネル酸化膜を利用する以上、寿命の問題はどうしても避けて通れないと思われるが、現時点で具体的な指標等は明らかにされていない。単にNAND(フローティングゲート)よりも上、とされているだけだ。

 というわけで、現時点では量産がいつ頃になるのかハッキリとはしないが、つい先日まで動作原理さえ定かではないとされていたReRAM(抵抗変化メモリ)を実用化する有力な候補の1つであることは間違いないだろう。こうした技術の開発に大きな進捗が見られるようになったのも、NANDフラッシュメモリの市場が拡大したことが大きく貢献しているハズだ。