福田昭のセミコン業界最前線
縮小均衡へと疾走するルネサス
(2014/4/28 14:28)
国内最大の半導体専業メーカー、ルネサス エレクトロニクス(以下は「ルネサス」)は2014年4月1日に、発足してから4年目に入った。2012会計年度(2012年4月~2013年3月)の後半に始まった本格的な事業再構築は、まだ止まらない。それどころか、さらに強くアクセルを踏もうとしているように見える。
前年度(2013会計年度、2013年4月~2014年3月)の後半は、ルネサスが独立系の半導体専業メーカーとして再出発した時期である。10月1日に、産業革新機構とコンソーシアム8社が大株主となり、これまでのNECと日立製作所、三菱電機が大株主だったルネサスとは、資本関係が大きく変化した。特に株式数の3分の2を超える大株主である産業革新機構の影響は、目に見えて強まった。ルネサスは2013年9月30日に「産業革新機構はルネサスの親会社ではないと判断する」と表明したが、実態はかなり違う。
様変わりした経営幹部の顔ぶれ
まず経営幹部の顔ぶれが様変わりした。2013年11月1日に、社外取締役だった産業革新機構出身の柴田英利氏が、取締役執行役員常務兼企画本部長兼CFO(最高財務責任者)に昇格した。柴田氏は産業革新機構から離れ、ルネサス専任となった。2014年2月19日には取締役だった水垣重生氏が退任し、産業革新機構の豊田哲朗氏が社外取締役に就任した。
その結果、取締役会のメンバーは以下のような構成となった。代表取締役が2名で、オムロン出身の作田久男CEO(最高経営責任者)と日立出身の鶴丸哲也COO(最高執行責任者)である。取締役は常勤1名と非常勤2名。常勤1名は柴田氏で産業革新機構の出身、非常勤2名(朝倉陽保氏と豊田氏)は産業革新機構との兼務である。取締役5名中、3名が産業革新機構の関係者で占められている。これは取締役の過半数に相当し、取締役会の決議を主導できるのは産業革新機構の関係者であることが分かる。
業務執行に関してはトップである執行役員のメンバーを改めた。本部長クラスの執行役員常務には柴田氏のほか、同じ11月1日付けで高橋恒雄氏がCSMO(最高セールス・マーケティング責任者)兼務、横田善和氏が第二事業本部長兼務で就任した。なお高橋氏は2009年末まで、米国系半導体メーカーであるフリースケール・セミコンダクタ・ジャパンの代表取締役社長を務めていた。横田氏は日立出身で、ルネサスの液晶ドライバIC生産子会社である「株式会社ルネサスエスピードライバ」の代表取締役社長を務めていた。2014年4月現在も横田氏は同社の取締役会長(非常勤)を兼務している。
続く2013年12月1日には、組織変更を実施した。それまでの「第一事業本部」(マイコン事業、SoC事業、技術開発)と「第二事業本部」(アナログ事業、パワー半導体事業)をそれぞれ、「第一ソリューション事業本部」、「第二ソリューション事業本部」に改称した。同時に、事業本部の傘下にある事業部の組み換えを実施した。
ただし事業部組み換えの詳細は公表されなかった。ルネサスの公式Webサイトにおける組織図が2013年11月に大幅に簡略化され、「本部」の傘下にある「部」が明示されなくなったためである。
生産部門の再編成と企画、販売、マーケティングの強化
そして本コラムでご報告したように、ルネサスは2014年4月1日付けで生産部門と生産関係会社を再編成した。半導体生産の前工程(シリコンウェハの処理工程)を担当する「ルネサス セミコンダクタ マニュファクチャリング株式会社」と、半導体生産の後工程(シリコンウェハをダイに切り離してパッケージングするとともにテストを実施する工程)を担当する「ルネサス セミコンダクタ パッケージ&テスト ソリューションズ株式会社」の2社に集約したのだ。いずれもルネサスの100%子会社である。
同日にルネサスは、組織変更と人事異動を実施した。組織変更では、企画本部に第一ソリューション事業本部の「グローバル事業戦略統括部」を移管した。この結果、事業戦略の構築に関する機能は企画本部に集約された。それからグローバル・セールス・マーケティング本部に「第一マーケティング統括部」、「第二マーケティング統括部」、「営業技術統括部」、「マーケティングコミュニケーション統括部」を新設した。同本部の機能が強化されたことが分かる。なお同本部の海外営業統括部が同日付けで廃止されている。
また生産部門の子会社への集約に伴い、生産本部の組織が再編成された。「生産統括部」、「デバイス開発統括部」、「実装技術開発統括部」の3つの統括部にまとめられた。
応用分野別に組み換えられた事業本部
ルネサスの設計・開発部門である第一ソリューション事業本部と第二ソリューション事業本部は、応用分野別に組織が組み換えられた。自動車用の半導体事業全般が第一ソリューション事業部の担当、産業用や家電用の半導体事業と汎用の半導体事業は第二ソリューション事業部の担当となり、アプリケーション別事業部の性格が強まった。
4回の早期退職優遇制度で約12,000名が退職
2014年4月1日の前日、すなわち前年度の最終日には、早期退職優遇制度に応募した従業員がルネサスを退職した。ルネサスが早期退職優遇制度を実施したのは、公表されている範囲ではこれが第4回目である。第4回目の退職者募集は、生産部門の再編成によって影響を受ける従業員を対象としていた。退職した従業員数は696名。転籍や転勤などに応じられなかった従業員が大半だったとみられる。
第1回の早期退職優遇制度によって従業員が退職したのは2011年3月31日。それから3回の早期退職募集を追加することで、3年間にルネサス(およびグループ会社)の従業員は累計で約12,000名が早期退職に応じた。
2016年4月には従業員数は2010年の約4割に減少
人員の削減は今後も続く。2014年1月の労使協議においてルネサス経営陣は、2016年3月までに5,400名を追加削減する必要があると組合側に説明し、理解を求めた。過去の実績から類推して1名当たりで約750万円の人件費削減(年間当たり)になることから、5,400名を削減すると年間で約400億円の人件費削減となる。
人員削減完了後の2016年4月にはルネサスの従業員数(グループ会社を含む)は約2万名に減少する。2010年4月の発足当初に約5万名をルネサスは雇用していたので、6年間で被雇用者数を約4割に減らすことになる。
設計開発拠点の閉鎖と本社事務所の移転
2014年1月の労使協議では人員削減案のほか、設計開発拠点を再編成する案が経営陣から労働組合に提示されたとされる。具体的には玉川事業所(神奈川県川崎市、元はNECエレクトロニクス)、相模原事業所(神奈川県相模原市、元はNECエレクトロニクス)、北伊丹事業所(兵庫県伊丹市、元は三菱電機)を2015年9月までに閉鎖し、従業員を配置転換する。配置転換の対象となる従業員はおよそ6,000名に及ぶ。
残る設計開発拠点は、武蔵事業所(東京都小平市、元は日立製作所)、高崎事業所(群馬県高崎市、元は日立製作所)、那珂事業所(茨城県ひたちなか市、元は日立製作所)である。例えば玉川事業所からは約2,300名が転勤対象となり、約1,600名が武蔵事業所、約500名が高崎事業所、約200名が那珂事業所へ配置されるもようだ。
さらには、本社事務所の移転が予定されている。現在の本社事務所は東京都千代田区大手町の日本ビルにある。日本ビルは1962年に完成した建物で老朽化が進んでおり、賃貸契約は最長でも2016年3月までとなっている。このため、2015年度中に本社事務所を移転する必要がある。移転先は現在のところ、公表されていない。
これまでルネサスは、生産拠点を中心に事業再編を進めてきた。今後は、設計開発拠点の再編成が本格化する。生産と設計開発の再編成はいずれも、手がける規模と従業員数を縮小していく縮小均衡の性格が強い。「守り」を堅めるだけでは手詰まりになる。「攻め」の方向性が今のところ見えてこないのが、いささか残念だ。