■西川和久の不定期コラム■
改造前/改造後 |
正月休みのデジタルアンプに引き続き、GW休みの改造ネタ。もう出荷されてから少し日数は経っているので、入手済みの方も多いと思うが、今回はインプレスジャパンのUSB DAC「DVK-UDA01」を入手したので、レポートをお届けしたい。また、ちょっとした改造で音質向上を狙ってみたい。
●約57×52mmのサイズに全部入り
過去何種類かのUSB DACキットを組み立てたことがあるが、この「DVK-UDA01」は、約57×52mmのサイズに、USBコネクタ、アナログ出力、同軸デジタル出力、光デジタル出力(オプション)と、全てのコネクタがオンボードになっているのが特徴的だ。アナログ出力やデジタル出力のコネクタが基板の外にあると、そのままでは断線したりノイズが出たり使いにく、ケースに入れる必要が出てくる。
もう1つの特徴は、ICソケットを使い、一番音質に関係するアナログ出力側のカップリングコンデンサを半田付け無しで容易に交換できることだ。同じ仕掛けで抵抗を使い、出力も調整可能となっている。これはなかなかのアイディアで、コンデンサをとっかえひっかえして試すのにはうってつけだ。
ただしICソケットを使っている関係上、リード線の径は0.6mmまでとなる。この時、ライン出力であればせいぜい数百uFなので何とか入るが、ヘッドフォン出力だと更に大きな(数千uF)容量が必要となり、入らないケースもありそうだ(大容量のコンデンサはリード線の径も太い)。
搭載しているチップは「Burr Brown PCM2704」。USB DACとしては定番中の定番で、その実力には定評がある。主な仕様は以下の通り。
【表】インプレスジャパン「DVK-UDA01」の仕様USB DACチップ | Burr Brown PCM2704 |
PCインターフェイス | USB 1.1 |
アナログ出力 | ライン出力/ヘッドフォン出力(ステレオミニ) |
デジタル出力 | S/PDIF同軸デジタル出力、光デジタル出力(オプション) |
対応サンプリング周波数 | 44.1/44KHz 16bit |
サイズ/重量 | 約57×52mm(幅×奥行き)/約22g |
価格 | 5,985円 |
この「DVK-UDA01」は、書籍形式で売られ25ページの解説と中箱に基板やパーツなどが納められている。先に書いた通り、ほとんどのパーツは既に基板へ実装済み。半田ゴテは必要無く、「必要な工具はラジオペンチだけ」と、キットとしてのハードルは低い。これなら誰でも組み立てられるだろう。
手順としては、付属の電解コンデンサ(カップリングコンデンサ)の足をICソケットの形状に合わしラジオペンチなどを使い折り曲げ、不要な部分をカットする。またカットしたリード線は同じくICソケットに合わせて折り曲げておく。
ICソケットの左右一番外側にコンデンサ、1つ内側はリード線を挿し込む。この時、コンデンサの極性は手前がマイナスになるようセットする。仕上げは裏にゴム足を4カ所付けて完成だ。
音出しは、WindowsマシンやMacのUSBポートへUSBケーブルを、ステレオミニジャックからオーディオ機器へ接続し、セレクタで「USB DAC」を選択すればサウンドが鳴り出す。出力が大きいようであれば、付属の抵抗を使い誌面に書かれている方法で調整をすればいい。筆者のケースでは、抵抗は必要なかった。
iPad+iPad Camera Connection Kit(USB)で駆動 |
この「DVK-UDA01」は消費電力が少ないので、iPadのiPad Camera Connection Kit付属のUSBポートからでも駆動できる(この時、DVK-UDA01とCamera Connection Kitを先にUSBケーブルで接続し、最後にDockコネクタへ挿し込む)。iPadをフル充電した状態で丸2日間は再生可能だ。iPadはバッテリ駆動なので、結構クリアな音質だ。
多くのUSBサウンド機器は消費電力の関係からそのままではiPadに接続できないものがあるが、これは本製品の裏技的な用途と言えよう。
加えて回路的に安価なUSB DAC(キット)にはあまり見かけない特徴もあるのだが、この点については、後半の改造編で解説したい。
●改造して楽しむポイントは?
かなり前に今回のDVK-UDA01と同じPCM2704などを使ったUSB DACキットを組み立てているので、その経験を元に改造するポイントを並べると以下のようになる。
1)電源周りの強化
・デカップリングコンデンサのOS-CON化
・USBのVBUSを使わず外部電源を供給
・PCM2704の作動モードをバスパワーからセルフパワーへ
2)アナログ部のコンデンサや抵抗を交換
3)オペアンプの交換/外部電源供給
4)クリスタルユニットから水晶発振器へ変更
参考までに昔作ったUSB DACキットの写真を掲載した。左側はコンデンサだけグレードアップし、PCM2704の5pinのDOUTから光デジタル出力を追加したもの。中央は、VBUSの+5Vと三端子レギュレータを使った+5Vを切り替えできるようにした上で、クリスタルユニットを水晶発振器へ変更、5pinのDOUTから光と同軸の2種類のデジタル出力に対応したもの。ケースに入れたこともあり、しばらく使っていた。ただし別途3.3Vの電源を組むのが面倒で、PCM2704の作動モードはバスパワーのままと中途半端な工作となってしまった。この2つのベースは「VICS USBオーディオ(PCM2704)キット」だ。
右側は若松通商の「WUAIF01(PCM2706)キット」。左側と同様、パーツだけグレードアップした。このキットはヘッドフォン出力にも対応していたものの、個人的にヘッドフォンは使わないので、関連する回路のパーツは乗せていない。そして、これら全て作動モードはバスパワーとなっている。以降、何台かUSB DACを組み立てたが、分解して今は影も形もない。
さて、DVK-UDA01の改造案を考えた時に、このキットの特徴上、あまり手を入れるポイントが無いことに気が付いた。
まず、PCM2704のアナログ出力をダイレクトに使っているためオペアンプが無い。従ってオペアンプを使い音質向上(?)させるとすれば別途基板を作らなければならず、場外乱闘となる。
さらに基板を眺めると「XC6210」(IC3)らしきものを発見。これを使ってVBUSの+5Vから+3.3Vを作り出し、PCM2704を“セルフパワー”で作動させているようだ(VBUS側に10uF/EC2、出力側に1,000uF/EC3)。PCM2704のデーターシートを見ると、VBUSを使ったバスパワーより、セルフパワーの方がノイズやダイナミックレンジなどの特性が良い。
設計者の中田潤氏はAV Watchでの連載第3回の最後で「実は、同じPCM2704を使用したUSB DACでもノイズレベルには結構な違いがある。これは電源まわりの設計によるところが大きい。PCM2704にはUSBの5Vから3.3Vを得るためのレギュレータという部品が内蔵されているのだが、これはオマケ程度の性能なので、外部のレギュレータを使用するのが鉄則」としており、どうやらこのことを示しているようだ。
アナログ部のカップリングコンデンサ交換は標準で対応しているので種類を選ぶ程度。抵抗に関しては確認した限り、フィルターを構成するのに一部使われているが、信号に対して直列に入っているものは無く、交換しても効果は薄い。
そうすると先の改造ポイントで残るのは、電源周りに使われている電解コンデンサのOS-CON化、クリスタルユニットから水晶発振器へ変更だけとなる。
ただ冒頭に書いた通り、個人的にこのサイズでアナログ出力、光と同軸のデジタル出力コネクタが基板上にあるのが結構気に入っているので、基板をはみ出すような改造はしたくない。水晶発振器を搭載するにはそれなりのスペースが必要。OS-CON化しか出来ないと結論になる。「頑張って改造するぞ!」と思ったものの、これではプチ改造となってしまう。
改造用に購入したパーツは写真の通り。OS-CON 220uF/6.3V×4(予備×1)、47uF/6.3V×1、100uF/6.3V×2。いろいろなカップリングコンデンサ、それとTX177Aだ。
カップリングコンデンサはクリーム色のが10uFのタンタルコンデンサ、銀色のが100uFのタンタルコンデンサ、赤いのは御馴染みWIMAの10uFとなる。キットの仕様上は220uF以上とされているが、筆者手持ちのアンプは全て入力がハイインピーダンスなので、10uFもあれば大丈夫だろうと判断した。もちろんヘッドフォンなどローインピーダンスの機器を接続する場合は、それなりの容量が無いと低音不足になる。
また、オリジナルの電源部に使われている電解コンデンサは、1,000uF、10uF、100uFが2つ、3つの空きパターンの部分は470uF推奨となっている。実装済みの耐圧はばらばらだが、回路的には6.3V以上であればOKだ。従って6.3VのOS-CONを購入したものの、ギリギリ入るサイズを選んだ結果、EC3、EC5~EC7までの容量が圧倒的に不足する。ただここは量より質を選んだ格好だ。
オリジナルは元気で賑やかな音質だが、この改造により、全体的に大人しくなる印象となった。この点は好みもあるので、どちらがいいかは聴くジャンルや個人の趣味趣向にもよるだろう。心配していたカップリングコンデンサとOS-CONの容量不足は、試した範囲では問題は感じられなかった。
カップリングコンデンサによる音の変化は、10uFのタンタルコンデンサはスッキリしているものの面白みの無い音、100uFのタンタルコンデンサはコッテリ系で筆者的には好み。WIMA製のものは全体的にまとまったサウンドとなる。余談になるが、正月休みに記事にしたデジタルアンプ「LAX-OT1」は、入力にカップリングコンデンサが入っているので、DVK-UDA01側はカップリングコンデンサ無しでも問題無い。
さて、ここで記事が終わっても面白くないので、ネットでいろいろ検索した結果、興味深い水晶発振器を発見した。僅か5×3.2mmのサイズで、12MHz/3.3V駆動の±2.5PPM・高精度を実現した温度補償型水晶発振器「FOX924B」だ。少し前からあったようで、PCM2704の改造ネタで結構使われているデバイスだった。これなら場外乱闘にならず基板内に収めることができる。早速取寄せて、さらなる改造を開始した。
【表】「FOX924B」/高精度温度補償型水晶発振器の仕様周波数安定性 | ±2.5PPM |
出力電圧(HCMOS) | VOL:0.5V VOH:80% Vdd min |
電源電圧 | 3.3V±5% |
サイズ | 5×3.2mm |
価格 | 共立エレショップで780円 |
まずクリスタルユニットとそれに関連するパーツ(C7、C6、R4、R7)を外す。ここは比較的密度が低いので容易に半田ゴテが使える。改造前と後の回路図を掲載したので参考にして欲しい。うまく処理できたら、次は「FOX924B」の取付だ。
当初、このサイズなので「衰えつつある眼で大丈夫かな!?」と思っていたが、やってみると意外と簡単だった。方法はまず裏の#1がわかるよう、マジックでマーキング。クリスタルユニットを外してホールになっている部分(裏側向かって左側)へ適当なリード線を挿し込み半田付け。その逆方向をFOX924Bの#3へ半田付けする。これで豆粒ほどのパーツが固定できるので、後は近辺にある3.3VとGNDを接続する。この時#2や#4もリード線で配線すると、よりガッチリ固定される。なお、PCM2704のXTO(1pin)はオープンのままで良い。
早速視聴するとビックリ! パッと聴いただけでも、音の出方がまるで違うのだ。音の厚みや余韻などがより良い方へ変化する。DACをリクロックした時と同じ雰囲気かも知れない。これで780円はお買い得だろう。
以上のようにインプレスジャパン「DVK-UDA01」は、オリジナルのままでも安価なキットには珍しいセルフパワー作動を採用。サウンド出力に加え、光(オプション)と同軸デジタル出力を基板上に備える。しかも約57×52mmと小型。そのまま使うのもよし、今回のように少し手を入れて更に高音質を狙うのもよし、なかなか楽しめるUSB-DACキットだ。GWに軽く工作するのにピッタリなキットと言えるだろう。