■西川和久の不定期コラム■
製品写真 |
「HP GPC 2012レポート」で話題になった、27型IPS液晶とXeon、Quadro搭載の一体型ワークステーション「Z1」の試作機が送られてきたので試用レポートをお届けしたい。ほかに類を見ない個性的なマシンだ。
●27型の筐体にXeonとQuadroを搭載日本ヒューレット・パッカード(日本HP)のデスクトップワークステーション・ラインナップであるZシリーズは、初代「Z800」が2009年に発表され、その後2011年に小型化した「Z210」や、「Z400」、「Z600」などが追加された。今回発表されたZ1は、この流れを継承しつつ、「Power without the tower」をコンセプトに作られたもので、扉の写真からも分かるように、液晶ディスプレイと一体化した一体型ワークステーションとなる。
筆者はこれまでいろいろな一体型を触ってきたが、一般的なこの手のPCと比較してまず目につく大きな違いは、液晶が27型IPSパネルで解像度は2,560×1,440ドットという点。そして、厚み7cmほどの中にXeonプロセッサとQuadro 4000Mといったハイエンドなパーツが搭載。しかも各ユニットはモジュール化され、一体化PCでありながら、メンテナンス性も高くなっている。BTOによりプロセッサやGPU、ストレージなどの構成を変更できる。今回手元に届いたマシンの仕様は以下の通りで、国内で販売される標準構成とは若干異なっている。
CPU | Intel Xeon Processor E3-1245(4コア/8スレッド、3.3GHz/TB 3.7GHz、キャッシュ8MB、TDP 95W) |
チップセット | Intel C206 |
メモリ | 16GB/ECC DDR3/最大32GB(4スロット) |
HDD | 1TB(7,200rpm) |
光学ドライブ | スロットイン方式DVDスーパーマルチドライブ |
OS | Windows 7 Professional(64bit SP1) |
ディスプレイ | 27型液晶IPS(光沢)、2,560×1,440ドット |
グラフィックス | Quadro 4000M(2GB)、DisplayPort出力あり |
ネットワーク | IEEE 802.11a/b/g/n、Bluetooth 3.0+HS、Gigabit Ethernet |
その他 | USB 3.0×2、USB 2.0×4、IEEE 1394×1、4in1メモリカードスロット、音声入出力、光デジタル出力、1080p Webカメラ |
電源 | 400W |
サイズ/重量 | 664×419.1×584.2mm(幅×奥行き×高さ)/約21kg |
プロセッサはIntel Xeon Processor E3-1245。Sandy Bridgeアーキテクチャで、4コア8スレッド、クロック3.3GHz。TurboBoost時は3.7GHzまで上昇する。キャッシュは8MB。その他プロセッサとしては、Core i3-2120(3.33 GHz、キャッシュ3MB、2コア、TDP 65W、Intel HD graphics 2000)、Xeon E3-1245(3.3 GHz、キャッシュ8MB、4コア、TDP 95W、Intel HD Graphics P3000)、Xeon E3-1280(3.5 GHz、キャッシュ8MB、4コア、95W)が選択できる。
チップセットはSandy Bridge版Xeonに対応するIntel C206。メモリは4スロットあり、ECC DDR3を最大8GB×4の計32GBまで搭載できる。
グラフィックスは、プロセッサ内蔵のIntel HD Graphics 2000、Intel HD Graphics P3000に加え、単体GPUとしてエントリー3Dクラスの「NVIDIA Q500M Graphics」、ミドルレンジ3Dクラスの「NVIDIA Q1000M Graphics」もしくは「NVIDIA Q3000M Graphics」、そしてハイエンド3Dクラスとして今回搭載されていた「NVIDIA Q4000M Graphics」を用途や予算に応じて選べる。
なお、これらのGPUは形状が専用になっており、市販のものは使用できない。拡張スロットはPCI Express x16フルサイズ×1とmini PCI Express×3。外部出力としてDisplayPortも用意されている。
ストレージは「SATA 7,200rpm 3.5インチHDD:250GB/500GB/1TB/2TB」、「SATA 10,ooorpm 2.5インチHDD:300GB/600GB」、「SSD:160GB/320GB」から選択可能。専用のケージを使って、3.5インチドライブ×1もしくは2.5インチドライブ×2を搭載できる。
個人的に少し不満なのは、SSD(2.5インチ)と3.5インチHDDを同時に搭載できないこと。スペース的に仕方ないのだろうが、OSドライブはSSDにして高速アクセス、データドライブは3.5インチの大容量タイプを使いたいからだ。光学ドライブは、スロットインタイプで、DVDスーパーマルチドライブかBDドライブが選べる。
ネットワークは、有線LANがGigabit Ethernet、無線LANがIEEE 802.11a/b/g/n。Bluetooth 3.0+HSも搭載する。その他のインターフェイスは、USB 3.0×2、USB 2.0×4、IEEE 1394×1、4in1メモリカードスロット、音声入出力、光デジタル出力、1080p Webカメラと一通り揃っている。音声はサブウーファ出力にも対応している。
ワークステーションと言うことで、OSはWindows 7 Professional 32/64bit版に加え、HP Linux Installer Kit8、SUSE Linux Enterprise Desktop 11、Red Hat Enterprise Linux Desktop/Workstationなども選択可能だ。
パッケージが届いた時の第一印象はとにかく大きく重い。パネル自体が27型なので、ある程度のサイズは予想していたものの、パッケージを持ち上げたり、本体をパッケージから取り出す時などは、1人ではかなりしんどい。
パッケージから取り出すと、スタンドは折り畳まれた状態でパネルに対して水平になっている。ロックボタンを押すと、このスタンドがスッと動き出し、普通のスタンドの位置まで、手で伸ばすことが可能だ。写真からも分かるように、ピボットには対応していないものの、結構低い位置もしくは高い位置で固定できる(高さ調整10cm/角度調整前後35度)。かなりガッチリしているスタンドで固定後にふらつくような事はないが、その分、調整するのにはちょっと力が必要となる。
本製品最大の特徴の1つである、ボンネットのように筐体が開き、内部にアクセスできるZ1独自の構造は、通常のポジションから、パネルを水平になるよう折り畳み、左右にあるロックボタンを解除することによって、スッとパネル全体が持ち上がる仕組みとなっている。動画を掲載したのでその様子をご覧頂きたい。
【動画】内部へアクセスしている様子。パネルを水平にしてボンネットを開けるように内部へアクセスできる。また閉める時は、最後、ゆっくり閉まっていくのが分かる |
これまでいろいろな一体型パソコンを触ってきたが、内部にアクセスできた機種は非常にまれで、できてもリア側の小さいパネルが外れる程度だった。これだとメモリとストレージの交換程度に範囲は限定される。しかし、本製品では、簡単に内部全体にアクセスでき、しかも各モジュールがブロック化されネジなどを一切使っていないこともあり、容易に入れ替え可能だ。
厚み約7cmと27型液晶パネルのフットプリントへこれだけのものを詰め込むと、さぞかし中は窮屈だろうと思っていたが、意外にも綺麗に整理され、どちらかと言うと余裕がある。
筐体全体はほとんどがブラック、背面側がアルミ製と、ワークステーションとしてはなかなかクールなデザインだ。27型IPSパネルの発色はかなり高品位。ただし光沢タイプなので、映り込みはそれなりにある。
右側面には、電源スイッチ、スロットインドライブ、下側に4in1メモリカードスロット、IEEE 1394、USB 3.0×2、音声入出力などが並び、左側には特に何も無い。背面の下側には、音声入出力、USB 2.0×4、光デジタル出力、Ethernet、DisplayPort、電源コネクタとなる。
驚くべきは静音性とサウンドだ。ハイエンドなCPUやGPUが搭載されているので、結構煩くなりそうだが、ほとんど無音なのだ。耳を筐体に付けてやっと低いノイズが聞こえる程度。低速のファンと9個の温度センサーを使った制御でこの静音性を保っている。
サウンドに関しては、筐体のサイズを活かし、デュアルコーンのステレオスピーカーを前向きに設置、そしてSRS PREMIUM SOUNDを搭載と、拘りが見られる。実際、最大出力は十分以上、音質も低音から高音までレンジは広くなかなか良い。
●広大なデスクトップとパワフルな環境OSは64bit版Windows 7 Professonal SP1。圧巻なのは2,560×1,440ドットの広大なデスクトップ。外付けの液晶ディスプレイでこの解像度のものは過去少し扱ってきたが、一体型タイプとしては初。画面キャプチャからも分かるように、広々とした作業空間だ。
HDDはSATA 7,200rpmの1TB「ST31000524AS」を搭載。試作機と言うこともあり、いろいろアプリケーションが入っており、どこまでが正式なプリインストールなのか定かではないが、C:ドライブの1パーティションで929.50GB。空きは874GBとなっていた。
Wi-FiはIEEE 802.11aにも対応。ディスプレイアダプタはQuadro 4000Mで2GBのメモリを搭載している。
今回インストールされていたアプリケーションで印象的だったのが「HP Performance Advisor」。システムの構成から使用状況、サポートしているアプリケーションなどを簡単に見れるものだ。
中にはWindows エクスペリエンス インデックスやアプリケーションモニタなど、Windowsの標準機能で見れるものも含まれているが、こうして1つのアプリケーションにまとまっていると、一覧性と言う意味から非常に扱い易くなる。
ベンチマークテストはWindows エクスペリエンス インデックスとCrystalMarkの結果を見たい。また参考までに3DMark 11の結果も掲載した。
Windows エクスペリエンス インデックスは、総合 5.9。プロセッサ 7.6、メモリ 7.6、グラフィックス 7.3、ゲーム用グラフィックス 7.3、プライマリハードディスク 5.9。かなりのハイスコアだ。
ハードディスクだけバランスが悪く、SSDを使いたいところだが、先に書いたように、専用のケージが2.5インチ+3.5インチの構成には対応していないのが残念なところ。高速性+大容量が欲しい場合は、SSD構成で、HDDはUSB 3.0を使うといった対応が必要になる。
CrystalMarkは、ALU 71410、FPU 63305、MEM 48305、HDD 13739、GDI 19121、D2D 10777、OGL 78908。ALU/FPU/MEM、そしてグラフィックス系は正にハイエンド。特にOGLの値は、流石Quadro 4000Mと言ったところ。3DMark 11はP2473 3DMarksだった。
Windows エクスペリエンス インデックス。総合 5.9。プロセッサ 7.6、メモリ 7.6、グラフィックス 7.3、ゲーム用グラフィックス 7.3、プライマリハードディスク 5.9 |
CrystalMark。ALU 71410、FPU 63305、MEM 48305、HDD 13739、GDI 19121、D2D 10777、OGL 78908 |
3DMark 11。P2473 3DMarks |
以上のようにHP Z1は、27型IPS 2,560×1,440ドットのパネルと、Xeon+Quadroを搭載した一体型ワークステーションだ。パネルが水平になり、車のボンネットを開けるように、内部へアクセスできるのは他社製品にない魅力。実際に発売される構成の価格は252,000円からと、少し高価ではあるものの、スマートなハイエンドワークステーションが欲しいユーザーにもってこいの製品だろう。