第11回「スタバのカップでアンプ内蔵スピーカーを作ってみよう」



 この連載ではすでにいくつか音を出すプロジェクトを紹介しました。シンセやラジオです。しかし、どれも音源の機能だけで、スピーカーを鳴らすのは他の機器に頼っていました(ヘッドフォンアンプはブレッドボーダーズで作りましたね。前編後編)。やはり最終的な出力の部分も自分で作って、システムを完結させたいものです。

 今回は、アンプ内蔵のスピーカーシステムを作ってみることにしましょう。

この小さなカップがアンプを内蔵したスピーカーです。原作者はこれを「スタバカップアンプ」と呼んでいます。我々もそれにならうことにしましょう

 大阪の電子工作愛好家arms22さんのブログ「なんでも作っちゃう、かも。」で、この作品を初めてみたとき、我々はそのかわいい佇まいに惹きつけられ、「自分も作りたい」「どんな音が出るのか試したい」という思いをかき立てられました。そこで大阪取材の折り、時間を頂いて、直接、作り方のレクチャーを受けました。

 まずはそのときの様子から紹介します。

我々が宿泊中のホテルで手ほどきしてくれたarms22さん。小型の肩掛けカバンを持って現れ、そこから出した部品と工具でサクッと作ってみせてくれました
カップの中に入る部品はこれだけ。電池とモノラルアンプ回路です。アンプはキットで済ます手もあります。我々はそうすることにし、一番大事な、スピーカーをカップに取り付ける方法について重点的に教わりました
最初にやる作業は、フタとなる丸い板の作成です。厚紙を丸く切り抜きます。使っているのは、OLFAのコンパスカッター。これがないと始まりません
切り抜いたフタがカップの口にぴったりはまることを確認します。フチから数mm下がった位置でしっかり止まる大きさにします。円の精度が十分でないと隙間が空いてしまい、強度、音質、見た目が悪くなります
同じ大きさの円盤を2枚作ったら、そこにスピーカーを填め込むための穴を開けます。arms22さんは、コンパスカッターのセッティングの際、かならずノギスでカップやスピーカーを測っていました。内径を1mm未満の精度で知る必要があるので、定規よりもノギスのほうがいいでしょう
2枚の円盤でスピーカーを挟み、固定します。そのため、1枚の円盤には、スピーカーの前面に合った大きさの穴を、もう1枚の円盤には、スピーカー後部の出っ張った部分が入る穴を開けます。最適な穴径は使用するスピーカーによって異なります
スピーカーを挟んで、重なりぐあいを確認中。このスピーカーはデジットで350円のもの。小型で扱いやすく、音質も良いので気に入っているとのこと。残念ながら我々は入手しそびれてしまい、別のスピーカーを使いました
貼り合わせは両面テープで。簡単にすぐ作れることを重視して、接着剤は使わない方針のようです。写真のように、大きめに貼ってからはみ出した部分をカッターで切りとります。これで強度は十分
スピーカー部できあがり。丸い紙板はテープなどで固定する必要はありません。大きさがちょうど良ければ、カップのなかに落とし込むだけで安定します
カップの内側に厚紙を1枚入れて強度を高めます。底面にも1枚追加して強化したほうが、余計な震動が消えて音質が向上するとのこと
内蔵アンプ回路は何種類かあるようです。最初のバージョンは定番ICの「LM386N」を使用。その次は「TDA1552Q」。最近はD級アンプICが気に入っているとのこと。D級は発熱が少ないので、長時間の動作も安心。写真は(D級ではありませんが)低価格なアンプIC「HT82V739」版の回路図。arms22さんから頂いた手書きメモです
arms22さんによるレクチャーはここまで。ボリュームやジャックは、側面にアートナイフで穴をあけ、ネジ止めします。基板や電池は、ショートしないようポリイミドテープなどで要所を保護してから、カップに落とし込みます

 arms22さんの作業はとてもなめらかで速く、写真を撮りメモを取る我々の作業が追いつかないくらいでした。木工が好きだったという幼少の頃からの工作経験がカッターさばきに現れていました。また、スタバカップアンプには1度か2度作っただけでは到達できない小さなノウハウが詰まっていました。

 arms22さんが最初のスタバカップアンプを開発したのは、「バンドをやっている女の子になにかプレゼントしようと思った」のがきっかけのようです。スタバ好きの女の子がいたく気に入ってくれただけでなく、思ったよりもいい音がしたことから、いくつも作って改良を重ねることになったとのこと。コーヒーカップにアンプとスピーカーを入れるというアイデアもさることながら、スタバのカップでかわいくまとめたそのデザインは他の例を知りません。

 完成形の写真を見ただけでも作ってみたくなる作品ですが、実際に作っている様子を見ていたら、さらにその気持ちが強まりました。ここからは、我々のバージョンを紹介します。

ショートサイズのカップに直径5cmのスピーカーを組み合わせました。これより大きいスピーカーを取り付けるのは難しいと思います。このスピーカーの値段は千石電商で200円でした
スイッチ付きのボリュームとRCAジャックが側面にあります。ツマミを回すと、カチリと音がしてスイッチが入ります
フタをはずしたところ。写真ではちょっと見にくいのですが、カップが2重になっているのがわかるでしょうか。arms22さんから教わった、補強のために厚紙を丸めて入れる方法ではなく、同じサイズのカップをもう1つ用意して、それの上下を切りとって重ねています。工作の手間を少し節約できたと思うのですが、切断面があまりキレイではありません。いい方法かどうかは微妙ですね
中身を引き出した状態。RCAジャックとスピーカーはコネクタを介して基板に接続します。こうすると出し入れがしやすいです
回路図にすると、こんな感じです。アンプ本体は専用基板なので簡略化しました。とてもシンプルな構成です。10KΩの可変抵抗器(ボリューム)とスイッチが別々に書かれていますが、今回使った部品は一体型です
今回使用したデジットの「D級オーディオ用モノラルアンプキット」。小型で廉価な扱いやすいキットです。部品数が少なく、作るのも簡単です。残念ながら現在は品薄状態かもしれません。小さなアンプキットは他にもありますので、試してみましょう
アンプ基板を拡大した写真です。中央の小さなチップがD級アンプICです。D級動作により消費電力が小さいのが特徴です。その結果、バッテリの持ちが良く発熱もほとんどないので、スタバカップアンプに最適と言えます。スピーカーはコネクタで接続することにしました
スイッチ付きボリューム(10KΩA)。千石電商で137円です。右側にあるツメ状の接点がわかるでしょうか。軸を回しきると、このツメが持ち上がってスイッチが切れます。実物を操作してみれば、すぐに理解できる機構です。固定用のナットが付属していない場合もあるので、気をつけてください
ボリュームのツマミにこだわってください。これはエフェクタ自作用の部品が充実しているショップ「Ginga Drops」で購入したもので、質感が気に入っています
入力用のジャックはRCA以外のものでも構いませんが、あまり小さいタイプだとプラグを挿すときに紙カップが力に負けてしまうかもしれません。写真の製品の端子極性は、平たくて小さいほうがGNDです

 arms22さんがすいすいと作っていく様子を見て、「これならすぐできそう」と思った我々はちょっと浅はかでした。厚紙を使った工作に慣れていないと、微妙な力加減やサイズの調整がうまくいかず、ケース加工で手間取るかもしれません。我々の場合、カップにぴったりはまる円盤がなかなか作れませんでした。最初は何度かやり直すつもりで、カップと厚紙を余分に用意したほうがいいでしょう。

 ところで、スタバのカップを手に入れようと思ったら、お店で飲み物を注文することになるわけですが、メニューからどれを選んでもいいのでしょうか? モカやチャイラテのように香りが強いものは、洗ったあとも少し匂いが残るので、注意が必要です(時間が経つにつれて消えていきます)。アメリカーノは洗う前に乾燥してしまうとコーヒーの色が染みついて落ちないことがあります。arms22さんとも議論した結果、ラテを注文するのが無難という結論になりました。サイズはどれでも使えます。arms22さんはトールサイズに2つのスピーカーを内蔵するバージョンも作っています。

 このプロジェクトは紙工作のコツが分かってくると、とても楽しくなってきます。美しくまとまったときの達成感はかなりのものです。ケースはカッターと両面テープだけで作れ、内蔵する回路もシンプルなので、初心者でも気軽に作れると思います。1回うまくいけば、さらにいくつも作りたくなるでしょう。

2つめに作ったのがこちら。スターバックス好きな我々は、タリーズも好きです。だいぶ印象が異なるものになりました。スピーカーをマウントする紙は黒く塗ってあります
簡略化のためボリュームとスイッチは省略しました。電源を切るときはカップを開けて電池を抜きます
アンプ部は秋月電子の「東芝TA7252AP オーディオアンプキット」を使用しました。キット以外に完成品もあります。基板上の半固定抵抗で音量を調整できます。電源は9V以上が必要です。スピーカーは高出力なアンプに合わせて大きいものにしてみました(直径は同じ5cmです)。サーという雑音が少し気になりますが、力強く鳴ります。このICは発熱するので、長時間の使用には注意が必要です
タリーズカップアンプとスタバカップアンプを並べてステレオ再生。使用部品が異なるため左右の特性が揃っていませんが、それでも立体感がぐっと増します
お店で付けてくれるフタは、持ち運び時にスピーカーを保護するカバーとして使えます
本来はコーヒーカップですから、手に持って聴いていると、ちょっと不思議な気分になります

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