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NVIDIAフアンCEOインタビュー

〜SHIELDはゲームのビジネスモデルの変化で産まれた

オープンなピュアAndroidデバイスがSHIELD

ジェンセン・フアン氏

 衝撃的なゲーミングデバイス「SHIELD」をCES(Consumer Electronics Show)で発表したNVIDIA。同社を率いるJen-Hsun Huang(ジェンセン・フアン)氏(Co-founder, President and CEO)に、SHIELDの狙いと、その開発の背景をCES時のグループインタビューで伺った。SHIELDのアイデア自体、フアン氏が暖めてきたもので、お気に入りのプロジェクトだという。フアン氏はSHIELDを次のように形容する。

 「SHIELDはAndroidデバイスで、ゲーミングのために設計されている。ゲーム機(Game Console)のように見えるが、ある意味では、ゲーム機とは全く似ていない。

 ゲーム機はゲームに特化した、プロプラエタリ(独占的)でクローズドなシステムだ。しかし、SHIELDは、汎用性のあるピュアAndroidデバイスで、完全にオープンなプラットフォームだ。

 ピュアAndroidであるため、コンシューマが自分のスマートフォンやタブレットで楽しんでいる音楽や映画、本、写真などクラウドにあるものは、全てそのままSHIELDで楽しむことができる。オープンであるということは、ゲームのビジネスモデルが変わることを意味する。ゲームはタダや非常に低価格なものから、プレミアゲームまで開かれている。

 SHIELDでは、Tegra ZoneなどにあるAndroidゲームがより楽しくプレイできる。また、当社が今回発表したGRIDを使ったクラウドゲームも楽しむことができる。さらに、GeForce PC上のゲームをリモートで立ち上げてプレイすることができる。我々は、SHIELDのようなオープンな形態にこそ未来があると考えている。ゲーム機を作ろうとしているのではない」。

 フアン氏が強調するSHIELDのポイントは、このデバイスがゲームに最適化されていながらも、オープンなAndroidデバイスであること。ゲーム機が、クローズドなモデルを取っていることと対極にあると説明する。つまり、オープンプラットフォームやクラウド化といったゲームのビジネスモデルや提供モデルの転換が、SHIELDのコンセプトの背景にある。

3Dグラフィックスを実現するために必要だったゲーム機のモデル

 ゲームのビジネスモデルの変革とSHIELDは、どう連携するのか。フアン氏は、そもそもの根源には、3Dグラフィックスゲームを走らせることができるデバイスの潮流の大きな変化があると言う。

「我々がSHIELDを作った背景を説明するには、まず、なぜゲーム機市場が発達したのか、その歴史を振り返る必要がある。

 ゲーム産業が3Dグラフィックスへと移行し始めた頃、世界中のPCまたはコンシューマ向け汎用コンピュータで、3Dグラフィックスを提供できるものは存在しなかった。汎用デバイスは、まだ2Dグラフィックスの時代で、3Dグラフィックスは特殊な機能だった。そのため、3Dグラフィックスのエンターテイメントを提供したいと考える企業は、全く新しいコンピュータをゼロから作り出さなければならなかった。

 そして、それは非常に高くついた。例えば、PlayStation 2の場合は、おそらく20億ドル程度の費用がかけられたと思う。カスタム設計のプロセッサを作り、OSやシステムを開発し、非常に複雑なEmotion Engineのプログラムの方法を開発者に教えるのに必要だった費用だ。

 しかし、当時は、コストをかけても新しいコンソール、これは実際には新しいコンピュータであるわけだが、それを作り出すことは必要だった。そうしなければ、3Dグラフィックスゲームを走らせることができるマシンがなかったからだ。その頃のゲーム機の市場は、年間の出荷数で1,000万台だったが、3DグラフィックスPCの市場は年間“ゼロ”台だった。ゲーム機は必要から産まれたマシンだった」。

 初代PlayStationなど最初世代の3Dグラフィックスゲーム機が登場した頃は、PC向けの廉価な3Dグラフィックスカードは、まだ見当たらなかった。3Dはグラフィックス用ワークステーションの世界のものだった。そのため、廉価なゲーム機で3Dゲームをプレイできることは衝撃だった。PlayStation 2の時も、まだ未成熟だったPCグラフィックスに対してゲーム機は多くの優位があった。下はPlayStationのジオメトリエンジンを載せたCPUと、PlayStation 2のCPU「Emotion Engine」だ。

PlayStationのCPU
PlayStation 2のCPU「Emotion Engine」

汎用デバイスの進化でゲーム機の存在意義が揺らぐ

 汎用デバイスより優れた3Dグラフィックスを提供することで、ゲーム機は独自のクローズドなビジネスモデルを築いた。クローズドモデルは、専用プロセッサなどを開発するコストをまかなうためのものであり、コストをかけても十分に見合うものだった。しかし、フアン氏は、現在では状況が一変したため、ゲーム機のモデルが通用しなくなったと指摘する。

 「あれから長い時間がたち、今日、3Dグラフィックスエンターテイメント機能を備えたゲーム機の出荷台数は年間数千万台を越える。しかし、今では汎用コンピューティングデバイスが、PCもスマートフォンもタブレットも、いずれも高度な3Dグラフィックス機能を持つようになった。これら、優れた3Dグラフィックスの汎用デバイスの出荷数は、年間10億台にも達している。この差が分かるだろうか。

 その結果、汎用コンピューティングデバイスより優れた機能を持つ、新しいゲーム機を作り出すために、数十億ドルを投資する理由がなくなってしまった。以前は、汎用では優れた3Dグラフィックス機能を持つデバイスがなかったから、コストをかけてゲーム機を開発する意味があった。しかし、今は、それだけの積極的な意味がない。

 というより、たった数十億ドル程度を費やしただけでは、汎用デバイスより優れたコンピュータを作り出すことは不可能でもある。年間10億台の規模の市場のR&D予算の方がはるかに膨大で、それを超えることはできないからだ。汎用デバイスの方がすぐに進化してしまう。

 そのため、PS2のようなゲーム機を作ることは、今は、もうできない。PS2は登場した時に、最もパワフルなPCより100倍も優れた性能を持っていた。では、今、GeForce GTX 680より100倍もパワフルな何かを作る出すことができるだろうか? それは不可能だ。もし可能なら、NVIDIAがそれを作るべきだろう」。

 フアン氏の挙げた数字はかなりラフなものだが、ポイントは明瞭だ。汎用デバイスが、軒並み高い3Dグラフィックス機能を持ちつつある今、それを上回るゲーム機を作ること自体が難しくなってしまった。ゲーム機ベンダーだけでは、汎用の世界での膨大な研究開発費に太刀打ちできない。ゲーム機の立脚していた土台が崩れつつあるというのがフアン氏の認識だ。

変わるゲームのビジネスモデル

 実際に、最近の新しいゲーム機が、フルカスタムの設計から、汎用品のセミカスタム的な設計へと変わりつつあるのは、こうした事情を反映していると見られる。そして、フアン氏は、こうしたゲームが走るデバイスの状況の変化から、ゲームのビジネスモデルが変わりつつあると指摘する。

 「もし、新しいアーキテクチャを作る理由がなくなってしまったのなら、また、汎用デバイスより優れたパフォーマンスを提供することが不可能になってしまったのなら、なぜゲーム機に金を助成する理由があるのか、という根本的な疑問が生まれる。これが、今のゲーム機が抱えている困難だ。

 ユーザーが、すでにゲームを走らせることができるデバイスを多数持っていて、それらのデバイスの上ですでにプレイできるゲームがあるのなら、それらのデバイス自体は、ユーザーにとって実質無料だ。なぜなら、すでに持っているのだから(笑)、新たに買う必要がない。これはPCゲームが根強い理由と同じだ。PCの場合はすでにユーザーが他の用途に使っているマシンの上で走るゲームを提供するから繁栄している。

 無料のデバイスと戦うことは難しい。無料であるだけでなく、パワフルで、しかも、ゲーム開発者にとっては、プラットフォームベンダーにロイヤリティを払う必要がない。数十億台のインストールベースに対してゲームを売るのに、ロイヤリティが必要がないのは開発者にとって魅力だ。ゲーム機は戦いにくい」。

 伝統的なゲーム機のビジネスモデルは、少数のライセンシだけに対するクローズドなプラットフォームで、ゲーム毎にロイヤリティも取るというものだった。実際には、このモデルはすでに揺らいで崩れつつあるが、ゲーム機がオープンプラットフォームではないことも確かだ。フアン氏は、ビジネスモデルがゲーム価格にも大きく影響していると語る。

 「汎用デバイスが進化したために、ゲームのビジネスモデルも変わった。旧来のクローズドなビジネスモデルでは、専用のゲーム機で、インストールベースも小さいため、ゲームの価格を高くしなければならない。それに対して新しいオープンなビジネスモデルでは、汎用デバイスでインストールベースが膨大であるため、大量に売ることで価格をより低く設定できる。たった数十万人のゲーマーが1つのゲームに対して対価を支払うのではなく、1億のゲーマーが1つのゲームに支払い、コストを1億人で分割する。価格は、当然非常に安くなる。得をするのはコンシューマだ。

 そして、汎用デバイスはオープンプラットフォームなので、新しいビジネスモデルを作りだすこともできる。プレイ自体は無料で、バーチャルグッズで儲けるといったモデルだ。その場合も、得をするのはコンシューマだ。コンシューマは、新しいゲームをトライするのに、40〜60ドルを支払うリスクを侵す必要がなくなる。

 実際には、ゲームでは、まだクローズドとオープンの両モデルが併存することになるだろう。しかし、根本的なレベルでは、オープンプラットフォームはゲーミングの将来にとっては、もっと重要になって行くだろう」。

 クローズドモデルが主流だったゲームのビジネスモデルは、オープンモデル主流へと変わりつつある。フアン氏のこうした認識が、オープンプラットフォームのSHIELDを作る原動力となっている。

ゲーム機はより特化した体験を提供する方向へ?

 汎用デバイスで高度な3Dゲームが走るようになって行くと、ゲーム機は衰退して消えて行くのだろうか。その可能性を指摘する声も多いが、意外なことに、フアン氏は必ずしもそうではないと言う。

 「3Dグラフィックスという面では確かにゲーム機は難しくなる。しかし、私は、依然としてゲーム機の市場は続くと考えている。それは、ゲーム機なら、非常に特化した経験をコンシューマに与えることができるからだ。

 その好例がMicrosoftのKinectだ。Kinectはこれまでにない新しい経験をユーザーに与えている。これは、スマートフォンでは簡単にはできないし、もちろんSHIELDでもできない。これからのゲーム機は、Kinectのような特殊化した体験を提供する方向へと持って行かなければならないだろう。任天堂やソニー、Microsoftはいずれも非常に賢い企業なので、こうしたことにすでに気がついている。多分、彼らは新しい道を見いだすだろう」。

 ニンテンドーDSとWii以来、ゲーム機はマン−マシンインターフェイスの改革という部分に活路を見いだそうとしており、この路線は一定の成功を収めている。汎用デバイスでは、ユーザーの操作に関わる部分に、ラディカルな改革を行ないにくいからだ。同様にゲーム機でなければ思い切った実装ができない部分を見つけて行けば、ゲーム機が差別化できる要素は、まだあるというのがフアン氏の見解だ。

 「人がXboxを買うのはHALOをプレイしたいからだ、そして任天堂ゲーム機を買うのはマリオを愛するからだ。それは、我々がSHIELDで解決しようとしていることではない。SHIELDは、マリオを置き換えるつもりではないし、HALOと競争しようとも思っていない。こうしたコンテンツはゲーム機の魅力として残るだろう。

 我々がSHIELDで提供しようとしているのは、もっとAndroidゲームを楽しめるようにすることだ。発想の基本が違うので、NVIDIAはゲーム機メーカーとは全く競合していない。我々がやっているのは、単純に、Androidユーザーのために、Androidゲーミングデバイスを作ることだ」。

 ゲーム機ベンダーは、自社プラットフォームのためのエクスクルーシブ(排他的)なコンテンツを育てることを重要な柱としている。ゲーム機でゲームをプレイするユーザーの多くは、ファーストパーティタイトルに魅力を感じているだろう。これは、オープン市場の中で出てきたゲームを走らせるだけのデバイスを作るという発想とは根本的に異なる。コンテンツの差別化も、クローズドなゲーム機でなければ難しい。

 ゲーム機との競合はないと考えるフアン氏は、ゲーム機ベンダーとも協力して行きたいという。

 「NVIDIAは全てのゲーム機ベンダーと協力して行く。なぜなら、NVIDIAはコンピュータグラフィックス技術の企業であり、ゲーム機は優れたコンピュータグラフィックスを必要としているから、素晴らしいパートナーになれるからだ。彼らとは今後も継続して関係を保って行きたい。現在、ゲーム機ベンダー同士は激しく戦っているが、それは、プラットフォームの移行期だからだ。次世代プラットフォームは、非常に素晴らしいものになるだろう」。

 ゲーム機に対しても歓迎の姿勢は変わっていないとフアン氏は語る。NVIDIAは、初代XboxとPLAYSTATION 3(PS3)では、GPUを提供しており、ゲーム機にも積極的に関わってきた。もっとも、今世代では、NVIDIAは3社の新ゲーム機開発からは、全て外れてしまっている。外野となっていることが、ますますNVIDIAを自由にし、オープンプラットフォームへのゲームへと傾斜させているのかも知れない。

毎年新しいバージョンのSHIELDを投入

 では、NVIDIAはゲーム機とは違う世界を切り開くSHIELDを、どう展開して行くつもりなのか。すでに報道されている通り、NVIDIAはSHIELDを今年(2013年)発売する。

 「第2四半期中、つまり今春のうちに製造に入る予定だ。ホリデーシーズンの前に発売することは間違いない。価格については、まだ決めかねている。しかし、SHIELDはAndroidデバイスらしい価格になるだろう。間違えても、Rasor Blade(高級ゲーミングPC)のような価格にはならない。もちろん、NVIDIAブランドでの発売となる」。

 実際には北米で先行発売して、第3四半期にワールドワイドで発売する見込みとなっている。フアン氏のSHIELDに対する本気度は、SHIELDを毎年バージョンアップして行くつもりでいるあたりで分かる。

 「我々は、新しいTegraを毎年発表して行く。それが意味するのは、毎年新しいSHIELDを出すのが理に適うということだ(笑)。SHIELD 1、2、3といったようになるかもしれない。ライフサイクルも、SHIELDがゲーム機とは異なる点だ。

 もっとも、我々が毎年SHIELDを作っても、コンシューマが買うサイクルは2年に1台かもしれない。その場合も、ユーザーはオープンプラットフォームアプローチの利点を享受できる。例えば、ユーザーがSHIELD 1を持っていて、SHIELD 3に移行したとしよう。ユーザーが新しいSHIELD 3にeメールアドレスをタイプすると、今までのSHIELD 1の環境が全て導入され、同じように動く。このように、手軽に継承しながら発展して行けることもSHIELDの利点で、専用ゲーム機ではできないだろう」。

 ゲーム機は、いったんスペックを決定すると、基本的にはライフサイクルの間、そのスペックが保持される。しかし、AndroidデバイスであるSHIELDは、チップの進化に合わせて毎年バージョンアップする。この部分でも、ゲーム機モデルではなく、汎用デバイスのモデルを採る。

TegraシリーズのALU
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(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto) E-mail