大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Surface Pro 3がいよいよ明日発売

~“ヤバイ”のは、MicrosoftかAppleか?

Surface Pro 3+タイプカバー

 いよいよ明日7月17日から、日本でもSurface Pro 3が発売されることになる。5月20日に、米ニューヨークで発表された時点では、米国およびカナダでの発売は6月20日、日本を含むそれ以外の国では、8月末までの発売とされていた。だが、その後の日本での発表で、日本での発売が7月17日と、北米以外の国に先行する形となった。

 「手前味噌な言い方になるが」と日本マイクロソフトの樋口泰行社長は前置きしながらも、「Surfaceの世界的な動きを見ると、日本での反響が大きく、実績も高い。日本の発売日の設定は、日本におけるこれまでのSurfaceに関する取り組み成果を、米国本社が認めてくれたことによるもの」と自己評価する。

 米Microsoft Surface & Windows Hardware セールス & マーケティング担当のブライアン・ホール ジェネラルマネージャーも、「日本市場向けのSurface Pro 3にだけ、Office(Home and Business 2013)をプレインストールし、さらに、MetaMojiのNote Anytimeも搭載している。Surface Pro 3は、日本のユーザーの要求を反映した、日本人に最適な1台になる」と語る。

発表会でSurface Pro 3を手にする日本マイクロソフト代表取締役社長の樋口泰行氏(左)と、米Microsoftジェネラルマネージャー Surface & Windows Hardwareセールス&マーケティングのブライアン・ホール氏

予約状況は予想をはるかに上回る

 日本での出足は順調のようだ。日本マイクロソフトによると、6月2日に、Surface Pro 3を発売して以降の予約状況は極めて順調だと言う。樋口社長によると、「前モデルとなるSurface Pro 2は予約がわずか1日だったということもあるが、それと比較しても、Surface Pro 3の予約初日の実績は、Surface Pro 2の25倍という実績。法人からの引き合いは7倍に達した。想定をはるかに上回っている」と語る。そして、さらに予約状況を分析すると、i5搭載モデルが6割、i7搭載モデルが4割。256GB搭載モデルの比重が高いという。

 予約が好調な理由は、画面サイズにあると、樋口社長は自己分析する。「Surface Pro 2は、PCとして見た場合、10.6型では画面が小さいという声があったが、Surface Pro 3では、12.6型になったことで、それを解決できるようになった。ノートPCを置き換えることができるタブレットを初めて投入できたと考えている」とする。

 また、「タブレットとしては少し重たい、厚いと言われていたものが、Surface Pro 3では、タブレットとしても認めていただける水準にきている」とし、「今までは、出張の際にも、鞄の中にPCを入れておかないとちょっと不安だったが、Surface Pro 3であれば1台で済む。PCとタブレットの境目がさらになくなるのではないか」と自信を見せる。加えて、自らSurface Pro 2を使用していた経験からも、「キックスタンドを始めとした、細かい進化も気に入っている。中でも、個人的には、ペンの進化が気に入っている」とし、「以前のSurfaceでは、ちょっとかすれることもあったが、Surface Pro 3では、それもない。紙とペンの組み合わせに近い感じであり、ペン入力が楽しいデバイスになっている」と語る。

Apple購入直前のユーザーを狙う

 では、Surface Pro 3で狙う市場はどこなのか。Surface Pro 3では、Surface Pro 2と同じ、「これさえあれば、何もいらない。」というメッセージを継続する。だが、同じメッセージを利用しながらも、訴求するターゲットはかなり異なるようだ。

 それを示すメッセージが「MacBook Proの性能をMacBook Airの軽さで実現するのが、Surface Pro 3」という表現だ。実際、Surface Pro 3の発表会では、秤を用いて、Surface Pro 3にタイプカバーと、ペン、ACアダプタそしてリンゴを加えても、MacBook Proより軽いことをアピールしてみせた。「11~13型ディスプレイを搭載したデバイスは、Appleが強い領域。そこに向けて、Surface Pro 3の良さを訴えていく」と、樋口社長は語る。

発表会でのSurface Pro 3とMacBook Proの重量比較のデモ

 だが、これはAppleユーザーを置き換えていく戦略とは異なるとも語る。「Appleユーザーを置き換えるのはかなりコストがかかる。これは、これまでのSurfaceのキャンペーンを通じて学んだことでもある」と前置きし、「狙っているのは、Macからの乗り換えではなく、MacBookの購入を検討している人たち。購入の一歩手前のところで、Surface Pro 3の軽さ、薄さ、性能、デザイン性を訴えたいと考えている」という。

 Windowsを使っていたユーザーの中には、iPhoneなどに慣れ親しんだことをきっかけにして、MacBookへと乗り換えを検討する例が相次いでいる。そうした時に、Surface Pro 3であれば、Officeを始めとする今まで利用していたアプリケーション資産や周辺機器の資産を継承。さらには業務ソフトウェアのような法人向けアプリもそのまま利用できる点を訴求することで、MacBookへの移行に歯止めをかけたい狙いだ。

 「最初からOfficeがプリインストールされている強みもある。MacBookに行かなくても、Surface Pro 3があるよ、という提案をしたい」と樋口社長は語る。これがSurface Pro 3で狙う1つのターゲットとなる。

Windowsコアユーザーのターゲットに

 Surface Pro 3のもう1つのターゲットは、Windowsのコアユーザーだ。従来のSurfaceのマーケティング戦略は、女性や学生といった、初めてタブレットを購入する新規顧客層。しかし、Surface Pro 3では、15型のノートPCを使っていたユーザーが、PCを新しく買い替える際の選択肢の1つに位置付けたいとする。

 だが、これは、見方を変えれば、他社のWindows搭載PCからの置き換え戦略にも受け取れかねない。それに対して樋口社長は、「WindowsユーザーをSurfaceによってひっくり返すのではなく、市場全体を活性化していくのが狙い。11~13型の領域において、Surface Pro 3以外にも、OEMベンダーから新たな2-in-1が登場したり、画面サイズが異なるタブレットが登場することで、Windows PCおよびWindowsタブレット市場全体が活性化できるだろう」とする。樋口社長は、Surfaceが登場したことによって、2-in-1やWindowsタブレットの登場を促し、それが、国内のWindowsタブレット市場を活性化したと考えている。

 「国内でWindowsタブレットが市場全体の30%を占めたのは、Surfaceがなければ成しえなかった。これはSurfaceのシェアが高いのではなく、8型タブレットの登場など、Windowsタブレット全体の底上げが図れたことによる。Surfaceが訴求してきたのは、Windowsが、タブレットとしても使えるOSであるという点。Surfaceがこの市場を切り拓いたからこそ、その後、OEMベンダーから登場した2-in-1や8型タブレットが人気を博した。Surface Pro 3でも、同じようにWindows市場全体を盛り上げる役割を果たすことになる」とする。

 依然として市場に約600万台が残っているとされるWindows XP搭載PCからの移行の受け皿として、Surface Pro 3を活用することについても、「Windows XPのサポート終了に関するプロモーションは、業界全体をあげた取り組みであり、特定メーカーの、特定の機種に誘導するというやり方は適当ではない」として、Surface Pro 3のプロモーション活動とは明確に線引きする姿勢を見せる。ここでも、業界全体を捉えた姿勢を強調する。

 とは言え、日本マイクロソフト自身がそう語ろうとも、事前の評価が高い新製品だけに、Windows陣営となるPCメーカー各社にとって、これまで以上に気になる製品であることは明らかだ。

 12型サイズは日本人に適したモバイルPCの大きさとの評価もある。Surface Pro 3は、そこに的を当てた製品とも受け取れる。その点も、多くのPCメーカーが気になる点の1つだ。「今では、空港のラウンジや新幹線の中でも、Surfaceを使っている人をよく見かけるようになった」と、樋口社長は自信を見せるが、そうした動きも他社にとっては気になる要素の1つとなる。日本マイクロソフトの発言や、Surface Pro 3の売れ行きは、業界関係者にとっても、これまで以上に関心を集めることになりそうだ。

発売後から安定した供給体制を確保

 ところで、気になるのは、Surface Pro 3の日本への供給体制である。Surface Pro 2では、需要予測と需給計画に失敗し、世界的な品薄状況を生んだ。日本でも、昨年(2013年)末から一部機種で出荷を停止。その影響は春まで続き、消費増税前の駆け込み需要、Windows XPサポート終了前の需要にも対応できないという失態を犯した。

 「Surface Pro 2およびSurface 2では、需要予測と需給計画の難しさを学んだ。それを元に、Surface Pro 3はプロセスを大幅に見直した。今回は、発売日から潤沢に製品を揃えることができる。とにかく素晴らしい製品。しっかりと製品をお届けできれば、それだけで確実にシェアがあがる。それだけの自信がある」と語る。さらに、「これまでの勢いを持続し、日本が、最もSurfaceが売れる市場であるということを改めて証明したい」と意気込む。

 7月14日から米ワシントンD.C.で開催したパートナー向けイベント「Microsoft Worldwide Partner Conference 2014」では、世界中から集まった16,000人以上の参加者を対象に、最も売れ筋となるCore i5を搭載した256GB版を、タッチカバー付きで、1,199ドルで特別販売するプログラムを用意したが、こうした仕掛けを用意できるということも、品物が潤沢に供給できていることの証と言えるだろう。

 樋口社長は、6月2日に開催した製品発表会見において、Surface Pro 3を「ヤバイ」と表現した。それは製品そのものが大きく進化したことを指したものだったが、発売を直前に控えて、その意味が少しずつ変わりつつある。

 発売以降、Surface Pro 3を「ヤバイ」と感じるのは、日本マイクロソフトか、Windows陣営か、それともAppleか。成り行きを注視したい。

(大河原 克行)