山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Amazon.co.jp「Kindle Voyage」(前編)
~高解像度300ppi、厚みわずか7.6mmのフラッグシップモデル
(2014/11/8 06:00)
「Kindle Voyage」は、Amazon.co.jpが販売するE Ink電子ペーパー搭載の電子書籍端末「Kindle」シリーズの最上位モデルだ。1,072×1,448ドット(300ppi)の高解像度に加えて、厚みわずか7.6mm、そして約180gという軽さなど、フラッグシップモデルの名にふさわしい製品だ。
従来まで、日本国内で販売されているE Ink電子ペーパー搭載のAmazon製電子書籍端末は「Kindle Paperwhite」1モデルだけだった。ここにエントリーモデルの「Kindle」とともに新たに加わったのが、本稿で取り扱う「Kindle Voyage」である。従来の「Kindle Paperwhite」は継続販売されるので、3つのラインナップが併売されることになる。
今回はまず前編として、他製品との比較および外観のチェック、セットアップの手順、そして注目となるコミックの画質チェックまでのところを紹介しよう。
解像度、薄さ、軽さなどあらゆる面で従来モデルを凌駕
まずは同じKindleシリーズの2製品、Kindle Paperwhiteおよび無印のKindleと比較してみよう。Amazonのサイトにも比較表が掲載されているが、ここでは違いが分かりやすいように項目を補足、整理している。
Kindle Voyage | Kindle Paperwhite | Kindle | |
---|---|---|---|
Amazon | Amazon | Amazon | |
サイズ(最厚部) | 162×117×7.6mm | 169×117×9.1mm | 169×119×10.2mm |
重量 | 約180g | 約206g | 約191g |
解像度/画面サイズ | 6型/1,072×1,448ドット(300ppi) | 6型/758×1,024ドット(212ppi) | 6型/600×800ドット(167ppi) |
ディスプレイ | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Pearl) |
通信方式 | IEEE 802.11b/g/n、3G(3Gモデルのみ) | IEEE 802.11b/g/n、3G(3Gモデルのみ) | IEEE 802.11b/g/n |
内蔵ストレージ | 約4GB | 約4GB(ユーザー使用可能領域:約3.1GB) | 約4GB(ユーザー使用可能領域:約3GB) |
前面ライト | 内蔵(自動調整) | 内蔵(手動調整) | なし |
ページめくり | タップ、スワイプ、ボタン | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 6週間(ワイヤレス接続オフ、1日30分使用時) | 8週間(ワイヤレス接続オフ、1日30分使用時) | 4週間(ワイヤレス接続オフ、1日30分使用時) |
価格(2014年10月2日現在) | 21,480円(キャンペーン情報つき) 23,480円(キャンペーン情報なし) 26,680円(3Gモデル、キャンペーン情報つき) 28,680円(3Gモデル、キャンペーン情報なし) | 10,280円(キャンペーン情報つき) 12,280円(キャンペーン情報なし) 15,480円(3Gモデル、キャンペーン情報つき) 17,480円(3Gモデル、キャンペーン情報なし) | 6,980円(キャンペーン情報つき) 8,980円(キャンペーン情報なし) |
表を見ると分かるように、あらゆる面が強化された、まさに最上位にふさわしいスペックであることが分かる。特に注目されるのは1,072×1,448ドット(300ppi)という解像度、そして薄さと重さの部分だが、自動調節機能を備えた前面ライトや、画面左右に搭載されたページめくりボタンといったギミックも見逃せない。のちほど詳しく考察する。
続いて、競合となる他社製品と比較してみよう。こちらは楽天Koboの高解像度端末、「Kobo Aura HD」およびその後継機種である「Kobo Aura H2O」と比較している。いずれも本稿執筆時点では国内未発売である点に注意してほしい(Kobo Aura H2Oは2015年春からの一般販売が告知されている)。
Kindle Voyage | Kobo Aura H2O | Kobo Aura HD | |
---|---|---|---|
Amazon | Rakuten Kobo Inc. | Rakuten Kobo Inc. | |
発売時期 | 2014年11月 | 2014年10月 | 2013年4月 |
サイズ(最厚部) | 162×117×7.6mm | 179×129×9.7mm | 175.7×128.3×11.7mm |
重量 | 約180g | 約233g | 約240g |
解像度/画面サイズ | 6型/1,072×1,448ドット(300ppi) | 6.8型/1,080×1,430ドット(265ppi) | 6.8型/1,080×1,440ドット(265ppi) |
ディスプレイ | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Pearl) |
通信方式 | IEEE 802.11b/g/n、3G(3Gモデルのみ) | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n |
内蔵ストレージ | 約4GB | 約4GB | 約4GB |
フロントライト | 内蔵(自動/手動調整) | 内蔵(手動調整) | 内蔵(手動調整) |
ページめくり | タップ、スワイプ、ボタン | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 6週間(ワイヤレス接続オフ、1日30分使用時) | 2カ月 | 1カ月 |
価格(2014年10月2日現在) | 21,480円(キャンペーン情報つき) 23,480円(キャンペーン情報なし) 26,680円(3Gモデル、キャンペーン情報つき) 28,680円(3Gモデル、キャンペーン情報なし) | 国内未発売(2015年春発売予定) | 国内未発売 |
備考 | microSDカードに対応 IP67規格準拠の防水・防塵機能搭載" | microSDカードに対応 |
約1,080×1,440ドットである点はいずれの製品もほぼ同様だが、Koboの2製品は画面サイズが6.8型と一回り大きいため、画素密度では本製品が勝る。画面サイズの大きさを利点と感じる人もいるはずなので、ここは一長一短だろう。ちなみに本製品はスクリーンショットを撮った際のサイズは1,072×1,448ドットと、公称の画面サイズに比べて縦にやや長く、横にやや短いという、特殊なサイズになっている。
圧倒的に差があるのが厚さと軽さで、本製品はKobo Aura HDと比べると4mm、Kobo Aura H2Oと比べても2.1mm薄いほか、重量もそれぞれ60g、53gも軽い。これについては圧勝ということで、議論の余地はないだろう。
なお楽天Koboの端末では「Kobo Aura」が約174gと本製品よりも軽量だが、こちらは解像度がKindle Paperwhiteと同等なので、同列に語るのは難しい。Kobo Auraの軽さにKobo Aura HD/Kobo Aura H2Oの高解像度を兼ね備えた“いいとこ取り”の端末が、Kindle Voyageということになる。
【11月10日記事修正】初出時、冒頭およびスペック表においてKindle Voyageのディスプレイ解像度を1,080×1,440ドットとしておりましたが、文中のスクリーンショットサイズで言及していた1,072×1,448ドットが正しいディスプレイ解像度となりますので当該箇所を修正いたしました。
ベゼルと画面の段差がない“最薄”仕様
では開封してみよう。パッケージは従来と同じ構成で、日本語スリーブを外して箱を開封すると透明な袋に包まれた本体が姿を現わす。本体の下にはUSBケーブルが封入されているほか、さらに電源の入れ方や製品保証について記された各国語版の小冊子2冊も同梱される。詳しい取扱説明書が本体内にデータとして保存されているのは従来製品と同じだ。タブレットFireシリーズとは異なりAC変換アダプタは同梱されない。
電源を入れる前の時点で従来モデルとの相違点としてすぐに目につくのは、画面の段差がないことだ。従来モデルではベゼルと画面の間に1mm前後の段差があったが、本製品ではそれがなく、カラータブレットと同じくフラットになっている。国内で発売されているE Ink端末としては楽天のKobo Auraがすでにこの仕様だが、Kindleとしてはこれが初ということになる。
ベゼル部分の段差がなくなったことは、本体の厚みにも大きな影響を与えている。7.6mmという厚みは、ソニー「PRS-T3S」の9.1mmはもちろん、これまで競合製品の中で最薄だったKobo Auraの8.1mmを抜いて文字通りの最薄である。感覚的には、Kindle Paperwhiteの段差がなくなった分がそのまま薄さに反映されたといってよい。ちなみに「iPhone 5s」がまったく同じ7.6mmなので、おおよその厚みを想像しやすいだろう。
重量についても、Kindle Paperwhiteと持ち比べても露骨に違う。約50gも違っていれば当然ではあるが、これまで他社製品に比べて重いと言われ続けてきたKindleが、本製品で一気に巻き返した格好だ。ちなみに重量が近い端末で言うと、「iPhone 6 Plus」が約172gなので、約180gの本製品がiPhone 6 Plusに比べてほんの少し重いといったところだ。
セットアップ手順はKindle Paperwhiteとほぼ同様
電源を入れるとセットアップが開始され、Wi-Fi設定やAmazonアカウントによるログインなどを指示通りに行なっていくことで、数分もせずに利用可能になる。手順は従来のKindle PaperwhiteやKindleと変わらない。スクリーンショット数が多くなるが、左に本製品、右にKindle Paperwhiteの画面を並べて比較してみよう。
以上のように、ページめくりボタンなど新機能の説明が追加されていることを除けば基本的に流れは同一だが、興味深いのは、セットアップの最後に約10画面程度を費やして表示される画面各部のチュートリアルが、先日登場した無印Kindleと共通のデザインではなく、1世代前にあたるKindle Paperwhiteと同じデザインであることだ。
本製品はこのチュートリアルだけでなく、電源ボタンや筐体のデザインなどが2013年モデルのFireシリーズによく似ているなど、2014年リリースのモデルではなくむしろ2013年のモデルの意匠をそのまま引き継いだ点が多々見られる。もしかすると、発売がたまたま今年のモデルチェンジに重なっただけで、もっと早期にリリースする予定で開発が進められていた名残なのかもしれない。
メニューおよび操作体系も従来モデルとほぼ同一
画面構成および操作方法については、先日レビューしたエントリーモデル「Kindle」とKindle Paperwhiteとでほぼ違いがなかったのと同様、本製品においても大きな違いはない。インターフェイスとしてはほぼ完成されているという解釈だろう。
あらためて説明しておくと、起動すると表示されるホーム画面には、購入済みの全てのコンテンツが表示される「クラウド」と、端末にダウンロード済みのコンテンツが並ぶ「端末」が切り替えられるようになっており、ダウンロード済みのコンテンツをタップすれば開いて読むことができる。
画面上部をタップすれば進捗バーのほかフォントサイズ変更などの設定画面が表示されるほか、テキストを選択することでハイライトや検索といった機能を利用できる。またホーム画面からはストアを開き、1-Clickで本を購入することもできる。以下、左が本製品、右がKindle Paperwhiteの画面を並べて比較している。
以上のように、画面だけ見ているとほぼKindle Paperwhiteと区別がつかない。自動調節機能が追加された前面ライト機能にしても、手動調節のインターフェイスはそのまま残されており、また24段階というのも従来のままなので、そう違いが目立つ部分ではない。前面ライトの自動調節機能の詳しい挙動については、次回の後編で詳しく紹介する。
高画質化によりコミックの表示品質が大幅に向上
さて、本製品の最大のポイントは、なんと言ってもディスプレイの解像度の高さだろう。コミックが多くの割合を占める日本の電子書籍市場において、その表示品質がお世辞にも高くないことは、これまで電子ペーパーの欠点として槍玉に挙げられることが多かった。特にKoboが2013年に発表した高解像度端末「Kobo Aura HD」の国内投入が見送られ、今に至るも国内ユーザーの目に触れる機会は失われたまま今日に至っているという経緯もあり、今回の製品はまさに待望といった感がある。
結論から言うと、これまでKindle Paperwhiteなど200ppiクラスの画面を見慣れていると、一目で分かるほどディティールに違いがある。かつてiPhoneやiPadがRetina解像度になった際「一度体験すると元には戻れない」という褒め言葉で絶賛された、そこまでの極端な差まではないものの、体感的にはかなり近いものがある。
以下、具体的な違いをご確認いただきたいが、従来のE Inkにつきものだったナナメ方向の線の滑らかさが格段に向上していることがよく分かる。またまた白黒のコントラストがはっきりしているのも特徴の1つだ。左から、本製品、Kindle Paperwhite、Kindle(2014)の順に並べている。
ちなみに上記のサンプルは本連載でこれまでも用いている、うめ著「大東京トイボックス 1巻」だが、コミックの中でも最近になってリリースされたコンテンツについては、あらかじめ高解像度でデータが制作されていることも多く、より違いが顕著に現れる。以下はうめ著「大東京トイボックス 10巻」で同様に比較したものだ。原寸以下の縮小画像ともなるとさすがに違いが分かりにくいので、クリックして拡大画像をチェックしてほしい。
以上、まずは気になるであろうポイントを中心にファーストインプレッションをお届けした。後編ではテキストコンテンツのフォントサイズごとの表示品質の比較のほか、前面ライトの自動調整機能やページめくりボタンなど、本製品で初めて追加された機能についてもチェックしていきたい。