山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Amazon.co.jp「Fire HD 6」
~実売1万円強で買える、お手頃サイズの6型タブレット
(2014/10/28 06:00)
「Fire HD 6」は、電子書籍や音楽、動画、ゲームなど、Amazon.co.jpが運営するデジタルストアで購入したコンテンツを楽しむための6型タブレットだ。クアッドコアのCPUを搭載しながら、もっとも安価なモデルで11,800円からという、リーズナブルな価格が売りの製品だ。
同社のカラータブレット「Kindle Fire」改め「Fire」シリーズは、これまで7型モデルのほか、大画面の8.9型モデルがラインナップされていた。単行本とほぼ同じサイズの7型モデルが主力であったことは、7型モデルのみエントリーモデルとハイエンドモデルの2種類がラインナップされていることからよく分かる。
この7型/8.9型というラインナップに新たに加わったのが、今回紹介する6型モデル「Fire HD 6」だ。6型という画面サイズはE Inkを用いた電子ペーパー端末では一般的だが、カラーディスプレイのタブレットとしては異色といえるサイズである。かつ、7型のラインナップの一部が6型に切り替わったわけではなく、併売されるというのも興味深い。
今回は、そのFire HD 7との比較のほか、iPhone 6 PlusやKindleシリーズなど、画面サイズが近い製品との比較を中心に、本製品をチェックしていく。
「Fire HD 7」の小型版。1万円強で買えるコストパフォーマンスが魅力
まずは同時発売になった7型モデル「Fire HD 7」と仕様を比較してみよう。
Fire HD 6 | Fire HD 7 | |
---|---|---|
発売年月 | 2014年10月 | 2014年10月 |
サイズ(最厚部) | 169×103×10.7mm | 191×128×10.6mm |
重量 | 約290g | 約337g |
OS | Fire OS 4 | Fire OS 4 |
CPU | クアッドコア 1.5GHz×2、 1.2GHz×2 | クアッドコア 1.5GHz×2 1.2GHz×2 |
画面サイズ/解像度 | 6型/800×1,280ドット(252ppi) | 7型/800×1,280ドット(216ppi) |
通信方式 | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n |
内蔵ストレージ | 8GB (ユーザー利用可能領域は約5GB) 16GB (ユーザー利用可能領域は約12.2GB) | 8GB(ユーザー利用可能領域は約5GB) 16GB (ユーザー利用可能領域は約12.2GB) |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 8時間 | 8時間 |
カメラ | 前面、背面 | 前面、背面 |
価格(発売時) | 11,800円(8GB) 13,800円(16GB) | 16,280円(8GB) 18,280円(16GB) |
カラーバリエーション | ピンク、ブラック、ブルー、ホワイト、シトラス | ピンク、ブラック、ブルー、ホワイト、シトラス |
解像度が同じまま画面サイズが小さくなっているので、画素密度が216ppiから252ppiにアップしているが、それ以外の仕様はまったくと言っていいほど差がないことが分かる。CPUも同じなら、内蔵ストレージの容量も同じ、さらには5色のカラーバリエーションのラインナップまで同じときている。筐体も、そのまま縮小したかのようなデザインだ。
これで実売価格が同容量で5,000円も安く、もっとも安価なモデルだと1万円強で買えてしまうのは、かなりのインパクトだ。さらに本稿執筆時点ではすでに終了しているが、8GBモデルは発売記念価格として2,000円引き、さらには30日間全額返金キャンペーンも実施していた。まさに破格と言っていいプッシュぶりである。
また「Fire HD 7」が7型タブレットとしてはやや重い337gであるのに対して、本製品は約290gと、軽量級の7型タブレットとほぼ同等のレベルに抑えられている。5.5型で約172gの「iPhone 6 Plus」や、5.96型で約184gの「Nexus 6」、さらに6.4型で約212gの「Xperia Z Ultra」などと比べるとさすがに分が悪いが、実売価格が数分の1以下であることは考慮すべきだろう。ファブレットのような通話機能は不要だが、スマートフォンより大きな画面を持つタブレットを安く手に入れたい人にとっては、絶好の製品ということになる。
パッケージの内容およびセットアップ手順はFire HD 7と同様
ではざっと使えるようになるまでを見ていこう。パッケージの仕様は、7型モデル「Fire HD 7」とまったく同じ。USBケーブルのほか、Kindleシリーズでは別売のAC変換アダプタも同梱されている。
セットアップの手順は、「言語選択」から「Wi-Fi設定」、「Amazonアカウントの登録」、「SNSアカウントの登録」などを経てホーム画面が表示されるという流れで、こちらも「Fire HD 7」と同様。本稿執筆時点では、最新OSであるFire OS 4へのアップデートのために再起動のプロセスが余分にかかるが、それでもAmazonのアカウントさえを保有していれば5分で完了する。端末の登録を後回しにし、先に設定を完了させることも可能だ。
以下のスクリーンショットでは、左側に本製品、右側にFire HD 7を結合しているが、違いはほとんどないことがお分かりいただけるだろう。画面サイズが違うためレイアウトが違っていそうなものだが、解像度が同じ(800×1,280ドット)ということもあり、純粋に縮小しただけだ。画面を設計する時点で、6型モデルと7型モデル、どちらでも問題なく表示できるよう調整されていたと推測される。
なお、以下のスクリーンショットでは本製品の方が一部の日本語フォントが太く見えるが、これはFire OS 4の最新版にアップデートすると用いられる日本語フォントが変更になるためで、アップデート後は比較対象のFire HD 7で用いられているのと同じフォントになる。つまり見え方に差異はまったくないことになる。
画面構成、電子書籍周りの表示も6型と7型とで相違なし
画面の構成も、Fire HD 7と特に変わらない。ざっと説明しておくと、ホーム画面上段に「アプリ」、「ゲーム」、「本」といったコンテンツライブラリが並び、その下には最近使ったコンテンツが並ぶスライダーがあるという構成だ。いずれも横方向にスワイプすることで、隠れたコンテンツが表示される。Androidとはまったく異なるデザインだが、慣れの問題だけで、特に使いにくくはない。スライダーに表示させたくないコンテンツは、長押しして非表示にすることもできる。
電子書籍周りも、特に違いは見られない。本製品の方が画面サイズが一回り小さいことから、フォントサイズの初期設定値が変えられているのではと予想したが、Fire HD 7と同じ(12段階の下から4番目)だった。それゆえ、見え方にはまったく違いはない。メニュー類のサイズも同じだ。
ベンチマークソフト「Quadrant Professional Ver.2.1.1」による比較は以下の通り。何度か試した限りでは、Fire HD 7よりはわずかに高い値が出るようだが、それほど極端に違いがあるわけではなく、特定の項目が突出して高かったり低かったりということもない。位置付け的にはFire HD 7と同様、エントリーモデルに属する製品ということになるだろう。
製品名 | Total | CPU | Mem | I/O | 2D | 3D |
---|---|---|---|---|---|---|
Fire HD 6 | 6,407 | 17,231 | 7,612 | 4,358 | 333 | 2,502 |
Fire HD 7 | 5,954 | 17,235 | 6,724 | 3,242 | 360 | 2,210 |
同じ“6型”でもKindleに比べてコミックの表示サイズは小さい
以上見てきたように、こと“中身”については、6型と7型とでほぼ違いはないといってよい。例外と言えるのはスピーカーがステレオでなく、モノラルである点くらいだ(後述)。それゆえ本製品の差別化ポイントはサイズや重量などの違いが主ということになる。もう少し突っ込んで見ていくことにしよう。
まず本体のサイズについてだが、6型と7型でわずかしか違わないように思えるが、実際に手に持ってみるとかなりの差がある。7型のFire HD 7は、そこそこ手が大きくても片手でつかむのは困難だが、本製品であれば問題なくつかむことができる。実際に操作する際はいずれにせよ両手を使うことになるが、取り出しやすさ、持ちやすさという点では大きな差がある。手が小さいユーザーでも扱いやすいはずだ。
また可搬性についても、7型のFire HD 7のサイズだとポケットに収めるのはまず無理だが、本製品はスーツの内ポケットにもすっぽりと収まる。ファブレットなどと比べると重量や厚みはさすがに不利だが、これから冬にかけてコートなどを着用した状態であれば、ポケットに入れて持ち歩くにしても、存在感はそう感じずに済むだろう。
続いて画面サイズについて。6型という画面サイズは、E Inkを採用した電子ペーパー端末では標準的な大きさだが、本製品は同じ6型といってもワイド比率(9:16)なため、スクエア比率(3:4)で6型の端末とは、実際の表示サイズが大きく異なる。ここでは同じ「6型」の電子ペーパー端末のほか、画面サイズが近いiPhone 6 Plusなど、他端末と比べた場合の表示領域の違いについて見ていきたい。
まずは6型の電子ペーパー端末の例として、同じAmazonが販売する電子書籍端末「Kindle」と比較してみよう。以下の写真を見れば分かるように、同じ6型でもタテヨコ比が異なるため、表示サイズは大きく異なる。特にコミックでは、横幅に合わせて縮小表示されるため、本製品の方がページの面積は小さくなり、また上下に大きな余白ができてしまう。
解像度は本製品の方が高いので、細かいディティールの再現性は本製品の方が上だが、視力が弱く、小さな文字が読みにくいという人にとっては、スクエア比率のKindleの方が、目にやさしいと言えるだろう。
一方、テキストコンテンツを表示する場合は、ワイド比率の本製品も画面をいっぱいに使った表示が可能なので、快適な読書が楽しめる。スクエア比率の端末に比べて横幅が狭いぶん、手に持ちやすいのも利点だ。ただし、1ページあたりの表示行数は少なくなる。
続いて、5.5型のiPhone 6 Plusと比較してみよう。どちらもワイド比率なので、こちらは純粋に6型と5.5型という画面サイズの違いのみとなる。
以上のように、ほかの製品と画面サイズを比較する際は、ワイド比率なのかスクエア比率なのかを念頭に置かないと、思ったより画面が狭く感じられて購入後に後悔する原因になりうる。特にコミックを中心に読書を楽しむユーザーは、注意した方がよいだろう。このほか、代表的な端末と並べた写真を以下に掲載しておくので、表示サイズの違いを確認する際の参考材料にしてほしい。
高負荷コンテンツ表示時の発熱、およびスピーカーの配置に注意
このほか、電子書籍以外の用途で、使ってみて気になった点をいくつかまとめておこう。
1つは本体裏面の発熱だ。ゲームや動画では、プレイまたは再生を始めてすぐに本体の上部に発熱を感じ始め、30分ほどすると手に持つのがつらくなってくる。3Dのグラフィックスがぐりぐり動くゲームならまだしも、画面の描き替えがあまり発生しないパズル系ゲームでも同様の症状なので、若干気になるところだ。
この裏面の発熱は7型のFire HD 7にもみられる問題だが、同じ動画を再生して比較する限りでは、本製品の方が体感的な発熱量は多く感じられる。回路の密度が高いぶん、本製品の方が熱を帯びやすいようだ。
なお、インスタントビデオストアで購入した約2時間の映画を視聴した際はそれほどの発熱はなかったので、コンテンツがFireシリーズに最適化されているかどうかで差がある(らしい)ということは補足しておく。もし熱が気になって仕方がないというのであれば、背面カバーなどを装着して対応するのがベターだろう。
動画についてもう1つ、ネックとなるのがモノラルスピーカーだ。ステレオでないことに加え、音が背面に抜けやすいこと、さらにスピーカーの位置が、本体を横向きにした際に手でふさがれやすい場所にあるのもネックだ。動画および音楽再生に利用する場合は、イヤフォンおよびヘッドフォンは必須と考えた方がよいだろう。Bluetoothのスピーカーやヘッドフォンを使うという選択肢もある。
低価格ゆえのハンデを理解した上で購入を検討したい製品
以上ざっと見てきたが、使ってみて気になるのはやはり厚みと重量、そして前述のスピーカーの問題で、ここをもう少し頑張ってくれていればさらに満足度は上がっただろうが、そこは価格ゆえの妥協点ということになるだろう。一方で7型に比べてスリムで持ちやすいといった利点もあり、価格差を含めて総合的に考えると、同時発売になったFire HD 7よりもむしろこちらの方が本命ではないかと感じられるほどだ。
Google Playに非対応という、Fireシリーズ共通のハンデは隠しようがないが、アプリやゲーム、電子書籍など、コンテンツが自分のニーズに合致するのであれば、1万円強という投資に見合った、よい買い物になることだろう。これまで家族でタブレットを共有してきたユーザーが初めて手にする自分専用のタブレットという位置付けに留まらず、すでにタブレットを所有しているユーザーがサブマシンとして遊び倒すことを目的に導入するなど、いわゆるエントリーモデルというポジションに留まらない、幅広い楽しみ方ができる製品と言えるだろう。