レビュー

「iPadOS 17」のUVCキャプチャ対応で、iPadがサブモニターになる?デバイスやアプリごとの挙動の違いを検証してみた

UVCサポートにより、iPadをサブモニターとして使えるようになった

 iPad向けの最新OS「iPadOS 17」では、新たにUVC(USB Video Class)をサポートするようになった。これを使えば、さまざまなデバイスのHDMIポートから出力した映像を、USB経由でiPadに表示できる。キャプチャデバイスが必要になるとはいえ、iPadをサブモニターのように使えることで、これまでなかった使い方が可能になる。

 もっともiPadをサブモニターとして使うソリューションはすでに複数あり、それらとどう違うのかは気になるところ。また映像を表示できたとしても、解像度は十分なのか、動画がカクつかずに表示できるのか、著作権保護機能がついた動画は再生できるのかなど、疑問点は数多い。

 これに加えて疑問なのが、このUVC機能を実際に試したレビュー記事を見ると「実用的」という声もあれば「遅くて使い物にならない」という声も散見されるなど、評価がバラバラであることだ。何が原因で評価が割れているのかは気になるところだ。

 そこで今回は複数のキャプチャデバイスと、複数のUVC対応アプリを組み合わせ、筆者手持ちのWindowsノートおよびiPadと組み合わせて、その挙動の特性をチェックしてみた。

ユーティリティのインストール不要、つなぐだけでアプリで表示

 まずは基本的なつなぎ方を見ていこう。今回は筆者手持ちのWindowsノート、ThinkPad X1 Carbon(2019)と、M1チップ搭載のiPad Air(第5世代)を接続することを前提としている。iPad AirはiPadOS 17にアップデート済みだ。

 まず必要なのはキャプチャデバイス。Windowsノートから受け取ったHDMIの映像信号を、USB Type-Cに変換してiPadに渡す役割だ。ただのHDMI-USB Type-Cケーブルではダメで、キャプチャデバイスである必要がある。

 またiPad側には、UVCに対応したアプリが必要になる。これらアプリがあって初めて、外部から入力した映像信号をiPadで表示できるようになる。ちなみにFaceTimeもUVCに対応しているが、今回はサブモニターとして使うことが目的なので、別途サードパーティアプリを使用する。

まずはキャプチャデバイスのHDMIポートにHDMIケーブルを接続する
HDMIケーブルのもう一端をノートPCに接続する
さらにキャプチャデバイスのUSBポートをiPadに接続する。写真のキャプチャデバイスはUSB Type-A仕様なのでアダプタでUSB Type-Cに変換している
UVC対応アプリ(PadDisplay)側の表示。接続前は「キャプチャデバイスが見つかりません」だったが……
接続後はキャプチャデバイスが選択可能になり、画面に映像が表示された
Windowsからは一般的な外付けモニターとして認識されている
Windows PCと並べたところ。通常のマルチモニターと同様ミラーリングも可能だ

 これらの仕組みが従来のサブモニターアプリと決定的に異なるのは、映像送信元のデバイス側、今回でいうとWindowsノート側に、ユーティリティのインストールを必要としないことだ。「Duet Display」や「Luna Display」などのアプリは、iPad側だけでなく、映像送信元のデバイスにも、専用のユーティリティをインストールする必要があった。

 しかし今回のUVCサポートではそうではなく、とにかくHDMIの信号さえ出力できればよいので、ゲーム機やカメラのように、ユーティリティのインストールが不可能なデバイスであっても、まったく問題なく表示できる。無限の可能性があると言っていいだろう。

PCに限らず、UVC対応のWebカメラから映像を直接取り込むといった使い方もできる

 なお接続が完了したあとは、Windowsからは外付けのモニターとして認識され、「設定」→「ディスプレイ」から解像度やリフレッシュレートの調整が行なえる。ただし動画などに関しては、iPad上のUVC対応アプリ側でも並行して解像度やフレームレートの調整を行なわなければ、快適に見られない場合がある。詳しくは後述する。

まずはキャプチャデバイスおよびUVC対応アプリを紹介

 検証結果に入る前に、今回用いるキャプチャデバイスおよびUVC対応アプリをざっと紹介する。検証結果だけ見たい人は、この章ごと読み飛ばしてもらって差し支えない。

 まずキャプチャデバイス。Amazonで「HDMI UVC キャプチャ」などのキーワードで検索すると大量にヒットするが、今のところ定番と呼べる製品が存在せず、おすすめ製品が口コミで広まっている状況にある。今回はなるべく価格帯と機能が異なる製品をチョイスした。

 最初の製品は、Amazonで2千円前後で売られている実質ノーブランドのキャプチャデバイスだ。USB 2.0対応、2K/60Hzの出力解像度に対応とされるが、以前はUSB 3.0対応と記述されていたという口コミがあり、素性はやや怪しい。

 ブランド名は「Faunow」、Windowsからはチップ名と見られる「MacroSilicon」として認識されるが、今回は便宜上ノーブランドと呼称する。ちなみに約1年前に筆者が購入した私物である。

Amazonで入手した実売2千円台のキャプチャデバイス。ブランド名は「Faunow」だが、ここでは便宜上ノーブランドと呼称する
本体。iPadへの接続はUSB Type-C変換アダプタが別途必要
本体にHDMIポートを備える
内部が青色ゆえUSB 3.0に見えるが、実際にはUSB 2.0とのこと
Windowsに接続した場合、解像度は1,280×720ドットが推奨される。なお選択肢としては最大4,096×2,160ドットまで用意されている

 2つ目は、アイ・オーの「GV-HUVC/4KV」。実売価格は1万9,000円とやや高価だが、キャプチャデバイスとしては珍しい国内メーカーの製品で、USB 3.0対応、さらに4K/30Hzの出力に対応している。今回はメーカーから借用した機材を利用している。

 ちなみにこの製品、フレームレートを調整できるソフトが付属するのが1つの売りなのだが、これは外部デバイスの映像をPC上で表示する場合にPC側にインストールして使うためのもので、今回の用途では利用できない。

アイ・オー「GV-HUVC/4KV」。4K対応ということで、実売価格は1万9,000円とやや高価
本体。前述のノーブランド品よりやや大柄で、USBポートに直挿しする仕様
本体にHDMIポートを備える
USB 3.0ポートを備える
Windowsに接続した場合、解像度は3,840×2,160ドット、200%での表示が推奨される

 3つ目は、ASUSの「TUF Gaming Capture Box」。もともとは配信用のデバイスということで、比較的機能がシンプルな前述の2製品と違い、別モニターへのパススルー出力機能を備えるほか、イヤホンジャックなども搭載する。

 このほか映像出力でも、4K/30Hzもしくは2K/60Hzに対応するなど、かなり高性能な製品だ。そのぶん実売価格は2万8,482円と、ややお高めだ。こちらもメーカーから借用した機材を利用している。

ASUSの「TUF Gaming Capture Box」。こちらも4K対応で、実売価格は1万9,599円と高価
前述の2製品と違って据置型のボディが特徴。接続時は天板中央が点灯する
USB 3.2対応のUSB Type-Cポートと、HDMIポートを搭載。パススルーにも対応する
配信用の製品ということで、背面にはイヤフォンジャックなども搭載する
Windowsに接続した場合、解像度は3,840×2,160ドット、300%での表示が推奨される

 上記いずれの製品も、接続はiPadとはUSB Type-Cで、デバイス(今回の例ではWindowsノート)とはHDMIで行なう。電源はiPad側から供給される仕様だ。今回の検証では、HDMIケーブルはASUS製品に付属するものを使用。また前者2つは本体ポートがUSB Type-Aのため、アイ・オー製品に付属するアダプタを用い、USB Type-Cに変換している。

 続いてiPadにインストールするUVC対応アプリを紹介する。このジャンルは現在続々と新しいアプリが登場しつつあるが、今回は現時点で正式リリースされている中から「PadDisplay」「CamX」および「Camo Studio」の3アプリをチョイスした。

 前2つはUVCキャプチャ専用で日本語表示に対応、最後の「Camo Studio」はUVCキャプチャ機能を備えた配信用アプリということで、位置づけが微妙に異なる。いずれも今回のiPadOS 17のリリースに前後して登場した、極めて新しいアプリだ。

「PadDisplay」。上部のバーは常時表示されたままだ。背景色は別途変更できる
キャプチャデバイスは画面左端に表示される。iPadの本体のカメラを使うことも可能
設定できるのはスピーカーのオン・オフ程度。解像度やフレームレートは調整できない
ピクチャインピクチャ機能を備える
「CamX」。画面上下は時計表示も含めて黒く塗りつぶされる
解像度やフレームレートは調整可能。スピーカーのオン・オフなどにも対応する
アスペクト比にフィットした解像度を選べば上下の黒帯の面積を減らせる。フレームレートは連動して切り替わる
画質の調整機能のほか、画面左下からスクリーンショットや録画も行なえる
「Camo Studio」。画面上下は黒帯となるが、上段の時計などは表示されたまま
配信用アプリゆえ、2系統の入力ソースから選択できるなど、ほかのアプリとは一線を画する細かい設定が可能
解像度とフレームレートを選択可能。このほか背景色の変更も行なえる
配信先を決めての出力など、今回の用途では使用しない機能も多い

表示させるだけなら簡単

 さて、これら3デバイスと3アプリを組み合わせつつ、サブモニターとして使えるかを実験してみた。以下、分かったことを列挙する。

 まず、普通に表示するだけなら、どのキャプチャデバイスを使っても、またどのアプリを使っても問題ない。iPad Airの画面サイズに合わせて自動的に幅が調整され、上下で黒く塗りつぶされるので、ユーザー側での調整も不要だ。

 強いて挙げれば、「PadDisplay」は常時ステータスバーが画面上部に表示されたままになるので、常用にはやや目障りなのと、もともと配信用である「Camo Studio」は設定項目が多く、初見だと戸惑いやすいことくらいだ。普通に使うぶんにはどれも問題ない。

 キャプチャデバイスによって異なるのは、解像度およびフレームレートだ。たとえば1,920×1,080ドットでミラーリング出力を行なおうとした場合、フレームレートは、アイ・オー製品が60fps、ASUS製品は120fpsまで対応するため、動画も快適に視聴できる。

 一方のノーブランド品は、フレームレートが5fpsまで下がるため、紙芝居のような動きになる。逆にフレームレートを維持しようとすると、解像度を下げなくてはならず、画質が下がってしまう。

 以下は「CamX」を用い、解像度を1,920×1,080ドットに固定し、実際に動画を再生している様子だ。

【動画】アイ・オー製品。フレームレートは最大60fpsということで、至って快適に再生できる
【動画】ASUS製品。フレームレートは最大120fpsで、こちらも動きはなめらかだ
【動画】ノーブランド品。一見なめらかに見えるがこれは解像度を720×480ドットに落とし、フレームレートを30fpsにした状態。解像度を1,920×1,080ドットに上げると、フレームレートは自動的に5fpsに下がり、紙芝居のような動きになる
アイ・オー製品。フレームレートは最大60fps
ASUS製品。フレームレートは最大120fps
ノーブランド品。フレームレートは最大5fps。フレームレートを上げたい場合は、解像度を下げるしかない

 これらの解像度やフレームレートの調整は、Windows側でのディスプレイ設定と並行してアプリ側で行なうのだが、こうした解像度およびフレームレートの調整機能を搭載するアプリとしないアプリがある。今回試した中だと、「CamX」と「Camo Studio」は搭載、「PadDisplay」は非搭載だ。

 もっとも、「CamX」との組み合わせだとフレームレートが5fpsしか出なかったノーブランド品を、解像度やフレームレートの調整機能を搭載しない「PadDisplay」と組み合わせると、支障なく再生できてしまったりする。このあたりの挙動の癖はかなり謎だ。

【動画】ノーブランド品を「PadDisplay」と組み合わせて再生中。さきほどの「CamX」との組み合わせとは打って変わってスムーズに再生できている。フレームレートは30fps程度は出ているように見える

 1つ言えることは、キャプチャデバイスを購入したもののコマ落ちが激しく、解像度やフレームレートの調整だけでは改善されない場合は、アプリをいろいろ取り替えてみるというのは1つの手だろう。また今回試した中では、ケーブルをUSB 2.0対応品に交換するなど、敢えてスペックを落とすことで、逆にスムーズに再生できるようになる現象も見られた。

動画再生は問題なし。ゲーム用途には遅延がネックか

 もう1つ、表示の遅延はどうだろうか。PCとiPadをミラーリング表示し、msまで表示できる時計を表示させ、前述の動画と同じ設定でどれだけの遅延があるかを計測したところ、ノーブランド品が600ms秒前後、アイ・オー製品が80ms秒前後、ASUS製品が110ms秒前後と、かなりの差がついた。

ノーブランドは600ms前後の遅延がある。アプリによっては100ms程度まで縮まることも
アイ・オー製品が80ms前後の遅延がある
ASUS製品は110ms前後の遅延。表示設定によっては50ms近くまで縮まる

 これらの遅延は解像度などでも変わるほか、画面が複製(ミラーリング)か、あるいは拡張かによっても変わってくる。いろいろと試す中で、ASUS製品は遅延を50ms程度まで短縮できる場合もあったほか、ノーブランド品も前述の「PadDisplay」と組み合わせた場合に100ms程度まで詰めることができた。

 ただしどの場合でも、シビアな操作を要求されるゲームでの利用には少々厳しい。いっぽうで遅延があまり影響しない動画再生については、音がズレることもなく、またMicrosoft Storeアプリの「Amazonプライムビデオ」を試したところ、著作権保護機能に引っかかることなく再生できたので、現実的な用途と言えるだろう。

 ちなみにiPadを「iPad Air」から「iPad mini」に交換して同じ実験を行なってみたが、目に見える影響はなかった。M1チップ搭載でなければマトモに動作しない、といった制限もなさそうだ。

課題はiPadのバッテリ消耗?

 以上のように、本格的なゲーム用途では遅延がネックになる可能性はあるが、動画の再生もほぼ問題なくこなせるなど、パフォーマンスは想定以上だ。筆者がこれまで試してきたサブモニターアプリと比べても、フレームレートや遅延など差が出やすい部分において、実用性ははるかに上だ。

 またドキュメントの表示やWebページの閲覧程度であれば、今回の実験のようなシビアな条件は必要なく、実用的に利用できる。フレームレートは無視して、なるべく高い解像度を設定しておけば、細かい文字も支障なく見られる。さらに縦向きに表示することも可能だ。

試した限りでは縦向きの表示も問題なく行なえる。iPad自体は画面を横向きで固定しておき、Windowsのディスプレイ設定で縦向きを選ぶとよい

 これらの利用に当たってはキャプチャデバイスの初期投資は必要だが、安価なものならば2千円前後から調達できるので、そう大きな負担ではないだろう。またUVC対応アプリは多くが無料で、有料版であっても買い切りとみられるため、PC向けのサブモニターアプリのような月額制での支払が発生しないのはメリットだ。

 一方でネックになるのは、全画面表示ではなく、上下に黒帯ができること。iPadならではのアスペクト比をサポートしていないことによるもので、この点についてはDuet DisplayやLuna Displayといった専用のサブアプリに分がある。

多くの場合、上下に黒帯ができるので、見た目があまりよろしくない。ちなみにPCから出力された映像がアスペクト比16:9の場合、iPad上では2,360×1,328ドットで表示される

 もう1つはiPadのバッテリの消耗が激しいこと。一般的なモバイルモニターはPCから給電されて駆動するので、ノートPCにさえきちんと電力が供給されていれば問題ない。しかし今回のケースでは、iPadのUSB Type-Cポートはキャプチャデバイスに占有されており、給電しながらの利用ができない。

 そればかりか、キャプチャデバイスに対してiPadから電源を供給するため、iPadのバッテリは通常よりも速いスピードでガンガン減っていく。サブモニターとして長時間使うには、これはかなり致命的だ。機種によっては、Magic Keyboardなどのオプションを装着し、Smart Connector経由で給電しながら使うという裏技はあるが、そのためだけに購入するのは現実的ではない。

 またキャプチャデバイスが必須であることは、持ち歩きにはやや不便であることを意味する。特にASUSの製品のように、完全にデスクトップでの利用を想定したサイズだと、常時バッグに入れておくのは現実的ではない。製品を選ぶにあたってはスペックだけを見るのではなく、サイズや形状も確認したほうがよさそうだ。