レビュー

SamsungのTLC NAND採用NVMe M.2 SSD「960 EVO」ベンチマークレポート

~960 PROに匹敵する性能で高コスパを実現

Samsung NVMe M.2 SSD「960 EVO」1TBモデル

 韓国Samsung Electronicsが、2016年9月に発表したNVMe M.2 SSD新モデル「960 PRO」および「960 EVO」のうち、前回は、上位モデルとなる「960 PRO」の容量2TBモデルを検証した。そして今回、下位モデルとなる「960 EVO」の容量1TBモデルを試用する機会を得たので、前回同様、ベンチマークテストの結果を中心に紹介する。

 なお、今回の960 EVO評価機も、搭載ファームウェアなど製品版とは仕様面などで異なる可能性がある点はご了承願いたい。日本での発売時期は2016年12月頃を予定しており、価格は未定。

TLC仕様の3D「V-NAND」を採用

 960 EVOは、Samsungのコンシューマ向けM.2 SSDの新モデルだ。960 PRO同様に、フォームファクタはM.2で、接続インターフェイスはPCI Express 3.0 x4、プロトコルはNVM Express(NVMe)に対応する。容量は、250GB、500GB、1TBをラインナップする。

 960 EVOは、960 PROの下位として位置付けられており、Samsungのコンシューマ向けM.2 SSD製品として初となる、ミドルレンジに位置付けられる“EVO”シリーズの製品。

 性能追求タイプの960 PROと比べて、当然仕様の異なる部分が存在するが、最大の違いとなるのが、採用するNANDフラッシュメモリだ。960 EVOのNANDフラッシュメモリは、第3世代の3D NAND「V-NAND」を採用する点は960 PROと同じだが、1セルあたり3bitのデータを記録する、TLC仕様となっている。このTLC仕様のNANDフラッシュメモリを採用することにより、コストダウンを実現している。

 TLC仕様のNANDフラッシュメモリを採用することで気になるのは、速度と耐久性だ。この内、速度に関しては、コントローラに960 PROと同じ5コアコントローラ「Polaris」を採用するとともに、512MBまたは1GBのキャッシュメモリ、そしてNANDフラッシュメモリの一部を、SLCバッファとして利用する「Intelligent Turbo Write」機能を採用することにより、960 PROに近い高速なアクセス速度を実現している。

 仕様は下の表にまとめた通りで、シーケンシャルアクセス速度やランダムアクセス速度は960 PROを下回る部分も多いが、従来の最上位モデル「950 PRO」を上回っている。ミドルレンジの製品とは言え、従来の最上位モデルを凌駕する性能を実現している点は大きな魅力となるだろう。

960 EVOの主な仕様
容量250GB500GB1TB
フォームファクタM.2
インターフェースPCI Express 3.0 x4
プロトコルNVMe 1.2
NANDフラッシュメモリ第3世代 V-NAND TLC
コントローラPolaris
DRAMキャッシュ容量512MB LPDDR31GB LPDDR3
シーケンシャルリード3,200MB/s
シーケンシャルライト1,500MB/s1,800MB/s1,900MB/s
ランダムリード(4KB/QD1)14,000IOPS
ランダムライト(4KB/QD1)50,000IOPS
ランダムリード(4KB/QD32)330,000IOPS330,000IOPS380,000IOPS
ランダムライト(4KB/QD32)300,000IOPS330,000IOPS360,000IOPS
総書き込み容量100TBW200TBW400TBW
保証期間3年
基板裏面にはチップを搭載せず、960 PRO同様に片面実装となっている。フォームファクタはM.2、接続インターフェイスはPCI Express 3.0 x4、プロトコルはNVMeに対応

 Intelligent Turbo Write機能は、アクセス状況に応じてSLCバッファ領域を増加させるという点が従来のTurbo Write機能に対する強化点。下記表にまとめたように、固定領域として4GBまたは6GB Turbo Write領域を確保するだけでなく、アクセス状況に応じて最大9GB、18GB、36GBの領域を拡張し、より多くのTurbo Write領域を活用できるようになっている。これにより、より多くの場面でTurbo Write機能が有効となり、高速なアクセス速度を享受できるわけだ。また、Turbo Write機能が無効となる状況でも、1TBモデルでは1,200MB/sと十分なシーケンシャルライト速度が確保される。250GBでは300MB/sまで低下するが、それでもTLC NAND採用のSATA SSDで同様のキャッシュ機能が切れた状況と比べて十分に速い。

 対する耐久性は、250GBモデルで100TBW、500GBモデルで200TBW、1TBモデルで400TBWと、960 PROに比べて半減となっている。また、保証期間も3年間と、960 PROの5年より短い。このあたりは、TLC仕様のNANDフラッシュメモリを採用することによる影響と言えるだろう。しかし、100TBWの250GBモデルでも、1日あたり約27GBの書き換えを行なっても約10年耐える計算で、一般ユーザーが利用する範囲内であれば、耐久性を問題視する必要はないと思われる。

960 EVO搭載「Intelligent TurboWrite」の仕様
-250GB500GB1TB
TurboWrite領域の容量標準4GB4GB6GB
ダイナミック領域9GB18GB36GB
最大13GB22GB42GB
シーケンシャルライト速度TurboWrite有効時1,500MB/s1,800MB/s1,900MB/s
TurboWrite無効時300MB/s600MB/s1,200MB/s

 基板には、Polarisコントローラと、キャッシュ用のLPDDR3メモリチップ、そしてNANDフラッシュメモリチップが2個搭載されている。960 PROでは、Polarisコントローラとキャッシュ用のLPDDR3メモリを積層して実装していたが、960 EDOでは、それぞれ独立して搭載されている点が大きく異なっている。Polarisコントローラは型番が「S4LP077X01-8030」で、その隣に容量1GBのLPDDR3チップ「K4E8E304EE-EGCF」を搭載している。NANDフラッシュメモリチップの型番は「K9DUGY8SCM」だった。

基板には、右からPolarisコントローラ、キャッシュ用のLPDDR3チップ、NANDフラッシュメモリチップを2個搭載する
960 PROとは異なり、PolarisコントローラとLPDDR3チップは積層実装されず、個別実装となっている。Polarisコントローラは型番が「S4LP077X01-8030」、容量1GBのLPDDR3チップの型番は「K4E8E304EE-EGCF」
NANDフラッシュメモリは、TLC仕様の第3世代V-NANDを採用。チップの型番は「K9DUGY8SCM」
PolarisコントローラとLPDDR3を積層実装していないため、ダイを16枚積層しているNANDフラッシュメモリチップのほうがかなり高くなっている
裏面に銅箔を積層したラベルが貼られ、発熱を効率良く発散できるように配慮されている

シーケンシャルリードで3,200MB/s超と960 PRO同等の速度を記録

 では、ベンチマークテストの結果を見ていこう。今回は、「CrystalDiskMark 5.2.0」、「ATTO Disk Benchmark V2.47」、「PCMark 8 Storage test」の3種類のベンチマークソフトを利用した。また、テスト環境は以下の通りだが、利用したマザーボードのM.2ポートはPCI Express Gen3非対応のため、PCI Express変換カードを利用し、960 EVOをPCI Express Gen3対応スロットに装着してテストを行なっている。また、今回の試用に合わせて、SamsungのNVMeドライバ最新版「Samsung NVMe Driver 2.0」も提供されたので、そちらをインストールしてテストを行なっている。加えて、容量1TBの960 PRO試用機も用意し、同様のテストを行なった。

テスト環境
マザーボードMSI Z97A GAMING 6
CPUCore i7-4770K
メモリDDR3-1600 4GB×2
システム用ストレージSamsung SSD 840 PRO 256GB
OSWindows 10 Pro 64bit (Anniversary Update適用済み)

 まず、CrystalDiskMarkの結果を見ると、960 EVOと960 PROの間にほとんど差が見られないことが分かる。データサイズも1GiBと32GiBの2通りでテストしているが、どちらも誤差の範囲内と言える程度のわずかな差しかない。このことから、960 EVOはミドルレンジの製品とは言え、上位の960 PROにかなり近い感覚で利用できるだろう。

960 EVO 1GiBテスト
960 PRO 1GiBテスト
960 EVO 32GiBテスト
960 PRO 32GiBテスト

 ATTO Disk Benchmarkの結果も同様で、960 EVOと960 PROの速度差はほとんどなかった。今回の試用機は最終製品版ではなく、製品版ではファームウェアが進化する可能性があるとも指摘されているため、製品版ではもう少し差が出る可能性もあるが、しかし、これだけの性能が発揮されるなら、960 EVOの性能を不安視する必要はほぼないだろう。

960 EVO ATTO Disk Benchmark
960 PRO ATTO Disk Benchmark

 対して、PCMark 8 Storage testでは、「Storage 2.0 bandwidth」の結果に、1.5倍ほどのかなり大きな差が見られた。ただ、「Storage Score」の結果や、実アプリをベースとしたテストの結果を見る限り、差は極僅かとなっている。960 EVOと960 PROの間に性能差が存在することは間違いないが、実利用時にその差を体感できるものではなく、双方の違いを感じることなく利用できそうだ。

PCMark8 Storage Test960 EVO 1TB960 PRO 1TB
Storage Score5,0755,104
Storage 2.0 bandwidth(MB/s)532.45753.11
Storage-World of Warcraft v2(Sec)57.557
Storage-Battlefield 3 v2(Sec)131.5130.9
Storage-Adobe Photoshop light v2(Sec)109.8109.4
Storage-Adobe Photoshop heavy v2(Sec)350.4350
Storage-Adobe InDesign v2(Sec)55.655.1
Storage-Adobe After Effects v2(Sec)69.969.6
Storage-Adobe Illustrator v2(Sec)70.970.5
Storage-Microsoft Word v2(Sec)27.927.8
Storage-Microsoft Excel v2(Sec)98.9
Storage-Microsoft Power Point v2(Sec)98.9
Bandwidthテスト結果
総合スコア

 このように、960 EVOはミドルレンジの製品として位置付けられてはいるものの、性能的には最上位の960 PROに匹敵し、体感でもほぼ差がなく利用できると言っていい。もちろん、本来持つポテンシャルや耐久性に関しては、960 PROの方が上回るのは事実だが、サーバなどディスクアクセスが過酷な環境で利用しない限り、その差を体感したり、耐久性が問題になることはないだろう。そういう意味で、960 EVOは非常にコストパフォーマンスに優れる製品と言えそうだ。