レビュー
新要素盛りだくさんの最新ドライバ「Radeon Software Crimson ReLive Edition」を試す
~ゲーム録画、消費電力低減、性能向上
2016年12月8日 23:00
AMDは12月8日、グラフィックスドライバの最新版となる「Radeon Software Crimson ReLive Edition」を公開した。今回は、同ドライバで新たに追加された2つの新機能と、ドライバアップデートによる性能向上についてチェックする。
ゲーム録画機能ReLiveが追加された第2世代Radeon Software
Radeon Software Crimson ReLive Editionは、2015年11月に旧来のAMD Catalystを置き換える新世代グラフィックスドライバとして登場した「Radeon Software Crimson Edition」以来、初のメジャーアップデート版となるドライバだ。
今回は、Crimson ReLive Editionで追加された新機能の「ReLive」と「Radeon Chill」をテストするほか、旧ドライバからの性能向上率をベンチマークテストで確認する。
テスト用のGPUとして、Radeon RX 480のリファレンスボードを用意した。その他のテスト環境については以下の通り。
【表1】テスト環境 | |
---|---|
CPU | Core i7-6700K |
マザーボード | ASUS Z170-A |
メモリ | DDR4-2133 8GB×2(15-15-15-35、1.20V) |
GPU | Radeon RX 480 8GB |
ストレージ | 480GB SSD(OCZ VTR180-25SAT3-480G) |
電源 | 玄人志向 KRPW-TI700W/94+(700W 80PLUS TITANIUM) |
OS | Windows 10 Pro 64bit(1607) |
プレイ動画の録画・配信機能「ReLive」
Crimson ReLive Editionの目玉機能としてドライバのバージョン名にも採用されたReLiveは、ゲーム画面の録画や配信を可能にする新機能だ。競合メーカーであるNVIDIAがGeForce Experienceで提供しているShadow Playに近い機能といえばイメージしやすいだろう。
ReLiveで提供される主な機能は、ゲーム画面の録画と配信であり、そのためのツールバーをゲーム画面上に表示する機能や、スクリーンショットを取得する機能なども備えている。ReLiveの設定画面はRadeon Softwareの「Radeon 設定」に統合されており、ここで録画・配信の詳細や、ショートカットキーなどを設定する。
録画機能では、任意で録画を開始するモードのほか、バックグラウンドで録画を行なうインスタントリプレイが用意されている。記録する動画については、ビットレートや解像度、フレームレートが設定できることに加え、動画形式をAVC(H.264)とHEVC(H.265)の2つから選択できる。
なお、動画形式、解像度、フレームレートの3項目については、GPUによって対応できる設定が限られており、非対応の設定を行なおうとすると、GPUがサポートしていない設定である旨の警告が表示される。試しにRadeon RX 480が非対応の動画形式である「AVC形式、2,560×1,440ドット、60fps」という設定で録画を試みたところ、実際に録画された動画は「AVC形式、2,560×1,440ドット、30fps」で記録されていた。
AMDはReLiveがゲームの性能に与える影響を非常に小さなものであるとしており、実際のゲームでのフレームレート低下は最大で3~4%程度になるという。
このReLiveの録画による性能の低下について検証してみたものが以下のグラフだ。
テストでは、ReLiveのインスタントリプレイ機能を20分に設定、常時録画を行なっている状態で「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」を実行した。録画設定は1,920×1,080ドット、60fps、50Mbpsで、形式はAVCとHEVCをそれぞれ試している。
スコアの基準となるReLive無効時のスコアが10,476であるのに対し、AVC形式で録画中は9,754、HEVC形式は9,671であり、ReLiveの録画によるスコアの低下は7~8%程度だった。AMDが言うフレームレートの低下率に比べるとやや大きいが、記録している動画のクオリティを考えると、録画による負荷は十分に低いものと言って良いだろう。
プレイ状況に応じてGPUの消費電力をカットする「Radeon Chill」
Radeon Chillは、ゲームのプレイ状況に応じて動的にGPUの電力を削減する機能とされている。と言ってもピンとこないが、ユーザーの操作の多寡に基づいて描画するフレーム数を調整し、GPUの消費電力を低下させる機能のようだ。
なお、Radeon ChillはDirectX 9~11で利用できる機能なのだが、全てのゲームタイトルで利用できる訳ではなく、Radeon Chill対応タイトルでのみ利用可能となっている。
Radeon ChillはRadeon設定のゲームからアクセスできるWattManの1機能として実装されている。利用するにあたっては、まずゲームのグローバル設定のWattManでRadeon Chillを有効化する必要がある。なお、Radeon Chillはグローバル設定にてショートカットキーを設定しておくことで、ゲーム実行中に機能をオン/オフできる。
グローバル設定でRadeon Chillを有効化すると、Radeon Chillに対応したゲームタイトルの個別設定にて、Radeon Chillが動作調整の目安にするフレームレート上限と下限が設定できるようになる。標準では下限が40fps、上限は144fpsに設定されている。
Radeon Chill対応タイトルである「オーバーウォッチ」で、その効果のほどを試してみた。オーバーウォッチの設定は、画面解像度1,920×1,080ドット、描画品質スタンダード。Radeon Chillは40~144fpsに設定している。
Radeon Chillを有効にした状態では、ゲームの操作をやめるとフレームレートは下限値の40fpsに近づく。この状態から僅かでも操作すればフレームレートは即座に上昇するが、上限の144fpsに達することは稀で、大抵は下限と上限の中間値で描画される。操作に反応してフレームレートが上昇するという挙動を見ていると、状況に応じてフレームレートを引き下げているというより、必要性に応じてフレームレートを引き上げているといった印象を受ける。
今回テストしたオーバーウォッチでは、Radeon Chillを無効にした状態と、Radeon Chillが最大限に省電力効果を発揮していると思われる無操作状態(40fps時)では、おおよそ100Wの電力差がついている。
ところで、AMDにはフレームレートをコントロールして消費電力を削減する機能として、FRCT(フレームレート・ターゲット・コントロール)が既に存在している。FRCTはフレームレートの上限を設定することで、GPUが描画負荷の軽いシーンを不必要に高いフレームレートで描画することを防ぎ、消費電力を抑制する機能だ。
AMDはRadeon ChillはFRCTを置き換える機能ではなく、FRCTのようにフレームレートに厳密な上限を設けるものではないとしている。この点について、どのような違いがあるのかチェックしてみたのが以下のスクリーンショットだ。
スクリーンショットは左から、Radeon Chill・FRCT無効時、Radeon Chill(40~144fps)有効時、FRTC(60fps)有効時の順で並べている。
このスクリーンショットは、The Witcher 3: Wild Huntのタイトル画面で取得したもの。この画面は描画負荷が非常に低いため、FRTCとRadeon Chillを無効にした際のフレームレートは1,300fps前後にまで達しており、消費電力も155Wとなっている。
これに対し、Radeon Chillを40~144fpsで有効化した際のフレームレートは1,200fps前後で消費電力は150W。FRTCを60fpsで設定した際のフレームレートは60fps弱で消費電力は67Wという結果だった。
Radeon Chillを有効にすることでフレームレートは低下しているものの、設定範囲の40~144fpsの範囲とはかけ離れた動作となっているのに対し、FRTCは上限値を超えない数値まで大幅にフレームレートが低下している。この結果はまさに、AMDの主張する通りの結果だ。
Radeon Chillのユニークなところは、ゲームのプレイ状況を動作の基準にしているところだ。GPUの消費電力が減るということは、GPUの発熱が減ることと同義であり、GPUの発熱が減ればGPUクーラーの動作音も減少することになる。操作の少ない状況でフレームレートが低下することを許容できるなら、消費電力、熱、ノイズをまとめて減らすことのできるRadeon Chillは利用する価値のある機能と言える。
ただ、通常の60Hz動作のディスプレイなどを使っている場合、ディスプレイのリフレッシュレートから外れたフレームレートで描画していてはテアリングが発生してしまう。いくらGPUの電力が削減できても、ゲーム画面の描画が破綻していては本末転倒だ。Radeon Chillを真に活用するためには、フレームレートにディスプレイのリフレッシュレートを同期させるFreeSyncを同時に利用すべきだ。
FreeSyncとRadeon Chillは相性がいいというより、FreeSync環境でGPUを効率的に運用する機能がRadeon Chillであると言っても過言ではない。1.5万円台から対応ディスプレイが購入できるFreeSyncの導入コストは低い。そこにRadeon Chillという効果的な省電力機能が追加されることで、RadeonユーザーがFreeSync環境を構築するメリットは一層増すことになるだろう。
Crimson ReLive Editionと旧ドライバのパフォーマンスを比較
Crimson ReLive Editionの特徴として、AMDは過去のドライバからの性能向上を掲げており、2016年に発売されたPolarisアーキテクチャ採用GPUであるRadeon RX 480であれば、発売当初のドライバから最大8%の性能向上を果たしたとしている。
では、その向上具合はどの程度のものなのか、旧バージョンとなるCrimson Edition最後のWQHL版である16.9.2(9月29日版)とベンチマークテストのスコアを比較した。
実行したベンチマークテストは、3DMark(グラフ1、2、3、4)、Ashes of the Singularity: Benchmark(グラフ5)、The Witcher 3: Wild Hunt(グラフ6)、オーバーウォッチ(グラフ7)、ダークソウル3(グラフ8)、アサシンクリード シンジケート(グラフ9)、ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク(グラフ10)、SteamVR パフォーマンステスト(グラフ11)。
テストの結果、Crimson ReLive Editionの利用によって、Radeon RX 480の性能はおおむね1~3%程度向上している。また、ベンチマークスコアが向上しながらも最大消費電力は旧ドライバと同程度に抑えられており、ドライバの最適化によって電力効率も改善しているようだ。
録画機能だけに留まらない機能追加と性能向上が魅力のCrimson ReLive Edition
以上の通り、Radeon Software ReLive Editionの新機能2つと性能についてチェックした。
Radeon設定に統合されるAMD純正の録画機能ReLiveの実装が大きなメリットであることは言うまでもないが、FreeSync環境に適した省電力機能のRadeon Chillや、新GPUへの最適化による性能向上は、最新GPUを使用しているRadeonユーザーに大きな恩恵をもたらすとともに、Radeonの購入を検討していたユーザーにとっても多いに魅力的なものとなるだろう。
今後のアップデートを通して、各GPUがReLiveで利用できる録画設定や、Radeon Chill対応ゲームタイトルの拡充にも期待したい。