レビュー

Amazon「プライム・フォト」×Synology NASで最強の写真保存環境を構築する

~PC不要でNASとクラウドを自動同期。容量無制限、ランニングコスト不要

 Amazonが提供する「プライム・フォト」は、Amazonプライム会員であれば容量無制限で写真を保存できるストレージサービスだ。同種のオンラインストレージでは、アップロードの際に元データから圧縮され、画質が損なわれる場合があるが、本サービスは無圧縮のままアップロードされることが特徴だ。発表されてから暫く経っているので、すでに愛用しているという人も多いだろう。

 このAmazon Driveとのデータ同期にいち早く対応したNASが、Synologyの「DiskStation」シリーズである。この両者を組み合わせれば、撮った写真をNASに保存することで、自動的にこの「プライム・フォト」にアップロードされ、以降も同期が行なわれる。面倒な手間を掛けることなく、またAmazonプライムの会員費以外のコストをかけずに、写真を容量無制限で安全に保存することが可能な、最強の環境が構築できるのだ。

 今回はこの環境の構築手順について、筆者のケースをもとに詳しく紹介しよう。

Amazonの「プライム・フォト」。Amazonプライム会員向けの、容量無制限で写真を保存できるオンラインストレージだ。「Amazon Drive」の一機能として提供されている。ちなみに個人利用のみ(業務利用や商業利用は不可)とされている
DSM 6.0以上を搭載できるSynologyのNASであれば、NASアプリ「CloudSync」を用いて今回紹介する環境を構築できる。今回使用したのは、2ベイNASの「DS715」

なぜAmazon「プライム・フォト」×Synology NASなのか

 スマートフォンやデジカメで撮影した大量の写真の保存先として、NASは賢い選択肢の1つだ。現在市販されているほとんどのNASは、テラバイト級の容量を持つ(もしくは同等ドライブを自分で組み込める)ので、大量の高解像度データを保存できる上、LAN上のPCはもちろん、スマートフォンやタブレットからもアクセスできる。また2ドライブ以上のNASであれば、RAIDを組むことでドライブの故障時も復旧が容易だ(RAID 0を除く)。シングルドライブのHDDや、CD/DVDに焼いての保存では、中々こうはいかない。

 さて、最近のNAS、中でもSynologyやASUSTOR、QNAPといった台湾メーカー製のNASは、さまざまなアプリを組み込むことで機能を拡張できるが、その1つにオンラインストレージとの同期がある。NASとオンラインストレージを同期させておけば、RAIDでは復旧不可能な装置自体の故障はもちろん、災害や盗難によるNAS本体の喪失にも対応できる。PCを経由せず、NASからクラウドに直接アップロードされるので、PCの電源を入れたままにしておく必要もない。

 また、写真データの複製をオンラインストレージに置くことで、外出先からそれらを参照するのも容易になる。写真が自宅内のNASにのみ保存されている状態であれば、外出先から参照するにはダイナミックDNSなどの設定を行なう必要があるが、クラウドに複製があれば、そちらを直接参照すればよいというわけだ。親族との会席、同窓会、飲み会などで過去の出来事に話題が及んだ際、当時の写真をすぐに探してその場で楽しむなど、過去の写真資産を活用するにはうってつけだ。

これはQNAPのNASに用意されているバックアップ系アプリ。「AppCenter」からインストールできる
こちらはASUSTORのNASに用意されているバックアップ系アプリ。「App Central」からインストールできる
今回使用するSynologyのNASに用意されているバックアップ系アプリ。「パッケージセンター」からインストールできる。先の2社に比べると種類が少ないのは、1つのアプリが複数のオンラインストレージをサポートしているため

 さて、冒頭で紹介したAmazon Driveとの同期にいち早く対応したのが、SynologyのNAS「DiskStation」シリーズである。Dropbox、OneDrive、Googleドライブとの同期は殆どのメーカーが対応しているが、Amazon Driveとの同期に対応するのは、少なくとも筆者が今回の環境を構築した数カ月前の時点では、「DiskStation」シリーズのみだった(DSM 6.0以降で対応)。

 SynologyのNAS「DiskStation」シリーズと、Amazon Drive(に含まれるプライム・フォト)を組み合わせれば、NASに保存した写真データがAmazonフォトにアップロードされ、以降も写真データを追加するたびに自動的に同期できる。1日1回や、1週間に1回といった定期バックアップではなく、ミラーリングに近い形で同期が行なわれるのもよい。同期の方向も選択できるので、もし専用アプリを使ってスマートフォンやタブレットから直接プライム・フォトに写真をアップロードしているのならば、逆にこれらをNASに自動ダウンロードして同期することもできる。

 この組み合わせの最大のメリットは、なんといっても容量だ。通常であれば、テラバイト級の容量があるNASに対し、オンラインストレージの容量はせいぜい数GB~数十GB程度なので、NASの全データをまるごとアップロードするわけではないにせよ、写真データが大量にあれば、オンラインストレージの容量を増やすための有料契約は免れない。しかしプライム・フォトは容量無制限なので、プライム・フォトの利用資格であるAmazonプライムの年会費を除けば、ランニングコストは不要というわけだ。

NASとクラウドで写真データを同期、外出先からも参照可能に

 では具体的な設定方法を紹介しよう。まずは前段階として、NAS内に写真保存用のフォルダを作り、手持ちの写真をここに集約する。SynologyのNASの場合、初期設定時に手順をスキップしなければ、「Photo」という写真専用フォルダが作成されるので、今回はこれをそのまま利用する。

 筆者は写真の整理にあたり、月単位もしくはイベント単位で子フォルダを作り、その中に写真を保存しているが、それらをまるごと「Photo」フォルダに移す。このあたりの階層構造は自由度が高いので、個人の好みで問題ない。子フォルダの下にさらに孫フォルダがあっても大丈夫だ。あまりにも写真の量が多いようならば、まずは数十枚ほど移動させて、以降の挙動を確認した後、問題ないと判断してから残りの写真データを移動させると良いだろう。

共有フォルダ作成や権限設定などの作業は、ブラウザを使ってNASの設定画面にアクセスして行なう。ちなみにSynology NASのこの画面はDSM(DiskStation Manager)と呼ばれる
写真を保存するための共有フォルダを用意する。今回はデフォルトで作成される「Photo」をそのまま使用する
必要に応じて共有フォルダの権限設定やごみ箱の有効化を行なう

 続いてDSMの「パッケージセンター」からNASアプリ「Cloud Sync」を探し、インストールして起動。「+」マークをクリックして同期設定の作成画面を表示し、保存先として「Amazon Drive」を選択。Amazonのアカウントおよびパスワードを用いて認証を行なったあと、転送元のフォルダとして、先ほどのPhotoフォルダ、転送先のフォルダとしてAmazon Drive内の任意のフォルダを指定する(こちらも写真専用のフォルダを作っておくと良い)。併せて、必要に応じて同期の方向などを選択する。

「パッケージセンター」からNASアプリ「Cloud Sync」を探してインストールする
「Cloud Sync」で「+」マークをクリックして新たな同期設定を追加する。一覧が表示されるので「Amazon Drive」を選択
Amazonに接続されるので、Amazonのアカウントとパスワードを入力してサインインを実行する
タスク設定画面。ローカルパスには先ほど写真を保存したNAS上のフォルダ名を、リモートパスにはAmazon Drive上の任意のフォルダ名を入力。同期方向は、NASのデータをクラウドにアップする筆者の用途であれば「ローカルの変更のみアップロード」を選ぶ

 以上の設定が完了すると、NASに保存した写真データが順次Amazon Driveに転送され、クラウドで参照可能になる。スマートフォンアプリ「Amazon Photos」からアクセスすると、転送した写真が撮影順に並んだ状態で表示されるはずだ。これら写真は個別にダウンロードしたり、アルバムを作ることも可能なほか、共有リンクを作成してシェアすることもできる。ちなみに撮影日時のデータのない写真は、表示順がいちばん最後になるので注意したい。

同期が開始される。容量無制限ということで、下段の「ストレージの使用状況」は0.00GBのまま変わらないが、この状態でアップロードが行なわれている
「履歴」を見ると写真がアップロードされていることが分かる
アップロード完了。対象フォルダは常に監視されており、新たに写真がローカルに追加されるたびにアップロードが行なわれる
Amazon Driveにアップロードされた写真を、スマートフォンから参照するためのアプリ「Amazon Photos」。これはAndroid版
こちらはiOS版。アプリの名称が若干異なるが、機能はおおむね同一だ
NASからプライム・フォトにアップロードした写真を、iPhoneで参照したところ。撮影年月日(新→旧)の順に表示される。以前のバージョンはデータの読み込みに恐ろしく時間がかかっていたが、最新バージョンでは読み込み速度が向上し、過去の写真もスムーズに呼び出せるようになった
撮影年を指定して呼び出せる。ちなみにAndroid版では若干インターフェイスが異なり、写真をスクロールすることで撮影年月日を指定するためのポップアップが表示される
容量を表示したところ。筆者は現在76.8GBの写真を同期している。ちなみに「ビデオとファイル」の容量が既定の5GBよりも多いのは、容量無制限プラン登場前に存在していた有料の追加容量プランの契約が残っているため
こちらはPCのブラウザでAmazon Driveの「写真&ビデオ」を表示したところ。右端のバーで撮影年を指定して呼び出せる。スマートフォンアプリもそうだが、作成したアルバム単位での表示も可能だ

写真と動画を同じフォルダに保存している場合の対処方法

 以上で設定は終了だが、気をつけたいのは、写真と同じフォルダに動画もまとめて保存している場合だ。プライム・フォトはあくまで写真限定のサービスなので、同期対象のフォルダに動画データが含まれていると、写真以外のデータを保存するための無料枠(5GB)を超えた時点でアップロードが停止してしまう。写真と動画を同じフォルダに保存している人は多いはずなので(筆者もそうだ)、上記で紹介した手順をそのまま適用すると、この問題に直面することになる。

 写真と動画を同じフォルダに保存するというマイルールを変えないままこの問題を解決するには、2つの方法がある。1つはAmazonが新たに開始した、容量無制限のストレージプラン「Unlimitedストレージ」を有料契約する方法。これならば動画はもちろん、ドキュメントなどあらゆるデータを容量無制限で保存できる。本稿執筆時点では年間13,800円と、そこそこのコストはかかるが、動画データはファイルサイズも大きいことから、容量を気にすることなく長期に渡ってデータを保存するには、もっともスマートな解決策といえるだろう。

 もう1つは、動画をアップロード対象から外してしまう方法だ。「Cloud Sync」で同期設定を行なう際、ファイルの種類によってフィルタリングできるので、そこで動画のチェックを外し、写真だけがアップロードされるよう設定を変更すれば、動画をアップロード対象から外すことができる。ちなみに、同じ方法で特定の拡張子を省くこともできるので、ドキュメントや圧縮ファイルが含まれている場合は、同じ方法で除外することもできる。

容量無制限のストレージプラン「Unlimitedストレージ」(右)。本稿執筆時点では年間13,800円となっている
「Cloud Sync」のタスク設定画面で、動画(ビデオ)のチェックを外すことで、同一フォルダ内にある写真と動画のうち、写真だけがアップロードされるようになる

 ただし、この方法では、NASに万一の事故があって、クラウドからデータを書き戻すことになった際、動画だけが欠落した状態になってしまう(そもそもアップロードされていないので当然だ)。こうした場合、上記とは逆に、動画だけをアップロードする同期設定を作り、別の保存先を指定する。例えば、Office 365 Soloを契約していると、オンラインストレージ「OneDrive」1TBがついてくるが、こうしたほかのストレージの未使用領域を間借りして、動画データをアップロードするという方法が考えられる。

 こうしておけば、NASのデータが失われてクラウドからデータを書き戻す事態になっても、写真のアップロード先であるプライム・フォトと、動画のアップロード先である別のオンラインストレージのデータを合体させれば、元のフォルダを復元できる。手間はかかるが、意地でも有料契約はしたくない場合、こうした技もあるにはある。動画をクラウドにアップロードするのは諦め、外付けドライブへのローカルバックアップなどで済ませるのも1つの手だろう。

 なお「Cloud Sync」では、あるオンラインストレージのアップロード元に指定しているフォルダは、ほかのオンラインストレージのアップロード元に指定できない(一部例外はある)ので、上記のような設定ができない場合もある。こうした場合は、NAS上で新しくユーザアカウントを作り、そちらのアカウントでログインした上で同期設定を作成すればよい。つまり、写真アップロードをuser1というアカウントで設定していた場合、新しく作成したuser2というアカウントで動画アップロードの設定を行なえばよいというわけだ。なにかと応用が効く技なので、知っておけばこの件に限らず役立つことがあるかもしれない。

大切な写真を安全に末永く保存するために

 写真データの保存にあたって大敵なのは、なんといってもデータの喪失だが、今回紹介した構成であれば、高い確率でそれらを防げるようになる。具体的に見ていこう。

 まずNAS側に問題が発生した場合だが、複数台のドライブの内、1台が故障した場合は、RAIDを使って復元(リビルド)すればよいし、NAS本体の故障でどのドライブからも読み出せなくなった場合、もしくはNASが災害や盗難で失われてしまった場合は、Amazon Driveからデータを取り戻せばよい。PCもしくは他社のNASにデータを復元するのであれば、PCにユーティリティを導入して手動ダウンロードを行えばよいし、新しく用意したSynologyのNASに復元するのなら、今回と同じく「CloudSync」を使って同期方向をクラウド→NASに指定すれば、同じ階層構造を保ったままデータが復元できる。

 もう1つ、クラウド側に問題が発生した場合だが、仮に今後Amazonがプライム・フォトを終了するような事態になっても、オリジナルのデータはNASにあるので、ダウンロードなどの作業を行なう必要は一切ない。同様に、ユーザがAmazonの会員資格を喪失することがあっても、オリジナルが手元にある以上、クラウド上の写真を回収する必要はない。単に複製が消えるだけだ。

 NAS側とクラウド側、この両者で同じタイミングで問題が発生する可能性は限りなく低いので、大切な写真データを安全に末永く保存するという目的においては、極めて信頼性が高い。この設定を行なって数カ月になる筆者の場合、月単位で子フォルダを作って写真を分類していることから、月ごとに新しく転送された写真の枚数を、目視で照合するくらいのことはしているが、それ以外は全くのメンテナンスフリーである。そもそも同期結果は設定画面でも表示できる上、メール通知機能もあるので、エラーに長期間気づかず放置される心配もまずない。安定性はピカイチだ。

 余談だが、NASが備えるオンラインストレージとの同期機能は、各社ともそっくりに見えて、アプリごとに機能差がある。具体的には、あらかじめアップロードフォルダが決められていて、自分で決めた階層構造を変えなくてはいけなかったり、同期が双方向しか指定できず、クラウドで削除したらローカルの写真まで消えてしまった……などがその例だ。その点、今回紹介したSynologyのNASアプリ、少なくとも今回紹介した「CloudSync」に関しては、機能に隙がない上に設定も柔軟に行なえ、かつ安定性も高いことから、使っていても安心感がある。

 また筆者は今のところ利用していないが、Synology NASの標準バックアップ機能である「Hyper Backup」にも、先日新たにバックアップ先としてAmazon Driveが追加されたので、こちらを使うのも1つの方法だろう。容量無制限というストレージの特性をきちんと理解した上で機能を追加する姿勢は、ユーザとしても信頼が置けるところであり、今後の機能拡張にも期待が持てる。このほか、一部機能が重複するので今回は触れていないが、同社の写真管理アプリ「Photo Station」を使えば、家庭内でさまざまなデバイスを使って写真を参照したり、公開することも可能だ。

 以上、NASとクラウドを組み合わせた、写真保存のワザをお届けした。過去に撮影した写真がローカルで散逸して探しづらくなっている人、写真をCD/DVDベースで保存していることで活用が難しくなっている人、またデータ化したアナログ写真の安全な保存場所を探している人など、このAmazon Drive×Synology NASという組み合わせを、ぜひ活用してみてほしいと思う。