AMD FXシリーズ最上位「FX-8150」ベンチマーク


 AMDは10月12日、AMD FXシリーズ初の製品となる「FX-8150」、「FX-8120」、「FX-6100」を発表した。AMD EシリーズおよびAMD Aシリーズの上位に位置する最上位ブランドの第一弾製品として、大いに期待を集める3製品の中から、最上位の「FX-8150」のベンチマークテスト結果をお届けする。

●新アーキテクチャを採用したAMD FXシリーズ

 AMD FXシリーズは、Zambeziのコードネームで開発されていたCPUだ。先に登場したLlanoと同じ32nm世代のプロセスで製造されるが、CPUコアに従来のK10系コアを採用していたLlanoとは異なり、Zambeziでは新たにBulldozerアーキテクチャを採用し、ソケットはSocket AM3+となる。

 Zambeziで採用されたBulldozerアーキテクチャでは、Bulldozerモジュールと呼ばれる、2つの整数コアと1つの浮動小数点コアを備えたモジュールを最大4基搭載している。このBulldozerモジュールは2つのスレッドを同時に処理することが可能で、WindowsなどのOS上からは、1つのモジュールにつき2つのCPUコアとして認識される。今回テストを行なうFX-8150は、OS上からは8コアCPUとして認識される。

Bulldozerモジュールの概要。独立した2つの整数演算コアと1つの浮動小数点演算ユニットを備える
Zambeziのダイレイアウト。各Bulldozerモジュールには2MBのL2キャッシュが用意されている

 機能面では、自動オーバークロック機能の「Turbo CORE」の動作が拡張された。半数のコアのみ動作クロックを高める従来の動作を「MAX Turbo」とし、新たに定格動作とMax Turboの中間に、TDPの枠内で全てのCPUコアの動作クロックを高める「All Core Turbo」が追加された。定格動作クロック3.6GHzの最上位のFX-8150の場合、All Core Turbo時に3.9GHz、Max Turbo時には4.2GHzまで動作クロックが向上する。

AMD Turbo Core Technologyの動作イメージ
左からアイドル時、2スレッド負荷時、4スレッド負荷時のCPUクロック。実際のTurbo CORE動作では、一定のコアだけクロックが上昇するわけではなく、各コアのクロックは目まぐるしく変化していた

 また、AMD FXシリーズの製品は全モデルBlack Editionとなっており、CPU倍率の上方変更が全モデルで可能となっている。FX-8150では、AMD Over Driveで最大31.5倍までCPU倍率を設定することができた。実際にこの倍率で動作するかはともかく、ベースクロックを標準の200MHzから変更することなく、6.3GHzまでCPUクロックを上げることができる。

AMD Over Driveでは、電圧やメモリ設定のほか、CPUコアごとの倍率やTurbo CORE動作の設定を行うことが可能

 そのほか、IntelがSandy Bridgeで対応した「AVX」加え、AMD独自の拡張命令として「XOP(eXtended Operations)」と「FMA4(four-operand Fused Multiply/Add)」を新たにサポートした。また、内蔵メモリコントローラにも改良が施され、DDR3-1866メモリのデュアルチャンネル動作を新たにサポートしている。

●8コアCPU2製品と6コアCPU1製品が登場

 AMD FXシリーズ最初の製品として、8コアCPUの「FX-8150」、「FX-8120」と、6コアCPUの「FX-6100」の計3製品が発売となる。ちなみに、FX-8150に関しては、水冷ユニットとのバンドルセットのみでの販売(日本限定500セット)となる。

各製品の仕様を下の表にまとめた。

【表1】各製品の主な仕様
CPUAMD FX-8150AMD FX-8120AMD FX-6100
コア数86
CPU動作クロック3.6GHz3.1GHz3.3GHz
TurboCORE(All Core Turbo)3.9GHz3.4GHz3.6GHz
TurboCORE(Max Turbo)4.2GHz4.0GHz3.9GHz
L2キャッシュ8MB6MB
L3キャッシュ8MB
North Bridge2.2GHz2.0GHz
拡張命令SSE3、SSE4.1/4.2、AES、AVX、FMA4、XOP
対応ソケットSocket AM3+
TDP125W125W95W
推奨販売価格33,800円
(水冷ユニット付き)
18,800円14,980円

AMD FX-8150CPU-Z 1.58.7の画面。拡張命令セットが表示しきれていないCPUの化粧箱は紙製でなく、金属製

 FX-8150にバンドルされる水冷ユニットは、ANTEC「KUHLER-H2O-920」相当のものをAMD向けにカスタマイズしたものだ。ユニット本体のほかに、12cmファン2基と水温やファンの回転数を制御可能な専用ソフトウェアが付属する。

asetek製の水冷ユニット。ユニットそのものはANTEC KUHLER-H2O-920と同型で、12cmファン2基を取り付け可能。動作時はベース部のFXロゴが光る
リテンションは表面側からのねじ止め式。製造元のasetekのマニュアルに取り付け方法が記載されており、取り付けはさほど難しくない付属ソフトの「ChillControl V」。水温やファン回転数のモニタリングのほか、ファンの制御などが行なえる

 冷却性能面で評価の高い製品をベースにしているため、FX-8150の水冷バンドル品に付属するクーラーの素性は良さそうだ。ただ、AMD FXシリーズがターゲットにしているユーザー層を考えると、なぜ通常版を用意しないのか理解に苦しむ。それこそ、初代Black Editionの「Athlon 64 X2 6400+ Black Edition」のように、CPUクーラーの付属しないモデルを用意しても良さそうなものだと筆者は思う。

●テスト環境

 それではベンチマークテストの結果紹介に移りたい。今回はFX-8150の比較製品に、AMDの6コアCPU「Phenom II X6 1100T Black Edition」(以下X6 1100T)と、Intelの「Core i7-2600K」を用意した。

 テストでは基本的にマザーボード以外のパーツを統一して行なった。マザーボードは、AMD用にASUSのAMD 990FXチップセット搭載「Crosshair V Formula」、Intel用にはASUSのIntel P67チップセット搭載「P8P67 Rev3.0」をそれぞれ利用した。なお、メモリコントローラの性能を見るため、FX-8150のみDDR3-1866動作時とDDR3-1333動作時のスコアをそれぞれ測定している。

 なお、今回のテストではレビュアー向けに配布されたテストBIOS(0813)と、「Catalyst 11.10 preview(8.901-110923a-125757E-ATI)」を使用してテストを行なっている。ある程度BIOSが成熟しているPhenom II X6 1100T BEや、Core i7-2600Kと違い、FX-8150に関しては今後のBIOSやドライバのアップデートにより、ベンチマークテストの結果や消費電力などが、今回のテスト結果と違ってくる可能性があることをあらかじめお断わりしておく。

【表2】テスト環境
CPUFX-8150Phenom II X6 1100TCore i7-2600K
マザーボードASUS Crosshair V Formula (BIOS:0813)ASUS P8P67 Rev3.0 (BIOS:1850)
メモリDDR3-1866 4GB×2
(9-10-9-28)
DDR3-1333 4GB×2 (9-9-9-24)
内蔵GPURadeon HD 6970
ストレージWestern Digital WD5000AAKX
グラフィックスドライバ8.901-110923a-125757E-ATI (Catalyst 11.10 preview)
電源Silver Stone SST-ST75F-P
OSWindows 7 Ultimate x64 SP1

AMD 990FX+SB950搭載マザーボードASUS「Crosshair V Formula」比較対象として用意したIntel P67搭載マザーボード「P8P67 Rev3.0」DDR3-1866動作に対応するG.SKILL F3-14900CL9D-8GBSR。DDR3-1866動作以外のテスト環境では、このメモリをDDR3-1333動作させてテストを行なった

●ベンチマークテスト結果

 まずはCPUベンチマークのテスト結果からみていく。テストは「Sandra 2011.SP5 17.80」(グラフ1、9、10、11)、「PCMark05」(グラフ2、3)、「CINEBENCH R10」(グラフ4)、「CINEBENCH R11.5」(グラフ5)、「Super PI」(グラフ6)、「PiFast 4.3」(グラフ7)、「wPrime 2.05」(グラフ8)、「PCMark Vantage」(グラフ12)、「PCMark 7」(グラフ13)だ。

 8つのCPUコアを備えていることもあり、8コアすべてを使うCINEBENCHなどではX6 1100Tを上回るスコアを記録している。また、新たな拡張命令のサポートにより、「Sandra 2011.SP5 17.80」の「Multi-Media Integer」では、X6 1100Tを大きく上回り、Core i7-2600Kをも上回るスコアを記録した。

 しかしながら、「X6 1100Tを大きく上回る」という結果はごく一部のテストにとどまる。ベンチマークによってはX6 1100Tを下回る結果も珍しくなく、1スレッド、4スレッド、オールコアの3条件でテストを行ったCINEBENCH R11.5の結果などからは、1コア当たりの処理能力ではX6 1100Tを下回るという傾向がみられる。また、Core i7-2600Kとの比較では、先に紹介したSandraの結果を例外として、ほぼすべてのテストで後塵を拝する結果となった。

 メモリ周りに関しては、新たに対応したDDR3-1866動作と、DDR3-1333動作の間には3.2GB/sほどの差がついており、メモリのパフォーマンスをしっかり引き出しているようだ。また、同じDDR3-1333動作時のメモリ帯域では、Core i7-2600Kには1.4GB/sほど及ばないものの、X6 1100Tより30%ほど速い結果となっており、メモリコントローラに施された改良の効果を確認することができる。

【グラフ1】Sandra 2011.SP5 17.80(Processor Arithmetic/Processor Multi-Media)
【グラフ2】PCMark05 Build 1.2.0 CPU Test(シングルタスク)
【グラフ3】PCMark05 Build 1.2.0 CPU Test(マルチタスク)
【グラフ4】CINEBENCH R10
【グラフ5】CINEBENCH R11.5
【グラフ6】Super PI
【グラフ7】Pifast 4.3
【グラフ8】wPrime 2.05
【グラフ9】Sandra 2011.SP5 17.80(Memory Bandwidth)
【グラフ10】Sandra 2011.SP5 17.80(Cache and Memory)
【グラフ11】Sandra 2011.SP5 17.80(Memory Latency)
【グラフ12】PCMark Vantage Build 1.0.2
【グラフ13】PCMark 7 Build 1.0.4

 続いて、3Dゲーム系のベンチマークテストの結果を確認していく。

 検証したテストは「3DMark06」(グラフ14)、「ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク」(グラフ15)、「MHFベンチマーク【絆】」(グラフ16)、「Lost Planet 2 Benchmark DX9」(グラフ17)、「3DMark Vantage」(グラフ18、19、20)、「3DMark11」(グラフ21、22、23)、「Lost Planet 2 Benchmark DX11」(グラフ24)、「Unigine Heaven Benchmark 2.5」(グラフ25)だ。

 X6 1100Tと比較してみると、3DMark06や3DMark Vantageで劣る一方、3DMark11ではX6 1100Tを上回るスコアを記録するなど、テストによって得手不得手が分かれている。実ゲームをベースにしたベンチマークテストでも、「ファイナルファンタジー XIV オフィシャルベンチマーク」ではX6 1100Tに及ばず、「MHFベンチマーク【絆】」では逆転しているなど、得意不得意の傾向がつかみづらい。

 ただ、得意不得意に関わらず、Radeon HD 6970のパフォーマンスを十分に引き出せていないことが、Core i7-2600Kとの比較で見えてくる。GPU負荷の低いDirectX 9世代のベンチマークテストや、解像度を下げた設定では特にCore i7-2600Kとのスコア差が大きくなっている。

【グラフ14】3DMark06 Build 1.2.0
【グラフ15】ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク
【グラフ16】MHFベンチマーク 【絆】
【グラフ17】Lost Planet 2 Benchmark(DX9・テストタイプB)
【グラフ18】3DMark Vantage Build 1.1.0
【グラフ19】3DMark Vantage Build 1.1.0(Graphics Score)
【グラフ20】3DMark Vantage Build 1.1.0(CPU Score)
【グラフ21】3DMark 11 Build 1.0.2
【グラフ22】3DMark 11 Build 1.0.2(Graphics Score)
【グラフ23】3DMark 11 Build 1.0.2(CPU Score)
【グラフ24】Lost Planet 2 Benchmark(DX11・テストタイプB)
【グラフ25】Unigine Heaven Benchmark 2.5

 最後に消費電力の比較結果を紹介する。

 消費電力の測定は、サンワサプライのワットチェッカー「TAP-TST5」を利用して行なった。アイドル時の消費電力のほか、CINEBENCH R11.5でスレッド数を制限して実行した際と、ストレステストツールの「OCCT Perestroika 3.1.0」で、CPUに負荷を掛ける「CPU:OCCT」を実行した際の消費電力をそれぞれ測定した。

 アイドル時や1スレッド動作時の消費電力はX6 1100Tを下回っており、パワーゲーティングが有効に機能していることが確認できる。動作するコアが増えていくに従い、Turbo COREによるクロックの引き上げもあってか消費電力は増大しており、フルスレッド負荷時には、X6 1100Tよりおおよそ25~33Wほど高い消費電力となっている。

 マザーボードが異なるため単純に比較はできないが、TDP 95Wのi7-2600Kに対しては、アイドル時こそほぼ同等の消費電力に抑えているが、1スレッド動作時で30W弱、8コア動作時で80W前後もの消費電力差が生じている。先のベンチマーク結果を鑑みるに、ワットパフォーマンスという観点ではCore i7-2600Kとの差は大きい。


【グラフ26】システム全体の消費電力

【お詫びと訂正】初出時に消費電力のグラフが別のものになっておりました。お詫びして訂正させていただきます。

●既存のベンチマークテストでパフォーマンスが伸び悩むAMD FX

 以上の結果からもお分かり頂けるように、既存のベンチマークテストにおけるFX-8150のパフォーマンスは、旧製品や競合製品と比べて良いとは言い難い。高い動作クロックや8コアCPUというキーワードから受けるイメージと、実際のパフォーマンスはかけ離れているように感じる。

 Bulldozerアーキテクチャで従来のCPUとは大きく異なる設計を採用したことで、従来のCPU向けに最適化されているアプリケーションで性能が出ないのは仕方のないこととも言えるが、既存のアプリケーションを利用することを考えた場合、現時点でPhenom II X6からAMD FXへ移行するメリットを見出すのは難しいというのが正直なところだ。

 X6 1100T以上に、Core i7-2600Kとのパフォーマンス差は厳しいものがある。今回行なったベンチマークテストのほぼ全てでCore i7-2600Kに上回られているうえ、プラットフォーム全体の価格差も小さい。既存のアプリケーションを利用することを考えた場合、実性能だけでなく、コストパフォーマンスでもSandy Bridgeプラットフォームが有利だろう。

 かなり厳しい結果と言わざるを得ない今回のテスト結果だが、8コアがフルに使えるテストではX6 1100Tを上回っているし、SandraでCore i7-2600Kを上回るスコアを記録したように、新たな拡張命令や8つの整数コアを活かせる条件で発揮されるパフォーマンスは高い。既存のアプリケーションでパフォーマンスが振わないのは無視できない問題だが、今後Bulldozerアーキテクチャに最適化されたアプリケーションが登場すれば、FX-8150とBulldozerアーキテクチャに対する印象は大きく変わる可能性がある。

 次世代のAPUにも採用される予定のBulldozerアーキテクチャが成功を収められるか否かは、ソフトウェアベンダーの協力を得られるかにかかっていると言える。今後Bulldozerのポテンシャルを引き出せるアプリケーションが増えることに期待したい。

(2011年 10月 12日)

[Reported by 三門 修太]